【前Qの「いいアニメを見にいこう」
】第39回 アニメの力を存分に「王様
ランキング」

(c)十日草輔・KADOKAWA刊/アニメ「王様ランキング」製作委員会 ヒリング様かわいいなあ。というわけで2021年最後の更新でとりあげるのは「王様ランキング」です。10月クールのテレビアニメの台風の目ではないでしょうか。生まれつき耳が聞こえず、口もきけず、おまけにまともに剣すら振れぬほど非力な王子ボッジを中心に、不器用だけど心優しき人たちが織りなす温かく壮大なスケールのファンタジー作品。アニメファンはもちろん、普段そんなにアニメを熱心に追いかけないような人からも、「見てますよ! おもしろいですね!」などと話を聞くことしばしばです。これは勝手な考えですが、「鬼滅の刃」が切り拓いた広大なアニメ視聴者の耕地に根付いた、最初の収穫物のひとつという印象があります。じんわり涙ぐむというレベルではなく、胸の奥から涙がこみ上げてくるような物語の果実を味わいたい。そんな欲求に応えてくれるアニメなのではないか、と。
 アニメは実写作品に比べて、プリミティブな感情をストレートに伝えやすいのがよいところ。アニメの「動き」の魅力とは、省略と誇張から生み出される……というのは比較的オーソドックスな見解で、それはまさに「王様ランキング」のシンプルでデフォルメのきいたキャラクターデザインとその持ち味を存分に生かした奔放なアニメートに端的に見て取れる特徴ですが、その映像表現としての特性は、物語や登場人物の造形にも当然ながら影響するわけです。ピュアな恋心、ピュアな愛情、ピュアな情熱、ピュアな思いやりは、生身の人間が肉体で表現すると、逆にどこか嘘くささが伴ってしまう。アニメは最初から描かれた絵であるという、言ってしまえば最初から一種の「嘘」であるがゆえに、逆説的にそのハードルさえ超えてしまえば、そこで描かれる「嘘」を自然と受け止めやすい。そんなことを最近の私は考えています。
 耳の聞こえないボッジは、読唇と手話を通じてまわりの人間の言葉を理解します。彼の思いは、暗殺集団「影の一族」の生き残りのカゲには、言葉にすることなくともなんとはなしに伝わります。おそらく実写であれば、ボッジの非言語的コミュニケーションはより緻密に、確実にまわりに伝わっているように見せる演出の苦労が大きかったことでしょう。そして、カゲは水たまりのような影をシンボリックに描いた存在です。昨今の実写作品であればCGで実在の役者と違和感なく絡ませることは一応可能ではあるでしょうが(たとえば映画の「ヴェノム」のように)、アニメのように自然な、対等な立場であるというよりは、人間と怪物、異質なもののあいだの友情であることがより強調されていたのではないでしょうか。そしてそのどちらも、今作の物語の主軸となっている、ボッジの成長を描く貴種流離譚的な骨太のドラマや、王国を取り巻くさまざまな人々の巨大な感情を描くうえでは、ノイズとして機能してしまったような気がしてなりません。作品として見せたいものがブレてしまう。
 卓抜な原作のおもしろさを、アニメという表現の特性を存分に生かしながら映像化している。そのことが、アニメとしての間口の広さを生み、好評をもって迎えられている。これはアニメが好き……「キャラクターが好き」「物語が好き」といった側面だけに留まらない(もちろん、そうした楽しみ方を否定するものではありませんよ、念のため)、アニメならではのおもしろさを求めてアニメを見る人間にとってはありがたいことです。率直に感謝の念を記しておきたい。このまま2クール目も駆け抜けてほしいものです。
 それでは、今月はこんなところで。みなさま、よいお年を!

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