【MYTH & ROID インタビュー】
1stアルバムを超える
ディープな世界観を作りたかった
“感情の最果て”をテーマに音楽やビジュアル、映像といったさまざまな手法を用いて普遍的な人間の感情を表現し、世界的な評価を得ているMYTH & ROID。そんな彼らの新作は“彫刻をめぐる物語”を描いたコンセプトミニアルバムの2連作となった。さらに深化し、より魅力を増した彼らを招いて、“海”と“街”が舞台になっている2連作の第1弾『AZUL』について語ってもらった。
みんなが日常的に感じるだろうなという
感情を表した作品になっている
『AZUL』は“彫刻をめぐる物語”を描くコンセプトミニアルバム2連作の1枚目です。まず、こういう作品を作ることにした経緯などについて教えてください。
Tom-H@ck
僕たちの今までの活動の中でアルバムを制作するのは、かなり少なかったんですよね。そういう中で、ファンの間で“MYTH & ROIDと言えば、アルバムがすごくいいよね”という声が多いことを知ったというのがまずあって。それにプラスして、MYTH & ROID自体が国内でのライヴも積極的にやっていく方針になったので、このタイミングでアルバムかミニアルバムをリリースして、ツアーに出る物語を計画するべきじゃないかと強く感じるようになっていたんです。そういういろんなことが重なって、“じゃあ、作ろう!”と。1stアルバム『eYe’s』(2017年4月発表)はいろんなタイアップの曲が入りながらも物語調になっていて、それが僕たちの世界観を作り上げていたと未だに思うし、人からも言われることが多くあったんです。なので、2枚目のアルバムとなる今作で1stアルバムを超えるにはかなりディープな世界観を作る必要があるということで、2連作のコンセプトミニアルバムという形式をとることにしました。
hotaru
お話を考える部分は僕が担当させてもらったんですけれども、僕自身は当初は物語調まで持っていこうとは思っていませんでした。もうちょっとシンプルに、2作それぞれの色が分かれているくらいのコンセプトをイメージしていました。だけど、いろいろ考えていく中で、僕らの世界観をもっと表していくことに手応えみたいなものが感じられなかったんですよね。Tomさんと話しても、お互いしっくりこない感じがあって、その状態から改めて突き詰めて考えていった先の答えとして、物語調の作品に行き着いたんです。
物語の内容はどんなふうに決めたのでしょう?
hotaru
物語調にしようと決めてから資料を結構探したんですよ。今のMYTH & ROIDはどういうことをするのがいいかを考えながら、いろんなアート作品だったり、自分が過去に触れた作品だったり。そこで、1枚の画像をネットで見つけまして。スペインに『Museo Atlantico』という海底博物館があるんですが、博物館というか、人や車などいろんな彫刻を海底に沈めて、お客さんはダイビングで潜って鑑賞するんです。それを見つけた時にすごくインスピレーションを刺激されて、そこから僕の中では一気に物語であったり、今回のジャケットのイメージだったりが膨らんでいきました。
だから、沈みゆく島を舞台にした物語になったんですね。KIHOWさんは今作の形態を聞いた時、どんなことを思いましたか?
KIHOW
hotaruさんから最初にいただいたストーリーは、すごく悲しいお話だったんですよ。本当に文章を読むだけで“こんなに悲しい話なんだ…”と思ってしまうような。
hotaru
ちょっとだけ補足すると、当初は今よりもちょっとだけ悲しい結末だったんです。そこから改稿して、最終的にはいくらかポジティブなものになりました。“救いがある”と言いますか…
KIHOW
そう! それで、“あぁ、良かった”と思って(笑)。でも、最初は悲しい結末の印象が強くて、その時点ではまだ楽曲も何もできていない状況だったから、悲しい曲ばかりになるのかなと思っていたんです。最終的にそういうこともなく、主人公の少年はいろんな出会いを経験して、その中で感情が変わっていったりする、いろんなことがある物語なんです。なので、お話自体は特別なものではありますが、自分も含めて聴く人みんなが日常的に感じるような心情を表した作品になっています。今まで楽曲をリリースする時は、一曲一曲で完結していたのですが、今回は一曲ずつでも完結しているけど、ミニアルバム全体を通したストーリーがある上で楽曲を使って物語を表現しているので、より大きな作品になっていく感覚もあり、作っていてすごく楽しかったです。
確かに『AZUL』はストーリーに沿った作品でいながら、全曲テイストが異なっていることも注目です。そして、アルバムの冒頭に物語を伝える朗読が入っているのもいいですね。歌詞カードなどに物語を書くとリスナーはそれを読みながらアルバムを聴くことになりますが、最初にストーリーが自分の中に入ることで、より音楽に集中できます。
hotaru
導入の部分をどうしようかというのは、かなり考えました。『eYe’s』を作った時は、特に表題曲は“あるストーリー”をコンセプトにして作ったのですが、“こういうストーリーですよ”というのをあえて明確に出しませんでした。なので、お客さんはMVのオリジナルのお話だと受け取ったんじゃないかと思いますし、僕としてもそういう伝え方をしたかったんです。
それはなぜなのでしょう?
hotaru
物語を作ってはいるけれど、どちらかと言うと音楽を主体に聴いてほしい意識が当時は強かったからです。でも“伝えきれなかったかもしれないな”という想いが僕の中にあったので、今回は“こういうお話なんだよ”ということをガッツリ伝えるべきじゃないかと考えていたんです。ただ、それをどういうかたちで伝えるかを結構悩んでいて、例えば特設サイトにお話だけを載せる方法もあると思うんですよ。でも、そうすると音楽を聴くところから、さらにもう1回検索して辿るステップが必要になるので、それはどうなのかなと思っていたんです。そうしたら打ち合わせの時に、レーベルのプロデューサーさんが“朗読したらいいんじゃないの?”とポンとおっしゃって、“あっ、その手があったじゃん!”と気づいて朗読でいくことにしました。