【藤津亮太の「新・主人公の条件」】
第30回 「パリピ孔明」諸葛亮孔明、
月見英子

(c)四葉夕卜・小川亮・講談社/「パリピ孔明」製作委員会 様々なかたちの主人公像を語ってきた当欄。そのなかでも何度か触れたことがタイプとして「ドラえもん」タイプというものがある。これは「作品の世界観を表すタイトルロール」と「実際に願望・葛藤を持っていてドラマを演じるキャラクター」のコンビで構成される種類の主人公像だ。ドラえもんは「未来のひみつ道具を通じて日常をおもしろく描く」という世界観を体現した存在で、「なんらかのトラブルに巻き込まれひみつ道具でそれをクリアしようとする」というのび太の行動が物語になるのである。

 「パリピ孔明」は、典型的な「ドラえもん」タイプの主人公配置を採用した作品だ。
 3世紀、三国時代の中国で天才軍師と謳われた諸葛亮孔明。彼は五丈原の戦いの最中に病に倒れたはずだった。だが、気がつくと彼は、若返った姿で東京・渋谷にいた。そこで孔明が出会ったのは、シンガーソングライターの月見英子(EIKO)だった。英子に保護された孔明は、彼女の恩義に報いるべく、彼女の“軍師”として働き始める。
 孔明の出会った時の英子は、知名度が低いこともあって自己評価が低かった。しかし孔明の采配によって、英子は徐々にその真価を人々に知られるようになっていく。
 例えば第2話「孔明、計略を使う」では、中堅実力派シンガーのミア西表が英子をピンチに陥れる。ミア西表は、自分と同じ時間に知名度の低い英子を別フロアに出演させることで、自分のステージにお客を集めようとしたのだ。
 このピンチに対して孔明が動く。彼はまず無料のドリンク配布で人を集めたうえで、フロア内にスモークを焚くなどして、集まった観客が出口を見つけづらい状況を作り出して、ほかのフロアへと移動できなくしてしまう。かつて呉と戦った時に使った計略「石兵八陣」を再現し、英子を窮地から救ったのである。
 この強引ともいえる「孔明の策」がズバリ当たるのが本作のおもしろさなのはいうまでもないが、「パリピ孔明」の本質はこの先にある。
 孔明が行ったのは「人を集めること」だけ。孔明と英子にとって本当の勝利とは、そこで集まった人をEIKOの歌で魅了することにほかならない。だからEIKOの歌が、聴衆を魅了するシーンこそが、本作では非常に重要なのだ。そこの説得力がなければ、孔明の策は強引な奇策にすぎない。EIKOの歌が、孔明の策に「魂」を込めるのだ。英子が主人公である重要なポイントはここにある。
 単にドラえもんがひみつ道具を出すだけでなく、のび太がそこで頑張りを見せることで、物語が完成する。どちらかというと劇場版「ドラえもん」のような構造で「パリピ孔明」は成り立っているのだ。アニメ化にあたり、音楽ものとして真正面から制作するという姿勢をとったことは、作品の主人公像からしても、とても正しかったということがわかる。
 このように考えてみると「さようなら、ドラえもん」ならぬ「さようなら、孔明」がどのようなかたちでやってくるかも想像してみたくなるが、それはまだ相当先のことだろう。

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