新世代が天翔ける! 隼人、團子、米
吉たちのスーパー歌舞伎『ヤマトタケ
ル』が新橋演舞場からはじまる~舞台
稽古レポート

2024年2月4日(日)より3月20日(水・祝)まで、新橋演舞場で上演されるスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』。38年前の同じく2月4日に、新橋演舞場でスーパー歌舞伎の第1作目として初演された作品だ。
中村隼人と市川團子が、小碓命(おうすのみこと)後にヤマトタケルと、大碓命(おおうすのみこと)の2役を交互出演で演じる。中村米吉は、姉妹である兄橘姫(えたちばなひめ)と弟橘姫(おとたちばなひめ)の2役を勤める。
(左から)囲み取材に応じた市川團子、中村隼人、中村米吉。
開幕に向け、2月3日にマスコミに舞台稽古が公開された。隼人がヤマトタケルを勤め、團子は帝の使者役で登場。囲み取材でのコメントを、舞台写真とともにレポートする。
■小碓命と大碓命
本作は、日本神話をもとに哲学者の梅原猛が脚本を手掛け、團子の祖父・市川猿翁(三代目市川猿之助)がスピードとスペクタクルに溢れた、壮大なストーリーの歌舞伎に練り上げた。物語は、大和の国の宮殿から始まる。
小碓命(隼人)には、顔はそっくりで性格のちがう双子の兄・大碓命(隼人)がいた。父である帝(市川中車)の儀式に、兄が5日も欠席している。そこで帝は、小碓命に兄のもとへ行き確認するよう申し付ける。
兄の大碓命には、兄橘姫(米吉)という妻がいた。にも関わらず弟橘姫(米吉)をも我が物にしようとするような横暴な性格だ。小碓命がやってきて、儀式に顔を出さない理由を聞いてみると……。
大碓命と弟橘姫小碓命と兄橘姫
開幕に向けて隼人は、本作への出演に感謝を述べた。
隼人「38年前に團子くんのおじいさまである猿翁のおじさまが作られたスーパー歌舞伎の第一作目です。最近では、新橋演舞場でも『流白浪燦星(ルパン三世)』や『刀剣乱舞』など、たくさんの新作歌舞伎が生まれていますが、その原点とも言えるのがスーパー歌舞伎です。38年前の初演と同じ日に初日に出演させていただける。本当にありがたく、身の引き締まる思いです」
小碓命にはまだ幼さがあり、頼りないようにも見えた。兄の大碓命としてふたたび現れた時は、大きさや色気、鋭さのギャップに、ハッとさせられた。
兄と話し合いを試みたものの、思いがけない事態に陥った小碓命。
帝の怒りをかう。老大臣(市川寿猿)の進言により命を繋ぎとめるが、熊襲(くまそ)征伐を命じられる。それは大和からの追放を意味し、「死ににいけ」と言うのと変わらない苛酷な命令だった。
中車の帝が物語の進む方向を指し示し、市川門之助の皇后とともに不穏な緊張感を蔓延らせる。寿猿の老大臣の切実さ、市川笑三郎の倭姫のこの物語の世界でずっと生きてきたかのような強い個性に、説得力があった。
■小碓命からヤマトタケルへ
熊襲の国では、熊襲兄タケル(市川猿弥)と熊襲弟タケル(中村錦之助)が、宴会を開いていた。酒を酌み交わし、唄い踊る。豪快な兄タケルのもと、皆に活気があり、幸せそうだった。生命力に溢れていた。
隼人は、弟タケル役の錦之助と親子対決をする。錦之助は、初演でも今回と同じ役を勤めていた。また1988年には、若手を抜擢した特別マチネ公演で、ヤマトタケルを勤めた経験もある。
隼人「父・錦之助は『(猿翁の)おじさんは、こういう風にやっていたよ』と教えてくれるところもありました。第二幕の米吉くんとの海の場面は、現在の感覚では受け入れづらいところもあります。ある種、神話の世界の空気感、絵巻物のように演じるように、と聞きました」
錦之助の弟タケルは若々しく覇気に満ち、第一幕に鮮烈な印象を残した。幕間に「熊襲の赤っ面はだれ!?」と(錦之助を知らないはずがない)記者が、確認する声もあった。
■弟橘姫と兄橘姫
米吉の父・中村歌六は、猿翁の歌舞伎を支えたひとり。米吉にとっても思い入れのある作品のようだ。
米吉「父はタケヒコというお役を、初演以来、何度もやらせていただきました。そして私自身、初舞台では猿翁のおじさまに口上をおっしゃっていただきました。澤瀉屋のおうちと我が家は縁が深いものでございます。『ヤマトタケル』に出させていただいて本当に嬉しく思います」
弟橘姫と兄橘姫を、1人で二役で演じるのは、本公演では1988年に中村福助が勤めて以来。
米吉「歌舞伎座にご出演中の福助のおにいさんが、『 修ちゃん(本名:修平)がんばってる?』と気にかけてくださっていた、と父から聞きました。2役を1人でやる、というのは、原作の梅原猛先生が書かれた脚本の作りです。そのやり方で久々にお見せしますので、皆様にお楽しみいただければ」
先日、入籍を発表したことに言及されると、隼人は「ぼくも聞きたい!」と声をはずませ、團子も満面の笑みに。米吉は「明日から2ヶ月は、ここにいる2人の素敵な旦那様に尽くさせていただきます」とコメントしつつ、マスコミの質問に丁寧に答えた。さらに、幸せオーラが溢れているとの指摘を受けると、隼人と團子を指して「ふたりのおかげ。旦那がいいから!」と良妻ぶりをうかがわせる返答で場を和ませた。
弟橘姫と兄橘姫、それぞれの胸のうちを演じ分け、美しさだけにとどまらないドラマを見せた。「走水の海上」の場は、弟橘姫の強さが胸を打つ。周囲から嗚咽が漏れ聞こえた。
■なぜ、あとから来た人間が
小碓命は、熊襲タケル兄弟より“タケル”の名を託され、大和の国のタケル「ヤマトタケル」を名のることになる。
本意ではない戦いで勝利を重ね、覚悟か自信か、かつての幼さは消えた。これを成長と喜んでよいのだろうか。大和の国が断行する討伐戦は、平定なのか侵略なのか。「なぜ、あとから来た人間が」。“逆賊”たちの声が耳に残る。
心がざわつくが、物語は止まらない。ヤマトタケルは時に涙を流しながら、戦いに向かう。隼人の立廻りの美しさとスピード感は、迷いを振り払おうとするヤマトタケルの、せめてもの抵抗のようにも見えた。スケールの大きな物語に押し流されながらも、ヤマトタケルという一個人の苦悩が描き出されていた。
旅をともにする中村福之助のタケヒコは、彼なしにはヤマトタケルの旅もここまでこられなかっただろう、と思わせる頼もしさがあった。隼人と福之助の立廻りは、本作の見せ場のひとつ。熱風のような高揚感を巻き起こした。
中村歌之助のヘタルべは純真無垢。明るく人懐っこい声が、ヤマトタケルの旅を支える。歌之助は、錦之助と交互出演で熊襲弟タケルもつとめる。荒くれ者たちの中で、猿弥の演じる兄タケルとどんな風を吹かせるのか。見逃せない。
尾張の国造夫妻(錦之助、市川笑也)の場面は、ヤマトタケル一行だけでなく、観客にとってもひとときの心のオアシス。初演以来、笑也が勤めてきたみやず姫に、市川笑野と市川三四助が抜擢された。この日は笑野。交互出演となる。
伊吹山の戦いでは、猿弥の山神と門之助の姥神が生み出す、老いた神々の凄みが迸っていた。猿翁の歌舞伎を支えてきた俳優たちの、情熱に富んだ豊かな芸と、本作に初めて挑む若手俳優たちのエネルギーが有機的に結びつき、クライマックスにはうねるような盛り上がりを見せた。
気がつけばヤマトタケルにも、ヤマトタケルに敗れ散っていった存在にも、等しく心を寄せていた。
■天翔ける心
帝の使者は、隼人、團子、青虎が交互で勤める。この日は團子による使者だった。
團子「『ヤマトタケル』は初舞台の作品であり、歌舞伎を好きになったきっかけの作品のひとつでもあります。2月4日という同じ日にヤマトタケルをやらせていただけるのは、本当に嬉しくありがたく思います。一所懸命勤めたいと思います」
初舞台では、ヤマトタケルの子・ワカタケルを演じた。
今回演じる帝の使者は、ワカタケルと同じシーンに登場する。子役の方のお芝居をみて「こういうこともあったな、と当時を思い出します」と團子。ワカタケルが大きな声で「お父さま」と呼びかける姿を、舞台稽古でも目を細めるように見守っていた。
昭和の終わりに生まれ、平成、令和へ。
初演を知る俳優が、現役でたくさん活躍している。本興行の上演記録を遡れば、ヤマトタケルは二世猿翁だけでなく、市川右團次(当時市川右近)、喜多村緑郎(当時市川段治郎)、四代目市川猿之助も演じてきた。そこに隼人と團子が名を連ねた。
團子がどのようなヤマトタケルを見せるのか。隼人とともに、2024年の『ヤマトタケル』としてどのような進化をみせるのか、期待が高まる。
舞台は、大きな白い鳥となり、天翔けるヤマトタケルの宙乗りで結ばれた。旅新橋演舞場では3月20日まで。一部キャストを入れ替えながら、5月に愛知・御園座、6月に大阪松竹座、10月に福岡・博多座で上演される。

取材・文・撮影=塚田史香

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