L→R 鈴木慶一、松尾清憲

L→R 鈴木慶一、松尾清憲

【鈴木マツヲ インタビュー】
『ONE HIT WONDER』は
もう一回聴きたくなる気持ちが
特に強い

歌いたくなるものには
なっているんじゃないかと思う

松尾さんの特に印象の強い曲は?

松尾
今回の曲はどれも気に入っていて、「恋人じゃないから」とかも面白いものになったと思いますね。1960年代後半に登場してきたバブルガム的なヒット曲がたくさんあって、その中にThe Lemon Pipersの「グリーン・タンバリン」(1967年)という曲があるんですよ。「恋人じゃないから」はああいう要素の曲を作ってみたいと思って作ったんです。この曲は特に慶一さんの“アッハッハァ~”という声が効いていますね(笑)。あれがないと、ちょっと締まらない。

分かります。今回コーラスやカウンターヴォーカルがいい味を出している曲が多いですよね。

松尾
そう。「昼顔という名の街」も《I Love You、I Love You》という慶一さんの声が入ってくることで、より深くなっているし。
鈴木
コーラスはその場で思いついたのを録っちゃう感じだったよね? 深く考えない。
松尾
うん。

えっ、その場ですか!? …すごすぎる。

松尾
それはふたりともヴォーカリストというのが大きいかな?
鈴木
松尾くんのデモテープで、自分でコーラスを重ねているのがあったりして、それをそのまま使っている曲もある。松尾くんは結構練り込んだデモテープを作ってくるんだ。
松尾
いえいえ、そうでもないのもありますから(笑)。
鈴木
作り込む時は、かなり作り込むよね。で、今回コーラスは本当に多くて、そこを目指したわけではないけど、歌いたくなるものにはなっているんじゃないかと思う。「恋人じゃないから」の《Oh Oh Oh Wo Wo Wo》というコーラスとかさ。これはハモらずにユニゾンでやるというのがポイントだよね(笑)。
松尾
そうそう(笑)。

コーラスアイディアの豊富さからも、おふたりのポップスに関する造詣の深さがうかがえます。さらに、「恋人じゃないから」は歌詞も素晴らしいです。自分のことをよく見せようと思って着飾ったり、取り繕っている姿ではない、素顔の相手に惹かれている片想いというのが切なくて。

松尾
これはドラマか何かで観たのかな? “恋人じゃないからね”という言葉をパッと聞いた時に、そういうシチュエーションというのはいいかもしれないと思って、そこから広げていって書きました。シンプルだけど、いい歌詞になったと思いますね。曲調とも合っていて、ちょうどいいかなと。

ウォームな楽曲と切ない歌詞の取り合わせが光っています。おふたりが挙げてくださった曲以外にもボサノヴァ/ラテンフレイバーを活かした「Sweetie(僕は鉋屑)」や軽やかなシャッフルチューンの「Complicated World」など、注目曲が満載です。

鈴木
「Sweetie(僕は鉋屑)」は“Come Mister tally man tally me banana”(1956年にリリースされた「バナナ・ボート・ソング」の一説)というのを使いたかったんだ。それだけ(笑)。そのためにリズムを作っていって、メロディーをつけたら、ちょっとボサノヴァっぽい曲になった。歌詞はレコード店のジャケットで“Sweetie”という女性を見つけて、その人を追いかけていくということを歌っている。サントラ盤のジャケットで見たヌードの写真を追っかけて…というイメージでしたね。
松尾
“Come Mister tally man tally me banana”から、ここまで広げるというのはすごい! だって、《キューバとジャマイカ どっちがいい》なんて、一度聴いたら忘れられないでしょう? すぐに覚えて、気がついたら自分も一緒に歌ってた…みたいな(笑)。
鈴木
“Come Mister tally man tally me banana”に迫ってる?(笑)
松尾
迫ってる(笑)。
鈴木
あははは。子供の時に“Come Mister tally man tally me banana”というのを聴いた時さ、英語じゃないと思ったんだ。
松尾
僕もです。“ジャマイカ語かな?”みたいな。タモリさんか誰かもこの曲のことを“今月は足りない 借りねばならぬ”に聴こえるとか言っていた(笑)。不思議な言葉で、妙に惹かれて、覚えちゃいましたね。

キャッチーというのは、そういうことですよね。それに、「Sweetie(僕は鉋屑)」は最後に浜辺の情景に場面が変わる構成も秀逸です。

鈴木
最後は展開しなくてもいいんだけど、《キューバとジャマイカ どっちがいい》で終わってもいいんだけど(笑)、ここでやっぱりONE HIT WONDERというのが出てきたんだよね。もうひと捻りしておいたほうがいいんじゃないかと思って、最後に展開して“裸では暮らさないよ”という終わり方にした。
松尾
あの展開もいいですよね。もう1曲の「Complicated World」はリズムで結構苦心しました。僕が最初に作ったデモのリズムがゴチャッとなっていまして(笑)。
鈴木
なので、かたちにするのに結構時間がかかった。簡単に言えば、松尾くんが作ってきたデモがドラムは跳ねていない8ビートなのに、ギターが跳ねていたんだよね。ドラムを全部跳ねさせようということになって、今のリズムになった(笑)。松尾くんに何度も訊いたんだよ、“これ、シャッフルだよね?”って(笑)。
松尾
訊かれて、“そう…ですね”みたいな(笑)。自分でも、だんだん分からなくなってしまって(笑)。その辺りは慶一さんはすごく鋭いので、リズムを解析していってくれて、“これ! イメージしていたのは、これです!”という(笑)。

その話は興味深いです。「Complicated World」はUK感があって、シャッフルビートのUKっぽい曲を作るときはリズムから入ることが多い気がするんですね。逆だったということから、かたちから入ったUK感ではないことが分かります。

松尾
そう! 普通とは逆だった。
鈴木
リズムが分からないまま歌が始まってしまうということで、いろいろ入れたり、抜いたりしたんです。
松尾
ドラムもスネアの数を半分にしたりして、結局はシャッフルに落ち着きました。
鈴木
これ、リズムを合わせないで、そのままにしておいたほうが面白かったかもしれないね。
松尾
いや、それはないと思う(笑)。そんな紆余曲折もありつつちゃんとサビもあって、いいところに落とし込めたと思います。あと、オクターブで歌うのが、ちょっとSqueezeみたいな雰囲気もあるかなと。
鈴木
それに、この曲はギターの音を波形で切っているよね。普通にバーン!と鳴っていてもつまらないから、何かしたいと思って。それで、白玉を切ってリズムを出して、音程も変えた。そういうこともしています。

OKMusic編集部

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