けいちゃん majikoもゲスト出演で熱
唱、『LIVE TOUR 2024『円人』』東京
公演のオフィシャルレポートが到着

フリースタイルピアニスト・けいちゃんが、2月2日(金)に東京・豊洲PITで『LIVE TOUR 2024 『円人』』東京公演を開催した。本記事では、同公演のオフィシャルレポートをお届けする。

管弦の響きの中、青い薄靄が立ち込める真っ暗な舞台。やがてそこに現れたバンドがひとりずつスポットライトを浴びながら音を重ねてゆけば、真っ白な衣装に身を包んだけいちゃんが拡声器を片手に現れる。舞台中央のグランドピアノに指先を乗せて、奏でるのは「幻想即興曲/X」。耳に馴染んだショパンの名曲は、乱れ飛ぶ色とりどりの光線の中でドラムのビートに砕かれて、新しい表情を吹き込まれ、ベースやギターと手を取り踊る。やがて楽曲がフィナーレを迎えると、観客席からは大歓声が上がった。
けいちゃんが2月2日(金)、東京・豊洲PITで<LIVE TOUR 2024 『円人』>東京公演を開催した。今回のツアーは2023年12月にリリースされたアルバム『円人』を引っさげて東京および大阪の2会場で行われたもの。公演前、けいちゃんのSNSにはバンドセットでのリハーサル風景などが投稿されてファンの期待を高めていた。
1曲目から続いて「Freestyle Piano Etude」では、皮肉っぽいクラシックスタイル、詩情に満ちたジャズ、鋭角的なロックなど様々なピアノのスタイルを存分に見せつけたけいちゃん。曲中ではショルダーキーボードを担いでギタリストと煽りあい、拡声器でシャウトして、バンドのグルーヴの中で思うままに遊び回る。
けいちゃん
序盤から大興奮のライブとなったが、最初のMCでは「というわけで、本日の公演はただいまの曲をもちまして終了とさせていただきます!」とジョークを飛ばす。「全ての力を使い果たしてしましました!」というだけの熱量があった冒頭2曲だけに観客も冗談とわかりつつざわついていたが、「うっそぴょん」の一言に安堵した様子だった。
観客とのコミュニケーションを楽しみつつ、いつの間にかバンドメンバーが去っていたステージを探索するけいちゃんは、舞台の上に楽譜を見つけてピアノの譜面台へ置く。そして柔らかな雨音と会場の壁を撫でる光の雨の中、奏でられたのはショパンの名曲「雨だれのプレリュード」だった。
照明やSEの演出がある中でショパンを聴くこと、それはクラシックの演奏会ではほとんど体験できないことであるが、それ以上に驚くべきは演奏解釈だ。作曲家が見ていたもの・聴いたもの・抱いた感情の再現を追求するクラシックの演奏家とは対照的に、けいちゃんは楽譜に描かれたそのものの美しさを観客に聴かせる。雨の修道院で恋人の帰りを待つ病めるショパンの姿もメロディの中に存在させながら、硬質な打音を連ねつつ外向けの激情を開放させるその演奏は、聳え立つ摩天楼のガラス窓を叩く長い雨の情景に聞こえた。
張り詰めた絹糸を切り裂くような「戦場のメリークリスマス」を終えて、けいちゃんはステージにバンドを呼び戻す。「最強メンツを揃えた」というバンドメンバーは、笹井BJ克彦(Bass)、菰口雄矢(Guitar)、柴田亮(Drums)の3人だ。菰口によると「(笹井と柴田は)2曲を終えてステージからはけた瞬間にトイレに走っていった」そうで、けいちゃんからは「もうおじいちゃんやん!」とツッコまれる。
ここでけいちゃんは「楽器のお勉強コーナー」と称し、ジャズのビートをドラムにオーダー。「これがドラムという楽器です!」と紹介して観客を笑わせながら、ウッドベース、そしてギターの音色を重ねていく。「あとは僕のメロディをのせれば完成かな?」の台詞とともにピアノの前に座ったけいちゃんが鍵盤へと指を滑らせると、洒落たビートは瞬く間に久保田早紀「異邦人」のカバーへと変わり、観客は音楽の魔法に魅了される。
続けて「unravel」を披露したけいちゃんは、少し改まって2023年12月にリリースしたニューアルバム『円人』を紹介する。“死生観”をテーマとした同作は収録された11曲を続けてひとつの楽曲として繋げ、死した男の魂の旅と輪廻をめぐる物語を描くもの。その11曲を披露するにあたり語った「(11曲1組なので)次が最後の曲です」という嘘でも本当でもない言葉には、やや困惑の笑いが上がった。
「じゃあみなさん、『円人』の世界に行ってらっしゃい」
その言葉と共に暗転した舞台へブザーが鳴り、ステージ後方の黒い幕が開く。そこに投影されるのは向き合うふたりの男女の姿。読み上げられる抽象的な詩は今公演のためけいちゃんが自ら書き下ろしたもので、「→Entrance」の中で黒い背景にアーティストやスタッフの名が流れていく演出は、さながら映画のエンドロールのようだ。
アルバム収録曲を収録順に披露していく今回。「馬の耳ドロップ feat. majiko」で飛び出して来たmajikoは挑発的なマイクパフォーマンスで舞台の上を躍動し、けいちゃんは拡声器を使い「日頃の鬱憤とか恨みとか全部、歌って発散してください!」と客席へ呼びかける。それに応えて「うっそぴょーーーん!!!冗談だよーーー!!!」と声を張り上げ、ペンライトを振る観客たちはみな笑顔だ。
けいちゃん、majiko
日常の不平不満を騒ぎ立てる前曲とは対照的に、「千鬼への合流」は鍵盤から続くハンマーのフェルトが弦を叩く質感すら感じさせる繊細なピアノ曲。それがバンドサウンドと溶け合い「夜行 feat. majiko」に流れ込むと、ヘヴィな低音と激変するメロディが観客を揺さぶる。この曲ではmajikoをヴォーカルに据えてキーボードへ移動したけいちゃん。激しいサウンドはキーボードの音が聞きやすく設定されてはいるものの、プレイはあくまでバンドサウンドの一部として振るまう。それはプロデューサーとして音楽を作り上げるけいちゃんの在り方を示しているようだった。
「MAIHIME」では見えない管弦楽隊を引き連れて、音域の違いによるグランドピアノの様々な表情を観客へと聴かせる。その背後では青白い花が花弁をひとつずつ落としていった。クラシカルなピアノ協奏曲を想起させる同曲から導かれるのは、怪しくファンキーな「Life Game」だ。物語は自らの死を自覚した男の魂が僧侶に出会い、お経をあげてもらう場面。ディスコ調のライトが踊る中、けいちゃんはピアノから離れて怪しげな空気を纏い、腕を広げて経文を唱える。
「Dance of Lake」はチャイコフスキーの名旋律をプログレッシブ・ロック風にアレンジしたもの。ライブ全体を通しても最もテクニカルな楽曲ではあるが、それはピアノの技術で魅せるというよりも、誰もが知るクラシックの名曲をバンドとして現代風にアレンジしたことを作曲家・アレンジャーとして誇っているように聞こえる。彼らの演奏は“けいちゃんとバックバンド”ではなく、“4人組のバンド”のサウンドだ。続く「シンフォニア」は映画『美男ペコパンと悪魔』の主題歌として制作された、コンセプト性の強いアルバム内ではやや異質な楽曲。けいちゃんはピアノを背に、殴りつける低音の中でしゃがみ込み歌う。
激しい光の中にステージが見えなくなれば、「recollection」の純朴なピアノの音色が静寂を纏う。次第に膨らむ音楽は壮大な管弦のハーモニーで花開き、背後のバンドも音を重ねていく。静かでありながら決然としたアウトロではmajikoがステージの中央に歩み出て、「愛葬 feat. majiko」を切々と歌い出した。
鍵盤に向き合うけいちゃんと、それを見詰めるmajikoの視線は交わらない。その姿は『円人』の物語を描くふたりの姿に重なる。壮絶なまでのバンドのサウンドに背中を押されて、majikoは歌声を振り絞り愛しい人との別れを叫ぶ。対して淡々と旋律を紡ぐピアノは無情に過ぎる時を思わせて、しかし後半では無言の歌で届かない言葉を訴え、歌声と絡み合う。誰もが息を呑む愛と葬送の歌は満員の観客を圧倒し、会場は大きな拍手に包まれた。
けいちゃん
物語の終わりを告げる「Exit→」は、つかみどころのなく不穏で前衛的な楽曲。スクリーンから稲妻めいた閃光が迸る中、各曲を縫い留める抽象的な詩は冒頭へと輪廻する。暗転する舞台に響くのは時計の秒針が時を刻む音。スクリーンには始まりと同じくスタッフクレジットが粛々と流れ、「Fin.」の3文字でライブは幕を下ろした。
アンコールの声に呼び戻されたけいちゃんとバンドは、眩い光と手拍子の中で「√Future」を披露。心臓を揺さぶる激しいサウンドの中に突き刺さる華やかで鋭角的なピアノテクニックは、自らの技術を誇示するというよりも、オーディエンスの喜ぶものを求めて洗練されていったものに聞こえる。
「私がピアノを弾いて、音楽を作って、動画を撮って活動しているのは、本当に皆さんのおかげでしか無いので、感謝を伝えたいと思います。本当に!ありがとうございます!」
弾き終えて、これまでのトークよりもいっそう声を張り上げたけいちゃん。華麗な演奏とはギャップのあるのんびりした語り口が魅力的な彼のMCだが、観客やスタッフへの感謝を伝える声と心はひたすらに真摯だ。ここでカンペ読み丸出しでのツアーグッズ紹介を挟み、ゆるやかな雰囲気となったステージにはmajikoが花束片手に再登場。けいちゃんへと贈られた花束はドライフラワーでできたもので、曰く「(けいちゃんは花を)枯らしちゃいそうだからドライフラワーにした」とのこと。その言葉に、「馬の耳ドロップ」の歌詞にあらわれたけいちゃんの生活ぶりを知るファンからは笑みが漏れる。
そしてmajikoはけいちゃんのピアノにあわせ、椎名林檎の名曲「丸の内サディスティック」を唇にのせる。ジャズテイストのピアノと艶やかな歌声が絡むそれは、原曲の醸すスリリングで頽廃的なエロスをラグジュアリーに再構築していく。
互いの演奏を讃えあい、「バイバイ!」とmajikoが送り出されれば、ライブはいよいよラストナンバーに。まだまだけいちゃんの演奏を聴いていたい観客が「え〜?!」と名残惜しげな声を上げると、けいちゃんは「(その声が)生きる糧。もっとちょうだい!」と喜ぶ。そうして膨らみ続ける歓声を楽しみつつも、しばらくすると「『え〜?!』の摂りすぎは体に悪いらしいので、もういいです」と冗談まじりに満足を告げて笑いを誘った。
最後の曲に選ばれたのは、1stアルバムの収録曲「World&Me」。世界と私、その表題を象徴するかの如く爽快感と内面性の入り混じる旋律は、バンドと様々な形に織り重なって、百花繚乱の音楽を作り出す。内在的な感情を作曲家の楽譜にのせてその解釈を提唱するのがクラシックのピアニストならば、けいちゃんは外の世界から受け取った歓声や感情を自らの中で拡大して指先から開放させるピアニストなのかもしれない。奔放なメロディの中に“わたしたち”の居場所を感じさせるその演奏は、けいちゃんのピアニストとしての在り方の表明であり、アーティストとしての存在証明にも聞こえた。
言葉は少なく、しかし雄弁なピアノで語り、ライブでの再会を観客に誓って、何度も手を振りステージを去っていったけいちゃん。この公演の模様は2月10日(土)から2月16日(金)まで配信も行われる。
集合写真

Text by 安藤さやか
Photo by 森 久 / 江隈麗志

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