【杏仁クルーエル インタビュー】
“狂気とノスタルジック”の世界に
全員で立ち向かった
今はあえて大きな目標は持たず、
現在のベストを更新し続けていく
この3人での始まりの曲ってあったんですか?
五十嵐
4曲目に収録されている「渦になりたい」が最初に作った曲でした。この曲が完成して方向性も広がっていって、トガった曲とかができていった感がありました。「渦になりたい」ができた頃、コロナ禍やメンバーの脱退があり、僕が少し病んでしまって、“いっそ渦になりてぇわ”と意味不明ながら思って書いた曲だったんです。そんな底辺からのスタートだったんで、“もう何でもいい! 内側にあるものを全部出していこう!”と思って、他の曲も書けたっていうのはありますね。
どの曲も楽曲に込めた想いをしっかり汲んで、演奏に乗せられていると思います。そんなテーマありきでできる曲が多いんですか?
コダ
基本的に全部そうですね。五十嵐くんが曲を持ってくる時に“最近、こういうことがあってさ”って、いろいろ話してくれるんですよ。それを聞いてからスタジオに入って作ると、そういう曲になっていくんです(笑)。
例えば「あさつゆは昨日の罪」は孤独や悲しみを描きながら、どこか諦観した歌詞や悲痛な歌がベースとしてあるけど、激情的なギターが乗ることで、それだけの曲になっていないですよね。
五十嵐
そうですね。この曲はPat Metheny GroupのTVアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』のEDテーマの「ラスト・トレイン・ホーム」を聴いた時、オリエンタルな雰囲気を感じて“こういうのやりたいな”と思ったのが最初で(笑)。歌詞はその頃、飼っていた猫か死んじゃって、改めて“命って有限なんだな”と感じた時に書いたものなんです。《初めからそうだった》と、最後に自分の言ってることが矛盾してることに気づくところが気に入っていますね。アウトロの暴れまくっているギターもすごく好きです。
白銀
言葉では表しづらいんですけど、後半のフレーズは一音一音、がっつり気持ち込めて弾きました。
でも、「平家物語」は演奏を録ってる段階で、こんな歌詞になるとは思わなかったでしょ?(笑)
五十嵐
これは僕の日記です(笑)。日頃抱えてる鬱憤を正直に書いたらこうなりました。
コダ
考えたら、この曲だけ歌詞の深さが全然ないよね(笑)。でも、こういう日常の鬱憤を晴らす曲がないと、気持ちがどんどん内にこもっていくから。
怒りや鬱憤を曲のエネルギーに変えていくのがロックだったりしますしね(笑)。楽器隊のふたりが特に思い入れの強い曲は?
コダ
今ままで自分がやってこなかったことができて、杏仁クルーエルの演奏者になれたと思えた「ウシミツの花火」ですね。この曲は自分の頭にしっかり心象風景を描いて叩けたし。“この雰囲気は僕らじゃないと出せない”って曲にしたくて、今のこの3人でできるマスターピースにしようと思って気合い入れて挑みました。
白銀
僕は出来上がって化けたというか、イメージが変わったのは「渦になりたい」ですね。ちょっと切ない感じもありつつ、ポップさもあって、すごく良いバランスで作れたと思います。
今作が出来上がってここからやりたいことも明確に見えてきたと思いますが、アルバム完成後の次なる目標は?
五十嵐
昔は“売れたい!”って気持ちが強くて、メンバーにも厳しくしていたんですが、それだけじゃダメだってことが分かったので、今はあえて大きな目標は持たず、現在のベストを更新し続けていくことを目標にしていて…できれば早く売れたいです(笑)。
取材:フジジュン