L→R 鈴木慶一、松尾清憲

L→R 鈴木慶一、松尾清憲

【鈴木マツヲ インタビュー】
『ONE HIT WONDER』は
もう一回聴きたくなる気持ちが
特に強い

誰かの模倣をするのは
避けたかった

『ONE HIT WONDER』は良質かつバラエティーに富んだ楽曲が並んでいますが、それぞれ特に印象の強い曲を挙げるとしたら?

鈴木
私は1曲目の「昼顔という名の街」と2曲目の「恋人と別れる日の過ごしかた」だね。さっきも話したようにデモが20曲くらいあって、その中から最初にふたりで手をつけたのがこの2曲だったんだ。
松尾
この2曲がいい感じになったから、これはいい感じでいけるんじゃないかと思った(笑)。「昼顔という名の街」は僕が書いた曲ですけど、それを慶一さんが歌うとか、慶一さんが書いた「恋人と別れる日の過ごしかた」を僕が歌うというのを最初に試してみた曲でもあって。お互い声が違うからどうかと思ったけど、歌ってみたら“あれ? 意外なことに、すごくいいぞ”という感じになったんです。そういう意味では、僕の中でもこの2曲は印象が強いですね。「昼顔という名の街」を作った時は、僕はどちらかと言うとブリティッシュ系の音楽が大好きだけど、60~70年代のアメリカにもいいソングライターはたくさんいて。P.F.スローンが書いてバリー・マクガイアが歌った「明日なき世界」(1965年)という大ヒット曲があるんですよ。それも一発屋なんですけど(笑)。本当にシンプルな曲だけど、心地良い哀愁があって、また聴きたくなる。自分はこういう曲はあまり作ったことがないから挑戦してみようと思ってできたのが「昼顔という名の街」なんです。

「昼顔という名の街」は導入部がフィル・スペクターっぽい雰囲気で、そのままいくのかと思いきや曲が始まると独自のポップスというのがいいと思います。

鈴木
フィル・スペクターにいかないようにというのはあったね。この曲に限らず、誰かの模倣をするのは避けたかった。“これは〇〇風にしよう”というのはふたりの共通音楽言語としてあるけど、そこから脱していくことが重要なんだよね。ディテールの引用はOKで。

いろいろなジャンルの香りとオリジナリティーを併せ持った仕上がりが絶妙です。もうひとつ、「昼顔という名の街」もそうですが、今回ラブソングが多いことも印象的でした。

鈴木
私は最近ラブソングは作っていないんですよね。もっと抽象的な感じの歌詞ばかりで、“僕と君がどうのこうの”とか“恋人うんぬん”というようなところには触れていない。でも、松尾くんと一緒に何か作るということで、松尾くんの声や松尾くんの曲を思い浮かべながら曲を作ったり、歌詞を作ったりしたら自然とそっちのほうにいったんだ。
松尾
僕にとってはラブソングを書くのは、ごく自然なことですね。あと、今回は歌詞をふたりで一緒に考えることも多かった。「昼顔という名の街」はもともと“昼顔”という言葉は入っていなかったんですけど、この歌詞はもうひと押し何かが欲しいと思っていたんです。そうしたら慶一さんが“昼顔”というアイディアを出してくれて、“あっ、これだわ!”と思ったんですよ。そこで、より深くなりましたよね。

「恋人じゃないから」や「Sweetie(僕は鉋屑)」「何マイルも離れて」等々、タイトルにも心が惹かれる曲が揃っています。先行配信された「恋人と別れる日の過ごしかた」についてはどうでしょうか?

鈴木
この曲はスライドギターを使っているし、Badfinger 的なものやジョージ・ハリスン的なものをイメージしながら、本当にイギリスの音楽的なるものを中心に据えて作った曲です。あと“イントロはなるべく短く、曲は3分台で”ということを意識しました。この曲ね、自分で言うのもなんだけど、“あれ? 結構いい曲できたぞ”と思った(笑)。基本的に私はそういうことは言わないけど、これは自作曲の中でも結構上位にくると思っています。なんで、できちゃったんだろう? できた時にびっくりしたんだ(笑)。松尾効果。
松尾
「恋人と別れる日の過ごしかた」は、もう出だしからカッコ良いよね。最初に聴いた時にハッとした。短いイントロで、いきなりサビみたいなメロディーがくるから、これは印象深いと思いましたね。

曲が始まると同時に惹き込まれます。そして、この曲の歌詞は夫婦、もしくは同棲中のカップルの別れが描かれていて、昨今は離婚率などが高まっていますよね。そういう意味で、時代感がある歌だと思いました。

鈴木
だとしたら、それは研究のし甲斐があったもんだ(笑)。最近の邦画は、そういうものが多いよね。例えば今泉力哉監督とかさ、一緒にいるけど意味なくいるとか、意味なく暮らしているとか、そういう映画が多くて、この感覚は今の私の生活にはないけど、若い時に同棲したりしたら、あったかもなと思って。そういうことを設定して作っていきました。ラブソングというのは過去の酷い目、酷い目、酷い目を積み重ねていくと成立するんだよね。私はラブソングをだいたいそうやって作っていて、80年代に高橋幸宏に作ったラブソングなんて、“嫌な目にあった、嫌な目にあった”というのを多層化しておいて投げつける感じだった。リアルなひとつの出来事を描くんじゃなくて、いつもいくつかのフィクションを重ね合わせるんだ。それは「恋人と別れる日の過ごしかた」も変わらなかった。嫌な目にあわせたってのも、もちろん含まれるよ。

OKMusic編集部

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