【MORRIE インタビュー】
いかに自分なりに
新鮮味を維持していくか?
自分が心から楽しめるようなことを
探してやるしかない
今作に収録されているソロの曲の中で一番古い曲は「忘却白書」。1stアルバム『ignorance』の曲ですから、リリースされたのは1990年です。
この曲は秦野猛行さんがアレンジを全面的にしてくださっています。「忘却白書」は『SOLITUDE』で何回かやっているので、それなりに身体に染み込んでいますね。ソロのバンドでもサックスとコーラスをやってもらっているyukarieさんにも参加していただきました。
「Heaven」はDEAD ENDの曲ですから、「忘却白書」のさらに前の曲ですね。
制作サイドからの“DEAD ENDも1曲入れてください”というリクエストがあったんです。昨年、NYで弾き語りで弦楽四重奏と一緒にやって、DEAD END、CREATURE CREATURE、ソロ曲のレパートリーが7、8曲できたんですね。その中に「Heaven」があったので、そのアレンジでやることにしました。
DEAD ENDのオリジナルアレンジでも感じることですが、エキゾチックな香りのある曲ですね。
ちょっとスパニッシュ的な間奏だったりしますからね。YOUちゃん(DEAD ENDのギタリスト・足立“YOU”祐二の愛称)、そういうのが好きでしたし。
「Blood Music」のあとに「Heaven」が始まる展開は、『shámbara』(1988年5月発表のDEAD ENDのアルバム)を愛聴している人の身体に染み込んでいると思います。
あの流れ、いいですよね。僕も「Heaven」が終ると、「I Can Hear The Rain」のイントロが必ず頭の中で流れるんです(笑)。
「パニックの芽」はソロの曲ですが、1991年のリリースですね。
3曲入りのビデオ『浪漫者のディレンマ』(1991年4月発表)に収録した未発表曲です。他の2曲は『ignorance』に入っています。「パニックの芽」は秦野さんに以前ライヴで弾いていただいた時のファンキーなシンセベースがカッコ良かったから、そのアレンジでやりたいと思っていました。
「Disquieting Muse」は2014年発表の4thアルバム『HARD CORE REVERIE』の曲ですが、構築されている音像に包まれるのがとても心地良いです。
ありがとうございます。この曲は構成的にはもっとも展開が広がる曲かと思います。このアルバムのエンジニアの新銅“V”康晃さんは、DEAD ENDの『GHOST OF ROMANCE』(1987年9月発表のアルバム)の録音をされた方なんです。その後、1988年にDEAD ENDがシングルの「BLUE VICES」(12月発表)を出した時にプロデューサーの岡野ハジメさんが連れてきたエンジニアも新銅さんで。だから、過去に2回やっています。「BLUE VICES」の時は録音からミックスまで全部お願いしたので、1988年以来ですね。
「あの人にあう」は1995年にリリースした3rdアルバム『影の饗宴』の曲ですね。
頭の中に浮かんだアイディアを片っ端から入れていって、あとから省いて整理していくということを2カ月くらいやっていました。ひとりで好きなように作っていけるから、いろいろ遊んだ感じですけど、さじ加減が難しいんですよね。ロジックのトラック数がむちゃくちゃ多くなって、重くて重くて(笑)。いろんな音が入っているので、ヘッドフォンで聴くのも楽しいと思いますね。
「春」は佐井好子さんの曲のカバーですが、昔からお好きだったんですか?
佐井さんの音楽と出会ったのは5年ほど前です。『光る曠野』を作っていた時なので、2018年ですかね。『光る曠野』はススキが光っている荒野のイメージで、ジャケット写真も箱根の仙石原で撮ったんですけど、その頃にススキが生い茂っている中で女の子があやとりをしているジャケットをネットでたまたま見つけたんです。それが佐井さんの1stアルバム『萬花鏡』でした。聴いたらとても声が良くて、他の作品もいろいろ聴いたら全部むちゃくちゃいいんですよ。『密航』と『胎児の夢』は傑作です。一時は佐井さんのカバーを『SOLITUDE』で毎回やっていました。
今回のアルバムのアートワークは秋田和徳さんが手がけていますが、お願いするのは初めてなんですね?
そうなんです。秋田さんはずっとBUCK-TICKをやっていらっしゃいますし、cali≠gariや清春もやられていますよね。清春からも一時、“秋田さんとMORRIEさんはいいんじゃないかな?”と言われていました。秋田さんは作家性が強烈なので、見たらすぐに分かるじゃないですか。秋田さんとは歳も近くて、大学の学園祭でDEAD ENDが来た時に観ていらっしゃったみたいです。Z.O.Aもやってられるので近い存在という感覚があったんですけど、ハマりすぎるのが怖くて(笑)。敬遠していたわけではないけれども、今までお願いしていなかったんですよね。今回はある縁がありお願いすることになりまして、大変満足しております。
水仙の花と月の配置がミステリアスです。
女性の顔を水仙にしたのは僕のアイディアです。粕谷栄市さんという詩人が大好きなんですよ。ファンクラブ会員に向けてほぼ毎晩詩の朗読をしているんですけど、粕谷さんの詩が多くて。このジャケットの水仙や黒髪の女性の元ネタは粕谷さんの詩から来ています。
女性の顔の部分が水仙ですね。
はい。最初、秋田さんは椿を描いてられました。でも、花に成るというならば、人間が巨大な水仙と化す、自分の好きな粕谷さんの詩があるので、水仙にしていただきました。水仙の学名は“ナルシス”なので、それも面白いと思って。
粕谷さんの詩の朗読はライヴでもやりましたよね?
7月に今回のアルバムでもギターを弾いてくれている黒木真司くんの琵琶伴奏で粕谷さんの詩を朗読しました。多くのお客さんは着物で来られて、会場は華やかでしたね。特別なライヴというか朗読会になりました。
それぞれの曲に印象的な世界が広がっていて、“好きな場所がある”という感覚になるアルバムだと思います。
僕も誰かの曲を聴く時、“その世界に参入する”“どこに連れて行ってくれるのか?”“一緒にどこまで行けるのか?”っていう感覚で聴くことがよくあります。それが音楽を聴く最大の悦びと言っていいと思います。没入しすぎると帰ってこられないような曲もあるので危険ですけど、それくらいの曲を作りたいです。
このアルバムがリリースされる直前の9月24日には、SHIBUYA PLEASURE PLEASUREで発売記念コンサートがありますね。
はい。このアルバムに参加したゲストのみなさんにも出ていただきます。音源を再現するつもりなので。普段ひとりでやっている曲も違った感じになるでしょうね。こういうのは初めてです。僕にとっても新鮮な機会になると思います。
今回お話をさせていただいて改めて思いましたが、新鮮なことを積極的に追い求めていらっしゃるなと。
どうなんでしょう? そういうことをするのをあえて指針にしているわけではないんですけど、退屈なのは嫌じゃないですか。自分が心から楽しめるようなことを探してやるしかないんじゃないですかね。単なる“お仕事”とかになると演奏や曲に表れると思うので。だから、“いかに自分なりに新鮮味を維持していくか?”ということです。まだ全然足りないと思っています。来年、還暦ですけど、精神的にさらに若く回帰しているような感じがしています。だから、肉体が続く限りやっていきます。
これからもこの姿勢で活動を重ねていくということですね。
はい。自由にやりたいです。自分で自分に足かせをしてしまうところがあるので、“どこまで足かせを外して自由にできるか?”ですね。特に打ち込みで作っていると、自由度は上がる。『SOLITUDES II』『SOLITUDES III』と、この連作ではより一層自由に追求していきたいですね。『SOLITUDES II』はもしかしたらギターとヴォーカルだけになるかもしれないし、『SOLITUDE』と関連づけてやっていくつもりです。
取材:田中 大
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アルバム『SOLITUDES I :孤絶の歌は天溶かし』2023年9月27日発売
C-block/HAPPINET CORPORATION
『SOLITUDES I:孤絶の歌は天溶かし』発売記念コンサート
9/24(日) 東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
『TRINITY』
9/30(土) 神奈川・Yokohama mint hall
『TRINITY "FIERCE"』
10/15(日) 神奈川・Yokohama mint hall
『ARCHE 4:Live at Night in Gale』
11/23(木) 東京・東京キネマ倶楽部
モーリー:1980年代、伝説のロックバンド・DEAD ENDのシンガーとしてシーンに登場。インディーズシーンで数々の記録を塗り替え、鳴り物入りで87年にメジャーデビュー。4枚のオリジナルアルバムをリリースし、90年1月の活動停止後、本格的にソロプロジェクトを始動。精力的にライヴを展開し、さまざまな音楽性をちりばめたサウンドを発表した。92年にニューヨークに拠点を移し、95年1月の3rdアルバム『影の饗宴』リリース以来、活動をストップしていたが、05年12月にCreature Creature名義でシーンに復帰。09年にはDEAD ENDを再始動する。以降はソロとバンドを並行して活動し、14年1月に20年振りの4thアルバム『HARD CORE REVERIE』を発表。19年4月には5thアルバム『光る曠野』を発表し、ソロ30周年のアニバーサリーを経て、22年9月にはMORRIE自身初となるDEAD ENDセルフカバーアルバム『Ballad D』をリリース。同年12月に2015年から開催してきた弾き語りライヴ『SOLITUDE』が開催100回を迎え、その『SOLITUDE』で演奏される楽曲に新たな息吹を吹き込み、23年9月に『SOLITUDES I: 孤絶の歌は天溶かし』がリリースされる。MORRIE オフィシャルHP