根岸季衣&阿知波悟美に聞く~ミュー
ジカル『ビリー・エリオット〜リトル
・ダンサー〜』でおばあちゃんを演じ
るふたりが語る「ビリーへのキュン」

ミュージカル『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』(脚本・歌詞:リー・ホール、演出:スティーヴン・ダルドリー、音楽:エルトン・ジョン)が、2024年7月~10月に東京建物Brillia HALL(東京都)、11月にSkyシアターMBS(大阪府)で上演される。日本公演は今回で3度目となる。
本作は、イギリス北部の炭鉱町でバレエダンサーという夢を見つけた少年ビリーと、彼の背中を押し、希望を見いだす人々を描いた傑作ミュージカルだ。“家族のドラマ”としての見どころもたっぷりなこの作品で、ひときわチャーミングな人物像と愛情表現で目を奪うのが、ビリーのおばあちゃん。ちょっと認知症気味でありながらも家族を見つめ、ビリーにたっぷりと愛情を注ぐおばあちゃん役(ダブルキャスト)を演じるのは、根岸季衣と阿知波悟美。ピュアなビリーに「キュンを感じる」という、ベテランのふたりから話を聞いた。

■ビリーの“今だけの輝き”を毎日見れる幸せ
—— おふたりがそれぞれ考える、この作品の魅力をお聞かせください。
根岸 この作品にはいろんな人生の、いろんなテーマが入っているんです。子供が中心のミュージカルではあるけれども、目線を変えると、ものすごく大人なドラマがたくさん描かれています。それは 男の生き方だったり、女の生き方だったり、老女のこれまでの人生振り返りだったり、炭鉱夫たちの組合が抱えている社会的な問題まで、あらゆるものが詰め込まれている。それぞれが必死で生きている様が、全編を通して表現されています。それでいて、観ている人にはすごく楽しめる。そして上演の質的レヴェルはとても高い。技術的にもいろんな要素が入っていて、魅力が盛りだくさんだと思います。
阿知波 本当に、もう全部なんです。どこか一部を挙げて「ここが魅力的ですよ」と言っても、それはあくまで一部でしかなくて。突出して「ここ」ということではないんです。元々私は劇団(劇団NLT)に所属している役者なので、その立場から言わせていただきますが、外部のミュージカルに出演していると、楽曲の部分が前面に押し出されるあまり、芝居の部分がおざなりに作られてしまうことがあるんです。でも、この『ビリー・エリオット』は、芝居の部分も本当に細かく作られている。気持ちの変化、それから根岸さんもおっしゃったように社会情勢、また、認知症になるくらい年老いていく祖母の心情とか、とにかく全部に関して芝居がきっちり作られている。そこが「すごいな」と思います。アンサンブルの皆さん一人ひとりのキャラクターも全部きっちり決まっていて、「うまくできているなぁ」と思いますね。
—— ビリーにとって、もちろんお稽古はすごく大変で、いろんな苦労もあるのでしょうけれど、 おばあちゃんを演じるおふたりにとっては? この作品のお稽古というのはどういうものですか?
根岸 ビリーが4人いるので。「やりにくい子とかいるの?」なんて聞かれることもあるんですが、まったく感じないですね。やりにくさを感じたことは一度もない。それってすごいことだと思うんですよ。かといって一人ひとりが個性を押し殺しているのかと言うと、そうじゃないでしょう。普通に考えれば、「4人も相手が変わってどうなの?」と思うかもしれないけれど、それが成立するところがまたすごいところだなと思うんです。演出がよく練られているから、ビリーたちをフォローするようにできていて、彼らに無理がかからないような形で呼応できるようになっているのかもしれないですね。とにかく違和感を感じさせない。いろんなキャストが入れ替わるような舞台でも、そうは感じさせないんですよね。だから誰とやっても面白いんだと思います。その代わり、お約束事はとてもたくさんあるんですよ。でもそれさえ(頭と身体に)入ってしまえば、あとは本当に何も違和感なく、どの子とも一緒にやれる感じですね。
—— そのお約束事が枷(かせ)にはならないんですね。
根岸 そうならないために、お稽古をするんです。でも、そのお約束自体も、本当に上手に作られてるんですよ。ちゃんと芝居がやりやすいようにできている。だから期間が長くても、ダレていかないんですね。そう、飽きるとかダレるとか、そういうことはないですね、ずっと。
—— やはり、ビリーを演じる子どもたちの、本当の成長というのがあって。そこで成り立っているということもあるかもしれないですね。
阿知波 そうかもしれないですね。本当にこの“今だけの輝き”みたいなものもあるからね。
根岸 同じ舞台に出演している私たちまで「見逃したくない」と思うほどの、そのくらい素敵な輝きだから。毎日見ることができて幸せです。見られてラッキー、みたいな(笑)。
阿知波 ビリーのパフォーマンスがひとつ終わると、なんかこっちも力が入る感じになるんです。自然と応援しちゃってる、というか。
根岸 「よし、今日もやった!」みたいなね。ターンがちょっとでも失敗したりするとね、もう本当にハラハラするし(笑)。
阿知波 でも、あの子ら、ひとりで立ち直るんですよー(笑)。
根岸 製作発表の時だって、リハーサルの時にちょっと失敗して、裏で大泣きしていたのに、本番では途端にニッコニコで、「面白かった!」だって。すごいよ、もう。
阿知波 彼らを見ていると、初心に帰るっていうよりも、もっともっとピュアなものを感じるんです。私たちが大人になって役者になった時の初心なんて、もっと汚れていたから。
根岸 製作発表を観て、すごくうるうる来てボロ泣きしちゃったの。「ダメだー、ヤバいヤバい」って。もうずっと鼻水が出ちゃって大変だったんですけど。もっともっとピュアな何かがある感じ。もちろん4人の中でそれぞれに切磋琢磨もあるんでしょうけれども、でも、向かう方向が同じだから、心を打たれるんでしょうね。
—— ビリーたちの助け合う関係性が、製作発表でのパフォーマンスの演出にも入ってましたね。応援し合い、支え合う感じが微笑ましかったです。
根岸 みんなオーディションの時から、一緒にやってるうちに仲良くなっちゃうみたいですね。だから、選考する側も(不合格者に対して)すごく痛みを伴うらしいです。最後の方では情が移っちゃって、もう切れないっていうぐらい。そういうことを経て、みんな結束が固くなっていくのでしょうね。

■ビリーが大人になって踊る姿をおばあちゃんに見せてあげたい
—— 根岸さんと阿知波さんは、互いのおばあちゃん役の舞台を観たりされますか。
根岸 はい。自分がやっている舞台って普通は観られないじゃないですか。それを観られるのは、すごく嬉しいな。
阿知波 ダブルキャストって、長くてもあんまり苦になりませんからね。年寄りに優しい。今回も公演期間はすごく長いですけど、そんなに苦にならない。
根岸 年相応の体力でちゃんとやれるようになっていますよね。
阿知波 ただ、フィナーレはちょっとね……びっくりな格好させられますけど。
根岸 えー、私はすっごく嬉しいですよ。いやもう、だって、昔バレエを習っていて、トウシューズは持ってたけど、チュチュは着たことがなかったから。「うわ、60過ぎてチュチュ初めて着られるわー!」って、私はすごく嬉しかった。
阿知波 ほんとですか!? 私は「あらやだ、こっぱずかしいわぁ」と思いながらやってましたけど(笑)。
根岸 私、結構テーマですよ、あそこ。
阿知波 なるほど。よし、じゃあ私も今回は根岸さんと同じように、そう思うようにします。「やったー、嬉しい」と思ってやっていると、ちょっと違うかもしれません(笑)。
—— おばあちゃんといえばやっぱり、暴力男だけど踊ればマーロン・ブランドだったとおじいちゃんを回想するナンバー。ものすごく心に残ります。
根岸 そこではDVを取り上げているわけですよ、今で言えばね。でも昔はもうそれが当たり前だったんですよね。どこの国の女性でもそうであったという、歴史みたいものをね、さりげなくちゃんとミュージカルの中に入れていて。自分たちであのナンバーをソロでやらせてもらうっていうのは、とても素敵な経験をさせてもらっているなと思います。
阿知波 私も同じです。私、今まで随分とミュージカルをやってきましたけれど、こういうグランド・ミュージカルで、ソロで歌うってことがなかったんですよ。大体掛け合いだったり、コーラスと一緒にとか、そういうのが多かったので。だから、初めてのソロです。
根岸 え? そうとは思えないね。阿知波さんのキャリアをもってして。ミュージカルも数々やってきて、そうだったの?
阿知波 何人かでやるというのはあったのですが、ミュージカルで完全にソロで歌うというのは初めてだったんです。だから初めてそのシーンに入った時には、ちょっと震えました。「誰にも助けてもらえないんだな」というのがあって。そんな風に思ってますよ。あそこのシーン、しかも男性のダンサー付きじゃないですか!
根岸 幻想の男性ダンサーたちが素敵なのよね。だから演出補のトムも振り付けの時は、めちゃめちゃ男性の方に力入ってましたけどね。でも来日スタッフの彼らが再演のプログラムで「すごく気に入ってる、いいシーンだと思ってる」と言ってくれた。「何? 私たちのあれ、いけてるのかな」と、すごく誇らしかったです。
阿知波 そうなんです。本当に光栄です。
—— 1曲の中に入ってるものが、すごく豊かですよね。おばあちゃんの人生そのものが入っているような。
阿知波 ねえ、本当にそうです。それで最後、ビリーがまた泣かすわけですよ。チュ、なんてしちゃって。手に手をそっと取ってチューなんてしてくれるから、なんかもうキューンってなっちゃうの(笑)。「ありがとうー!」って。
根岸 あそこは不思議なものがありますよね。恋愛とはまた違う、なんとも言えないキュンがね。ちょっとやって「良かったよ」なんて言われると、本当にそうなる。不思議な恋心みたいなトキメキが湧いてきて、あのままギュッてしたくなるんだけど、そういう演出ではないのでやらないんですけど。もう本当にね、泣かすんですよ。ただそれだけで泣かすって、すごいですよね。
—— ウィルキンソン先生役のおふたりと「この作品はウィルキンソン先生とビリーのラブストーリーでもある」という話をしていたんです。でもこれ、おばあちゃんとビリーのラブストーリーでもありますね。
根岸 嬉しいですねー。そう言っていただけると嬉しいです。
阿知波 でも、本当にそうかもしれませんね。愛の形は違ってもそう、ラブストーリーでしょうね。だって、ビリーはとっても愛してくれているから。で、私たちもビリーをとても愛しているから。 おばあちゃんは大きくなったビリーを見られたのか見られていないのかわかりませんけど、「見せてあげたいな」と思いますよね。ビリーが大きくなって、ロイヤルバレエで踊ってる姿を、「おばあちゃんに見せてあげたいな」と本当に思います。
—— では、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
根岸 観ていただいて損はないです。絶対に感動します。100%感動すると思うので、ぜひ劇場に足を運んでいただきたいです。
阿知波 できればおひとりじゃなく、どなたかと見にいらっしゃれば、その人と帰りに豊かなお話ができる作品じゃないかなと思います。ぜひご家族やご友人と複数でご覧ください。そして、複数回ご覧ください。いろんな発見があると思います。
取材・文=若林ゆり  写真撮影=池上夢貢

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