ふくい舞、新たな「アイのうた」の形
は感謝の気持ち 5年ぶりにリリース
するアルバム『I am…』に込めた想い
とは

7月15日(水)に約5年振りとなるアルバム『I am…』をリリースしたふくい舞。新型コロナウイルスの影響で余儀なくされたステイホーム、ふくい舞が出した"ステイホーム"の形は自宅作業にこだわった新音源のレコーディングだった。プロデューサー小川智之と完全に2人で作り上げたという新作を完成させた彼女に今の想いを訊いた。
――先日、初の無観客配信ライブをされていましたが、そちらはいかがでしたか? ライブ自体は3ヶ月半振りだったそうですけど。
『I am…』のリリース記念ライブという形でやらせていただいたんですけど、やっぱりバンドのメンバーと音を重ねられた感動はすごく大きかったですね。カメラの数もかなり多くて、私のYouTubeでいつもお世話になっているカメラマンさんにもお願いしたので、6台と6台で12台あって。全部一気に使ったわけではないんですけども(笑)、人との触れ合いも久し振りでしたし、チーム一丸となってやれたのは楽しかったですね。なんか、文化祭みたいでした(笑)。
――初めてだし、どうなるんだろうっていうワクワクとドキドキが入り混じって。
そうですね。普段は京都と東京でしかライブはしていないんですが、地方や海外からも見てくださっていた方もいて。心地よい緊張感の中で、いいライブにしよう! いい作品にしよう!というのは楽しかったです。
――お客さんがいない前で歌うということに対して、不思議な感覚はありました?
それが、いつもとは違うんだろうなと思っていたんですけど、そうでもなくて。スタッフさんが10人以上いらっしゃって、その方達をリハのときからお客さんだと思ってやっていたので、あまり違和感はなかったというか。配信を観てくれている人のコメントは曲間にiPadで見ないと見れなかったんですけど、スタッフさんが拍手してくれたり、(手を大きく左右に振りながら)こうやってやってくれたりしていたので(笑)、なんか本当のライブみたいな感じがして楽しかったです。
――MCでは「新しい時代が来ましたね」というお話をされていましたよね。
今は世界がまるで映画のストーリーみたいになってしまってはいるんですけど、あまり悲しいことだけを見ないというか。今回のアルバムに収録している曲も、「それでも私は恋をする」と「あなたなんだ」以外はすべて宅録したんですよ。それはできることが増えてよかったなと思ったし、配信ライブも楽しかったですし、悪いことだけじゃなくて良いこともあったなって。今こそ支え合ってじゃないですけども、ほんのちょっとしたことにもありがたみを感じますし、そういうところでも今はチームに一体感があるんじゃないかなって感じています。
――ちなみに、ステイホーム期間ってっどんなことされてたんですか? 宅録をされていたとのことでしたけど。
今回のアルバムは、作家の小川智之さんと3ヶ月全く会わずに、完全に2人で録ったんですよ。小川さんがマイクを買ってくださって、配線もリモートで教えてもらって、自宅でも録れるように部屋を改造したり、機材を買い揃えたり、いろいろ工夫してました。あとはNetflixを観たり、クラップダンスをやったり(笑)。それぐらいかな。「梨泰院クラス」おもしろかったですね。めちゃめちゃ作業のモチベーションが上がりました(笑)。
――僕もハマっていたんでわかります(笑)。では、『I am…』のお話に行こうと思うんですが、まずは先ほどお話にも出た「あなたなんだ」について。前回SPICEにご登場されたときに「それでも私は恋をする」は王道のラブソングだけど、「あなたなんだ」は王道とは少し違うかも、と。だけど、「めちゃめちゃ自分に刺さった歌」だったというお話をされていたんですよね。で、聴かせていただいたときに、僕もこの曲めちゃめちゃ刺さったんです。このドラマティックなスロウナンバーは、どういうところから生まれてきたんですか?
小川智之さんとはいつも飲みニケーションをするというか(笑)、作業の後にいつも飲むんですけど、そのときに出た言葉をわりと入れて曲にしてくださるんですよ。「あなたなんだ」のときは、私はすごく不器用なので、自己肯定感が低くなってしまっていた時期があったんですよね。だけど、こうやってチームのメンバーが揃ってきて、今もこうやって歌えているのはありがたいし、不器用だからこそ、こういう出会いがあったのかなっていう話をしていたら、こんな素晴らしい曲を書いてきてくださって。完成したものを聴いたときは嬉しかったですし、この曲って今の世の中にも合っているというか。
――そうですよね。
たとえばインターネットの誹謗中傷とか、学校でもLINEのグループでイジメがあるって聞きますし。だから、30代の私自身にも刺さるけど、それこそ(歌詞に出てくる)16歳や18歳にも刺さると思うし、私よりも年上の方々にも、自分と向き合えるきっかけになる曲ができたんじゃないかなって感じています。
――お話しされたことが反映されているとなると、半分ドキュメンタリー的なところもあるんですか?
うーん……そうですね。“できない自分がいるからこそ、人と繋がれた”というところをピックアップしていただけたと思うんですけど……曲を作るときって、“愛してる”というのを伝えることに、登場人物をわざわざ誕生させるわけじゃないですか。だから、私が100%モデルになっているわけではないんですけど、ちょっとの期間、仲間はずれを経験したこともあったので、重なるといえば重なるところもあって。だからといって100%私のお話ではないんですけど。
――なるほど。歌詞の構成もおもしろいですよね。登場人物の〈わたし〉が、自分自身である〈わたし〉のことを〈あなたと呼んだ〉という。
これはもう智さんの天才的な技術ですね(笑)。すごいし、私には書けなかった歌詞だったと思います。いつもアルバム曲は8割ぐらい書かせてもらっていたんですけど、今回の曲はほとんど智さんにお願いしていますし、自分から作家さんにお願いして、プロデュースをお願いしますと言ったのは初めてで。本当にすごい作家さんなんですよ。なんかすごいしか言ってないですけど(笑)。
――いえいえ、実際にすごく素敵な歌詞でしたから。「Aisle ~wedding story~」は宅録で制作されたそうですが、この曲は友達の結婚式で歌わせてもらう予定だったものの、コロナウイルスの影響で延期になってしまったとのことで。
本当は6月の予定だったんですけど、それが8月に延期になって、それもまた延期という形になってしまっていて。結構ショックを受けてるんですよ。“せっかくの結婚式だからみんなに来てほしかったけど、まだこういう状況が続くと思うし、今やってもみんなテンション下がったり、怖かったりするのかな”とか。あとは、キャンセル料のやり取りとかも、こんな幸せなパーティーのことで揉めたくないのに、ちょっと角が立っちゃったり、すごく疲労困憊していて。これは歌で励ましてあげたいなと思って、智さんにこういうことがあったんだけど……っていう話をして。結婚式のああいう雰囲気っていいよねっていう話をして作っていきました。
――その人を祝いたい、励ましたいっていうピュアなところからスタートしたと。
純粋に友達を喜ばせたいっていうのが、いつも私の根底にあるんですよ。初めて曲を作ったのも、親友を励ますためだったので、いつも友達からモチベーションをもらうことが多いですし、友達を励ます歌が多くなりますね。
ふくい舞
――あと、「臆病な私への子守歌」が気になりました。トラックとしてはチルアウト的というか、“子守唄”とタイトルにある通り穏やかなんだけど、歌っている内容はめちゃくちゃ熱いですよね。
そうなんですよね(笑)。実は、この曲は2年前──10周年のときに、智さんが初めて作ってくださった曲なんです。飲んだ後に“作っていい?”って、友達として曲をプレゼントしてくださったんですけど、それを聴いたときに、私以上に私の歌を書く人だなと思って。そのときはピアノ一本のアレンジだったんですけど、歌詞が熱いので結構ロックバラードみたいな感じで歌っていたんですよ。でも、そのときからタイトルは「子守唄」だったんですよね(笑)。だから、今回収録するにあたって子守唄っぽくしたいし、チルアウトミュージックは私も好きなので、こういうサウンドにしてみたいって伝えたら、めちゃくちゃ良くしてくださって。歌い方まで変わっちゃったんですよ。もう本当に、デモと比較してほしいぐらい(笑)。
――そんなに違うんですか?
もう全っ然違います(笑)。なんていうか、デモのときは勝手にプレッシャーを感じるぐらい歌い上げなきゃいけなかったんですけど、この曲は寝ながら歌えるというか、それこそ子守唄みたいな気持ちで歌えるので。アレンジってシンガーのメンタルと一致しているほうが良い声も出るんだなっていう自己発見もあったし、おもしろかったですね、2通りのアレンジで歌えたのは。
――この曲を作るときにはどんな話をされていたんですか? この曲って、タイトルこそ「子守歌」ではあるけれど、歌詞の内容的には“はじまりの歌”でもありますよね。
なんか……歌をもっとやりたいんだけど、自分には足りないところがあって、ここができないからもどかしいんだよね、でも気持ちは変わってないんだ!っていうのを、酔っ払って泣きながら話してたんですよ、私(苦笑)。“悔しい! 歌いたい!”って。
――それで歌詞がこんなにエモいんですね。
エモいですよね(笑)。この前、配信ライブの打ち上げのときに智さんと話してたんですけど、“作家っていうのはコンペじゃダメなんだよ! 歌い手のこういう熱い思いを聞いて、曲が書けるんだよ! だから飲みニケーションが大事なんだ!”って智さんが熱く話していて(笑)。で、“今年中にアルバム出すぞ!”って。
――これからアルバムを出すのに?(苦笑)
“できるよ!”って(笑)。いつも熱く語ってますね。
――素敵な方ですね。そして「HAPPY」はふくいさんが作詞作曲をされています。アレンジ的にモダンな雰囲気がありますが、この歌詞もエモさがあるんですよね。いろんなことを経過した先にある感情を歌にしているというか。
「HAPPY」は、音楽ができる喜びを歌った歌ですね。私、これまで生きてきた中で、今一番幸せを感じていて。なんていうか、これまですごく恵まれた活動をしていたのに、全然ハッピーじゃなかったんですよ。というのは、自分の気持ちの持ちようがまだ未熟で、当たり前のことは当たり前じゃないと思えずに、もっと何かをしたいっていう自分のエゴが強かったんですよね。だけど、大人になっていったり、ひとりで歩くようになって、マイクを持って立てるだけで幸せじゃんって思えたんです。それに、私っていつも悲しそうにしてないかなって。
――というと?
自分の好きなことができているのに、すごく悲しそうに生きているふうに見えるかもしれないなって思ったときに、これはちょっと良くないなって。智さんに“悔しい!”とか泣いて言ってるけど(笑)、私は今めちゃくちゃ幸せだっていうことを周りの人に伝えたいなと思ったんですよね。それで、隣の人に感謝する歌というか、“幸せでいられるのはあなたのおかげです”っていう感謝の気持ちを歌いたかったし、みんなも音楽を聴いただけで盛り上がれるようなアレンジにしたいなと思って作りました。
――私、悲しそうに生きているふうに見えるかもしれないって気付けた瞬間ってあったんですか?
私がよくポーカーフェイスでいたんですよ。で、あるときにおじいちゃんとか家族にそのことを言われて。舞は笑っているときが一番エネルギーが出ているんだから、自分の目標を達成できなくて落ち込むのはわかるけど、自分の大好きな音楽ができているんだし、うまくいかないのは当たり前だと。うまくいってきたことは、有ることが難しいこと=有難い(ありがたい)ことだから、岩をすり抜けていく水のように、笑顔で精進したらいいんじゃないか?っておじいちゃんが言ってくれたんですよ。
――めちゃくちゃ素敵な言葉ですね。
ウチのおじいちゃんがお寺さんなんですよね。「和顔愛語」っていう言葉を教えてくれたんですけど、人って“私はこの年になってもできないことばっかりだ”って落ち込むけど、あなたが笑っているだけで、周りの人はその空気を察知して笑顔になれるし、笑っているとそれが伝染していくんだよって言われて。私、まさしくそうだなと思って。だから気づかせてくれたのはおじいちゃんですね。
――素敵なお祖父様ですね、本当に。
ありがとうございます。本当に素敵な家族です。
――ふくいさん自身としては、ポーカーフェイスにならなきゃなと思っていた時期もあったんですか?
いや、そういうわけでもなかったんですけど、そこは甘えですね(笑)。
――甘え?
結構自然体でいてしまうので、良くも悪くもそれが怖く見えてしまったりとか。悪気はないんですけど。でも、“できなかった……”と落ち込んでいると、周りの人が気を遣うから“テヘ”ってやっとこって思えるようになったというか(笑)。それに気付いただけで自然と笑顔になりましたね。自分にとってもそっちのほうがヘルシーなんですよ、メンタル的に。
――となると、「HAPPY」はふくいさんの根源的な気持ちを歌っているし、アーティストやシンガー以前に、人間として気付いたことも多かったと。
そうですね。だから、今回のアルバムも『I am…』というタイトルにしました。まだ発展途上中ですけども、いろんな人にいろんなことを気づかせたもらった感謝の気持ちを込めたアルバムになったかなと思います。
――今後の活動としては、お話の中で、年内にアルバム出そう!なんていうのもありましたけど。
相当頑張らないといけないですよね(苦笑)。
――ですね(笑)。コロナの状況がしばらく続きそうですが、2020年後半はどんな活動をしていきたいですか?
宅録環境も整いましたし、私が世の中に貢献できることと言ったら、できるだけいい歌を作って届けることだと思っているので、人の心に届くような曲をこさえていくのみですね。配信ライヴはまたやりたいですけど、出られるときはイベントに出て……アルバムを作ります(笑)。
――(笑)。今だからこそ曲をしっかり作っていこうと。
そうですね、変わらずに。これまでジャケットのこととかを考えて曲を作っていたんですけど、今ってやっぱり動画が大事じゃないですか。だから、動画とかライヴをどういうふうにするのかを考えながら曲作りがしてみたいなと思っていますね。あと、“イエローソーダ”っていう、ビールを美味しく飲める音楽を提供する、夏限定のユニットを作ったんですよ。シンガー4人でやっていて、去年から始めたんですけど、そっちのほうでも曲を作ることになっているので、その活動もしつつ、ふくい舞の活動もやっていきたいと思っています。

取材・文=山口 哲夫 撮影=kaochi
ふくい舞

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