猫田ねたこ

猫田ねたこ

【猫田ねたこ インタビュー】
ディストピアのイメージから
感じたものを広げていった

ヴォーカル的にも一歩前に進めた
アルバムになったと思う

「Geranium」はポジティブな歌詞を繊細に歌うというアプローチも光っています。

歌に関して言うと、今回は全曲座って歌ったんです。今までずっと立って、歌の先生に教わった歌うための正しい姿勢で歌っていたんですけど、私が普段ピアノで弾き語りをする時は座っていて、ダンパーペダルを踏むために右足が前に出た状態で歌っているんですね。作曲も、練習も、ライヴも全部それでやっているのに、レコーディングだけ立って歌うのはおかしいと思って。それで、今回初めて座って、右足を前に出して歌ってみたんです。そうしたら、もう身体がそうなっているのか、自分の身体の中に大きな空洞を作ることができて、今までレコーディングで出せなかった声の広がりが出せたんです。「Geranium」とか「から部屋」は弾き語りなので、それが特に目立っていると思いますね。そういうところで、自分の中で『dropss』はヴォーカル的にも一歩前に進めたアルバムになったと思っています。

今作のヴォーカルは表情やダイナミクスなどが一層広がっていて、本当に聴き応えがあります。歌唱面では全編にわたってフィーチャーされている凝ったコーラスも注目です。

コーラスも聴こえてきたものをかたちにするという感じで、レコーディングするのがすごく楽しいです。前回もコーラスワークは結構入れましたが、やっぱりライヴで再現できないので今回は少し迷ったんですね。それで、ディレクターの方に相談したら“凝ったコーラスワークが、ねたこでしょう”と言ってくれたんです。私は声の和音を聴くと一番心が落ち着いて、いつか声だけの曲も作りたいと思っているんですよ。それぞれの楽器にそれぞれの力があると思いますけど、私は声がすごく好きですね。声は感情も直接出てくるし。自分の中で声はすごく大事だし、合唱をしていたという自分のバックグランドでもあるので、今回もいっぱい入れました。

コーラスも全部ご自身で歌われているのですか?

はい。ただ、「なんとなく、分かる」の《同じ時間を、過ごす》と繰り返すところは“みんなで歌っている”感を出したくて、最初は自分で声色を変えて重ねてみたんですけど、結局は同じ人間が歌っている感じになってしまったので、他の子にも歌ってもらいました。

「Geranium」などの厚みのあるコーラスは、ご自身オンリーでしょうか?

そうです。

おおっ! “ひとりゴスペル”ができてしまうんですね。本数の多いコーラスはハーモニーを構築するのが難しいという話を聞きますが、その辺りはいかがでした?

私はコーラスの線を1個ずつ作っていて、自分の中で絶対に欲しいコーラスの動きというのが決まったあとに、上と下で装飾したりするんです。なので、デモがグチャグチャになるんですよね(笑)。すごく低いところから急に高いところに行くラインがあったりして、レコーディングするのが難しくなってしまう。それを整理して、1本ずつ録っていくという感じです。

ということは、理論を活かしているわけではない?

私、理論は分かっていないです(笑)。

感覚でこういうコーラスを作れるというのは驚きです!?

それを逆手に取って…じゃないですけど、きれいじゃない和音のところも結構作りました。気持ち悪く感じるところも自分の中で欲しくて。きれいだと本当にサラッと流れていってしまうけど、私のコーラスは結構音が当たっていて、鍵盤で言うと隣同士の音が鳴っていたりするんです。ちょっとだけ不安にさせたいところとかは、あえてそういう不協和音を活かしました。楽器でそういうことをやろうとすると、理論が分かっている人は回避できるんでしょうが、私の場合は音の輪郭がはっきりしすぎていて、本当に強い不協和音になってしまうんです。声だと揺らぎもあるし、声は空気をすごく含んでいるので、そうならないから、自分の中では声で成立させることに意味があるんです。

すごく面白いです。『dropss』のピアノについてもお聞きしたいのですが、前作は宅録されましたよね?

今回もプラグインソフトを使って宅録して、それをエンジニアの美濃さんがカッコ良くしてくれました。ソフトは前回と同じものですけど、前回は1個の音色で弾いたんですね。今回は2~3個音色を作りました。グランドピアノっぽい音色もあれば、「腑」みたいに軽く聴けるポップなものはアップライトっぽい音というふうに使い分けていて、結構いろんなピアノの音を使っています。

前作で必要に駆られてピアノのソフトを入手されたわけですが、取説が英語で大変だったとおっしゃっていましたよね。

そうです、そうです(笑)。思い出してきました、その思い出(笑)。すごく大変だった(笑)。

それを乗り越えて、ソフトをより使いこなせるようになったことが分かります。もうひとつ印象的なことがありまして、今作はピアノを始めとして全体的に残響音の少ない音像になっていませんか?

なっています! ピアノがまさにそうですし、声もそう。今回エンジニアで録ってくださった美濃さんが、前回の私のレコーディングのあとに買ったマイクがありまして。購入された時に、そのマイクを試させてもらう機会があったんですね。そうしたら、すごく指向性が高くて、耳元で囁いているように録れるマイクだったので、次は絶対にこれを使わせてほしいとお願いしたんです。今回そのマイクを使わせていただいて、自分の中の理想の歌声が録れたから、変にリバーブとかをかけたくなくて。リバーブとかをかけたほうが雰囲気も出やすいですけど、そうじゃなくて“同じ部屋で爪弾いている”感を残しておきたくて歌もピアノもナチュラルな感じに仕上げました。

音数が少なくて残響音が薄い状態で深みや深淵さを醸し出していることに圧倒されます。さて、『dropss』は非常に良質な一作に仕上がりましたし、さらに9月16日に同作のリリースを記念したライヴも開催されます。

この日は私のソロ名義のライヴで初めてドラムが入ります。今までは自分ひとりで演奏して、その中で変化をつけたりしていたものが、ふたりいると倍以上に広がると思うので、新しい猫田ねたこソロのライヴを、ぜひ観てほしいです。あと、前回のソロアルバムのリリースパーティーはワンマンでしたけど、今回は3マンなんです。紺野メイちゃんと高井伊吹ちゃんという大好きなふたりと一緒だし、ドラムもあるしということで、みんなの感情を前回以上に揺さぶれるライヴになるんじゃないかと。それに、今回演奏面の難易度がすごく上がったので、ぜひ私のピアノも聴きに来てほしいです。

取材:村上孝之

配信アルバム『dropss』2023年8月8日リリース No Big Deal Records

ライヴ情報

『猫田ねたこ 2nd Album “dropss”Release Party 「てんてんてん」』
9/16(土) 東京・大塚 Live House Hearts+
W)紺野メイ、高井息吹
※昼公演

猫田ねたこ プロフィール

ネコタネタコ:プログレッシブポップ、オルタナティブ、ハードコア等の幅広いフィールドにて活動し、多数の海外公演を経て国内外への発信を続けるシンガーソングライター。プログレッシブポップバンド『JYOCHO』、ピアノロックバンド『heliotrope』ではヴォーカル&キーボードを担当。TSUTAYA企画のイベント やVILLAGE VANGUARD製品へのCM 曲を手がける等、楽曲提供も行なっている。2020年5月にEP『犬にも猫にもなれない』、22年4月には配信アルバム『Strange bouquet』をリリース。猫田ねたこ オフィシャルTwitter
猫田ねたこ オフィシャルInstagram

「から部屋」MV

OKMusic編集部

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