レアなワークショップも!『イッセー
尾形の妄ソー劇場』大阪公演を今年も
開催。「人間の意識下にある得体のし
れないものを、具現化するのが僕の仕
事」

現在、大河ドラマ『どうする家康』に「じい」こと鳥居忠吉役で出演中の俳優・イッセー尾形。ライフワークとなっている一人芝居オムニバス『イッセー尾形の妄ソー劇場』が、今年も大阪で開催される(2023年4月12日~16日 近鉄アート館)。2010年代は、古今東西の文豪の名作にインスパイアされた作品に専念していたイッセーだが、コロナ禍をきっかけに、現在の市井の人々を丹念に描いた世界に回帰し、70歳を過ぎても精力的に新作を発表し続けている。イッセーが大阪で会見を行い、今回の大阪公演の狙いや、一人芝居を通して見えてきた現代人の姿、そして大阪では初開催となるワークショップなどについて語った。
2018年以降、毎年恒例となっている[近鉄アート館]での公演は、5~7本ぐらいの新作(うち1本は日替わり)を発表するスタイルが定着している。しかし今回は、特殊詐欺撃退を請け負う業者の話や、ストーカーの疑惑を受けた青年など、昨年も上演した作品がほとんど。新作は、川端康成の『浅草紅団』をベースにした大河シリーズ『雪子の冒険』の続編と歌ネタ、そして日替わり演目1本のみだ。その理由について「去年お客さんが、うんともすんとも言わなかったから」と語る。
『イッセー尾形の妄ソー劇場 その5』(2022年)より。
「反応が薄かったんだけど、(大阪は)いいお客さんだから、これはきっと何かがあるんだろうな、と。でもペケを出されたわけじゃなくて、可能性はあるんだと思いました。可能じゃなくて『可能(に)せい!』なんですね(笑)。一年かけて経験を積んでこい! みたいに言われたと思って、東京や京都とかで(同じネタを)かけて。そうしたらだんだん、反応が上がってきたので、1年かけて『可能』にしたものをお見せします」
昨年は、一体何がダメだったのか? を問うと「お客さんの側に立つという視点が欠けていた」という答えが。
「お客さんは『こうこうこういう理由で、この人物は今ここにいる』ということは、知りたくないんですね。この人物がここにいるってことを、ともかく説得してくれ! と。それは何十年も前から気づいてることなんですけど、台本を書いている段階では、ついおろそかになっちゃう。その人物に自分が、お客さんが立ち会う現場とは何なのか? というのは『何かが起こるぞ』という魅力を感じることなんだと。お客様の期待は自分が思ってるより、もっともっと大きい。そこをもう一回、掘り起こしていきました」
1970年代からずっと、特別な世界の人々よりも、私たちの隣で息づいていそうな庶民たちにスポットを当て続けてきたイッセー。その世界作りの根本にあるのは「みんな、今どうしてる?」という問い掛けであり、そのために「架空のアンケートを取っている」という話が。
『イッセー尾形の妄ソー劇場 その5』(2022年)より。
「実際に『今どうしてる?』って聞いても、だいたい『いや、普通にしてるよ』みたいになるんで(笑)。じゃあその“普通”って何なのか? を問うために、架空のアンケートを取ったら、老若男女がいろんなアンケートを返してくれる。というのを一生懸命想像して、妄想して、芝居にこさえて、腑に落ちたり落ちなかったりするわけです。それがいつもなら『みんな、どうしてる?……ああ、やっぱりねえ』となるんですが、今年は『え、みんなそんなことしてんの?!』という並びになっています。
ネタの解釈はいろいろできるし、どうにでも言えるんですが、その『どうにでも言える』ということが、非常に大切。でも何とも言葉にしようがない、表現したくてもなかなかできないって所は、いつも逃げ水のように逃げていく。『やりたいことはこれです』と言葉にした途端『いやいや、違うでしょう』って、どんどん逃げる(笑)。その永遠の逃げ水を追いかけることが、僕のやりたいことであり、使命だと、勝手に決めています」
イッセー尾形。
コロナ禍は終息が見えてきたとはいえ、凶悪犯罪の増加や海外の戦争、非常に身近な所では物価高など、これまでになく不安な状況に陥っているように見える2023年の市井の人々。しかしイッセーはこれらの人々を演じるうちに「時代はもっと先に行ってるという気がする」ということを、肌感覚で感じているそうだ。
「日々いろんな情報が新聞やテレビで流れて、我々はそれに反応するわけですが、そんな行って来いの反応だけで、人生が終わるはずがない。人間の意識はもっともっと深い所で、知らないうちにずっと先に行ってるんじゃないかという気がしてならないんです。それはいずれ表に出てくるのか、このまま消滅するかは知りませんが、現時点ではまだ見えてないものが、確実にある。それを一人芝居といういびつな形で具体化して、舞台に乗せるのが、僕の仕事の一つでもあるなあと思っています。
これは本当に形がなくて得体の知れないものだから、言葉にするのも難しい。でも得体の知れないものが気色悪いものとは限らないし、むしろ希望めいた明るいものかもしれない。つまり人間の幸せには、まだまだ他の形があるかもしれないなあ、と。それを広げたいとは思うけど、かといって地に足がついてないといけないんですね。SFめいたことをやるつもりはないし、どんな人物も地に足をつけていることが大事。今意識しているのは、そこの見定めです」
『イッセー尾形の妄ソー劇場 その5』(2022年)より。
また、それを具体化するにあたっては「笑えるものにする」というのも、外せない要素だという。それは単に観客を楽しませるためというだけではなく、こういった言葉にできない何かを「認識」するのに、必要不可欠な要素だからだそうだ。
「笑うことによって、認識ができる世界がある……『笑いは認識である』というのは、僕の信念。たとえば水を笑いながら飲んだら『あ、これは笑うモノなんだ』という認識が入ってくると思うんです。『水があるからおかしい』ではなく『水はおかしい』と認識されるし、説得されちゃう。だから非常にシリアスな現象も、一人芝居でちょっと目線をずらしてみると、そこには笑いが生まれるし、それに対する違う認識が生まれると思っています」
今やイッセーのホームとも言える[近鉄アート館]は「[渋谷ジァン・ジァン](2000年閉館)で生まれたのがイッセー尾形だとすれば、イッセー尾形のもう一つの生まれた場所がアート館」だと語り「出会いは運命だった」とまで言い切る。
『イッセー尾形の妄ソー劇場 その5』(2022年)より。
「ジァン・ジァンは後ろの(席の)お客さんは僕の顔しか見えないから、演じていても顔から下には、全然神経が行ってなかったんです。でも初めてアート館に来たら、二階席もあって全身を観られるから、たとえ人物を変えても、顔から下が同じだということに気付かされて、すごく焦ったのを覚えています。そこからじょじょに全身(の演技)を意識して、世界のあちこちでやらせてもらうようになりました。これは自分で『やろう』と思ってできることじゃなかったから、本当に一つの縁だなあと思います。
この歳になっても新しい芝居を作って、批判をいただいて、『今度はどうですか?』と見せる回路を延々と繰り返せるのは、本当に幸せ者だなあと思うんです。世の中から見たらちっぽけな運動かもしれませんけど、僕にとっては一生かかってもやり尽くせない運動。舞台でやるからには、内容のある、実態のある、密度の濃い時間にしたいと思っています。それしか知らない人間ですから(笑)」
『イッセー尾形の妄ソー劇場 その5』より『雪子の冒険』シリーズ(2022年)。
また公演に先駆けて、4月7日~9日には、大阪で初のワークショップを開催。これはプロ向けではなく「ステージ慣れをしていないけど、リアリティとインパクトのある人と出会う」ことを目指しているという。ちなみに「人間と話すとはどういうことか? を体験してほしい」という理由で、一人芝居ではなく、2人以上が登場する芝居を、3日間連続でじっくり作っていくとのことだ。参加人数は15名程度で、25歳~65歳ぐらいの、日本語でコミュニケーションが取れる人なら誰でも応募可能。応募締切は3月24日(金)。

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