今だからこそ鑑賞したい『ラ・ボエー
ム』の見どころを紹介~「英国ロイヤ
ル・オペラ・ハウス シネマシーズン
2019/20」で公開

英国はロンドンのコヴェント・ガーデン、ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)で上演されたロイヤル・バレエ団、ロイヤル・オペラによる世界最高峰のバレエとオペラを、東宝東和株式会社配給により、TOHOシネマズ系列を中心とした日本全国の映画館で鑑賞できる「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2019/20」。すべての上映作品に、人気の高い案内人による舞台裏でのインタビューや特別映像等が追加されており、日本にいながらもそのボリュームある内容や迫力ある音響でライブで観劇しているような臨場感を味わう事が出来るとともに、大スクリーンに映し出される細やかな表情や美しい映像を楽しめることで、人気を博している。2020年8月14日(金)からは、いよいよロイヤル・オペラ『ラ・ボエーム』が全国公開される。今回はその見どころを、音楽・舞踊プロデューサー・石川了氏の解説とともに紹介する。
【動画】ロイヤル・オペラ『ラ・ボエーム』

誰もが忘れられない青春の歌。活気にあふれた19世紀のパリを舞台に、若者たちの愛と死を描くプッチーニの傑作『ラ・ボエーム』は、ミュージカル『レント』や、映画『ムーランルージュ』の物語の下敷きになったことでも知られ、時代やジャンルを超えて人々を虜にしてきた名作だ。英国ロイヤル・オペラでも40年以上ものあいだ上演されてきた伝統的な演目である。
(c)2017 ROH. Photo by Catherine Ashmore.
原作は、フランスの文人アンリ・ミュルジェールの実体験に基づく小説『ボヘミアンの生活の情景』で、タイトルの<ボエーム>とはボヘミアンのフランス語で、自由に生きることに憧れた19世紀パリの芸術家の卵たち(もしくは芸術家気取りの若者)のことを言う。オペラでは、詩人ロドルフォと画家マルチェッロ、音楽家ショナール、哲学者コルリーネのボエームたち4人が、薪も買えず自らの作品(紙)を燃やしてストーヴに火をつけるほど、その日暮らしの生活に四苦八苦。大家からの家賃の催促をあの手この手で逃れながらも、なけなしの稼ぎで買った1匹の魚とワインをみんなで分け合い、夢と希望を抱いている若者たちを描いている。
(c)2017 ROH. Photo by Catherine Ashmore.
ロドルフォはお針子ミミと出会い、彼らはお互いに心を寄せ合う。一方、マルチェッロと歌手ムゼッタは愛し合っているのにいつも喧嘩ばかりといった恋模様や、ミミの病気が進行し、みんなに見守られながら死んでいくという哀しい別れで物語は幕を閉じる。気ままな生活や仲間との友情、ほのかな恋心、人生の迷いや悩みなど、何気ない日常がこんなにも愛おしく大切なものであるかを淡々と綴っている。
(c)2017 ROH. Photo by Catherine Ashmore.
プッチーニ自身の人生も投影されている若き芸術家たちの物語は、誰もが一度は将来の夢をかなえようと葛藤している若者だった観客の胸を熱くさせる。石川氏は、「誤解を恐れずに言えば、数百年の間、戦争や革命、疫病や社会の変化に適合しながら生き残ってきたクラシック音楽は、ウィルスのようなものだと思う。その音楽に触れた者を幸せにし、死ぬまで夢中にさせるウィルス。クラシック音楽はきっと、今回のコロナ禍でも自らの存在価値を急速に変容させながら、その楽しみ方を多種多様に増殖させていくのだ。」と、そして「今はまだ、大人数の飛沫が懸念されるオペラは、通常の形での再開が厳しい。だから、生のオペラが叶わないならば、大きなスクリーンと劇場の音場を持つ映画館でのオペラ鑑賞を、音楽を楽しむ選択肢の一つに加えてみてはどうだろう」と、変わりゆく毎日と新たな生活様式を取り入れるのと同様に、音楽の新たな楽しみ方にも目を向けており、その第一歩として最適なのが『ラ・ボエーム』なのだと言う。
(c)2017 ROH. Photo by Catherine Ashmore.
本作はロドルフォとミミが出会うアリア「冷たき手を」「私の名はミミ」、彼らが心を寄せ合う二重唱「愛らしい乙女よ」、マルチェッロの気を引くために歌うムゼッタのアリア「私が街を歩くと」、ロドルフォに別れを告げるミミのアリア「さようなら、あなたの愛の呼ぶ声に」、2組のカップルの別離の四重唱「楽しい朝の目覚めも、さようなら」、別れた恋人を忘れられないロドルフォとマルチェッロの二重唱「もう帰らないミミ」、病気のミミを助けようと自分の外套を売るコルリーネのアリア「古い外套よ、聞いてくれ」など、オペラを愛する人なら誰でも聴いたことがある名アリアや重唱が満載。「当時のプッチーニはまだパリに行ったことがなかったから、彼自身もこの作品に自らの青春時代を重ねて作曲したのではないだろうか。その若々しく瑞々しい音楽が全編を支配し、あまりにも美しく切ない旋律が観る者の涙腺を破壊する。」と分析。4幕仕立て(シネマシーズンの上映では2部構成)で約2時間というコンパクトな長さに凝縮されており、その余りに切ないストーリーと音楽に、オペラをあまり観たことがない方でも涙腺崩壊必至だ。
(c)2017 ROH. Photo by Catherine Ashmore.
また石川氏によると、今回は日本ではあまり知られていないが歌に演技に秀でた歌手が多く出演し、いい意味でスター歌手のカリスマに邪魔されず、リアルな芝居を楽しめるのがポイントだそう。詩人ロドルフォは容姿と声のバランスがとれたテノール、チャールズ・カストロノボが出演。他にもムゼッタのシモーナ・ミハイ、マルチェッロのアンジイ・フィロニチックを始めとする若々しいキャストが出演。特にミミを歌うブルガリア生まれのソプラノ、ソニア・ヨンチェヴァは東欧出身らしい豊潤な声と確かな演技力で、英国ロイヤル・オペラとNYメトロポリタン歌劇場を中心に世界中で活躍。「特に第3幕はヨンチェヴァの独壇場。最終幕のミミの死も、その迫真の演技は目が離せない。」と注目している。演出は、ミュージカル『タイタニック』(オリジナル・ブロードウェイ版)をはじめ演劇の仕事でも知られるリチャード・ジョーンズ。舞台装置は同じく『タイタニック』のスチュワート・ラングで、第2幕、パリの雑踏からカフェ・モミュスのレストランに転換するシーンも見どころだ。
(c)2017 ROH. Photo by Catherine Ashmore.
石川氏は最後に、「『ラ・ボエーム』は、今青春を謳歌している若者たちにも、また、若き日に青春を謳歌した熟年層にも胸を熱くさせるオペラだ。幸い、国内の映画館は再開され、館内の換気やソーシャルディスタンスの確保など、観客と従業員の安全のためのさまざまな感染予防対策が講じられている。今こそ、ウィズコロナ社会の新しい生活様式の中で、映画館でクラシック音楽を楽しむ第一歩を踏み出してみようじゃないか!」と、多様な可能性を秘め、未曽有のなかでも私たちに寄り添ってくれるクラシック音楽との新たな触れ合い方を提唱すると共に、またいつの日か生のオペラが叶うことを願い、力強いコメントを送っている。誰しもが心を揺さぶられるであろうロイヤル・オペラ『ラ・ボエーム』、今だからこそ鑑賞したいオペラ作品といえるだろう。
(c)2017 ROH. Photo by Catherine Ashmore.

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