猫田ねたこ

猫田ねたこ

【猫田ねたこ インタビュー】
ディストピアのイメージから
感じたものを広げていった

自分がやりたいことを
爆発させたいと思って振りきった

「なんとなく、分かる」は“なんとなく分かる”という一見曖昧さを感じさせる言葉で、一緒に過ごす時間を積み重ねていくことで生まれる強い結びつきを伝えている歌詞も秀逸です。

“なんとなく、分かる”という言葉は単語の意味的には適当みたいに感じますけど、そう言っている人たちの関係性によってすごく重みのある言葉になると思って。この曲は実はウエディングの曲で、知り合いのウエディングをお祝いしたくて作ったんです。作ったきっかけはそうでしたけど、夫婦とか恋人間だけの歌ではなくて友人間とかにも当てはまるし、私の中では半分以上が自分を応援してくれている人たちに向けた想いです。世の中の情勢的にライヴができない時期があったので、その時間を超えて再び集まって、みんなでまた同じ空間を共有できるということにすごく喜びや感謝があるんです。待っていてくれた人たちがいて、“待っているよ”とは言われてはいなくても待ってくれていて、私もずっと演奏したいと思っていたことを口に出さなくても分かってもらえるというのがあって。それで、こういう歌詞を書きました。

少ない言葉でいろいろな想いを伝える猫田さんの手法は本当に魅力的です。続いて、宗教的な匂いがある「Snowflake」と「Geranium」は新境地でいながら完成度が高くて衝撃を受けました。

この2曲はゴスペルに近いというか。もともと私は合唱部に入っていたので、自分が合唱で得たものがここに出ていると思います。

なるほど。ゴスペルが香る曲を作ろうとしたわけではなく、こういった曲も自然と出てきたんですね。

出てきました。こういう方向性は自分が伸ばしていきたいところでもあるんです。私は合唱とか童謡とかがすごく好きですし、ロックももちろん好きですし、ピアノという楽器をせっかく弾いているというのもあって。そういったことを混ぜて音楽を作れたらいいなと思って「Snowflake」と「Geranium」は作りました。「Snowflake」は私の背丈よりも高く積雪した雪の中で生まれた曲です。他の曲とも通ずるところがありますけど、雪がすごく深く積もっていて人がいない場所にいると、雪がいろんな音を吸収して本当に何も聞こえないんですよ。雪が積もる音も聞こえなくて、そういう中でずっと静かにしていると自分の心臓の音まで聞こえてくるんです。それが怖かったり、自分が人間であることを再確認したりしたんです。まだしんしんと雪が降っていて、空もちょっとグレーっぽい白で、視界もグレーっぽい白で、境界線とかが何もなくて、音もなくて。世界全部が同じ状態になった感覚があって、それがすごく不思議だった。それがきっかけになって書き始めました。

その話は素晴らしいです。太古の人間は自然と密接な状態で生きていて、自然のいろいろなありようから神を感じ取っていたんですよね。それが神を表現した音楽や、神に捧げる音楽などにつながっていったわけで、それと同じような流れで「Snowflake」という宗教的な匂いのある曲ができたのは感動的です。

ありがとうございます。私の中ではごく自然な感覚でしたけど、そう言われると確かにそうですね。

もうひとつ、この曲は英詞になっていて、深い雪の中で感じた大切なことを日本語で伝えたい気持ちもあったかと思います。でも、あえて英詞にされたんですよね?

「Snowflake」はすごくゆっくりな曲を書きたいというのが、最初の気持ちだったんです。その中で動きをつけるとなった時に、日本語が持つリズムと英語が持つリズムは違っていて、ゆっくりな曲に言葉を合わせるのは単語の切れ目とか母音のこととかを考えていくと、日本語だとすごく詰め込むか「君が代」とか「荒城の月」みたいになっていくかのどっちかなんですよね。それは避けたかったし、私の音楽を海外で聴いてくださっている方もいらっしゃるので英語にしてみました。

前回『Strange bouquet』のインタビューをさせていただいた時に英語の発音が大変だったとおっしゃっていましたので、楽曲のことを重視して苦手なことにも挑戦されたことが分かります。さらに、この曲はアルバムの中でも大きな一曲ですが、ピアノが入っていないんですよね。

オケの部分では本当にやりたいことをやらせてもらったというか、やってしまったというか(笑)。ライヴのことは想定せずに作ったので、この曲のコーラスを再現するとなると5人くらい女性が必要なんです。『dropss』は7曲しかないけど、とはいえ7曲あるので自分がやりたいことを爆発させたいと思って振りきりました。この曲のデモをインスタグラムにあげた時は“誰の曲?”という感じでした、みんな(笑)。今までと違いすぎて戸惑ったみたいです。

とはいえ、みなさん猫田さんの新たな顔も喜ばれていると思います。「Geranium」については?

「Geranium」は英詞の卒業ソング…じゃないですけど、卒業式の伴奏みたいなものというか。エンディングっぽくて、“最後に帰ってくる場所”というイメージで作りつつ、またここから次がスタートするという。この曲は“ブーケを手に入れた(Now I get the bouquet)”と歌う歌詞があるんですけど、その“ブーケ”というのが摘んだお花じゃなくて、歌詞の出だしに《Petals begin to fall and flutter》とあるように、地面に落ちた花びらを集めてブーケにするということが私の中で一番のポイントなんです。これは2曲目の「腑」や6曲目の「エンパシー」とかにもつながってくるんですけど、見落としたものとか、時間が経ってから自分の中に入ってくるものとかがある気がしていて。常に新しいものを自分の中に入れていくのもいいけど、もう1度振り返って捨てようとしていたものとか、言われて分かっていたつもりだった言葉とか、そういったものを拾い集めたらすごく光の射すブーケになる…というような歌詞になっています。そして、それをみんなで一緒にやっていこうと。そういう“共有”ということが今回の共通したテーマとしてあって、“共感”というところが「エンパシー」とつながっているんです。

OKMusic編集部

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