Noism0 / Noism1「境界」山田うん&
金森穣が対談~「舞踊という財産をも
っと開かれたものにしたい」

りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館の専属舞踊団Noism Company Niigata(ノイズム・カンパニー・ニイガタ)が、Noism0 / Noism1「境界」を2021年12月17日(金)~19日(日)新潟、12月24日(金)~26日(日)東京、2022年1月10日(月・祝)高知で上演する。ゲスト振付家に山田うんを迎え、芸術監督・金森穣作品と共に贈る新作ダブルビルで、「境界」をテーマに山田が『Endless Opening』を、金森が『Near Far Here』を創作する(高知では金森の『夏の名残のバラ』も上演)。2002年にCo.山田うんを結成し国内外で公演・ワークショップに積極的な山田。2004年以降わが国唯一の公共劇場専属舞踊団Noismを発展させている金森。両者が創作の方法、舞踊団を率いる者同士の思い、今後に向けての展望などを語り合った。

■山田うんを招聘、Noismメンバーの新たな可能性を引き出す
――Noism18年目のシーズン最初の公演では、ゲスト振付家に山田うんさんを迎えます。金森さんに伺いますが、先年の森優貴さん(元ドイツ レーゲンスブルク歌劇場ダンスカンパニー芸術監督)に続いて山田さんをゲストに招いた理由は?
金森穣(以下、金森):一番大きいのは、うんさんとお話したこと。今年3月、りゅーとぴあでCo.山田うんが『コスモス』を公演しましたが、その時、うんさんと柳都会(※金森がホストを務める対談企画)でお話したんです。うんさんはフリーで飛び回って1か所に収まらない人かなと思っていたら、意外にも劇場専属舞踊団としての環境に理解を示してくれた。そこで、うんさんがNoismに来て振付してみたら何を感じるのか、どんな作品を創るのかを知りたくなったのでお願いしました。
――うんさんは依頼を受けた時、どう思いましたか?
山田うん(以下、山田):凄くうれしかったですね。即OKしました。Yes!と。
柳都会での対談風景 撮影:遠藤龍
――お互いの活動や作品に関して、どのように思っていましたか?
金森:あまり留まらないというイメージ。常に生きているというか、常にin motionな感じがある。演出の仕方もそうだし、群舞でマスが複雑だけど流れの中で組み替わっていく。そこにうんさんの空間性、時間性、舞踊のうねりの創り方が象徴的に出ていると思う。でも、それだけじゃなくて常に開かれている感じがするよね。
山田:Noism旗揚げの『SHIKAKU』から拝見しています。その時々の時代に対して「なるほど」と思わせるテーマとか作品のカラー、コンセプトがドーンと来る。そこに対して肉体もドーンと来る。私が木造の家に住んでいるとしたら、Noismは鉄筋コンクリートとか石造りの家(笑)。穣さん、Noismには絶対に崩れない基盤と強さがあって、いつも圧倒されていました。
金森:金森穣=Noismとなっていたところにゲスト振付家を呼ぶことになったけれど、金森穣ではないNoism、Noismとしての強度とは何なのかを俺も知りたい。毎年ゲストをお呼びすることによって「これがNoismだよね!」と思われている部分が必ずしも「金森穣=ではない」というふうになったらいいなと個人的には思います。
ご存じのようにNoismには存続問題があって、金森穣の作品ばかりにはならないようにという要請もありました。いかに金森穣に依存することなく自立できるかが課題なので、ゲスト振付家をお招きすることは大切。うんさんには俺には引き出せないメンバーの可能性を見出していただければうれしいですね。
Co.山田うん『コスモス』新潟公演 Photo:Isamu Murai

■山田うん新作は「鎮魂」をテーマに「献花のイメージで」
――今回の公演タイトルでありテーマでもある「境界」はどのように出てきたのですか?
金森:うんさんに作品のキーワードを聞くと、その中に入っていたんです。俺も今回の創作のテーマに掲げていたのでシンクロニシティにびっくりしました。
――うんさんはプロフェッショナルダンスカンパニーNoism1に『Endless Opening』を演出振付します。2021年は「鎮魂」をテーマに作品を手がけており、「この世とあの世」をテーマに声明と共演した『Bridge』(国立劇場5月特別公演「二つの小宇宙―めぎり合う今―」)、「死んだらみんなどこ行くの?」をテーマにした『オバケッタ』(新国立劇場制作ダンス公演)を発表しています。今回もその流れにあるそうですが、創作の動機をお聞かせください。
山田:「鎮魂」というテーマの中でやり切れていないことは何かと考えました。生と死みたいな「境界」があると思うんですね。死んだ人と生きている人の境界みたいなイメージです。
創作を始める時、私が抱いているイメージを創ることができるのだろうかという不安と楽しみがありました。Noism1のダンサーたちはただバレエをやっているだけではない力強い重心の高さを持っているし、1人1人の踊りに張りがあるので、私のカンパニーのダンサーたちとは全然違う。肉体の輝き方が似ているというか舞踊団として揃っている。なので、私が普段やっているのとは違う形で1人1人各ダンサーの個性を引き出したいと思いました。
そこでお花みたいな作品を創ろうと。死者に捧げる献花のイメージですが、いま辛い思いをしている人や、悲しい思いを吹っ切れない人に献花としての30分の作品を立ち上げられないかなと考えました。植物のしなやかさと舞踊家1人1人が持っているしなやかさに親和性を感じたので、それを一つのイメージとしてやっていこうと。できるだけシンプルなアイデアを作品化し、舞踊というものを一緒に創っていく時間を大事にしたかったんです。

Noism1『Endless Opening』リハーサルより 演出振付:山田うん 撮影:遠藤龍
【動画】Noism1『Endless Opening』 Trailer
■「とにかく実験的なことがしたい」金森穣新作には自身も出演
――金森さんはNoism0(金森、井関佐和子、山田勇気)にバロック音楽を用いた『Near Far Here』を演出振付します。「近くて、遠い、此処」とご自身で訳されていますね。「今此処とは何処のことか」、いまここにいる「私とは誰のことか」といった問いがインスピレーションだそうですが、あらためて今回の創作の動機についてお聞かせください。
金森:うんさんと対比なんだけど、今回はとにかく実験的なことがしたい。純粋に踊る前に、まずこのアイデアがあって、このものを使って、どういうダンスができるのかと。7つくらいあるシーン全部にそれぞれのアイデアがある。それに基づいて佐和子と勇気と実験を繰り返しながら失敗したり、ゴミ箱に捨てたりしながら創っているのね(笑)。結構いい感じに仕上がっているんだけど、テーマが「近くて、遠い、此処」なので、あまり具体的に積み上げていけないんだよね。テーマの断片がいくつかあって、その境界がどこにあるのかがパズルみたいになっている。

Noism0『Near Far Here』リハーサルより 演出振付:金森穣 撮影:遠藤龍

――副芸術監督でもある井関さん、Noism1リハーサル監督を務める山田さんは長年苦楽を共にしてきた熟練のダンサーです。彼らと具体的にどのように新たな挑戦をしていくのですか?
金森:これだけの実験的なアプローチができるのは2人とだからこそ。それこそ懐中電灯とつるはしとお水というように、1人1つずつ道具を持ち、3人で洞窟に入ってどこまで行けるかなみたいな感じ。たとえば身体的に動く時、「こうだよね」というものではなく、いまだに見出したことのないもの、俺の中にある混沌を2人が一生懸命つかもうとしてくれたものを探る。純粋にクリエイティブなプロセスに行けるのは、2人と一緒だからこそですね。
――演出ノートに「現時点で語れるものは創りたくない」という旨を記されていますね。
金森:本当にどうなるか分からないものを掴みながら創りたい。でも、もう一度言うけれど、それぞれのシーンは凄く面白くできている。あとはそれをトータルで時間軸で並べた時、最終的にお客様に何を感じていただけるだろうかと考えている。
Noism0『Near Far Here』リハーサルより 演出振付:金森穣 撮影:遠藤龍
【動画】Noism0『Near Far Here』 Trailer

■山田うんから見たNoismとは
――以前うんさんにお話を伺った時、Co.山田うんのダンサーたちを採用するに際して、多種多様さ、バランスを考えているとのことでした。ゴロゴロのいろいろなお野菜たちもいれば、肉や魚もいて、それをどう料理するのかと。その点、Noism1の皆さんは1つの空気感をまとっていると感じられているそうですが、そこから彼らの個性をどのように引き出すのですか?
金森:ウチはゴロゴロのお野菜が全部正方形に切られている(笑)。
山田:そんなことはないし、それにお野菜じゃない(笑)。
でも私のカンパニーでユニゾン(同じ振り)を踊ってもらうと、その時点でいろいろな感じになるんです。ユニゾンがユニゾンじゃなく見える。そこが面白いんだけど、Noism1はユニゾンがユニゾンになるんです。私の振付は踊り難い部分もあるので試行錯誤しながらなんですけれど、踊り方とか重心の置き方がきれいなユニゾンになるんです。私のカンパニーのようにバレエをやってきた人とストリートダンス出身者が一緒に踊るのと違って、本当に美しく踊ってくれる。それが素晴らしく良い時もあれば、1人くらい間違えてくれてもいいのにと思ったりもします(笑)。
金森:(爆笑)。
山田:間違えることで「あそこはこう踊るんだ!」と気付くこともあるはずです。それに上手く踊ることができない人がいることによって、その踊りからもう1つ何かが立ち上がることもあります。Noism1とのクリエーションは生け花みたいです。1つ1つが成立していて、それを今日はどのように生けようかなと思う。同じ空間に一緒にいると精神が整ってくるというか、自分の身体が気持ちいいというか、そういう感覚に近いですね。
金森:うんさんが言うユニゾンの揃い方は、金森穣がいなくてもNoismがまとい始めているある種の集団性なんだよね。振りを渡すと俺のいないところで話し合い、練習してどんどん揃えていく。それには良し悪しがある。本当はこっちに行きたいという自分の感覚みたいなものが許容される振付家と出会った時、そこで何を出せるのかを彼らも経験すべきです。そこでどうするのかを見出して、うんさんにぶつけてほしい。彼らが良い意味でどこまで悪戦苦闘するのかが楽しみです。
山田:最初のクリエーションから3週間ぶりに新潟に戻ってきたら、踊りが凄い揃っていたんですよ。「揃える」といっても中身は結構違うんですね。手さぐりの中での共通認識と、こっちの方がいいだろうというチョイスがちょっとずつ違うところで踊りやすさに繋がっていく。踊り難さをどこまで摺り合わせるのか。認識の違いを毎日発見していますね。
金森:うんさんがいま言ったようなことって、メンバーには結構言語化して伝えるんです。うんさんも自分のカンパニーの場合、説明しなくても分かる。でも、ウチの子たちは分からないから戸惑う。自習して揃えたのに揃いすぎってどういうことだろうと。
山田:そうそう。それでどこを目指したいかを話すとなるほどと皆が思うし、私自身も「その認識って結構大きいよね」となる。「揃える」という言葉一つとっても、そこのニュアンスって実は違う。どこに戸惑っているのかは1人ずつ違っていて、それを1人ずつ直接私に伝えてくるんです。そこはさすがですね。コミュニケーションが取りやすいです。
Noism1『Endless Opening』リハーサルより 演出振付:山田うん 撮影:遠藤龍

■ダンサーへの「愛」とカンパニーを率いる大変さ
――金森さんは、うんさんのクリエーションを覗いたりはしないんですか?
金森:極力しないようにしています。俺、凄く気が小さいので嫉妬深いんですよ。人のクリエーションを見ると嫉妬しちゃうの。芸術家として嫉妬することもあるし、ゲストと踊っているメンバーにも嫉妬する。それに、覗くと俺に見られていると皆が思っちゃうし、双方にとって良くないから極力本番まで観たくない。お招きした時点でうんさんの作品だと思う。もちろん芸術監督としての責任はあるので、上演時間が長くなってきているなとか、作品がまとまっていないなとか、メンバーともめているなとか問題があれば出ていきますが、そうでない限りやりたいようにやっていただくのがベストです。
――うんさん、Noismはクリエーションしやすい環境ですか?
山田:しやすいです! それに皆、穣さん、佐和子さんのことを愛しているんです。本当に。
金森:(苦笑)。
山田:愛しているんですよ! リスペクトが圧倒的にあると日々感じます。それに穣さんもダンサーたちへの愛がありますね。「嫉妬する」とかおっしゃっていますが、そんなことなくて。
金森:そうかい? いや、もちろんあるけれど(笑)。
山田:私も全然タイプの違うカンパニーをやっていますが、ダンサーへの思いって不思議なんですよ。家族じゃないし恋人でもいないんだけど、家族や恋人よりも愛おしいというか、彼らがいないと生きていけない。絶対に必要です。生きものの中でダンサーが一番好き。Noismの舞踊家たちは仲間のことをお互いにリスペクトしていて良い雰囲気です。
立ち上げ時と違い、踊り手との年齢が離れていっているのは自分のカンパニーでも感じています。若い世代と一緒の目線でいまの舞踊をどう創るのか。昔よりもある意味大変かもしれない。自分が「先生」みたいになっちゃうのは違うし、経験すればするほど悩みも増えてくるんですよね。でもNoismのダンサーたちは、若いのに成熟しているというか、踊ることに対しての意識が凄く高い。それは穣さんの力ですね。
金森:いや、それは環境だよ。朝から晩まで稽古できる場所が確保されていて、制作の人たちもいる。日本にこんなに恵まれているところは他にないから。
Noism1『Endless Opening』リハーサルより 演出振付:山田うん 撮影:遠藤龍

■「地に足を付けて活動する、芸術家としての舞踊家を守りたい」(山田)
――立ち位置は異なりますがトップランナーのお二方がここでクロスするのは興味深いですね。いまの日本のダンスの状況について考えていることはありますか?
金森:うんさん、何かある?
山田:芸術としての舞踊は要らないという人もいるし、必要だという人もいます。一方で、教育や福祉の中での舞踊はまあまあ必要だと思われているわけです。私はその全部を舞踊家が担えると考えています。こういう時代だからこそ舞踊というもの、踊る人の発想や肉体の豊かさという財産は、もっともっと開かれていってほしい。でも、開かれるだけだったら消耗していくので、守られるようにバランスが取れていけばいいなと思います。
私は裾野を広げることやって来ているのですが、それだけをやり続けると木っ端みじんになるというか身も心も粉々になっていくんですよ。空中に浮いていたら舞踊はできません。地に足を付けていないと舞踊は生まれない。だから、Noismのように地に足を付けて活動している、芸術家としての舞踊家が守られていく環境がもっと創られていってほしい。それは私たちの仕事でもあるし、そのためにも力強く作品を創っていきたいですね。
金森:図らずもいまNoismが置かれている状況がうんさんを招いたんだと思う。日本でこれだけの年月舞踊団を抱え、舞踊がもっと開かれたものであるために木っ端みじんになりながら献身してきた人を招くことになったのには共時性があるなと。理屈じゃなくて。将来振り返った時、「あのタイミングでうんさん、新潟に来たんだよね!」となるような気がする。
柳都会での対談風景 撮影:遠藤龍
――今年3月のCo.山田うん『コスモス』新潟公演は、Co.山田うんと新潟市芸術文化新興財団の共催で、そこから今回のNoismへのうんさんの招聘に繋がりました。そうした流れが増えていけばいいですね。
金森:本当はうんさんがどこかの都道府県の劇場専属舞踊団として活動されていて、それをお呼びするのがベストなんだけれどね。
山田:どこかの都道府県、どうぞよろしくお願いします!(笑)。
金森:うんさんなり森優貴なりが他の劇場、他の自治体で悪戦苦闘しながらやっていってくれたら、もっといろいろな交流ができ、もっと多くのことが可能になる。早くそうなっていければ。
【動画】Noism0 / Noism1「境界」 trailer
オンライン取材・文=高橋森彦

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