大貫勇輔&首藤康之にインタビュー~
村上春樹の長編小説を舞台化、話題の
『ねじまき鳥クロニクル』が再演へ!

世界的ベストセラー作家・村上春樹の大長編小説『ねじまき鳥クロニクル』が初舞台化されてから3年。その深い迷宮のような世界が、時代の先端を疾走するエッジの効いた表現者たちの手によって舞台の空間に浮かび上がった様は、村上ワールドの新たな演劇表現と高い評価が集まった。その舞台『ねじまき鳥クロニクル』が2023年11月、東京芸術劇場 プレイハウスで再演されることになった。
初演に引き続き、トップクリエイターたちが揃った。ミュージカル『100万回生きたねこ』や百鬼オペラ『羅生門』を手がけたイスラエル出身のインバル・ピントが演出・振付・美術を担当。同じくイスラエル出身のアミール・クリガーが脚本・演出を担い、日本からは「マームとジプシー」を主宰する藤田貴大が脚本・演出として参加し、協同作業を行う。なお、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』の音楽で知られる即興演奏家の大友良英が音楽を担当。成河、渡辺大知、門脇麦ら〈演じる・歌う・踊る〉キャスト10人のほか、〈特に踊る〉ダンサーが8人出演する。
今回SPICE編集部は、綿谷ノボル役として〈演じる・歌う・踊る〉大貫勇輔と首藤康之に単独インタビューを実施。初演から続投する大貫には初演のクリエイションの様子を、今回初参加となる首藤には作品の印象などを聞いた。
大貫勇輔「まさか尊敬する首藤さんとWキャストができるなんて!」
――まずは出演にあたってのお気持ちを教えてください。
大貫勇輔(以下、大貫):3年前の初演はコロナ禍が始まったばかりの頃。公演が途中で中止になってしまい、最後までできずにとても悔しい思いをしました。再演の話を聞いたときに、僕はすでに『ハリー・ポッターと呪いの子』への出演が決まっていて、この『ねじまき鳥』と時期が被っていたんですね。なので、「今回は出られないのか〜」と落ち込んでいたら、なんとか合間を縫って出演できることになって。最後までできなかったという意味でリベンジができるのは本当に嬉しいですし、初演のときも完成度の高い作品でしたが、再演ということでさらにブラッシュアップできることも嬉しいです。そして何より、僕が尊敬する首藤さんとまさかWキャストをできる日が来るとは! それも含めて、本当にいろいろ嬉しいことずくめです!
首藤康之(以下、首藤):僕は今回が初めての出演です。初演のキャストがほぼ集っていますし、何よりWキャストの大貫さんが初演を経験されているので心強いです。大貫さんが創り上げてきたキャラクターに学びをいただきながらノボルという役を構築していきたいと思っています。それに(演出・振付・美術の)インバルさんとも初めてなので、創作が今から楽しみです。
ーー首藤さんは初演はご覧になられたのでしょうか? ご覧になった感想をぜひお聞かせください。
首藤:映像で観ました。この壮大な物語をよく3時間ぐらいの作品にまとめたなぁと思いましたね。ストーリーの構成はもちろんですが、一つ一つのシーンが丁寧に繊細に作られているなという印象です。1人の演者として、どういうプロセスを経て作品を構築していったのか。そこにすごく興味を抱きました。……でも、歌があるんだと思って。断ろうと思いましたよ(笑)。
大貫:その気持ち、分かります(笑)。僕も『王家の紋章』(2021)という作品で、本格的に歌と向き合ったんですよ。それまで出演してきた作品はどちらかというとお芝居に近い歌唱が多かったので、キャラクターで乗り切ってきた部分があった。でも『王家の紋章』で歌と向き合って、今も毎回苦しんでますけど、やっと楽しくなってきた今なんです。自分自身、またあのノボルの歌と向き合ったときにどうなるか楽しみではあります。ちなみに首藤さん、歌うの初めてですか?
首藤:そうだね、ちゃんと歌うのは初めてかもしれない。
大貫:ノボルの歌って、音がズーンズーンと鳴っているところで、和音のある音をとって歌い出さなきゃいけないんですが、僕、それが最初全然できなくて……稽古中気持ち悪くなるぐらい緊張していたことを思い出しました(笑)。
首藤:いや、本番はできていたじゃないですか。いろいろ教えてください(笑)
首藤康之「幸せな瞬間を存分に楽しみたい」
初演の様子(左:渡辺大知 中央:大貫勇輔/撮影:田中亜紀)
――初演を経験されている大貫さん。初演の稽古場はまさにクリエイションが行われていましたね。
大貫:そうですね。脚本のこと、音楽のこと、ダンスのこと……全部が同時進行でした。特に音楽家の大友(良英)さんや脚本の藤田(貴大)さんは、あのインバルの無茶ぶりにずっと応え続けていて、彼らにとっては恐ろしい現場だったんだろうなと推察します(笑)。でも僕ら表現者としてはこんなに幸せなことはないなと思って。全部をゼロから作り始めるわけですから。僕たちも全力でトライをして、あるときはそれが認められたり、あるときはそれでは足りないからここを変えてみようかと話し合ったりと、まさにクリエイションの連続でしたから、本当に楽しい時間でしたね。
――逆に初演の経験があられるからこそ、目指すべきゴールも明確になって、再演にあたってはプラスになりそうですね?
大貫:ちょっと小耳に挟んだ話では、もう手直ししたいところが決まっているらしいんです。つまり、大枠の脚本はほとんど変えないで、何ヶ所か手を入れたい、と。初演はクリエイションにとにかく時間かかったので、それに比べたら楽にはなるだろうと思います。とはいえ、首藤さんは僕とは全然違うタイプなので、また違った綿谷ノボルが出来上がるでしょう。そこはすごく楽しみですし、きっとそれに僕も影響されて何か変わるんでしょうね。それに初演からの3年間にもいろいろありました。その自分なりの変化みたいなものを取り入れられて、また新たな綿谷ノボルを作りあげられたらとは思っています。
――首藤さんは先ほど「創作のプロセスも楽しみ」と仰っていました。再演の現場に初めて参加されることに関してはいかがですか。わくわくの方が大きいですか?それとも首藤さんでも不安なこともあられるのですか?
首藤:もちろん不安はいつも同居してるんですけども……わくわくも同じぐらいあります。それに、大貫さんと僕はジェネレーションが全然違うので……。
大貫:え、首藤さん今、おいくつですか?
首藤:今年52歳です。
大貫:ええ!? 僕と18歳も違うんですか!?
首藤:そうだよ(笑)。大貫さんぐらい年齢が離れた人と同じ役をやることは、このジャンルならではな感じがするんですよね。お芝居だけだと――例えばロミオを30歳の人と50歳の人がWキャストでやるかといったらそうじゃないでしょう?だから今回、そういうジェネレーションギャップみたいなのもすごく面白いなと思っていて。多分大貫さんから学ぶことがたくさん出てくると思います。もともと僕はWキャストの相手を見るのが好きでね。別の人間が同じ役をやっているなんて、すごく面白いから。楽しみにしています。
――ジェネレーションギャップのお話がありましたが、改めてお互いの印象を教えてください。
大貫:僕はマシュー・ボーンの『スワンレイク』が大好きなんです。首藤さんは、日本人で単身ロンドンに行って、オーディションを受けて、役を勝ち取られた。僕も『ドリアン・グレイ』という作品でオーディションを受けて、役をもらっているんですけど……そのとき僕は事務所のスタッフと一緒でしたからね。1人でやられた首藤さんはすごいですよ……!
首藤:……『スワンレイク』やれば?年齢的にちょうどいいんじゃない?
大貫:やりたいですよ!(笑)もっと言ってください!(笑)
首藤:ちょうどいいと思います。ストレンジャー(役)、合いそう。
大貫:僕はそもそも大尊敬していたのに、「自分の意思で」と聞いてから更にすごいなと思っていました。そこから俳優業もやられて……僕も過去に2作品ぐらい拝見したんですけど……僕はある種、首藤さんの背中を追っていたようなところがあるなと思うんです。それが今回、Wキャストとして出演できること、本当に嬉しく思っています。
――首藤さんからご覧になって、大貫さんのご活躍はどう映ってらっしゃいますか?
首藤:僕が最初に彼を見たのが、多分すごく若い頃。(近藤)良平さんの作品で、新国立劇場で上演された……
大貫:「牧神の午後への前奏曲」(2010)ですかね。平原慎太郎くんと踊りました。
首藤:そうそう。若くて、綺麗なダンサーが出てきたなと思ったことを覚えています。マシューの『ドリアン・グレイ』も観ましたが、身体能力がやっぱりちょっと人とは違う。努力だけでは成し遂げられないようなものをお持ちだなと思っています。その後ご活躍はね、みなさんご存知でしょう。大活躍されていますよね。なんか素直に嬉しいですし、不思議な気持ちです。そんな大貫さんとWキャストで同じ役をやる。とても幸運なことだと思います。
――初演のときは舞台化すること自体がニュースになりましたが、改めて本作の魅力をお聞きしたいです。どういうところに面白みを感じていらっしゃいますか?
大貫:一点透視図のようなセットが移り変わり、飛び出す絵本のようになっていく……ダンスや抽象的な表現で、お客さんが自由に受け取れる余白を与えながらも、三部作の原作は忠実に再現する。そして、音楽の持つパワーも素晴らしかった。村上春樹さんのファンがご覧になって、そして村上春樹さんご本人がご覧になって、素晴らしかったと言ってくださった。そのことにものすごく自信を得ました。やはりそれはインバルの全方向への想像力があるからで――芝居に関してはアミールが担っていましたが、インバルの頭がどうなってるんだろうと思いますよ(笑)。
初演の様子(門脇麦/撮影:田中亜紀)
僕は特に吹越(満)さんが語るシーンがすごく好き。ダンサーたちが電球をあっちこっち行ったり来たりさせて、吹越さんが宙に浮いたりして……。原作を読んでいるときも、起きているのか夢なのか分からなくなる場面ですけど、舞台でもあの感覚になれる演出・振付はすごい。
首藤:うん、僕もあのシーンは素敵だと思った。どうやってあのシーンを作ったのか、とても興味あります。きっと「1分」作るのに、何時間も何日も何週間もかけて作るわけでしょう? 演者にとっては、そういう創作の過程に身を置けることは本当にラッキーだし、幸せなこと。今回は僕もそんな幸福な瞬間を存分に楽しみたいと思います。
――ちなみに首藤さんはインバルさんなどとはもうお話はされたんでしょうか?
首藤:いえ、まだないです。
――では、インバルさんとの向き合い方のアドバイスと言いますか、インバルさんとの創作にあたって思われたことを大貫さんにお聞きしたいです。
大貫:首藤さんは百戦錬磨ですから、僕から言うことなんてないですけども……インバルはすごく自由で、それぞれの個性や感性を信じてくださっている方だなと思います。もちろん与えてくれることもあるんですけど、「どんどん出してくれていいよ!」というタイプで、それぞれの表現者の“解”を待ってくださるイメージがあります。物作りに対するストイックさはありながらも、何よりインバル自身が遊んでいるし、楽しんでますよね。だからこそ面白いアイディアがどんどん次から次へと出てくるんだろうなぁ。……つまり、表現者としてはもうめちゃくちゃ楽しい現場ですね!
――それを踏まえて首藤さんはどう思われますか?
首藤:僕が今まで仕事を一緒にしてきた演出家や振付家もみんなそうですけど、今、大貫さんが仰ったように、インバルさんも「これはこうだ!」と決めつけるのではなく、余白を持って与えて、その余白に表現者一人ひとりが自分自身を差し込めるように工夫してくださる方なんだろうなと思います。それは作品を見ていてもすごく感じるので、あとは付いていくだけです。
「村上春樹さんが舞台化を喜んでくれて、嬉しかった」

初演の様子(中央:渡辺大知 右:成河/撮影:田中亜紀)

――原作の村上春樹さんのことについてもお聞きします。偉大な作家ですが、お二人はそれぞれどんな印象をお持ちですか? 好きな作品などもあればぜひ教えてください。
大貫:初演の初日にご本人が観に来てくださってお会いしたんですけど、なんていうんだろう、本当にいるんだ!と思いました(笑)。世界的にも有名な小説家ですから、お目にかかってとても感動したことを覚えてます。そしてその村上さんが舞台化を喜んでくれていることにも本当に嬉しかったです。
首藤:僕は村上さんの大ファンなんです。村上さんの小説を原作にした舞台作品に出演できること、改めて嬉しく思います。村上さんの小説を読むと、そのイマジネーションの深さが桁違いだなぁと思うんです。どんどんどんどん世界に潜り込んでいって、自分の中にもそのイマジネーションが広がっていく感覚が生まれる気がします。僕たちは舞台作品として、その世界に飛び込むわけですけども、恐れずにいきたいですね。
――コロナ禍がようやく開けようとしている今、思うことを教えてください。また、舞台を楽しみにされているお客様にもメッセージをお願いします!
大貫:今でも忘れもしないのですが、僕にとって、コロナ禍の自粛期間が明けた一発目の舞台が『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』の再演でした。初日の幕が開くときに、拍手が起きたんですね。その拍手にキャストがみんな泣いて……1曲目はみんなで歌いながら出てくるんですけど、嗚咽で歌うのが本当に大変だったぐらい(笑)。そのときに、ああ、俺、生きててよかったと本当に思ったんです。コロナ禍で、何のためのに生きてるのかなと自問自答し、自分自身の必要性を考えさせられました。周りの仲間にその思いを打ち明けると、同じような思いを抱えた人もいて。表現者にとって本当に苦しい時期だったんです。でもあの拍手をいただいたとき、本当に感動したんです。
今やっと(感染法上の分類が)「5類」になって、僕は直近で『マチルダ』に出演していますが、お客さんの笑い声が聞こえたり、時折「ブラボー!」という声が聞こえたりして、本当に嬉しかったです。今回の『ねじまき鳥クロニクル』が上演される11月の状況は正直分からないですけど、芸術を純粋に楽しめるコロナ禍前のような状態に戻っていってくれたらなと願っていますし、この作品をたくさんの人に観てもらえたら嬉しいです。
首藤:僕も大貫さんが仰ったことに同感です。僕たちの仕事は稽古をして、本番に臨むわけですけど、シンプルに稽古や本番ができることが一番の幸せなんだなと思い知りました。当たり前のように思っていたことが、当たり前ではないんだと、この3年間身に染みて感じましたので、一瞬一瞬を大切にしながらやっていきたいと思います。
取材・文=五月女菜穂

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