【畠中 祐 インタビュー】
ひとりひとりに届けるような
曲にしたいと思った
誰に届くか分からなくても
発信することに意味がある
カップリング曲の「Regret」はAメロが台詞っぽくて、曲としてとても面白いですね。
実は今作は一枚を通してのテーマがあるんですよ。「HISTORY」は僕とあなたの歌で、「Regret」は僕と僕の歌。そして、3曲目の「ボトルメール」はあなたとあなたの歌なんです。
僕と僕の歌というのは、自分の内面と向き合うみたいな?
そういう感じです。初ワンマンの話で自分に自信が持てなかったと言いましたけど、僕は結構ネガティブな性格なんですね。そこでプロデューサーからの提案で、自分の中にあるネガティブなものをもとにして曲を作ろうということになったんです。で、自分の中から浮かんだネガティブな言葉をありったけ書き出して送ったら、僕が思っていたより何倍も暗い歌詞になってしまって(笑)。でも、こういう感情って聴いてくださるみなさんの中のどこかにはあるものだと思うんです。一日の中で落ち込む瞬間もあれば、美味しいものを食べてテンションがアガる瞬間があったりする…そういう気持ちの起伏の中から、落ち込んだ瞬間の気持ちを手繰り寄せるようにして、なんとか歌えたかなって思いますね。
ボソボソとしゃべる感じもあったり、サビでは歌謡曲のようなキャッチーさがあったりと、一曲の中にいろいろな表情がありますね。
ラテン系になるところもあるし、音的にはすごく遊んでいるんですけど、歌に関してはこの曲独特の内に入る感じを壊さないように、派手になりすぎないことを意識しました。“この曲は無理に高音を歌い上げようとしなくていい。とにかく力を抜くのが大事だ”というディレクションもあったので、ファルセットやウィスパーを使って、できるだけ力まないようにして歌いました。あと、より歌詞に入り込めるようにと、スタジオのライトを暗くしてもらったり。
台詞っぽいところは声優をやっているからこそ成立できるような部分もあったんでしょうか?
でも、これを芝居でやろうとすると、ここだけ浮いてしまうと思うんですよ。だから、普段の演じる感覚とは違いました。実際の自分よりも暗い歌詞なので、もちろん多少演じる要素は必要ですけど、あくまでも半分自分の生の声というものを意識しました。
ちなみにネガティブに陥った時、どうやって立ち直るんですか?
飯ですね(笑)。焼き肉、バーベキュー、から揚げ…子供舌なんですけど、それらが出てくれば、もう悩みを忘れてテンションが上がります。自分でも単純な奴だと思うけど、飯は気持ちを切り替えるのに大事な要素なんです。
3曲目の「ボトルメール」はご自身が作詞を担当されていますが、タイトルの“ボトルメール”は瓶に手紙を入れて海に流すものですよね。
そうです。歌詞を書くことになった経緯は、この曲の制作途中で自粛期間に入ってしまったことで。本来は自分で書く予定ではなかったんですけど、自粛期間でたっぷり時間ができたから、その時間を使って歌詞を書いてみないかと言われて。その時にいただいたテーマが“あなたとあなたの曲”というものでした。
自粛期間中のどういう経験がこの歌詞につながったのですか?
自粛期間中、SNSがすごく注目されましたよね。うたつなぎをはじめ、アーティストさんが新曲を作って披露したり、普段はできないセッションをしたり。そのひとつに、セカイイチの岩崎 慧さん、Keishi Tanakaさん、UNCHAINの谷川正憲さん、LEARNERSの紗羅マリーさんら1982年生まれのアーティストが集って作った「Baby, Stay Home」という曲があって、それにすごく感銘を受けたんです。その曲に参加されたthe telephonesのドラマーの松本誠治さんと知り合いなので、曲を聴かせていただいたら、マジですごくいい曲で!
ソウルテイストのハートウォーミングな曲ですよね。
はい。最初は誰に届くかとか関係なく、自分たちが“歌いたい”とか“曲を作りたい”という純粋な気持ちから始まって、それが回り回って僕のもとに届いて、救われた気持ちになった…それってすごく素敵なことだと思ったんです。本来の音楽って、そういう純粋な気持ちや物作りに対するワクワクの詰め合わせなんだと改めて知らされた気がしたというか。なので、“発信したものは必ず誰かのもとに届くから、意味のないことなんてないんだ”って言いたいと思ったんです。誰に届くか分からないけど、その気持ちをメッセージとして届けるという意味でボトルメールに例えながら、昨年11月にジャケット撮影で行ったグアムで見た海辺のきれいな光景やどこまでも続く長い一本道とか、そういう風景と重ね合わせながら歌詞を書いていきました。
エンターテインメントの可能性や、人と人のつながりの強さを実感して生まれた曲ということですか?
正直言って自粛期間中はネガティブなことも考えました。“歌とかエンターテインメントって本当に求められているのかな? 必要なのかな?”って。でも、僕自身は自粛期間中に映画やドラマをたくさん観て、本も読んだりして得るものがたくさんあったし、それこそ「Baby ,Stay Home」を聴いて勇気をもらったから、そのことをみんなに伝えたいと思ったんです。今の状況が長引けば長引くほど、歌やエンタメはどんどん居場所を失っていくかもしれないけど、歌うことは楽しくてワクワクするっていう気持ちは、きっとなくならないと思うんです。その気持ちでずっとつながっていけたら素敵だと思っています。
ここからまた新たな一歩を踏み出すわけですが、今後の活動についてはどんなふうに考えていますか?
今まで通りファイティングポーズは崩さずに、“やってやるぜ!”という気持ちは持っていたいですね。あと、こういう期間を経て“共有できるということは、なんと掛け替えのないことか!”と改めて思いました。僕らはどうしようもなくつながりたい生きものなんだとも。なので、自分も楽しみながら、その楽しさを応援してくれるみんなともっともっと共有していきたいですね。
取材:榑林史章