ホビー商品を告知・広報するというこ
と 時代による移り変わりをまとめて
みる

 まずは最近のホビー関係。AK-GARDENやホビーラウンドといったリアルイベントがぼちぼち開催されるようになり、いずれもなかなかの活況を見せていました。年末のコミックマーケット、さらに22年2月にはホビー系イベントとしては最大規模となるワンダーフェスティバルが開催予定と、これからが大規模イベントの本番。いずれも無事に開催されて欲しいものです。なお、ワンフェスは事前にウェブで各種情報を出したり、若い人向けには入場料が安くするなど、新たな取り組みも積極的に行っています。今後の状況変化にも注目です。

 フィギュアなどホビー商品については、状況の大きな変化は見受けられませんでした。ただ、スケールフィギュアの価格は2万円台が普通になり、いずこも発売が後ろにズレているという、あまり良くない状況が変わりないということですが(苦笑)。中国では2月は旧正月の長期休暇が入るので、工場の電力不足と合わせてフィギュアの発売日がますます読めないことになりそうです。
 というところで今回のテーマ。フィギュアの周辺の話になるのですが、告知・広報ということについてちょっと考えてみたいと思います。
 どんな良い商品をつくっても、その情報がそれを必要とする人のところに届かないと、その商品があることすらわからないので売れないことになってしまいます。そのために広報や宣伝が行われるわけですが、これは時代とともに変化してきました。
 まず昔話。1990年代、フィギュアに限らずいわゆるオタク系の情報伝達を担っていたのはほぼ専門誌一択でした。アニメ、ゲーム、ホビーなどそれぞれ専門雑誌があり、メーカーはそこに掲載してもらうことで購入者のもとに情報を届けていたのです。専門誌さえ見ていれば、ほぼすべての必要とする情報を得ることができました。仲間内の口コミでひろがるような、裏の話とか噂話とか表だって語れないタイプのものも別にありましたが……。
 その状況がネットの普及によって大きく変わります。ネットを使った広報が出はじめるのです。これも大昔の話になりますが、90年代前半アメリカに取材に行ってる時、新聞の広告やテレビCMにホームページのアドレスが掲載されていることに驚いたことがあります。そのころはまだ日本ではそういうことはまったく行われていなかったのですが、やがてそれは普通のことになりはじめます。そこでメーカー側が直接情報を発信するようになるのですが、当初は映像や音声どころか写真1枚掲載するのも大変だったので、まともな告知媒体とはまだいえないような状況でした。それが環境が整うにしたがって、だんだんウェブでの告知ができるようになってきます。
 ただ、それでもまだ雑誌の力は強く、雑誌で情報を掲載したあとにウェブで公開するという縛りがあるものも多かったのです。その頃、雑誌に載った記事をスキャンしてネットにあげるというのも多くありました。今月の新情報はコレだ、とばかりにまとめて画像掲示板等に掲載されていたのです。結局、まだ情報の出所は雑誌が中心だったのです。
 フィギュア系、ホビー系に関していうと、この状況が大きく変わったのはグッドスマイルカンパニーのミカタンブログあたりからです。2007年に始まったこのブログは、単に新製品情報を発表する、掲載するだけではなく、そこにミカタンという個性あふれる書き手が独自の視点と愛をもって、プラスアルファのある記事を毎日のように書きあげ、それをメーカーから直接送り届けるようになったのです。このやり方は現在は割と普通のこと(ただあまり上手くいってない例も多い)ですが、当時は画期的なことでした。どうしても定型的になりやすい雑誌記事よりも自由度が高く、プラスアルファの部分が面白いのも魅力的でした。当時勢いのあった2ch的な表現やAAを使ったこともあり、ユーザーには自分たちに近い視点で親近感がもてるブログと感じられたと思います。
 このブログはフィギュアの流通や予約システムの変化とも密接な関係があります。以前は雑誌に掲載された記事を見て発売日に店頭に買いに行き、1個1個微妙に異なる塗りや仕上げを確認していちばん良さそうなものを買って帰るという流れでしたが、ミカタンブログが始まった07年頃には大きく状況が変わってきていました。基本的には事前予約が必須となり、通販が多いので最終的な商品を見ずに買うことになってきていたのです。この流通経路を活かすためには、受注時に発表している塗装見本品の写真と最終的な商品に大きな違いがあることは許されませんし、1個1個の仕上がりに差があることも許されません。最終的な商品を見ずに通販で買っても、安心できる商品が届くという信頼が絶対に必要なのです。さらに、ユーザー的には確実に手に入れるため、メーカー的には需要に対応した数量を生産するためには事前予約の重要性も増してきます。グッドスマイルカンパニーのフィギュアの仕上がりに対する信頼があるなかで、商品の魅力を詳細に伝えて予約を促すミカタンブログは非常に有効だったのです。
 ネット状況の変化にともなって、告知の場はさらに変わってきます。各社の独自ブログから、SNS、Twitterを活用するようになってきます。初期は自社ブログ記事へ誘導するためのTweet中心でしたが、SNSでの新作発表や途中経過、担当者のちょっとした雑感など様々な投稿が日々行われ、バズると数万単位のRTも行われるようになり、その数字上の拡散力は圧倒的なものとなっています。
 ただ、逆に流れる情報が多すぎて、ターゲット層へ届いていないという感はあります。90年代の雑誌時代は必要とするターゲットに確実に情報を届けられているという実感があったのですが、ネット時代になってその手応えがどんどんなくなり、SNSにいたっては拡散されてても必要なところにまるで届ききっていないと感じることも。また、SNSは無関係の人まで見ている分、近年はヘンな荒れ方をすることもあります。
 そしてこのところ多くなっていて、いまや中心ともいえる告知方法はYouTubeなどの動画。以前からニコ生などは使われてはいましたが、多かったのはスタッフがそのまま出てしゃべる形式。近年は従来のスタイルに加えて、タレント、芸能人などが出演する本格的な番組形式も増えています。ちょっと前まで、グッドスマイルカンパニーは声優さんを使った動画を配信していましたし、バンダイはお笑いタレント等を起用した動画を配信していました。このあたりの起用人員の違いもそれぞれのターゲットがうかがえて面白いところ。また最近は、YouTuberをタレントとして採用している例も目立ちます。
 さらに注目なのは、原型師さん自身が配信する例も増えていること。作業をしながらのちょっとした雑談配信が多めですが、人気原型師のグリズリーパンダ氏は本格的なVTuberアバターを使うなどかなり活発で定期的な配信を行っています。また、海洋堂のセンムが吉本興業にタレントとして所属して、YouTubeチャンネルをもつという新たな試みも。
 雑誌で育ったような古いオタクだと、動画ではなかなか欲しい情報を的確に押さえられない、視聴時間がかかるなど、面倒に感じてしまうのですが、現在の若い人にとってはむしろそちらの方がスタンダードで情報を得やすいと感じるというのは、世代間のギャップということなのでしょう(笑)。
 当然のことながら、現在の動画配信というのも告知の究極形ではなく、時代とともに新たな媒体や新しいやり口が登場してくるはず(その変化のペースもかなり早くなっています)。次に中心となるのは何かと話題のメタバースかもしれませんし、まったく違う何かかもしれません。ホビー系に限らず、旧来のメディアや方法論での告知だけではもう通用せず、多様な媒体の活用が行われています。このあたりの変化にも注目してみるのも何かと面白いのです。
 ちょっとオマケ。ある意味では最も古くからある広告である街角の看板は、秋葉原ではまだまだ積極的に使われています(絵の内容で物議を醸すこともありますが(笑))。そんななかにフィギュアの広告看板も。
 COMIC ZINのところにあるこの広告は交差点に面していることもあって、かなり目立つ場所なのです。コレも秋葉原という街の風景の一部として、欠かせないものと言えるかもしれません。

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