ピティナ・ピアノコンペティション「
特級」2023グランプリは鈴木愛美 受
賞直後の会見をレポート

2023年8月21日(月)サントリーホールにて第47回ピティナ・ピアノコンペティション「特級」ファイナルが行われ、東京音楽大学4年在学中の鈴木愛美(すずき・まなみ)が2023年度の特級グランプリを受賞した。
「ピティナ・ピアノコンペティション」は、毎年全国からのべ約3万人が参加する世界最大規模のピアノコンクール。その最高峰に位置する「特級」からは、近年に限っても、国際コンクール等でも大活躍の亀井聖矢・角野隼斗・進藤実優・森本隼太・黒木雪音・古海行子らを輩出している。
今年のファイナルは、梅田俊明指揮、日本フィルハーモニー交響楽団との共演での協奏曲。鈴木は、ベートーヴェン「ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 Op.58」を演奏し、グランプリならびに聴衆賞(編集注:実地での聴衆の投票で決まる賞)を受賞。受賞直後には記者会見が行われ、「話すことにはまだ慣れず、インタビューは苦手」という鈴木が初々しい姿を見せた。
鈴木の「特級」への挑戦は、昨年に続き二度目。もちろん、”今年こそ”とグランプリを目指し参加したものの、ファイナルの演奏では「ずっと緊張をしていて、ほぼ記憶がない」と苦笑い。「グランプリを取れると思っていなかったのでとても驚いています。今日の演奏、そしてセミファイナルでの演奏を評価していただけてとてもうれしく思っています」と受賞直後の喜びを口にした。
ファイナルで演奏したのは、ベートーヴェン「ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 Op.58」。奇しくも、昨年2022年にグランプリを受賞した北村明日人と同じ楽曲での受賞となった。楽曲を選んだ理由について鈴木は、「大好きな作品」であることと同時に、「セミファイナルで演奏したシューベルト(ピアノソナタ第18番 ト長調 D.894 「幻想」)との世界観と共通するものを感じていて、この二作品を(セミファイナル・ファイナルで)一緒に演奏したいと思っていた」のだと話した。二作品ともに、愛や人として大切にしたいもの、生きる喜びにあふれていると感じるのだという。
コンチェルトの経験は昨年が初めて。他コンクールの副賞として演奏し、その際にもこのベートーヴェン第4番を演奏したという。「奇をてらわず、楽譜に忠実な演奏に感じた」との評とともに演奏において大切にしていることを聞かれると、「仰る通りで、音楽をとにかく見せたい。音を出さない時間に楽譜を見たり、楽譜をよく読み、なにを伝えたかったのを楽譜だけで考えるようにしています」と話した。

ファイナルでの演奏の様子(写真提供:一般社団法人全日本ピアノ指導者協会)

この日は、2022年グランプリの北村明日人と、2017年のグランプリで、今年邦人作曲家としてセミファイナルの新曲課題曲を提供した片山柊が会場に駆け付けた。鈴木の演奏への感想を求められると、
「【ファイナル:ベートーヴェン第4番の演奏について】自分の解釈とは違い、勉強になった。自分は音の動きを重視するけれど、(鈴木は)音そのものがそこにあることを大切にしているように感じた」(北村)
「【セミファイナル:新曲課題曲「内なる眼」の演奏について】解釈の余白を作ることを意識し作曲した作品だったが、(セミファイナリスト7名が)想定以上に好き勝手に弾いてくれて(笑)、7通りの解釈を受け止められたことは経験としてよかった。鈴木さんの演奏は、北村さんが仰ったように、一音入魂というか、音に対して意味を見出そうとしてくれているように感じた。2週間ちょっとで譜読みから行うことになるので時間が少なかっただろうが(編集注:セミファイナルの新曲課題曲は、三次予選終了後にセミファイナル進出者に渡される)、一歩踏み込んで、僕が言いたいことを表現してくれようとしていたと思った」(片山)とそれぞれコメントした。
左から 片山柊、鈴木愛美、北村明日人
2002年大阪府生まれの鈴木は、兄がピアノを習っていたことをきっかけに4歳からピアノを始めた。大阪府立夕陽丘高等学校音楽科を経て、東京音楽大学器楽専攻(ピアノ演奏家コース)に給費奨学生として入学し、現在4年在学中だ。今後は、大学院への進学や、海外コンクールも視野に入れて活動をしていくという。
最後に、二人の歴代グランプリより、これから始まる「グランプリ」としての一年に向けてエールが贈られた。
「これからたくさんの演奏機会や出会いがあり、めまぐるしく進むと思います。まずは今日、この記者会見自体が突然の出来事で、今僕自身も当時のことを思い出しています。(今までとの)ギャップに戸惑う部分もあると思うけれど、音楽以外のことも学んだりできましたので、音楽家としての出発と思っていろんなことを吸収してください」(片山)
「僕は今日でようやくグランプリとしての一年を終えたところ。同じベートーヴェン第4番を選んだ方にバトンを渡せてうれしいなという気持ちもあります。一年前は僕も喋るのは苦手だったけれど、一年経つと意外とそうでもなくなった。逆に、自分の想いはきちんと言葉にして話していかないと、という責任感が出てきたように思います。もちろん「グランプリ」として喋ることも多いですが、それを抜きにした「自分自身」が音楽家として本当に進んでいきたい方向・モノを思い描くことを大切にしてほしい。その中で、グランプリだから出会える人、経験はあるので、実りある一年にしてほしいなと思います」(北村)
第47回ピティナ・ピアノコンペティション「特級」グランプリ以下、銀賞は三井柚乃(昭和音楽大学/4年)、銅賞は神原雅治(名古屋音楽大学/3年)、入選に嘉屋翔太(東京音楽大学大学院/院1年)。サポーター賞(編集注:二次予選からの参加者26名を対象に、オンライン視聴者も含めた投票で決まる賞。ファイナルまで毎日一票投票が可能)は、二次予選進出者の塩﨑基央(東京音楽大学/3年)におくられた。
左から 福田成康(ピティナ専務理事)と特級ファイナリストたち(嘉屋翔太、三井柚乃、鈴木愛美、神原雅治)
取材・文・撮影=SPICE編集部

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