チェロとギターによる異色のデュオ・
コンサートが話題ーー宮田大(チェロ
)& 大萩康司(ギター)が大いに語

チェロとギターという異色の組み合わせによるデュオ・コンサートが話題となっている。演奏するのはチェリスト宮田大とギタリスト大萩康司という共に輝かしい経歴を持ち、クラシック音楽シーンの第一線で活躍する二人だ。YouTube上の映画『ロシュフォールの恋人たち』から「キャラバンの到着」はクールな演奏動画として評判となっている。昨年に続き、2度目の全国ツアー『宮田 大&大萩康司 デュオ・コンサート』が始まったばかりの二人に話を聞いた。
談笑する 宮田大 と 大萩康司
●チェロとギターによる異色の組み合わせ
――お二人の出会いを教えてください。
大萩:2015年の『セイジ・オザワ松本フェスティバル』に、サイトウ・キネン・オーケストラの一員として参加していました。この年のオペラが、ベルリオーズの「ベアトリスとベネディクト」で、珍しくギターが入っているオペラで、声がかかったのです。空き時間に、別の曲のオーケストラリハーサルを見ていたのですが、チェロパートの一角に宮田大さんをお見かけしました。ずっとお会いしたかったチェリストでもあったので咄嗟に挨拶をしておこうと思い、休憩時間にお声がけさせていただきました。その時は一緒に演奏することなど、全くイメージしていなかったのですが、大君の方から持ち掛けてくれた話が膨らんでいきました。
宮田:休憩時間に客席からこちらに向かって歩いて来る人が、光の関係で輝いて見えたのです(笑)。輝く人の正体は大萩さん。カッコ良いなぁ、というのが第一印象でした。大萩さんが色々な方と共演されていたのは存じ上げていたので、私も一緒に演奏出来たら嬉しいなと思って声をかけさせていただきました。2018年の八ヶ岳高原音楽堂での初共演から翌年の王子ホールでのデュオ・リサイタル、そしてコロナ禍の2020年の夏にアルバム『Travelogue』を録音し、冬にはリリース。おかげさまで直近の2年間では、全国25か所くらいで公演をやらせていただきました。

――大萩さんのギターはどんな特徴がありますか。

宮田:チェロは弦を擦って音を出す擦弦楽器、ギターは弦を弾いて音を出す撥弦楽器のため、音の速度が違います。大萩さんのチェロは一音一音を大切に、音を点ではなく面としてアプローチをしてくださるので、チェロとギターの音が見事にマッチします。また、ギターの音は、弾いてしまうと減衰していきますが、何とかキープしようと工夫をしていただいたり(笑)。そして一番の魅力は、音楽の自由度が高い事ですね。リハーサル通りでは無く、本番のステージ上で起こる良い意味でのハプニングや対話がとにかく楽しい。私たちのコンサートは曲間に良く喋るのですが、台本も無く、「康司と大の部屋」に来たみたいな感じで楽しんでいただけると思います。これも、大萩さんとだから出来るのだと思います。
チェリスト 宮田大  (c)日本コロンビア
――宮田さんのチェロはいかがでしょうか。
大萩:オーケストラやチェロアンサンブルの中にあっても、大君の音はツアーでも隣でいつも聴いているからか、すぐにわかります。何より、歌っているように楽器を奏でられる人で、歌うように演奏するということは全ての器楽演奏家の目指すところでもありますからね。隣で弾いていると、空気と床からチェロの響きが伝わって来て、宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』に登場する、チェロの中に入り込んだ野ネズミのような気持ちになります。音が全身を包み込んでマッサージをしてくれる感じが心地良いのです。そして宮田大というと、知らない人はいないほどの人気チェリストですが、最初のリハーサルの時に「荷物を持ちますよ」と自然に声をかけてくれて……。彼の人柄に惚れましたね。
ギタリスト 大萩康司  (c)日本コロンビア
――チェロとギターの組み合わせは異色だと思います。生音で合わせるには、音量的に無理があるように思うのですが。
大萩:もちろん補正は必要です。大君のチェロなら2,000人クラスのホールでもナマ音で、ピアニシシモからフォルテシシモまで響かせることが可能です。ギターはそのチェロの音域にスッポリ入る感じですね。楽器の特性上、ギターは蚊の鳴くような最弱音は出せますが、大きな音は少しPAで補強することで、アンサンブルの表現力が増します。ただ近年、このあたりの音響機器のレベルはかなり高くなっていて、自然な音質で音を増幅する技術が進んでいます。
宮田:ピアノとのデュオは、背中で合図を送ったり、オーラを感じたりしないといけませんが、ギターは隣にいてくれる安心感があります。先ほどもお話ししたように、大萩さんのギターは一音一音を大切に演奏されるので、音量は大きくありませんがとても繊細なアンサンブルを奏でることが出来ます。お客様が集中して聴いていただいているのがよく分かります。それと、ギターパートはオーケストラの大部分の演奏を一人で担うケースが多いので、大萩さんは凄いです。僕はその上で気持ちよくメロディを弾かせていただいているだけですので。
リハーサル中の様子
大萩:いやいや、大君謙遜し過ぎです(笑)。大君のチェロは平気で2パート、3パート分を弾いています。普段ならチェロでは絶対に出て来ないような難しいパッセージも二人のデュオでは普通に登場し、それを大君は何気ない表情で演奏しているので、コチラが当たり前に思ってしまう感覚が怖いです。そんな事を先日、他の方のチェロ演奏を聴いてハッとする瞬間がありました。一体どうなっているのか、お互いの楽器を取り換えっこして、チェロはどういう触感なのかと試してみると、弦の張力がギターの比較にならないほど強くて驚きました。このテンションの中、あのスピードであのパッセージをあれだけ豊かな音色で弾いていることが、超人的と言わざるを得ません。
宮田:お互いの楽器について学ぶ機会があり、とても勉強になりました。大萩さんがこのギターを駆使して、あのメロディを情感込めて演奏している。それがどれだけ難しいことか、確認出来たのは良かったですね。
本番の様子を舞台袖から
――うーん、素敵な関係ですね。アルバム『Travelogue』に収録されていて、NHKのEテレ『クラシック倶楽部』でも演奏が放送された、映画『ロシュフォールの恋人たち』の「キャラバンの到着」は、お二人の代表曲ですね。あの曲、吹奏楽でもよく演奏されますが、チェロとギターで演奏しようと思われた経緯を教えてください。
宮田:シャンパンを飲みながらオシャレ感覚に演奏を聴く、特別なコンサートがあって、そこであの曲を二人で演奏したらカッコ良いんじゃないかなと思って選びました。色々な人に巡り合って行くロシュフォールの恋人たち。大萩さんはフランスに留学されていたので、その点でもピッタリかなと思って(笑)。
大萩:ジャズ界にも通ずる彼ならではの洒脱な和音やアーティキュレーションを駆使した表現に期待して、二人組の音楽ユニット、モノンクルの角田隆太さんに編曲をお願いしました。カッコ良い雰囲気に曲が仕上がっていて大満足! 映画の中でも男の子二人が歌って踊ってみたいなシーンとリンクして、我々二人が色々な街を旅して演奏する。キャラバンの到着にぴったりだと思います。
ギタリスト 大萩康司  (c)SHIMON SEKIYA
●『Travelogue』全国ツアー、シーズン2の始まり
――前回のアルバム『Travelogue』のツアーはコロナ禍の中という事もあり、大変な話題となりました。休む間もなく、ツアー第2弾が始まりましたね。
大萩:アルバム『Travelogue』はコロナ禍の真っ只中での録音でした。人が自由に出歩けない状況を受けて、それなら音楽を使って色々な国や時代を自由に旅するアルバムを作って、皆さまに旅行気分を味わって貰えればと企画しました。
宮田:前回は『Travelogue』を実演で聴いていただくツアーでした。レパートリーも増え、二人でやれる可能性が高まった事と、何よりももっと一緒に演奏していたいという思いが強くなり、今回のツアーが決まりました。今回はシーズン2のような感じで、『Travelogue』の曲も何曲かやりますが、新たにイギリスを前面に押し出したプログラムをお聴きいただきます。

ツアー移動中
――今回のツアーのプログラムについて教えてください。珍しいダウランドの曲から始まります。

宮田:ジョン・ダウランドはバッハより前のルネサンス時代のイギリスの作曲家です。リュートと歌の曲「さあ、もういちど愛が呼んでいる」を、人間の声に近いと言われるチェロがメロディを奏でますが、途中でギターとチェンジします。チェロは通奏低音などを担当する伴奏楽器でもあるので、伴奏も得意なのです。
――続いて、ホアキン・ニン「チェロとギターのためのスペイン組曲」です。
宮田:19世紀終わりから20世紀に活躍したキューバの作曲家兼ピアニストのホアキン・ニンの曲。古風なお城が見えて、踊りだしたくなるようなラテンぽい曲です。
大萩:オリジナルはチェロとピアノの曲ですが、コンラート・ラゴスニックの編曲した楽譜がありました。フラメンコギターのラスゲアードという掻きならす音型が入っていて、後になってオリジナルの音源を聴きましたが、これはピアノよりギターの方が合う! と思いました。
――ヴォーン・ウィリアムズの「あげひばり」は、オーケストラとバイオリンソロの曲です。
宮田:大萩さんがオーケストラパートの何十人分を一人で受け持ってくださいます。私がバイオリンパートを担当しますが、この曲はピアニシシモの最弱音の魅力を味わっていただける曲だと思います。
ツアー移動中
――加藤昌則さん作曲の「ケルト・スピリット~ギターとチェロのための~」は、加藤さんご自身が色々な楽器編成で書かれています。
宮田:そうですね、大萩さんはギターとオーボエのバージョンでは、東京都交響楽団広田智之さんとも一緒に演奏されています。今回のツアーでは、まずこの曲を採り上げようと思っていました。ダウランドから始まって、ヴォーン・ウィリアムズ、そしてケルト・スピリットへと続くイギリス音楽の流れは、意図した訳ではなく偶然の産物でした。結果として前のツアーとの差別化が図れて良かったと思っています。どの曲も健康になれる曲で、野菜がたっぷり入った栄養満点のミネストローネのようなプログラムじゃないですか(笑)。
大萩:その後、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」、ミッシェル・ルグラン「キャラバンの到着」とフランス音楽が続き、最後にピアソラの「ブエノスアイレスの四季」から、前回のツアーでやらなかった、「秋」と「春」を演奏します。ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」は私の編曲ですが、「ブエノスアイレスの四季」は「キャラバンの到着」同様に、モノンクルの角田隆太さんの編曲です。
宮田:「ブエノスアイレスの四季」の角田さんの編曲は素晴らしいです。彼は楽器の特性も、私たちの演奏スタイルも理解しておられるので、ある意味、原曲の良さを超えていると思います。原曲の持ち味に、彼独特のジャズっぽい要素も入っていて、カッコ良く仕上がっています。実は、初めて大萩さんと共演した時には全曲を演奏したのですが、疲れ果ててしまいました(笑)。この曲は全曲ではなく抜粋で2曲くらいが、お客様も色々と他の曲も聴けてちょうど良いのではないかと思いました。前回のツアーで「冬」と「夏」をやったので、今回は「秋」と「春」を演奏します。
チェリスト 宮田大  (c)日本コロンビア
――今回のツアー、関西エリアでは奈良・大和高田のさざんかホールのみの開催となります。宮田さんはこれまで2度、さざんかホールでコンサートをされていますが、ホールの印象をお願いします。
宮田:スタッフの皆さんの愛情を強く感じるホールです。その姿勢に応えるために、コチラもいつも以上に頑張ろうと思わせてくれます。音響的には響き過ぎず、誤魔化しの利かないホールで、ギターとチェロの対話をしっかり楽しんでいただけると思います。

大和高田さざんかホール
大和高田さざんかホール
大萩:ツアーの行く先々で私たちを待っていて下さるファンの方や、ホールの関係者との出会いが嬉しいですね。さざんかホールさんは初めてですが、奈良の皆様との一期一会の出会いを楽しみにしています。食べることが大好きな私にとって、人との出会いと同じほど、その土地の美味しいものとの出会いも楽しみです。
ヨコゼ音楽祭、本番前のステージから
――コロナの影響も随分収まり、ブラボーも戻って来ましたね。

宮田:確かにブラボーは増えましたね。最近の傾向として、アンコールからは動画や写真撮影がOKというコンサートも増えて来ました。SNSで情報を拡散していただくのは嬉しいのですが、あれをやると皆さんが携帯に集中されて、拍手の音量が小さくなるのが残念です(笑)。拍手の音で、打ち上げの一口目のビールの美味しさが変わって来ます(笑)。良かったと思われたなら、どうぞ拍手をよろしくお願いします。
大萩:そうですね、演奏家は拍手の大きさがその日の演奏の評価だと思っているので、拍手がドーッと盛大に起こると、嬉しさの度合いは格段に変わります(笑)。

やはり拍手を盛大に頂くと嬉しいです!
●目指すべき音楽家像について
――大萩さんは若手の指導や育成にも力を入れておられます。

大萩:今年で45歳になりました。個人としては30代まではソロの活動に力を入れ、40代になってからは室内楽に力を入れて来ましたが、若手演奏家の育成については30代からずっと取り組んでいることがあります。毎年8月に10日間ほど、山口県の秋吉台国際芸術村で仲間と一緒にマスタークラスを開催しています(今年は8月7日(月)~24日(木))。ギターだけでなく他の楽器の人達と一緒に学ぶことで、ギターのソロを突き詰めるだけでなく、他の楽器のニュアンスや発音、表現の仕方を学ぶ場となっています。この活動は自分自身を見つめる意味でも、大切な活動です。
――大萩さん、「SPICE」読者の皆様にメッセージをお願いします。
大萩:二人の演奏をCDで聴くとバランスなど完成された演奏は聴けますが、ライブでは宮田さんの人柄なども感じられます。コンサートホールには美しい倍音が飛び交っていて、音の響きを肌で感じられます。それは皆様ご自宅のスピーカーでは体験出来ないので、ぜひ体感しにコンサートホールにいらしてください。
ギタリスト 大萩康司  (c)SHIMON SEKIYA
――宮田さんも後進の指導には力を注がれています。将来、どんな音楽家になりたいと思われていますか。
宮田:7月31日(月)から8月5日(土)までロームシアター京都でセミナーをやります。大萩さんも仰っているように、人に教えることで自分に返って来ることや、新たな発見がたくさんあります。つい最近、37歳になりました。今この瞬間を大切に、37歳でしか出来ない演奏をしたいと思っています。先日、クローズドコンサートでカザルスの「鳥の歌」を演奏したのですが、この曲は弾く度に色々と考えさせられます。私の父親もチェロを演奏するのですが、父親の弾く69歳の「鳥の歌」は、それはそれで味わいがあって、私には出来ない演奏です。10代、20代の若い子の「鳥の歌」も、私には真似の出来ない演奏です。そういう意味で、37歳の宮田大の演奏を皆様に届けたいと思っています。
――宮田さんも、最後にメッセージをお願いします。
宮田:今回のツアー、関西エリアは奈良県大和高田のさざんかホールさんだけです。関西方面にお住まいの皆様、10月1日(日)にはさざんかホールにお集まりください! 大萩さんとの組み合わせでこのプログラムが聴ける機会はそう有るものではありません。私たちの楽譜は門外不出にしているので、この編曲でこれらの曲を聴く機会は本当に限られています。二人の相性の良さと信頼関係に裏打ちされた演奏と面白トークは、本番のステージでしか味わえません。聴き逃すのは本当に勿体ないと思います。大和高田のさざんかホールにお越しください。ご来場をお待ちしています。
チェリスト 宮田大  (c)日本コロンビア
――大萩さん、宮田さん、どうもありがとうございました。
取材・文 = 磯島浩彰

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