橋本環奈×上白石萌音が舞台『千と千
尋の神隠し』で千尋役に 公演への意
気込みや互いの印象を訊く

2022年3月に帝国劇場で上演する、舞台『千と千尋の神隠し』(プレビュー公演は2月末から)。2001年の公開以降、日本のみならず米国アカデミー賞長編アニメーション映画部門賞を受賞(03年)するなど、世界中で大ヒットし今なお愛され続けている宮﨑駿監督の傑作映画が、世界で初めて舞台化される。演出を務めるのは、『レ・ミゼラブル』オリジナル演出を手掛けたジョン・ケアード。そして主役である千尋は、橋本環奈上白石萌音という、今最も旬な国民的女優ふたりがダブルキャストで挑む。11月に開催された製作発表会見直後、ふたりに作品に対する印象や意気込みを聞いた。
ーー舞台『千と千尋の神隠し』の製作発表会見を終えた、今の素直な気持ちは。
橋本:「いよいよ始まるんだ」という心境です(笑)。最初にこのお話を聞いたのが一昨年くらい。時間も経っていますので、その間ずっとドキドキしていたということはなく、ポスター撮影をした時に「やっぱりやるんだ」と思い、今日製作発表をしてどんどん実感がわいてきています。私にとっては初めての舞台出演ですので、想像がつかないことばかりで、逆に不安や緊張もなく「どの様に演じてゆこうか」とワクワクする気持ちが強いです。
橋本環奈
上白石:会見の会場に入場する時に映画『千と千尋の神隠し』の音楽が大音量でかかっていたことにとても感動し、そこからずっと鳥肌が立っています。劇場ではきっと、生演奏で聴けるんですよね。音楽の力というのはとても大きいと思いますし、また編曲を担当するブラッド・ハークさん(上白石も出演している『ナイツ・テイル ー騎士物語—』も担当)は超天才なんです! 久石譲さんとブラッドのタッグがますます楽しみになりました。キャストも色々なジャンルの一流の方が集まっていて、どういう雰囲気になるのか想像がつかなかったのですが、本当に皆さん明るくて楽しい方ばかり、笑いの絶えない会見だったので、きっとお稽古も楽しくなるんじゃないかな。楽しいカンパニーになりそうだなとワクワクしました。
ーー千尋を演じるにあたって、現時点でポイントだなと思うところは。
橋本:私は22歳ですが演じる千尋は10歳。大人でも子どもでもない、成熟しきっていない年齢の子。だからこそ演じるのが難しいだろうなと感じています。大人びすぎてもいけないし、かといって子ども子どもしていても違うと思うので、そのバランスは考えたいです。ただやっぱり千尋が物語の中でどんどん成長していく姿は、見ていて応援したくなるし、感情移入して見てしまう。舞台を観にきてくださる方も千尋を応援したくなるように、演じるというより千尋として生きたいですね。千尋はカッコいいところも可愛いところもありますが、まずは何事も新鮮に感じることが大事じゃないかな。私も初舞台なので、そこは千尋の“初めて”と繋がるかもしれません。私も、色々なものを吸収していけたらと思います。
上白石:千尋は勇気があるし強い子です。同時に、“持っている”子だと思うんです。とにかく運がいい。正しい方にいけるチョイスができる勘の鋭さや、一歩踏み外したら奈落の底に落ちるような階段も無事に渡り切るし……。
橋本:たしかに(笑)。
上白石:運動神経もすごくいい。ふとした時に奇跡のような選択ができる。もちろん本人にはその自覚がなく、とにかく一生懸命やれることをするというのが、強い運に繋がっていると思うのですが。子どもってけっこうそういうところ、ありますよね。「よくできたね、そんなこと……!」ということがケロっとできたり(笑)。何も考えていないがゆえの強さみたいなものを上手く出せたら面白いのではと思っています。とにかくすべてのキーポイントは“10歳”というところにある気がします。
上白石萌音
ーーちなみにおふたりが10歳だった頃は、どんな子どもでしたか?
橋本:けっこう過去のことを忘れるタイプなので……何していたかなぁ? でもすでにお仕事はしていましたね。9歳の頃から始めているので。
上白石:あの有名な写真は、何歳の時?
橋本:たぶん同じ写真を想像しているんだと思いますが(笑)、あれは中学生。14歳とかかな? 是枝裕和監督の『奇跡』という作品で初めて映画に出たのですが、そのオーディションの時が10歳くらいだったと思います。
上白石:見に行った~。
橋本:本当ですか! ちょうど(自分の出身である)九州の話で、九州新幹線が全線開通する時のお話でした。でも……とにかくやんちゃな、ただのガキンチョでしたね(笑)。昔のメイキングなどを見ると「何を言っているんだか……」と目も当てられない気持ちになります。恥ずかしいのですが、中身は今もあまり変わっていないかも。ただ千尋とはあまり似ていないかな……けっこう怖いもの知らずだった。踏み出す勇気があるところは千尋と似ていたかも。
上白石:10歳の時はメキシコに住んでいたので、今振り返れば人生の転換期ですね(笑)。楽しい生き方をたくさん学んでいた時期。人生の中で最も気が強くて、ケンカっぱやくて、アクティブでした。
橋本:ケンカっぱやいイメージなんてない!
上白石:すごく正義感が強かったんですよ。やんちゃな子が大人しい女の子をからかったりしたら、立ち上がって「人の気持ちがわからないの?」みたいなことを言っちゃう(笑)。学級委員タイプでしたね。中学生で思春期を迎えて陰になったので、今の自分からしたら考えられないのですが。明るくて勇気とガッツがあった時期。そういう意味では千尋と近いかもしれません。
ーー橋本さんは今回初舞台ですが、なぜこのタイミングで舞台に挑戦しようと思ったのでしょう。ずっと舞台に出たいと思っていたのでしょうか? また、上白石さんはつい先日まで『ナイツ・テイル ー騎士物語—』にもご出演でした。映像でも引く手あまたですが、舞台の面白さはどんなところにあると感じていますか?
橋本:舞台というのは今までもまったく気持ちになかったわけではありません。まわりの俳優さんたちから「舞台、やらないの」と声を掛けていただくことも多いですし、何と言っても、舞台に出ている方々は、口を揃えて「本当に舞台が楽しい」「楽しいからやった方がいいよ」と言うんですよ。そう話す表情は本当に生き生きとしていて、皆さんとても無邪気な顔をされるんです。それを見るたびに「そんなに楽しいんだ」と憧れを抱いていました。でも役者友だちの舞台を観劇に行ったりすると、完全にお客さん側の目線で見ていて、自分が立つという想像がまったくできなくて……とにかく舞台に立つって、またカメラ前とは違うことですよね。だからこそ「やりたーい」というような中途半端な気持ちではできない、やるんだったら本気で向き合おうと思っていました。そんな中、『千と千尋の神隠し』のお話をいただいて、これは舞台だからとひるむ以前に純粋に「やりたい」と思いました。この不朽の名作で千尋をやらせていただけるのはすごく光栄なことで、またとない機会。ここでひよっていたらいけないと。もちろん不安もありましたが、この挑戦は自分にとって大きな節目になると感じました。
橋本環奈
上白石:……舞台、楽しいよ。ふふふ(笑)。
橋本:(笑)。
上白石:私は(エンタメジャンルの中で)舞台が一番好きです。何が好きって、考える時間も、悩む時間もいっぱいあるところ。一行の台詞について、何日も何日も悩めるって、こんなに贅沢なことはありません。そうやって同じ脚本に日々向き合うことで、自分の足りない部分も見えてくるし、もっとこうしたいという欲もすごく出てきます。やはり映像はどうしても“撮って出し”ですので、覚えては出して、の繰り返し。その瞬発力の楽しさもありますが、舞台は本当に根を詰めて考えられて、ちゃんと苦しむことができる場所。私は舞台に挑むたびに初心に帰れるんです。あと、私が好きなのは、毎日物語が始まって、終わるというところ。映像だったらシーンの順番もごちゃごちゃに撮って、試写を見て初めてひとつの作品になるけれど、舞台は毎日、全部生き切ることができるのがいい。しかも毎日同じ脚本で、同じことをやっても、一回たりとも同じ舞台にならないのは生の楽しさ。その、お芝居している感覚を毎日しびれるくらいに味わえるのがたまらなく好きです。同じくらいに怖さや不安、緊張がありますし、ふと「なんでこんなに緊張することをやっているんだろう」と思うこともありますが(笑)、でも私は小さい頃から舞台が好きで、今も好きで、これからも一番好きだろうと思います。
ーーお稽古の開始はまだ先とのことですが、現時点で準備していることはありますか。
橋本:映画は繰り返し観ていますが……準備と言っていいのかな。これを自分がやるんだと理解しつつ、映画は映画で楽しんでしまって……。
上白石:わかるー(笑)!
橋本:普通に「ああやっぱり面白いな」と見ちゃう(笑)。でも私、原作がある作品の実写って、その原作に対して愛情があれば大丈夫だと思っている部分があるので、映画を見て、自分が千尋になった感覚でびっくりしたところ、嫌だなと思ったことなどを忘れないようにしたいと思います。その感情は舞台の中でも生き続けるんじゃないかな。なので……準備という準備はせずにまずは演出のジョンに委ねたいと。
上白石:私も出演が決まってから何回も家にあるDVDを見ているんですが、準備だと思って見始めても、最後は普通に泣いちゃうんです(笑)。それくらいすごい作品だということですよね。何度も見る中で、千尋の顔に注目して見るようになりました。このシーンで千尋はどんな顔をしているんだろう、湯婆婆から目をそらすのか、それともじっと見ているのか、とか。言ってしまえば答えがそこにあるので、それをどれくらい自分の中に取り入れて、自分が実際に目の当たりにした時に生まれる感情とどうすりあわせるのか、その塩梅を探っていくことになると思います。でも映画という心強い先生がいるので、それは大事にしたいですね。あと準備していることは……千尋は身体能力が高くて、動き回るので、コロンコロンと転がっても海老ぞりになって戻るくらい、身体も柔らかい(笑)。なので、どんな動きを求められても対応できるようにストレッチと筋トレはしておことう思います!
上白石萌音
橋本:たしかに(笑)! 私もやっておこう。
ーー今回の出演に際し、改めて楽しみなことは。
橋本:自分の新しい面を見つけられるかなということは、ワクワクしています。私は朝ドラや大河ドラマもやったことがないので、ひとつの役をこれだけの長い期間やるというのが初めての経験なんです。そしてジョン・ケアードさんの演出ですね。私も先日の『ナイツ・テイル ー騎士物語—』を観に行かせていただきましたが、びっくり箱のような衝撃と、強弱……ぱっと盛り上がる部分があれば癒されるところもあって、2・3時間のあいだでこれだけ様々な感情を味わえるんだという感動がありました。皆さん、ジョンさんの稽古はとても楽しいとも仰るので、ジョンさんの演出が本当に楽しみです。形のないもの、捉えようのないものもたくさんある『千と千尋の神隠し』の異世界感をどういう風に作っていくんでしょうね。自分が演じることが出来てあらためてとても光栄だなと思います。
上白石:私、ジョンがよく言う「このシーンを、リハーサルを重ねたというようなシーンに見せたくない」という言葉が大好きなんです。初めてこの場で起きていることのように見せたいって。それって、お芝居のすべてのような気がします。特に千尋は、初めての経験を積み重ね、ちょっとずつ成長していく。物語を動かすというよりは、動かされる側のキャラクターなので、どれだけその場の空気、起こっていることに素直に反応できるかが大切になると思います。すべてのことを、驚きと新鮮さをもって受け止められるように柔らかく存在していきたいです。
(左から)上白石萌音、橋本環奈
■橋本環奈
ヘアメイク:森本淳子(GON.)
スタイリスト:鈴江英夫(株式会社H)
■上白石萌音
ヘアメイク:冨永朋子(allure)
スタイリング:嶋岡隆、北村梓(Office Shimarl)
取材・文=平野祥恵   撮影=荒川 潤

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