勝地涼×入野自由インタビュー~舞台
初共演となる『夜叉ヶ池』はファンタ
ジーだけど“人”を描いた話

PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『夜叉ヶ池』が2023年5月2日(火)~5月23日(火)PARCO劇場にて上演される。
『夜叉ヶ池』は1913年に泉鏡花が発表した戯曲で、森新太郎の演出と森山開次の振付での上演となる今回は、主人公の萩原晃を勝地涼、萩原の友人・山沢学円を入野自由、萩原の妻・百合を瀧内公美、夜叉ヶ池の竜神姫を那須凜が演じるほか、豊かな顔ぶれのキャストが集結している。
PARCO劇場で初座長を務める勝地涼と、声優だけにとどまらず、映像・舞台・歌手と多岐にわたって活躍する入野自由に、今作に挑む思いを聞いた。
イメージを膨らませながら、表現をシンプルにして内容を伝える
ーーまず時間をかけて本読みをして、その後にお稽古が始まったとうかがいました。実際にやってみて、現段階で感じていることなど教えてください。
勝地:集まって本読みをする前にひとりで読んで「こうかな」と想像していましたが、演出の森さんが「泉鏡花はこういう意味でこう書いてるんだよ」とか、すごくセリフの意味を考えていて、そのイメージをお客様に伝えないといけないな、というのが、僕が今、向き合っている壁です。でも、本読みをしっかりとやっているおかげでちょっとずつイメージが広がってきて、泉鏡花の言葉が馴染んできているのかな、という気はしています。
入野:最初に自分の頭の中だけでイメージしたものが、共演者の声を聞いたり、森さんの話を聞いたりしながら深めていくことができて、本読みをすればするほど作品の世界に入り込んで行く感覚があります。使われている言葉が現代のものとは違うので、表現をもっとシンプルにして内容を伝えなければいけない、というところで今は苦戦しています。
ーーもともと泉鏡花という作家については、作品に触れたり、何かイメージを持っていたりしましたか。
勝地:僕は今作への出演が決まってから改めて本を読んだので、事前にはイメージを持っていなかったです。本を読んで、映画化されたものを見て、自分なりのイメージは持って稽古に臨みましたが、現場に来て森さんからいろいろ説明を受けて、理解できたことがあります。昔はダムとかがあるわけでもなくて、水がどれだけ人に深く関わってきたか、という話を聞いただけでも「なるほど、そうか!」と一気にイメージが広がりました。
勝地涼
入野:僕もこの作品の出演が決まってから、原作を読んだり、泉鏡花のことを調べたりしました。この作品は人と人との別れと出会いについて描かれているんですが、現代だとSNSなどもありますし、何かしらで繋がるだろうという現代の感覚だとなかなかわからない部分があるかもしれません。そういう人間同士のこと、“水”とか“花”といった作中に登場するモチーフ、ネットで夜叉ヶ池の映像を見たり、そうした一つひとつの情報をどんどん自分の中に貯めていって、イメージをしっかり膨らませていこうと思っています。
勝地:僕たちは、この仕事をしているからなんとなく東京近辺にいよう、みたいなこともあって、今いる場所から離れるような選択肢はなかなかないと思うけど、晃の抱く正義感みたいなものや、思いを受け継いでここから離れられない、という気持ちはわかる気がします。この作品は妖怪や竜神などが出てくるファンタジーですが、結局は、“人”の話だと感じてます。
入野:確かに「ファンタジーだから」という引き方よりも、やっぱり鏡花が描いてるのは人間だったり、その人間の業だったり、そういうリアルなところなんだ、というのは思いますね。
勝地:どんな舞台になっていくのかは、僕たちはまだ自分たちの場面しかわからないので何とも言えないですけど、人間が一番怖いというようなメッセージが伝わるのでは? と思います。
入野:なんというか、ひとつの色だけじゃない感じがしています。村の人たちのシーンも、百合を囲んでみんながワーッて言うという感じよりも、いろんな人がいろんな声色でいろんなことを言って、そこに人間が見える、という方が怖いと感じました。
稽古の様子は? 「千本ノックみたいな感じ」
ーーお2人とも森さんとご一緒するのは初めてとのことですが、お会いする前の印象と、実際にお会いしてみた後の印象を教えてください。
勝地:森さんのお稽古は、台詞の言い方などについて「違う」「もう1回」とねばられることで有名なので、実際にお稽古に入ってみて「ああ、これか!」という感じでした(笑)。でも僕は、その世界を見てみたかった、という思いもあって反復して何度も稽古をする理由もわかってきたので面白いです。
入野:僕も、森さんのお稽古の様子は話に聞いていました。実際に稽古場でご一緒して思ったのは、森さんは耳がすごくいいというか、多分聞こえてるものが僕たちと違うんだろうな、ということです。自分が出してる音と森さんの求めてる音の微妙な違いが、自分にはまだ聞こえていない部分もあって、なかなかそこにたどり着けないんです。何度も言い直してみるけれど、それでも森さんに「違う」「違う」と言われて、やっとヒットしたと思っても、まだそれが自分に馴染んでいないから、次やったときにまた「違う」と。その繰り返しですが、微妙な違いをキャッチする耳の良さも含めて、すごい方だと思います。
ーー本読み段階で「違う」「違う」が続くのは、俳優としてはなかなかつらいところではないのかなと思いますが……。
勝地:千本ノックみたいな感じです。それでも食らいついていけるのは、森さんが僕らと同じように考えてくれているからだと思います。
入野:そうなんだよね。森さんは、休憩中もずっと考えてる。
勝地:休憩時間も「ここはこうだよな、ここで切ったらあれかな」とかずっとやっているんです。お客様に伝えるにはどうしたらいいのか、というのを一緒に悩んでくれていて。森さん自身がこの作品を本当に好きで、「このセリフ面白くない?」とか嬉しそうに言われると、そう言ってる森さんも面白いですよ、と思ってしまって(笑)。
入野:一番の泉鏡花ファン、というかこの作品のファン、という感じ。森さんがどうしてこの作品をやりたいと思ったかを聞いたら、自分が役者でやるとしたらこのセリフを言いたくなる、っておっしゃっていて。確かに、口に出して読めば読むほど、その意味がわかってくる感覚があるんです。そうしてどんどん面白くなってきて、自分自身も深みにはまっていく、という感じで稽古をしている日々です。
(左から)勝地涼、入野自由
ーー今作の上演が発表されたときに森さんが出したコメントの中で、勝地さんのことを「紫電清霜の主演俳優」と称されています。
勝地:「僕のどの作品を見てそう思ったんですか?」って聞いてみたいです。僕じゃない人を見てませんか って。
入野:実は違う人だった、って?(笑)
勝地:1回答え合わせしたいよね。「あの作品出てたよね?」「出てません」「じゃ、君のこと知らないわ!」ってなるかもしれない。
入野:それは困るな(笑)。
勝地:森さんはシンプルに、余計な情報や言い方を排除して、凛として芝居をするという、その……何でしたっけ、紫電ナントカ? が好きなんだろうなと思いました。
(一同爆笑)
勝地:多分そういうことなのかと……。森さんはそうやって芝居をしている僕を見た、ということなんだろうけど、それは違う役者だったんじゃないかな?
入野:いや、どこかでやってたんだよ(笑)。
勝地:でも「板の上に立つ」というのは、そういうことだと思います。例えば蜷川幸雄さんが「最近の若い奴は板の上に立てないんだよ」と、舞台上にいるけどちゃんと立てていない、という言い方をよくしていたんです。なおさら、頑張らないとな、と思います。
入野:本当に頑張らないとだね。自分のやりやすいようにやるんじゃなくて、内容をしっかり伝えながら、いかにシンプルにしていくかっていう。紫電清霜、ね(笑)。
勝地:もう見ないようにしてます、その文字(笑)。
「パルコさんは多分正気じゃない(笑)」(勝地)
ーー勝地さんと入野さんはこれまで声優での共演経験があるんですよね。
勝地:最初が『劇場版 機動戦士ガンダム00』でしたが、その時はブースには一緒に入ってなくて、その後の『UN-GO』という作品でガッツリ共演しました。
入野:坂口安吾の小説が原案のアニメなんですけど、それも文学だね、よく考えたら。
勝地:そうだね、そしてそのときもまた珍しく勝地が主役をやったという(笑)。僕はアニメのこととか全然わからなかったので、自由くんに教えてもらったりとか、ちょっと集中力が切れそうなときに自由くんをいじらせてもらったりとか(笑)、いろいろ助けてもらいました。
入野:楽しかったですね。
入野自由
ーー今回は舞台で初共演ということですが、役者としての魅力はお互いどのように感じていますか。
入野:僕は勝地さんが出演された映画も舞台も見ているので、本当に信頼しかないというか、ついていきますという感覚ですね。彼自身が熱い人なので、かっこよくて大好きなんですよ。
勝地:今回本読みをやってみて、やっぱり自由くんは言葉一つひとつの立て方が違うというか、本読みの録音を聞き返してみると、自分の音は平坦で、自由くんの音はすごく立体的に聞こえてくるんです。でも立体的なところが逆に森さんから「余計なところを立たせてる」と言われてしまう場合もあるし、僕の平坦さがよい部分もあったりもして、だから2人のバランスがいい感じで行ければ、上手くいくということを森さんは言ってるんだろうと思います。とにかく自由くんは言葉を伝える力がすごくあるから、僕はやりやすいです。
入野:録音したものを聞いていると、自分はすごい力入ってるな、と思う部分もあって、だから勝地さんのようにシンプルにセリフを言えるところに行きたいと思っています。声の仕事のときはキャラクターに合わせて膨らませた表現をやったりしているので、この数年舞台に出演するときには、自分の中で表現をそぎ落としていく作業を意識しながらやってきたんですけど、今作に関しては特にその作業が重要になってくるんだろうな、と。
勝地:難しいよね、本当に。特に晃は変に抑揚つけすぎるのも違うし、だけど抑揚をつけないと暗いって指摘されるし、難しい。だから早く森さんに会って芝居を見てもらって、「違う」と言われて調節したくて。森さんからはこの間の稽古終わりに「とりあえず課題を渡したから」って言われたけど、家でひとりでやるのは無理(笑)。
入野:そうだよね、ひとりでは無理だよね。今はまだ、みんながそれぞれ自分の課題で手いっぱいになっちゃって、相手のためにセリフを言うという段階になかなかたどり着けないというか……なにぶん喋り慣れないセリフなもので。
ーーまだここから時間はかかりそうですね。
勝地:かかります。公演、ちょっと先に延ばしてもらおうかな……6月に(笑)。
入野:6月は2作同時上演にしてもらう?(笑)。「すみません、昼は私たちがやります」って。
勝地:いい迷惑だよ、次の人たちに(笑)。
ーーPARCO劇場でこの作品に挑むことについて、意気込みをお聞かせください。
入野:PARCO劇場は、いつも「観に行きたいな」と思う作品を上演している劇場だと思っています。10代の頃、PARCO劇場で初めて作品を観て、20代で改装前のPARCO劇場に出演でき、また30代で、しかも50周年というタイミングで新装PARCO劇場に出演できるというのは、すごく光栄なことだし嬉しいです。だから、もう「やるぞ」という意気込みしかないんですが、とはいえ不安だったり恐れというものもありつつ、楽しんでこの作品をお届けすることができればいいなと思っています。
勝地:僕も初めてPARCO劇場で舞台を観たのが10代の頃だと思います。客席とステージが一体化しているような感覚になる劇場だと特に思っていました。だから僕は改装前のPARCO劇場が大好きだったんです。それが新しくなってどう変わってしまうのだろうと思ったら、劇場の良さはそのままで。ステージの上に立ってみた感じもすごく良かったんですけど、観る側としてもまた良くて。そんなPARCO劇場で自分が座長として立たせていただけるというのは、もう感謝しかないですし、身が引き締まります。とにもかくにもチケットが売れないことには困るんです。勝地涼を主役で、と考えるパルコさんは、多分正気じゃないと思うんです。
(一同爆笑)
勝地:すべての壁を乗り越えて僕らは幕をあけないといけないと思っているので、夜叉ヶ池という、山に囲まれ水がある美しい情景にちゃんと僕らのセリフが乗っていく、そういう空間になれたら最高だなと思います。
(左から)勝地涼、入野自由
取材・文=久田絢子      撮影=山口真由子

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