BUCK-TICK 、最新アルバム『異空 –
IZORA-』携えた全国ツアーの東京ガー
デンシアター2日目公式レポートが到

BUCK-TICKが7月23日(日)に東京ガーデンシアターで行った『BUCK-TICK TOUR 2023 異空-IZORA-』のオフィシャルレポートが到着した。

今年4月からスタートしたBUCK-TICKの全国ツアー「BUCK-TICK TOUR 2023 異空-IZORA-」。新幹線の運休により延期になった名古屋公演が9月に振替になったものの、BUCK-TICKにとって初の会場である7月22日・23日東京ガーデンシアターで千秋楽を迎えるのがスタート時の予定だった。しかし23日の終演後に観客に配布された号外で、9月17日(日)・18日(月・祝)にメンバーの故郷・群馬音楽センターにて追加公演「BUCK-TICK TOUR 2023 異空-IZORA- FINALO」を開催することが発表された。“FINALO”ということは、この日が最終公演となるのか。千秋楽のレポート取材だと思って東京ガーデンシアターに入ったのだが、これは嬉しい誤算である。
なんと鮮烈に生と死を描くのだろうかと圧倒された。これまでも“生と死”はBUCK-TICKの重要なテーマとして、その根底にあった。生と死への畏怖や憧憬を、時には心身を削るような痛みを伴うほどの凄烈さで表現してきたのだが、このツアーでは『異空 -IZORA-』を中心に、楽曲の中に生きる主人公達の運命を、雄弁な歌と演奏、圧巻のパフォーマンス、そして鮮やかな映像で表現していた。その物語の解釈は、観た人の数だけ存在するだろう。たとえば筆者はこんなストーリーを思い浮かべた。
『異空 -IZORA-』収録の「ワルキューレの騎行」や「THE FALLING DOWN」に登場するアダムとイヴは、禁断の実を食べたことで“いつか必ず死ぬ”という運命を背負った。原罪を背負って生まれてきた我々は、その罰もまた、等しく背負っている。限りあるその命の中で、あなたはどう生きるだろうか? 全篇を通してそんなことを問われているように感じた。
数奇な運命を辿る主人公の物語は1曲目から始まっていた。SEの「QUANTUM I」でステージに登場した今井寿(G)、星野英彦(G)、樋口豊(B)、ヤガミ・トール(D)が定位置についた頃、上段のセンターに櫻井敦司(Vo)が登場。黒いハットに黒いマラボーを巻き、両手を広げてうなだれる姿は、背景のスクリーンに映し出された案山子そのもの。ギターのアルペジオに悲哀を、歪んだベースにやりきれない怒りを滲ませた「SCARECROW」
では、どこへも逃げられない絶望を歌う。「ワルキューレの騎行」では、騎行する足音のように一定のリズムを刻むバスドラに合わせてクラップが沸いた。同期によるオーケストレーションが鳴り響く間奏では、ステージの両端でギターを弾かずにフロアを見渡す今井と星野。その様子はまるで生者と死者を審判するワルキューレのごとく冷ややかで、がなるように“殺してくれ”と歌った櫻井は階段の上に仰向けに倒れ、天を仰いだ。「IGNITER」ではヘヴィなサウンドで轟々と燃え盛る太陽をイメージ付け、「唄」では“生きてる証が欲しい”と叫ぶ。櫻井が甘い声で「ハロー、ダーリン。ハロー、ベイビー。楽しんでいってね」と言ったのは、そんなシリアスな4曲が続いた後のことだった。似つかわしくない声色に、ふっと気が緩んだのも束の間、8つのトーチに火が点り、甘美かつオリエンタルなアンサンブルの「愛のハレム」へ。妖艶なメロディで倒錯の世界へと誘った。
一方、世界の向こう側には葛藤を抱える兵士がいる。郷愁を誘う牧歌的なヴァイオリンのメロディから始まった「さよならシェルター destroy and regenerate-Mix」では、愛しい我が子を安全なシェルターに送り、戦場に向かう兵士の姿を描く。銃を捨てた兵士は、シェルターに我が子を迎えに行き、優しく抱きしめた。回を重ねる度に完成度を高めていった櫻井の一連のパントマイムは、観る者の心を惹きつけ、多くの感動を呼んだ。「お父さん、お母さん、雨が降るよ。今夜も光ってる。綺麗な雨が」というセリフから入った「Campanella 花束を君に」では、無垢な子供の目を通した戦時下の風景を、軽やかに弾むヴォーカルで歌い上げた。
そして、海辺では人間に恋をした人魚姫が一人。恋のためなら命を散らしても構わないと、太ももをチラチラと見せながら逞しく突き進む「THE SEASIDE STORY」の歌声は、眩しいくらい生命力に満ちていた。BUCK-TICK流シティポップと呼ばれる「無限 LOOP -LEAP-」では、サンバのリズムと幻想的なサウンドで夢と現実の境を曖昧にしていく。「いつまで続く?死ぬまで続く。いや、死んでも続く。亡霊になってもやってやる」。自分に言い聞かせるような櫻井の語りに、会場からは大歓声が上がり、その勢いのまま「あの娘が待ってる。楽しんでいこうぜ」と「Boogie Woogie」へ。バンド初期の光景や思い出をなぞるロックチューンに、自然とフロアのテンションも上がる。今井が奏でるテルミンのとんがったサウンドや、スクリーンに映るライヴハウスらしき部屋の壁に『殺シノ調べ』や『Six/Nine』など過去のアルバムのジャケットがコラージュされていたのも印象深かった。続く「野良猫ブルー」では、猫の鳴き声のような音をあげる今井のギターに、「ミャオ!」「シャー!」と反応する櫻井。樋口のアップライトベースによる太く柔らかい音の上を、ピアノとヴォーカルがブルージーに絡み合う。歌い終わり、暗くなったステージに小さく「ニャン!」と一声、ブルーの鳴き声が響いた。
物語はいよいよ終盤へと向かう。気怠げに歌う今井と、拡声器で叫ぶ櫻井のツインヴォーカルの「THE FALLING DOWN」でボルテージを一気に上げると、「もっともっともっと!モアモアモア!」と煽りながら、アッパーチューン「Jonathan Jet-Coaster」へ。『memento mori』(2009年)収録のこの曲は、“反戦の歌”だと語られていた。盛り上げるためだけにここにセットされたわけではないことがわかる。そして「見ろよイカロス、あれが太陽だ」とウィスパー混じりの語りから「太陽とイカロス」へ。疾走感のあるサウンドに乗って、主人公の乗った機体は、人魚姫のいる海も、愛のハレムも飛び越え、轟々と燃え盛る太陽へと突き向かうのだ。エンディング、真っ赤な太陽に向かって両手を広げて向かい合う櫻井の姿が、目に焼き付いて離れない。両手を広げて、案山子にも天使にも比翼を持った機体にもなる櫻井を見て、「彼は両手を広げて何を願うのだろうか。銃を構えた手で愛しい我が子を抱きしめることへの許しだろうか。多様性への受容だろうか。LOVE&PEACEだろうか。」と4月の初日公演のレポートに書いたのだが、その答えは本編ラストの「die」にあった。「I want to die. I want to live.」。そのメッセージが何度か繰り返された後、「die」の演奏が始まった。太陽に向かって飛び立った主人公は、やがて肉体を離れ、精神世界へと突入する。大きな曼荼羅をバックに、彼は両手を広げ、“全てを許したい”と願うのだ。生命が燃え尽きる最期を飾るように、ジャンジャンジャンジャンと力強く響く音の塊を聴きながら、白逆光の中、ハットを被り、この世に別れを告げるようにして櫻井はステージを降りた。なんとも凄絶なエンディングだった。
鳴り止まないアンコールに応えて、ステージに現れたのはヤガミ・トール。ドラムソロでヤガミが打ち鳴らすリズムは、まるで夏の夜空を彩る打ち上げ花火のようだった。アンコール一曲目のバラードナンバー「世界は闇で満ちている」を奏でるメンバーは、本編の壮絶なストーリーを後世に伝える語り部のような佇まいで、“でも世界は何も変わらないだろう”と歌う。「クライマックスをご一緒なさらない?」というMCの後、「CLIMAX TOGETHER」や「MISTY ZONE」のロックチューンで盛り上げたところで、ダークなミディアムナンバー「凍える」でフロアをクールダウン。そしてこのツアーのもう一つのハイライト「ヒズミ」へ。静まり返ったフロアに向けて「今夜も静かなのね」とまずは一声。「私の名前はヒズミ、ヒズミと言います。今夜も好きなお洋服を着て、好きなお化粧をして、ただ生きているだけなのに、いろんな人が笑います。顔の見えない人が笑います。お父さん、お母さん、ありがとう、愛してる。お父さん、お母さん、さようなら」。曲に入る前のこの独演は、「私の名前はヒズミ。ヒズミって言います」の一言だった初日公演から、その表情や仕草とともに段階を経て進化してきた。自分の生を呪うかのように虚無感漂う表情で歌う「ヒズミ」の行く末を、誰もが祈らずにはいられなかった。それほどまでに真に迫るパフォーマンスだったと言える。アンコールラストは「名も無きわたし」。櫻井が肩にかけた着物の裾を大きくひるがえすと、スクリーン一面に色とりどりの花びらが舞い散った。会場内の全ての人の背中を優しく押してくれるような、優しく包み込んでくれるような、力強くて温かいエンディングとなった。
BUCK-TICKが音楽を鳴らし続ける限り、生きていたい。このツアーを体感した人たちの多くが、帰り道にこんなことを思ったのではないだろうか。大げさではなく、そんなふうに思う。「暗いアルバム」だとメンバーが評していたアルバム『異空 -IZORA-』は、ツアーを通して生きる光となり、糧となった。そして9月17日(日)・18日(月・祝)、彼らの地元・群馬音楽センターで開催される「BUCK-TICK TOUR 2023 異空-IZORA- FINALO」でデビュー35周年を締めくくり、新しいタームへと向かうBUCK-TICKの未来を大いに期待している。
文=大窪由香
撮影=田中聖太郎

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