世田谷パブリックシアター2024年度ラ
インアップ発表会レポート~活動のテ
ーマは「わたしは、この世界とどのよ
うに向き合うか」

世田谷パブリックシアター2024年度ラインアップ発表会が2024年2月19日(月)に開催され、芸術監督の白井晃、『饗宴/SYMPOSION』から橋本ロマンス、せたがやアートファーム2024 音楽劇『空中ブランコのりのキキ』から野上絹代、『ロボット』からノゾエ征爾、シアタートラム・ネクストジェネレーションvol.16 ―演劇―に選出されたくによし組『ケレン・ヘラー』から國吉咲貴、サイモン・スティーヴンス ダブルビル『ポルノグラフィ PORNOGRAPHY / レイジ RAGE』から桐山知也が登壇した。
ラインアップ発表に先立ち、白井は「2022年度から芸術監督に就任して、昨年度までは前任者からの引き継ぎという形でプログラムを推進してきたが、2024年度からは最初の企画段階から含めてプログラムした。今回登壇している方々は、世田谷パブリックシアター主催公演には初登場の方ばかり。新しい劇場の姿を目指して頑張っていきたい。コロナ禍の4年間で舞台芸術を取り巻く環境も大きく変化したし、世界情勢も変化があった。今年は「わたしは、この世界とどのように向き合うか」を活動のテーマにしていきたい」と挨拶をした。
白井晃
続いて白井からラインアップが発表された。
GWに開催される『フリーステージ2024』は開館当時から実施している事業で、文化活動を行っている世田谷区民団体に表現の場を提供して、劇場がサポートしながらステージを作り上げる。
5月6日(月・休)〜6月9日(日)には、エンダ・ウォルシュの最新作を白井晃が演出する『Medicine メディスン』が上演される。これまでも『バリーターク』『アーリントン』〔ラブ・ストーリー〕とエンダ・ウォルシュ作品の演出を手掛けてきた白井は「エンダ・ウォルシュは社会の中で孤独な人々をテーマに書いている作家で、今作について彼は「我々が弱者をほったらかしにしたらどうなってしまうのか、ということを描きたい」コメントしている。出演者は田中圭、奈緒、富山えり子の3人の俳優に、ドラム奏者の荒井康太を加えた4人で上演する」と述べた。
7月初旬に上演される『饗宴/SYMPOSION』について、演出・振付の橋本ロマンスは「2021年に制作した『Pan』は、古代ギリシャの劇場の観客席が市民を形成する装置として逆説的に機能していることをもとに、劇場の持つ機能を現代の東京にトレースできないか、ということを試した作品だった。プラトンの「饗宴」は、特権性のある古代アテネ市民の知識階級の男性たちが愛についての演説を行っていく対話編で、私はそれを批判的に見たいと思っている。2024年の東京で「饗宴」が行われるとしたら、そこにはどんな人がいるべきなのか、どんな愛が語られるのか、現代の東京において安全に愛を語れる場所は存在するのだろうか、ということを主軸に置いた作品になる。昨年10月からのパレスチナの状況を見て、アーティストとしての技術をどう使うべきかということを考えていて、現代社会において透明化されている存在を示していくことに自分のアーティストとしてのリソースを使っていきたい」と語った。
橋本ロマンス
7月~8月には『せたがやアートファーム2024』が開催される。4つの公演とワークショップ等から構成され、7月21日(日)の『せたがや 夏いちらくご』は、2020年に始まって今年で5回目の開催。プロデュース・出演を春風亭一之輔が務め、子どもも大人も楽しめる寄席公演になっている。7月上旬には、アクロバティックなパフォーマンスを得意とするカナダ・ケベック州生まれのサーカスカンパニー、マシーン・ドゥ・シルクによる『ゴースト・ライト』が上演される。8月8日(木)〜8月10日(土)は、同じくカナダ・ケベック州で2013年に設立された、ユニークなファミリー向けパフォーマンスを数多く創作しているカンパニー、ル・グロ・オルテイユが初来日し『図書館司書くん』を上演する。
8月に上演される『空中ブランコのりのキキ』は、別役実の童話「空中ブランコのりのキキ」「山猫理髪店」「丘の上の人殺しの家」を原作に、野上絹代が構成・演出、北川陽子が脚本を担い、新たに創作される音楽劇だ。野上は「別役実さんは憧れの作家。作品に出てくる設定やキャラクターはアイデンティティを無くしたものが多く、それらが切実で愛おしく感じる。「空中ブランコのりのキキ」に登場するキキも空中ブランコのりというアイデンティティに悩む少女。キキは咲妃みゆさん、キキを支えるピエロのロロは松岡広大さんが演じてくれることになった。サーカスの設定なので、日本を代表するサーカスアーティストの方々にもお声がけして作品を支えてもらい、オオルタイチさんには音楽の面から盛り上げてもらう。今の子どもたちの多くはパンデミックなどで、これまで日常だったものがガラリと変わってしまう経験をした。子どもたちに劇場に来てもらって、生きる喜びをたくさん受け取ってもらいたい」と語った。
野上絹代
このほか『せたがやアートファーム2024』では「泥棒対策ライト」の新作公演(提携公演)、音楽家のASA-CHANGによるワークショップ、フランスを拠点に活動しているジャグラー・ダンサーの小辻太一によるこども向けワークショップ、大学生のインターンシップ、小・中・高校生それぞれ対象の「エンゲキワークショップ」が実施される。
10月には世田谷アートタウン2024『三茶 de 大道芸』が開催される。1997年のスタート以来、毎年秋恒例のフェスティバルとして街全体が大道芸で賑わいをみせる2日間となる。
10月〜11月は、白井の演出で『セツアンの善人』を上演する。白井は「ほぼ100年近く前に書かれたブレヒトの作品群には、現代を相似形のように表しているものが多いと常々思っている。現代的にアダプテーションしながら作っていけたら」と述べた。
11月〜12月は、カレル・チャペックの戯曲『ロボット』をノゾエ征爾による潤色・演出で上演する。ノゾエは「ロボットと人間が共存する時代はきっと来る。一般的にはロボットが侵食していくことがあたかもよくないことのように描かれがちだが、必ずしもそう言い切れないのではないかと思っている。この作品もロボットたちが人間たちを凌駕して世界を支配していくという話で、まずこれが100年前に描かれていたことがすごいと思う。本作を潤色しながら、どこを現代的にアレンジしていくか悩んでいる。人間の愚かさを描きたいわけではないし、そこに終始するのは前時代的だと思うし、とても大きな課題を突き付けられているが、でも創作とはそういう問題に向き合うということだと思う」と語った。
ノゾエ征爾
11月20日(水)〜22日(金)は、北欧を代表する現代サーカスのカンパニー、サーカス・シルクールが6年振りに来日して『ニッティグ・ピース』を上演する。白井は「非常に美しいサーカスを作るカンパニー。平和への願い、戦争に対する思いが込められた作品になっている。2018年に世田谷で上演した作品『LIMITS/リミッツ』も難民問題をテーマにしていたし、非常に社会性のあるサーカスではないか」と述べた。
12月20日(金)〜12月22日(日)は、次代を担うアーティストの発掘と育成を目的としたシアタートラム・ネクストジェネレーション演劇部門に選出された、くによし組『ケレン・ヘラー』が上演される。くによし組主宰で作・演出の國吉は「この作品は2018年に上演された、ヘレン・ケラーの不謹慎なコントをするお笑い芸人がお喋りロボットのサリバンちゃんと手を組んで芸人のトップを目指すという物語。初演のときは、SNSで刺激的なコンテンツが増えて行く中で、面白いと不謹慎の境目はどこなんだろう、ということをテーマにした作品だった。初演から5年経って改訂再演になるが、主人公が面白さを追求して壊れていってしまった原因は本人だけではなく周りの人にもあったのではないかと思い、「盲目だったのは誰か」という部分をテーマにして書き直した。キャストも初演から全員変えて、全然新しいものができるのではないかと思っている」と述べた。
國吉咲貴
2025年2月〜3月は、サイモン・スティーヴンス ダブルビル『ポルノグラフィ PORNOGRAPHY / レイジ RAGE』が上演される。イギリスの劇作家サイモン・スティーヴンスの2作品を、同じ演出家・出演者により同時上演(ダブルビル)する企画で、演出を務める桐山知也は2021年にKAAT神奈川芸術劇場で『ポルノグラフィ』をリーディング公演として上演している。ちなみにこのリーディング公演は、本来は白井晃がKAAT芸術監督として在任中の2020年4月に上演予定だったが、コロナ禍で上演が1年先延ばしになったという経緯がある。桐山は「今回の上演作品を何にするか、白井さんや劇場側との話し合いで複数の作家が候補に挙がったが、僕がサイモン・スティーブンスから離れられなかった。一番やりたいと思っていた作品が『レイジ』だったが、この作品で行こう、と決めきれずにいたとき、ダメ元で白井さんに『ポルノグラフィ』はどうかと提案したところ、2本ともやろうということになった。『ポルノグラフィ』はモノローグの時間が長く、その人の内なる声を耳を澄ませて聴くという印象で、『レイジ』は非常に暴力的で人種差別的なことがあふれていて、その声を聞かされてしまうという印象で、その対比が面白いと思った。2025年に上演するにあたり、現在そしてこれから先の世界がどうなっていくのかを考えながら作っていきたい」と語った。
桐山知也
2025年3月は、ドイツのマインツ州立劇場に所属するコンテンポラリーダンスカンパニー、タンツマインツの初来日公演『PROMISE』が上演される。振付は、タンツマインツとのコレボレーションは3作目となる、世界的に活躍するシャロン・エイアルが務める。白井は「マインツ州立劇場は様々な活動をしていて、公共劇場という視点からも非常に共感する。タンツマインツは刺激的なダンスカンパニー。今後も毎年海外からのダンスカンパニーを招聘できるように頑張っていきたい」と述べた。
2025年3月に開催される『地域の物語2025』は、地域の人々とワークショップのプロセスを通じて演劇を作っていく、開館当初から継続して毎年行われている演劇ワークショッププロジェクト。白井は「地域の皆さんとテーマについて語り合いながら物語を作って上演する。公演事業とは違う創作過程で、見ていて刺激になる」と述べた。
また、提携公演の中に「フィーチャード・シアター」というものを新設し、若手のカンパニーとも積極的に手を組むことができるように、白井芸術監督の推薦するアーティストやカンパニーを招聘して公演をサポートしていく。2024年度は11月のスペースノットブランク、12月の贅沢貧乏がその対象となっている。
学芸事業では、地域社会の活性化を目指す「コミュニティプログラム」、地域社会の抱える課題解決に向けた様々な演劇の実践を行う「地域連携プログラム」、舞台芸術にかかわる専門家育成の場としてプログラムを実施する「専門家育成」など、多岐にわたる活動を例年に引き続き展開する。
また、世田谷パブリックシアターが今年1月に発表した「ハラスメント防止ガイドライン」について、白井は「劇場文化の中からハラスメントが絶対に起こってはならない。主催公演には必ずハラスメント講習を実施している。ハラスメント講習はイコールリスペクト講習でもある。お互いが尊重し合いながら創作を続けられる現場を作ること、ひいてはそれがいい作品を生み出す土壌になっていくと思う」と述べた。
世田谷パブリックシアター2024年度ラインアップ発表会
質疑応答において、近年の物価高により影響を受けていることはあるかと問われた白井はまず「むちゃくちゃあります」と力強く答え、「コロナ禍の4年間で観客が演劇から離れているという危機感がまずある。物価高で美術の材料費も高騰していて、チケット代を上げざるを得なくなるが、そうすると若い観客にとって演劇が遠いものになってしまうという悪循環に陥っている。劇場文化が衰退しないように踏ん張るのも公共劇場の役目ではないかと思っている」と説明した。また、若い世代の劇場離れについては「非常に閉じた観客層になって来ていると危機感を持っている。自分の舞台に出演してくれた20代の若者たちに、先日世田谷パブリックシアターで上演した公演を見に来てもらったら、この劇場に来るのが初めてだという人がほとんどだったことにショックを受けた。これはなぜかということをみんなで考えなくてはならないと思う」と自身の経験も交えて語った。
世田谷パブリックシアターの芸術監督に就任した当初から白井は、自分の役割は未来の世代への橋渡しだと述べ、若い世代と積極的に交流し、彼らに機会を与えたいという意思を示してきた。就任3年目となる2024年度のラインアップ発表会も、その思いが強く感じられるものだった。若い世代への期待を口にし、実際に起用することは多くの演劇人にとって励みにもなるだろう。また、フィーチャード・シアターなど、新たなアーティストやカンパニーを起用する機会をより作り出そうとする姿勢も評価できる。それと並行して、長年世田谷パブリックシアターが取り組んできた海外招聘公演や学芸事業を継続して大切に守っていることも伝わってきた。この劇場がこれまで培ってきたものを生かしながら、新たな種を蒔いていこうとする白井芸術監督の方向性が、舞台芸術における希望としてさらに発展したものになっていくことを期待したい。
世田谷パブリックシアター2024年度ラインアップ発表会
取材・文・撮影=久田絢子

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