「『源氏物語』はパニック・ラブ・ス
トーリー」~紅ゆずる、『沙羅の光』
で光源氏を演じる心境を語る

2018年より日本文化の魅力を発信してきた「J-CULTURE FEST」。2024年の年始は『源氏物語』をテーマとする詩楽劇『沙羅の光~源氏物語より~』を上演する。作品の中で詠まれた和歌を、日本舞踊や歌、語り、和楽器演奏の演奏等と共に聴かせていく趣向。有職装束を製作・販売する井筒が特別に製作した豪華な装束の数々も見どころだ。光源氏役を演じる紅ゆずるに舞台への意気込みを聞いた。
ーー『源氏物語』の印象はいかがですか。
パニック・ラブ・ストーリー。展開が次から次へとすぎて、ひとりに対する愛情、話が完結しないままエンドレスに続いていって、何だかパニックじゃないですか。それと、光源氏という人が本当に美しくて、誰もが憧れる存在、でも、外見は美しくても中身まで惚れ込まれているのかどうかはちょっとわからない。外見ありきの人物というイメージがすごく強いです。中身までがすごくすばらしかったら、ひとりの人を愛し続けたりとかするんでしょうけど、そうじゃないから。宝塚在団中、「光源氏をやったらいいのに」という声をものすごくたくさんいただいたし、自分としても男役として光源氏をやりたい気持ちもあったし、劇団からもそんなお話をいただいたことがあったんですよ。だけど、『ANOTHER WORLD』(2018。あの世を舞台に繰り広げられる落語ミュージカル)に行っちゃったんですよ、コメディやりたかったんで。光源氏とは真逆の世界でしたね(笑)。
紅ゆずる
ーービジュアル撮影で光源氏の扮装をされた感想は?
宝塚メイクの光源氏のイメージしか自分の中になかったんですが、撮影のときは素化粧で。生地から作った綺麗で豪華な衣裳なんですよね。とても重たかったですし、本番もこれで行くので、かなり重たいと思います。本当の着物の重さを初めて体感して。これまでも着物のお衣裳や色袴はありましたが、そこまで重たいものではなかったし、現役中に『宝塚舞踊会』で弁慶を踊らせていただいたときも、そんなに重たくない、動きやすく作られた衣裳だったので。昔の人は本当にこういう重さのものを着ていたんだな……という気持ちになりました。その重さが時代背景や心情ともつながったりするのかなとも思います。お衣裳や靴の重さって、現役のときからすごく気にしていたんですよ。『霧深きエルベのほとり』(2019)で船乗りを演じたときも、この役は足元が重い方が絶対いいと思って、公演期間も長かったですが、あえてすごく重たい本物に近い船乗りの靴を履いて。その方が役に入りやすい、近づきやすいと思ったんです。今回も着物が本当に重たいので、自分の心情と重なればいいなと思っています。
ーー『源氏物語』との出会いは?
宝塚花組公演『あさきゆめみし』(2000)が出会いですね。めちゃめちゃ綺麗な舞台でした。宝塚音楽学校の予科生だったとき、見学会で二階席の一番後方の席で見せていただいて。その後、映像などでいろいろな『源氏物語』にふれてきて。光源氏が美しくなかったらこういう話にはならなかったと思うんです(笑)。本当に美しくて、何をさせても様になるというところからすべては始まっていくから。
ーー宝塚退団後、男役を演じる心境は?
光源氏に関しては、あまり男役だと思ってないんですよ。私は、宝塚を退団した後は男役をやることは金輪際ないだろうと思っていたんですね。光源氏に関して言えば、もちろん男性ですごく女性を魅了していくんですけれど、あまり男男していない。今回のお話をいただいたときも、光源氏ならばやらせていただきたいなと思いました。人たらしって言うんですかね。他の男性がこういう女性を知ってるかって光源氏に情報提供したりするじゃないですか。人としても、魅力というか、魔性というか、男性でもない女性でもない中性的なものをすごく感じるんですよね。だから今回も、男性を演じるけれども男役とは思っていないんです。妖艶に魔性的なものを演じるというか、本当にこの人は人間なんでしょうかみたいな、ペガサスとかユニコーンみたいなそういうイメージですね。人間らしいところがあるからこういう話になっているとは思うんですが、そうじゃないところを出せたらいいなと。六条御息所が生霊になって出てきたりしますけれども、そういったものを光源氏自身が常に持ち合わせているんじゃないかなと思ったり。現実世界じゃないようなところで行われているようなことが形になって出ているのが『源氏物語』なのかもしれないなという思いもあって。母親の影を追い求めた結果がこうなっているわけじゃないですか。その時点で妄想っていうか、自分の欠けている愛情、一番欲しかった愛がなかったがために、そこを埋めたくても埋められなくて、愛を探し続けているみたいなイメージがあります。
紅ゆずる
ーーお話を聞いていて、新之助時代の市川團十郎が演じた『源氏物語』(2002)の光君がどこか宇宙人のように感じられたことを思い出しました。
その舞台は拝見できていないんですが、後輩が持っていたそのクリアファイルを見て、すごく綺麗だなと思いましたね。美しい人がやるからこそ惑わせられるというか、顔だけではいけないとも思うけれども、「その笑顔を見たら何かもういいか」と思える着地点がすごく大切だと思うんですよ。
ーーそういう役どころを演じるにあたって気をつけたいこととは?
所作です。そこは尾上菊之丞さん(演出・振付・出演)に教えていただきたいですね。女性で所作が綺麗って絶対損しないと思うんですよ。菊之丞さんに一度ご挨拶させていただいたとき、片足ずつ膝をついて正座されるんだなと思いましたし、指先までお美しくて。ご飯とか一緒に食べたら緊張して何も食べられなさそう(笑)。
ーー日本の伝統文化、和の世界が展開される舞台ですが、楽しみなところは?
宝塚音楽学校時代、三味線は好きで成績はものすごくよかったんですね。でも、この時代は三味線はまだなくて、箏なんですよね。その演奏が楽しみなのと、歌舞伎がすごく好きで。客席で観るのとやってみるのとでは全然違うと思うので、いろいろ聞いて教わりながら苦しもうと思って。音楽学校時代、『あさきゆめみし』の舞台を観て、「二年後入団したら自分もこういうことやってるんだ」と思いましたけれども、大間違いでしたから。二年間でそんな立ち振る舞いはできるようにはならないですし。ラインダンスひとつ作るにもこんなに練習してもできない、何場面も出ていらっしゃる上級生の方って本当にすごいなってそのとき本当に思ったので、それと同じだと思うんですよね。好きだったら上達は早いと言いますけれども、そんな急激には上手くならない。でも、自分なりに、お正月公演にふさわしい立ち振る舞いができるようにしておきたいので、頑張ります。現役時代、菊之丞さんの振付を一度も受けたことがないんです。他の組が受けていて、お稽古場でよくお見かけしてはいたんですが。今回、演出も振付もされる方と共演もさせていただくのが初めてなので、不思議な感覚です。
ーー共演者の方々についてはいかがですか。
紫の上を演じる井上小百合さんには一度お会いしましたが、かわいい方だなと。すごくはかなそうなイメージで、そういう役がお似合いになるのかなと思っています。
紅ゆずる
ーーお正月に舞台に立たれることについてはいかがですか。
ありがたいことだと思います。芸能界で年末とお正月が忙しいのってすごくいいことだって言うじゃないですか。やっぱり何か気持ちが引き締まりますよね。1月1日から舞台に立っていたこともありますし、ご観劇くださる皆様にとっても、舞台関係者にとっても、年の始まりってその一年を占うみたいなところがあると思うので、『源氏物語』でスタートできて、気持ちも新たに舞台に立てる気がします。
ーー公演以外のお正月の過ごし方についておうかがいできますか。
一月に京都に行くのが好きですね。南座に観劇に行くのも好きです。「お正月!」という感じで、なんていい年の始まり方だろうと思います。1月2日に大阪の松竹座に歌舞伎を観に行くのもいいですね。絶対おめでたい演目で、ありがたいみたいな気持ちになりながら観劇できるし。あと、実家が、お正月をものすごくちゃんとする家で。親戚一同集まってお屠蘇とか回すんです。お重の中に入っている食材の意味とか小さいときからものすごく聞かされてきたし、12月30日くらいから「あけましておめでとうございます」という親戚へのご挨拶を練習し始めたり、挨拶回りもすごく緊張しましたね。だから、1月1日はうれしいけど緊張する日ですね。クリスマスが終わったら母がおせち料理を本格的に作るのを手伝ってました。
ーー2023年はどんな年でしたか。そして、2024年はどんな年にしたいですか。
2019年に宝塚を退団して、コロナ禍になって、舞台を含めいろいろな仕事が前に進んでいかなくて、ものすごく歯がゆかったんです。2023年に入り、ドラマやバラエティ番組といったいろいろなお仕事をいただけるようになって、瞬発力の発揮が大切だなとすごく思うようになって。それは舞台にも言えることだと思うので、2024年もどんどんいろいろなところに進出していきたいなと思っています。
紅ゆずる

ヘアメイク:miura(JOUER)
スタイリスト:鈴木仁美
衣裳:
ブラウス、スカート〈参考商品〉(AKIKO OGAWA
イヤリング¥5250、リング¥13200(ABISTE)

取材・文=藤本真由(舞台評論家)    撮影=中田智章

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