「陽キャじゃないからこそ、キラキラ
したものが羨ましい」花冷え。がデビ
ューアルバムで表現した反骨精神と憧

強烈なスクリーモ、野太いサウンド、しかしヘヴィネス一辺倒ではなくシンセを多用したポップかつトリッキーな転調などでオリジナリティを確立する4人組バンド、花冷え。が7月26日(水)にメジャーデビューアルバム『来世は偉人!』をリリースした。自分たちの世代観を基調としながら、現在の社会、対人関係、流行を映し出した歌詞は共感性抜群。その内容はある意味「令和の記録」と言えるかもしれない。そしてなにより、爆アガり間違いなしのサウンド。「フェスでもみくちゃになりながら聴きたい」と思わせてくれるものである。そんな花冷え。のメンバー、ユキナ(Vo)とマツリ(Gt.Vo)に、『来世は偉人!』のことなどについて話を訊いた。
ユキナ(Vo)
ーーメジャーデビューアルバム『来世は偉人!』ですがヘヴィなサウンドでありながら爽快感もすさまじいですね。
ユキナ:実は10曲入りなのにトータルで30分もないんです。だけど、短いのに一つひとつの曲が濃い。いろんな要素が凝縮されていて、今までやりたかったことや「こういう曲が欲しいな」という考えをそのまま詰め込むことができたので達成感があります。
マツリ:重ためなジャンルだから、長時間聴いていると疲れるでしょうし(笑)。そのあたりは自分もリスナーとして聴くときに思うことなので、「もうちょっと聴きたかったな」くらいで留めておいた方がちょうど良いかなと。
マツリ(Gt.Vo)
ーーユキナさんがおっしゃるように一つひとつが濃いですよね。特にアルバム全体に流れるメンタリティの浮き沈みが激しい部分がおもしろいです。2曲目「超次元ギャラクシー」で<宇宙飛び越え歌うよ>と言いながら、次の「NEET GAME」では家に引きこもって、4曲目「今年こそギャル〜初夏ver.〜」では<今年こそ目指せキラキラインスタグラマー>と歌っている。どういうメンタルなんだ、と(笑)。
ユキナ:私自身が浮き沈みのあるタイプなので、それが曲に出ていますね(笑)。もともと静かなタイプで、エネルギーを溜めて、そしてバンドで表に立つときはテンションを上げるので。あと、作品的にそういうジェットコースターみたいな展開の方が聴いていて飽きないですよね。
マツリ:確かにユキナのそんな一面が反映されているかも。花冷え。の曲作りは、私がまずサウンド面を作って、それをユキナに投げて歌詞などを詰めていくやり方なんです。で、私は性格的にどんなときも一定だけど、ユキナはタイプが真逆だからそれを良い意味で崩してくれる。だからこそ花冷え。感がある特徴的な曲が生まれるんだと思います。
ユキナ:たとえるなら、マツリから超素敵なケーキをプレゼントしてもらって、それを私が「どうデコレーションしようかな」という感じです。
マツリ:最初の頃は、そうやって楽曲が大幅に変わることに複雑な気持ちはあったんです。だけど自分とまったく違うアイデアを出してくれるから、「そっちの方がおもしろいじゃん」となるんですよね。それにクリエイティブとして考えると、自分ひとりだけで作ったものより何人かのアイデアが詰まっている方が絶対におもしろいんで。だから「好きにやってください」となります。
ーーアルバムタイトルや収録曲の多くに共通することとして、「なにかに生まれ変わりたい」という願望が込められていますよね。特に「超次元ギャラクシー」「NEET GAME」「今年こそギャル〜初夏ver.〜」「我は宇宙最強のインベーターちゃんである」「TOUSOU」「Today’ s Good Day&So Epic」からは、「キラキラと光り輝く人生」への憧れが強いように感じます。
マツリ:実はサウンド面、歌詞面も含めてそれが今回のアルバムのテーマでもあるんです。というのも、私たちは陽キャとは程遠いところがあって、おっしゃるようにキラキラしたものへの憧れがあるんです。だから、そんな自分たちの本音に共感してもらった上で、リスナーによっていろんな解釈ができる内容にしています。
ユキナ:キラキラしたインスタグラマーの投稿ってなんだかんだで見ちゃうし、どこかで羨ましかったり憧れがあったりするんですよね。
マツリ:「今年こそギャル〜初夏ver.〜」の<アフ!ヌン!>という歌詞は某有名カフェのことなんですけど、そういうお店へ行く人だったり、あと港区女子みたいな人だったり、自分の生活とはかけ離れているんですよね。だからこそその投稿が興味深くて。「こういう世界があるんだ」となります。
ユキナ:やっぱりキラキラなインスタグラマーは流行の最先端をちゃんと捉えているし、「こういうのが流行っているんだ」と勉強になるんです。
ーーもっと皮肉っぽい目線があるのだと思っていました。
マツリ:というよりも、そういう港区女子のみなさんが、花冷え。みたいなジャンルの曲を聴いてブチあがってほしいんです。そんなことになったらこっちもアガるし。
ユキナ:「え、<アフ!ヌン!>って、もしかしてあのこと? なに、これヤバくない?」とか言ってほしいよね。
ーーキラキラしたものへの憧れ、なにかに生まれ変わりたいという願望、あと「お先に失礼します。」に描かれているストレスとか、それらの曲の根底には「現在」や「日常」への不満があるんじゃないかと思うのですが、その点はいかがですか。
ユキナ:「現在」というより、バンド結成の初期段階にあった経験が強く影響しているかもしれません。学生のときにバンドを結成したのですが、先生たちは私たちのジャンルをあまり好きじゃなかったから、ライブもちゃんと見てくれなかったんです。あのときは気持ち的に燃えるものがありましたね。
マツリ:あのときの反骨精神が根っこにあるんです。高校3年生のときからライブハウスにも出るようになって、当時、良い先輩に恵まれていたけど、一部からはやっぱりナメられていました。そういう経験もあって、「のしあがってやるぞ」という精神が芽生え、曲もガンガンと作れるようになった。だから、ヘイトが溜まっているのではなく、あのときに経験したことが反骨精神としてずっと残り続けているのかも。でも「お先に失礼します。」は確かに今の自分たち世代全体が抱える不満をあらわしています。
ーー上の人に対してなかなか「お先に失礼します。」と言いづらい風潮について歌っていますね。
マツリ:心の底からそこを出たいときは遠慮なく使って良いんだ、ということをポップに伝えた曲です。ただ、そんな日本特有のマナーみたいなものに対してどうというより、「それが言いやすい環境になれば良いな」と。8月から海外ツアーが始まるのですが、花冷え。のそういう曲の世界観がどのように伝わるのかが興味深いです。
ユキナ:反応、曲の聴き方、ノリも日本とは違うでしょうし。だって<アフ!ヌン!>とか、その言葉で伝えようとしたニュアンスはきっと分からないだろうし。
マツリ:そういえば「お先に失礼します。」の海外からの反応も、コメント欄で「『お先に失礼します』とはこういうときに使うんじゃないか」「こんな意味じゃないか」と意見が飛び交い、「先に帰ることが伝えられない風潮はいかがなものか」とちょっと論争みたいになって(笑)。「君たちはもっと自信を持って生きていくべきだ」とアドバイスをしてくださったり。でも日本では「お先に失礼します」が言いづらいことは決して不思議なものではない。ペコペコと頭も下げる。暮らしている場所、育った場所で感じ方は本当に違うんだと実感しました。
ユキナ:私たちが当たり前に思ってたことも、実はそうじゃない。そういう意見を聞いて「確かに」となりました。
ーーそういう意味でも、ヨーロッパ、アメリカを回る海外ツアーは楽しみが大きいですよね。
マツリ:海外ツアーではフェスにもいくつか出演させていただくのですが、そこで出会うバンドの爆発力や、音作りの違い、音楽の流行りなど、いろんなことが学べるはず。なにより日本語の歌詞が伝わらないなかで、自分たちはどうアプローチするべきなのか。そういったチャレンジも楽しみだし、すごく成長できると思います。
ユキナ:絶対にパワーアップできるから、それを生かして日本でもたくさんライブをしたいよね。
マツリ:うん、必ず全国ツアーをしたい。これまで東名阪しかほぼ行ったことがないから。海外ツアーを終えたら、日本の端から端まで回りたいです。
取材・文=田辺ユウキ 撮影=高村直希

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