SHE’S 好発進の最新アルバム『Trag
icomedy』記念配信ライブ@渋谷クア
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SHE'S 4th Album『Tragicomedy』発売記念特番 2020.7.1
配信冒頭、MCを務めた芦沢ムネト氏が、SHE’ Sの4thアルバム『Tragicomedy』が彼らにとって過去最高位となるオリコンデイリー2位を記録したこと、ライブの準備中にそのことを知って現場が祝福ムードとなったことを明かした。遡ること半年近く前、筆者がアルバム完成の第一声を訊くインタビューをして以降、アルバム延期やツアーの度重なる延期と中止、タイアップソングが決定していた『センバツ』が行われなかったこと、いつも通りにいかなかったアルバムの各プロモーションなどなど、彼らは様々な苦難に直面してきた。それだけに、完成から半年を経てようやくこの作品がリスナーの元へと無事届き、その完成度に相応しい好反応を得ているという事実には頬が緩む。
この期間は奇しくも、“悲喜劇”を意味するアルバム『Tragicomedy』がテーマとする様々な“人の心”に触れる期間でもあった。当たり前が当たり前ではなくなった非日常的が続く中で、人間の綺麗な部分も汚い部分もたくさん目につき、元々あらゆる心や感情が彩ってきた各々の日常そのものすら、形を変えることとなった。新型コロナウィルスの影響が出る以前に制作を終えていた作品ではあるものの、いまこのタイミングで世に出ることになって余計に説得力を増した部分もあるのではないだろうか。
SHE’S  Photo by MASANORI FUJIKAWA
配信の前半にはアルバムの制作秘話的なエピソードや、配信時点ではYouTubeで未公開だった「Ugly」のMV公開などを交えながら番組仕立てでトークが進行。メンバーの様子はといえば、見る限り気負いもなく、はしゃぎ立てるでもなく、でも決して生真面目でもない、良い意味でいつもの緩さである。途中ではサプライズとして著名人からのアルバムリリースに寄せたメッセージ映像も用意されていたほか、なんとSEKAI NO OWARIのFukaseから手紙という形で託されたメッセージが披露される一幕まであって、チャット欄は大盛りあがりに。4人も驚きを隠せない様子だった。
SHE’S  Photo by MASANORI FUJIKAWA
10分ほどの転換を挟み、ライブがスタート。ライブハウスでのライブは彼らにとっても相当久しぶりであり、深い青に染まった渋谷クアトロのステージへとメンバーが登場するシーンには静かな緊張感が漂っていた気も。しかし、ひとたび「Masquerade」の多国籍感のあるサウンドを鳴らしはじめ、挑発的な身振りと表情で井上竜馬(Vo/Key)がこちらを誘うと、画面越しながら一気にライブ感が増したことが分かった。木村雅人(Dr)が力強いビートを轟かせ、広瀬臣吾のベースがボトムを支える上にブラスやストリングスの音色が花を添えたのは「Higher」。服部栞汰(Gt)がお立ち台に片足を掛け、とびきり気持ちよさげにソロを弾く。うん、これこれ。
SHE’S  Photo by MASANORI FUJIKAWA
エレキギターやベースが前面に出た「One」は音源よりも随分ダイナミックになり、厚みあるコーラス部分は、フロアから観客のあげる声が加われば何倍も気持ち良いことになりそうな印象だった。ほとんど曲間を開けずに、繊細なピアノが導くのは、「Letter」。CMで流れるなどSHE’ Sの認知度を一段押し上げた名バラードを、井上が前半部分は低く優しく話しかけるように、サビではファルセットに近いミックスボイスでそっと、ラストはグッと声に力を込めてエモーショナルに歌い上げる。Fukaseの言葉を借りれば、「奪われたものばかりに目がいく」ような昨今。切なさや悲しさ、喪失感を内包しながら“それでも――”という、これまでもSHE’ Sが歌ってきた精神性の結晶のような言葉が胸を打つ。
SHE’S  Photo by MASANORI FUJIKAWA
「しんみりした空気で終わるのは嫌なので、全然(ニュー)アルバムに入ってない曲やります」(井上)と、ラストには「Dance With Me」を繰り出した。広瀬のファンキーなベースラインを筆頭に、各楽器が弾むような演奏をみせて高揚感を煽れば、チャット欄には手を叩く絵文字が大量に流れてくる。井上は鍵盤の前を離れてマイクを片手に無人のフロアへと身を乗り出したり、ステップを踏んだり。チアフルな空気でライブを締めくくった。
SHE’S  Photo by MASANORI FUJIKAWA
「みんなの生活が少しでも楽しくなったり、救われたり、(中略)生活のそばにいられる音楽を目指して、楽しみを提供していきたい」
井上はそんな風に語っていた。SHE’ Sは、自分たちがどんなバンドでありたいのかを、物理的にはそばにいられない期間を経たことで、より自覚したのではないだろうか。狭義のバンドサウンドという枠を飛び越えたアルバム『Tragicomedy』の楽曲群もそうだし、配信ながらいつも通りの空気感をナチュラルに届けてくれたこの日のライブ(トーク部分のあの感じまで)には、どこか自信が漲っていたのだった。秋には、感染対策として「SHE’ S WAY」と銘打った独自のガイドラインを設け、それに則った形での有観客ツアー『SHE’ S Tour 2020 〜Re:reboot〜』を予定している。ディスタンスとキャパシティの許す限り、このバンドが少しでも多くの耳と目と心に触れることを願う。

取材・文=風間大洋 撮影=MASANORI FUJIKAWA
SHE’S  Photo by MASANORI FUJIKAWA

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