ピアニスト・松田華音インタビュー 
『クラシック・キャラバン2023』大阪
公演への意気込みを語る

コロナ禍中に始まったクラシック・キャラバンは今年で3年目を迎える。2023年10月9日(月)大阪のザ・シンフォニーホールで開催される『クラシック・キャラバン2023 大阪公演 華麗なるガラ・コンサート』は、大阪ならではのご当地作品やピアノ&ヴァイオリン協奏曲、オルガン付き交響曲の全曲演奏と、“ガラ・コンサート”という名にふさわしい華やかなラインアップが予定されている。三人の豪華ソリストの中からグリーグのピアノ協奏曲全曲を演奏するピアニストの松田華音に意気込みや作品への思いを聴いた。
思いで深いシンフォニーホールでの初のクラシック・キャラバン
松田華音(c) Ayako Yamamoto
――まずは「クラシック・キャラバン2023 大阪公演 華麗なるガラ・コンサート」出演への思いをお聞かせください。
クラシック・キャラバンに出演させて頂くのは今年で三回目です。お祭りのようなコンサートで毎年とても楽しみにしています。今回ヴァイオリンの南紫音さん、オルガニストの冨田一樹さんと初めてご一緒させて頂くのですが、毎回、いろいろな方々と共演し、お話できる機会を創出してくれるという意味でもとても感謝しています。
――クラシック・キャラバンには第一回目から出演されているということですね。
そうです。最初の年は岡山と熊本の二都市で演奏しました。その時はより多くの方々により多くの演奏家と作品を聴いて頂くという趣旨だったので、チャイコフスキーの協奏曲第1番の第三楽章を、二年目は盛岡でベートーヴェンの協奏曲第5番 『皇帝』の第一楽章を演奏しました。三回目の今年、大阪でのキャラバン公演は初めての体験で、グリーグのピアノ協奏曲の全楽章を演奏させて頂きます。
――松田さんは大阪とのかかわり、特に今回の演奏会の会場でもあるザ・シンフォニーホールとのご縁は深いようですね。
はい!デビューリサイタルが大阪で、まさにシンフォニーホールでした。なので、今回お話を頂いた時、とても嬉しかったです。それ以降もシンフォニーホールさんには多くの機会を頂いていまして、ちょうど一週間後の7月29日に開催される「ラフマニノフ生誕150周年記念 熱狂コンチェルト2023 オール・ラフマニノフ・プログラム」にも出演させて頂きます。上原彩子さんが4番、福間洸太朗さんが3番、私が2番のコンチェルトを演奏します(インタビューは当演奏会前に行われた)。
――今回、共演指揮者は飯森範親さんですね。
飯森さんとは2021年のNHK音楽祭で初めて共演させて頂いたのですが、その際、シチェドリンの ピアノ協奏曲 第1番 をご一緒させて頂きました。私が飯森さんに「音楽祭なので、是非シチェドリンで!」と無理を言ってお願いしたのですが、快く受けて下さって、しかも、最初の打ち合わせで「こんなイメージだよね?」と話して下さった内容が、私が想像していた通りのものだったのですごく嬉しかったです。
――ラフマニノフ・イヤーの今年、松田さんも圧倒的にラフマニノフ作品の演奏機会が多いと思いますが、あえてグリーグを演奏する新鮮味もあるのではないでしょうか?
グリーグの作品、特にピアノコンチェルトは独特な世界観、空気感があって、やはりチャイコフスキーやラフマニノフとは少し違いますね。ノルウェーの自然や大地の壮大さがストレートに感じられます。自然というものが中心にあって、例え人間がその中に登場したとしても、ごく自然の一部でしかない、小さな存在なんだということを感じ、考えさせてくれます。
――ロシアと北欧というのは、音楽的な面においては“似て非なるもの”と言えそうですね。
私のイメージの中では、グリーグは表面が完璧なまでにツルツルと繊細に磨かれているのですが、ロシア作品の場合は反対に凸凹していてゴツゴツしているイメージです。触るとざらざらしている感じなんです。感情的・情緒的な面でも一つのことをずっと堂々巡りに悩んだり、同じことをいろいろなパターンで悩んだりと、そんなロシア人の国民性が音楽にも表れているような感じがします。
対照的にグリーグの作品は人間を超越したところにあるのでドロドロ感も生まれないですし、北欧のヒヤッとした新鮮な空気感までもが、実際に一つの形になって表現されているように感じています。例えば、フィヨルドの鏡のような氷の輝きが描きだす美意識そのものが音階などにも感じられるんです。
――(グリーグのピアノ協奏曲の)第一楽章冒頭の滝が流れ落ちるような下降音型のくだりは印象的ですね。
自然の摂理というのでしょうか、何か運命のようなものを感じさせられます。この冒頭の数小節で雷のように一瞬にして壮大な世界観が呈示された後に、第一主題以降は、その下の現実世界で起きている自然現象、例えば生き物たちのエネルギーの交わりだったり、大地に香り立つ匂いの混じり合いだったりと様々なプロセスが描かれていると私自身の中でイメージしています。
――グリーグのコンチェルトは一般的に“合わせやすい”とも言われますが、演奏していて難しい点はどこにありますか?
確かに合わせやすいというのはありますが、第一楽章のカデンツァが長いですし、かなりの要素が凝縮されていますので、そこにたどり着くまでの作り方などを意識しています。カデンツァ自体もつまらないものにならないようにダイナミクスの扱い方など、より深みを出せるようバランス的にも気を付けるようにしています。
自然体の音楽というものを探し続けていきたい
松田華音(c) Ayako Yamamoto
――今後の演奏活動においての展望や目標をお聞かせください。
これからも大きな曲の演奏を通して、その中にある深淵を掘り下げつつ、自分らしさを見つめ、自分の中にある自然体の音楽というものを模索し続けていきたいと思っています。
――松田さんの中での自然体の音楽というのは、やはり、小さなころから暮らしたロシアの音楽というものに結び付いているのでしょうか?
確かにそうかもしれないですね。ただ、ロシア音楽だけではなく、ベートーヴェンやモーツァルト作品であっても、その音楽の中にある自分自身らしさ、音楽と調和した表現や、自分自身の自然な思いの中から生まれでる音楽というのを磨いていきたいと思っています。
――趣味も含め、今、松田さんの中で最も興味を感じている事柄は何ですか?
音楽の中にある芯の部分を感じ取れるようにつねにいろいろなものを見て感じて、日常生活の中でもつねに自分の心をより豊かにするように心がけています。
――音楽以外にもいろいろなかたちの芸術により多く接して、ということですか?
芸術以外にも日々生活していて耳にした言葉なども一つの大きなヒントになりますし、他の演奏家の方々との共演を通して遭遇した事柄など、自分自身の中で感じた思いや直感というのは、意外にもお互いがつながり合っていて、ある日、突然一つの大きな気づきへと膨らむことがあるので、どんなに小さなことでも大切にしています。
――最後に大阪でのクラシック・キャラバン公演を楽しみにしているファンの皆さんにメッセージを。
グリーグのコンチェルトの世界観と魅力を皆さまにお伝えできるように心を込めて演奏したいと思っていますので、ぜひ会場にいらしてください。
取材・文=朝岡久美子

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