追悼:坂見誠二〜ダンスの神様が伝え
たかったこと#2「PEET & TAKA」

「ダンスク!」より転載
「ダンスの神様」こと故・坂見誠二氏の功績を追うため、ゆかりのダンサー/関係者たちにインタビューをしていくシリーズ「ダンスの神様が伝えたかったこと」
第2回目は、誠二の愛弟子であり、長年に渡り苦楽をともにしたダンサー「PEET」と「TAKA」だ。
インタビュー&テキスト:石原ヒサヨシ(ダンスク!)
“坂見誠二ダンス研究所”の実験台でした
1985年頃にBe Bop Crewは解散するが、誠二はニューヨークのアポロシアターで開催されるコンテスト「アマチュアナイト」で準優勝をするなどの活躍の場を広げ、1990年には「Wild Crew」なるチームを結成、相方に選ばれたのは11歳年下の新人ダンサー「PEET」だった。
「あの頃、僕がチームを抜けて腐っていた時に声をかけてくれました。誠二さんは大恩人です。それから30年間、弟子をやらせてもらっている感じですね」(PEET)
「Wild Crew」と名前の入ったジャンパーを着て博多の街を2人で歩くと、有名人である誠二に次々に声がかかる。まだ21歳だったPEETもいくぶん誇らしい気持ちで兄貴分の背中を追っていたという。
「最初は誠二さんみたいに踊ろう、ってつもりだったんですけど、どうしても自分自身が出てしまって、たまにステージで誠二さんの前で被って踊ってたりして(笑)。誠二さんも自分のコピーを作ろうとしたわけじゃないから、内心喜んでくれていたんじゃないかと思います」(PEET)
身体能力の高いPeetは、立ち踊りだけではなく、B-BOY(ブレイキン)もアクロバットもこなした。2人の練習では、誠二がPEETに指示を出し、動かし、時には無茶を承知で新しい動きを研究したいたのだという。
「たとえば、ランニングマンからターンして、トーマスやってバク宙、みたいな無茶振りです(笑)。何度も怪我して整形外科行きましたから(笑)。あと下半身がニュージャックで上がロックダンスの動きとか、いわゆる“フュージョン”の先取りをしていたんですね。僕がメンバーに選ばれたのは、ある意味で僕の体で試したいことがあったというか、“坂見誠二ダンス研究所”の実験台だったんです」(PEET)
アップ&ダウンは実は「真ん中」が大事
時代は1990年代、誠二のダンスへのあくなき研究は進む。
ダンスはオールドスクールから、ニュージャックスイングやミドルスクールを経て、ニュースクールの時代へ突入。
ヒップホップの時代だ。
ヒップホップダンス黎明期の金字塔的番組『ALIVE TV』などを研究して、当時から情報通として知られていたのが、PEETと同郷の広島出身であり、現在「ダンススタジオFLEX」を運営するダンサーTAKAだ。
「誠二さんから“ちょっと来い”と声がかかって、僕もある意味、実験台だったんだと思います。1990年代初頭の新しい流れのダンスを知ろうとしていた。誠二さんには常に新しいものを吸収していこうという姿勢がありました」(TAKA)
「ヒップホップもニュースクールも、ソウルダンスと同じパーティーグルーヴだと捉えていて、どんな風にダンスが進化してそうなったかを知りたかったんだと思います。各ジャンルをカタチとして捉えるのではなく、音の感じ方=グルーヴの違いだと捉えていた。ダンスがどう派生して、どう繋がって、どう進化していくか——新しいジャンルにも絶対に過去とのつながりがあるはずだと、謎を解き明かそうとしていた。まさにダンスの研究者ですよ。いろんなジャンルを自分に取り込んで、それを自分の体で奏でるという、ミュージシャン的な感覚もありましたね」(PEET)
誠二の功績としてあげられるのが、相棒のYOSHIBOWと開発した「アップ&ダウン」の定義だ。黒人ダンサーのノリ方を覚えるためにレッスンに導入したこの指導法は、その後のダンスレッスンのリズムトレーニングを変えた革新的なものだった。
「でも勘違いしないで欲しいのが、アップとダウンを分けているんじゃなくて、“真ん中”を意識することが大事ということを、誠二さんは教えたかったんですよ。常にニュートラルを意識して、どちらでもいける感覚を持ちなさいと。アップをしている時にはダウンを意識し、ダウンでとっている時にはアップの方を意識する。だから、真ん中=ニュートラルにいる感覚が大事。この感覚がないとソウルダンスはうまくならない。パーティーグルーヴのダンスの“揺れ”を表現するためには、常に真ん中にいなくてはいけないんです」(PEET)
アップ&ダウンは真ん中を覚えるためにある——なかなか奥が深いポイントだが、さすが30年間弟子をつとめたPeetからの目から鱗の話である。
自分を押し出すことよりも、どう見られるかを
2015年、2人は誠二とともに会社を立ち上げ、死の間際まで誠二をサポートした。2022年には誠二が審査委員長を務めたDリーグのジャッジ代理をPEETがつとめ、2023年にはがん治療のための募金活動も2人が推し進めた。
「誠二さんは当初、募金をやりたがってなかったんです。でも高額の治療費がかかるのは事実だし、病状はどんどん深刻化していた。最後は了承してくれましたが、ギリギリまで、自分がダンサーの看板を背負っていること、“ダンサーのイメージ”を気にしていたと思います」(PEET)
「誠二さんがよく言っていたのは“求められてないことをするな”ということでした。求められてないのにしゃしゃってくるダンサーを野暮だと思っていた。粋な人だな、カッコいいなと思ってました」(TAKA)
やはり、ここでも語られる誠二の「スマートさ」と「バランス感覚」。まさにアンダーグラウンドだったストリートダンスの地位を引き上げるため、さまざまなステージやメディアへ出演、そのTPOに合わせて臨機応変にダンスの「在り方」「伝え方」をアジャストさせていく。
「ダンスをやってない人にも伝わるような言葉の引き出しにはいつも関心していました。僕じゃ絶対出てこないようなコメントで、どんな人も納得させることができる。ジャッジムーブをするにしても、客層を見て変えていましたから。一般の人が多い時はもっとわかりやすく、ダンサーの前ではマニアックにとか。それも常に、どんな状況でも平均点以上のパフォーマンスを出す。客を見て選曲するDJやミュージシャン的な感覚が強かったですね。自分を押し出すことよりも、どう見られるかを客観的に考えていた気がします」(PEET)
「ニューヨークのアポロシアターに出た時も、忍者の格好で出たんですよ! 当時のアメリカで黒人の真似をして踊ってもしょうがないだろ、ってあえて忍者の格好を選んだ。今では、日本人には当たり前の手法になっていますが、1985年の話ですから、先見の明というか相当な客観性があったと思いますね」(PEET)
▲誠二とPeetがさまざまなテーマで語るS&P DANCE FUSIONの動画シリーズ。誠二のダンサーとしてのこだわりや、その伝え方を感じることができる。
ずっとカッコいいままで逝っちゃった
2人の若手を実験台にしながら、ダンスの進化と可能性を研究・追求し続けた誠二。しかし、彼の脳内で分析され、弾き出される答えはいつもシンプルを極めたものだった。
「引き算が上手い人でしたね。僕なんかはどんどん足していっちゃうんですけど、誠二さんは引いていく。ショーを作る時も、最後には引き算していた。あえて踊らないで見せるとかね。それはダンスだけでなく、普段の生活からもそんな美学がありました」(PEET)
「常に客観性と自分がどうしたいかというバランス感覚を持っていたと思います。僕らを動かして、足し算していくんだけど、そこから引き算して、最終的な答えを見つけていく。結果シンプルで、とてもわかりやすいものになっているんです」(TAKA)
「要は足し引きのバランスですかね。初心者に教えるには、自分が動いて見せる。プロに教える時には、相手を動かして引き出していく。アップのリズムをやってると思ったらダウンになったり、動かしながらあえて旅をさせるような教え方をする。やがてその奥義にハッと気づいた生徒を見つけたら、誠二さんは「楽しい」ってニヤっとしているんです(笑)」(PEET)
30年来を共にした、2人にとって兄貴分へ——最後に伝えたかったことは何だろうか?
「できれば、もっと痛いとか苦しいとか泣き言を聞きたかったですね……。誠二さんは、ずっとカッコいいままで逝っちゃった。自分の状態を気にしてお見舞いも断っていましたから。でも亡くなる直前まで、元気にLINEでダンスのことを言っていたし、まさに死ぬまでダンスのことを考えていた人だと思います」(PEET)
誠二の残した想いは、愛弟子の体を通じてこれからも奏でられていくことだろう。
PEET●プロフィール
1969年広島県生まれ。15歳でブレイキンを始め、福岡へ移住して「IMPERIAL JB`S」のメンバーに。その後、誠二との「Wild Crew」を経て、再結成された「Be- Bop Crew」へ加入。数々のコンテストやメディアで活躍する。現在は株式会社セカンドファクト代表取締役、広島を拠点に、TAKAとともに「ダンススタジオFLEX」を運営する。趣味はサボテン栽培。
@peet_bbc_flex
TAKA●プロフィール
1969年広島県生まれ。高校時代からダンスを始め、ヒップホップカルチャーに傾倒する。数々のコンテストで優勝、『ダンス甲子園』『RAVE2001』などの番組に出演し、DA PUMPのダンサー/振付師としても活躍する。一般社団法人日本国際ダンス連盟FIDA JAPAN参与。
@takaflex

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