「フィッシュマンズの音楽が世界から
無くなったら困る」茂木欣一が音を鳴
らし続ける理由ーー7年ぶりの東名阪
ツアー開催に向けて心境を語る

2021年夏公開の『映画:フィッシュマンズ』が音楽ドキュメント映画としては異例の大ヒットロングランを記録した事もあり、90年代の青春時代を過ごした人々だけではなく、フィッシュマンズは多くの若者たちにも聴かれることにもなった。そんな状況の中で、フィッシュマンズが7年ぶりの東名阪ツアーを開催する。楽曲のほぼ全ての作詞作曲を担当していたボーカルの佐藤伸治が1999年に急逝するも、ドラムの茂木欣一が活動を再開させて、ずっと今もフィッシュマンズの音を鳴らし続けている。改めて、なぜ佐藤が亡くなってからも、ずっと音を鳴らし続けるのか。そして茂木にとって、僕ら聴き手にとって、フィッシュマンズの音楽は、佐藤の音楽はどのようなものなのかーー。ひとつひとつ丁寧に茂木が話してくれた。
――『映画:フィッシュマンズ』(2021年公開)が上映されたことで、より多くの若い人もフィッシュマンズを知って好きになっている感じがあるのですが、茂木さん的にはいかがですか?
これだけ知ってもらえる時代が来たんだなと思いましたね。監督が2年以上かけて頑張ってくれたので中身が充実していましたから。全然フィッシュマンズを知らなかった人からも「観ました」という感想が届いています。だから、フィッシュマンズの物語なんだけど、みんなの日常でもあったのかなと。出逢いや別れや自然に寄り添う映画というか。佐藤君が(1999年に)亡くなってから約20年、メンバーの心の中にだけ閉まっていたものを語ったのが大きくてね。この気持ちをどうにかしないと次に進みにくいというところが、メンバーたちが映画の中で語ったことで、全員の気持ちが楽になったんです。なので、上映が終わった後のリハーサルやライブが、それまでとは全然違うんですよ。メンバー全員が今までに無かった自由なアイデアをくれるようになりました。結局、フィッシュマンズの曲って、佐藤君とやっていた90年代からアレンジがどんどん変わっていて、楽曲が色々な表情を魅せている。すごく自然にそうなっているんですよ。これまでのアイデアだけに留まらないのも楽しい。何度でも輝けるというか。僕らが90年代にやっていた頃って、HIPHOPとか70年代のソウルミュージックからのサンプリング文化があって、あそこからの発見がすごくあった。当時はとても新鮮でね。だから今がそれなのかな。2023年の10代・20代にとって、90年代がそうなってるというか。サブスクでいろんな音楽探しの旅に出て、どの時代とか気にせず、「これは新鮮だな!」と感じて聴いているんだろうね。良いものって何度でも新鮮に聴けるし、何度でも料理もできる。アレンジを新しくしていくことで興奮するしね。
――今、お話を聴いていて思い出したのは、今年の5月に大阪の泉大津で開催された野外イベント『OTODAMA~音泉魂~』でのフィッシュマンズのライブが凄かったんです。もちろん楽曲は90年代のものであり、ライブで何度も聴いている楽曲でもあるのに、新しい楽曲として聴こえたんです。
みんなの気持ちが充実していたのもあって、リハーサルからとっても楽しかった。僕だったらとか、(原田)郁子ちゃん(クラムボン)だったらとか、何となく歌の振り分けがあったのが、あの時は新しいプランが沸き上がっていく感じでした。
――スタジオに入られる時間が多いし、とても長いと以前に聞いたことがあるのですが。
めちゃくちゃしつこいですよ(笑)。お昼12時に入って、みんな夜8時までいて、僕は夜10時まではスタジオにいますね。ずっと演奏しているだけじゃなくて、お喋りもしているんですよ(笑)。でも無駄話だけをしているわけじゃなくて、これはみんなバンドをやっている人はそうだと思うし、どんな仕事でもそうだろうけど、適当に喋っている時が実は大事でね。冴えたアイデアが出る時は、本線から外れたお喋りしている時に生まれたりするから。集中力にメリハリがありましたね。
――上映以降のメンバーの皆様の進化というのは理解できるのですが、それでもキャリアある方々が未だに進化できるのは凄いと思うんですよ……。
凄いシンプルですけど、できることをやるだけですよ。それにずっと届け続けたい想いもありますから。フィッシュマンズの音楽が鳴らなくなるということが、この世界にあっては困るという想いがあるので。僕自身が音楽に出会って、こんなに豊かになったのもあるし、フィッシュマンズの音楽もそうなったら嬉しいし、その可能性がとてもあるのもわかっているから。「佐藤君の才能って、とんでもないじゃないですか!」と言いたいので。1960年代にビートルズが、十何世紀にモーツァルトが……というのと同じですよ。そんな人とバンドを組めていたのはラッキーですし、クラシックの人たちが当時の音楽を未だに鳴らし続けているのと同じです。何度でも緊張感があるし、何度でも興奮があるし、そういう音楽を佐藤君が丁寧に残してくれたので。
――当たり前のことですけど、フィッシュマンズのライブは90年代の音楽を懐かしむ感じじゃないんですよね。新しい音楽を常に聴けている感じといいますか。
懐かしむ発想は無いし、懐かしむのならリハーサルの回数もいらないしね。丁寧にしないと失礼だし、丁寧にしないと届かないから。言葉、メロディー、アレンジのディティールが細かいからこそ丁寧にしないと。
――『OTODAMA』に関していうと、今まで宇宙を感じていましたけど、より宇宙に飛ばされたというか……、より宇宙を感じたんです、あのライブに……。
(ゲストボーカルの)UAとハナレグミが出てきて、ガツンと歌ったじゃないですか? その時に僕も宇宙と思って……。P-Funkの宇宙船のジャケットを思ってね。この人たち宇宙船に乗って帰るのだな……、とんでもない人たちだなって……。強烈なエネルギーがありましたよね。でもね、あの日よりも今の方がもっと良い演奏が出来ますよ。何度でも夢中になれるからね。佐藤君自身も言葉とメロディーだけで完成する人じゃなくて、余白の持たせ方というか、言葉にならない感情の部分と言うんですかね。はいサビ終わりました、はいギターソロですだけではないから。「なんだかやられそうだよ」(「すばらしくてNICE CHOICE」)と言われて、何なんだろうというとこをくすぐられる感じというか……。
――早く新しいライブを観たくてたまらないのですが、10月・11月には東名阪でツアーがありますよね。
今年に入って、すぐミーティングをしたんですよ。それで決めたんですけど、みんなの気持ちが乗っているというのが大きな理由ですし、映画以降のみんなのアグレッシブの気持ちが凄いから。
――僕らは嬉しいですけど、みなさんフィッシュマンズの他にも色々なスケジュールがある中で、このツアーが実現されるのは本当に嬉しいです。
この前、家でスケジュール帖を手書きしていたんですけど、10月にスケジュールを書きながら結構ビビりました! 秋冬スカパラツアーが始まったりと真っ黒になっていて、スケジュール帖を見て笑いましたよ(笑)。この(スケジュールの)パズルがよくはまるなと! でも、活動ができることの喜びが上まっているので。僕の中ではライフワークですから。ライブをしている時が生きてるなと実感できるので。この前、入院して、手術から10日でフェスに立てたのも運が良かったし、神様が「ちゃんとツアーをやっとけ!」と言ってくれているのかなと。
――改めて茂木さんのタフさを感じるのですが、佐藤さんが亡くなられたという歴史があり、こないだの『OTODAMA』ではゲストボーカルで初めて参加される明治学院大学の音楽サークル「ソングライツ」時代からの友人であるチバユウスケさんが体調不良で出演を見合されたりとか、そういう状況の中でも、笑顔で乗り越えてきているのには本当に驚かされるんです……。
「いかれたBaby」じゃないけど、「見えない力が必要」ということもあるからね。心が塞ぎ込んでいる時に、音楽に助けられることがたくさんある。佐藤君が亡くなった時もそうだったし、もちろん立ち止まって考えることも大切だけど、その先に一歩進まないとわからないこともあるというのを音楽が教えてくれていて。『OTODAMA』のチバユウスケの時も大丈夫だからと音楽に力を込めるだけだったし、「みんなで大丈夫だと思ったら、大丈夫だから!」とマネージャーからLINEがきてね。だから、大丈夫と思える人を増やそうと、そう思っていた。だから大好きな人がいる人は大好きな音楽を流しながら告白したら良いと思うし、そうすればきっと大丈夫だと思うんだよね(笑)。片思いの人がいたら、その人をライブに連れて来てよ! でも、その場合は選曲を気にしないとな(笑)。
――ハハハ(笑)。もう既にツアーの選曲は決められているんですか?
『OTODAMA』で得た手応えが凄く残っているので、凄くアグレッシブで明るい未来があるなと思ってもらえるセットリストにしたいなと思っています。何となくは見えているかな。実はね、水面下でアンソロジープロジェクトを進めていてね。映画を観た時に、この映画のサウンドトラックを作らなきゃと思って。だから、今あらゆる時期のフィッシュマンズを聴いていてさ。ライブ音源からデモ音源や佐藤君のデモ音源まで出来る限りの音源を探しているから、その作業をしているのもあって、ツアーアレンジやツアー選曲まで全てが繋がっている感じもあるんだ。だから、本当に楽しみにしていて欲しい。
取材・文=鈴木淳史 撮影=福家信哉

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