三宅弘城・みのすけ・山西 惇が語る
ナイロン100℃の三十年と初時代劇『
江戸時代の思い出』のこと

ナイロン100℃ 49th SESSION『江戸時代の思い出』が​2024年6月22日(土)に東京・下北沢の本多劇場にて開幕する。劇団結成30周年記念公演第二弾であり、劇団初の時代劇。この2点以外には内容に関する情報がほぼない中、今回の出演者で劇団員の三宅弘城とみのすけ、そして客演の山西惇に、ナイロン100℃とその前身である劇団健康(1985年結成、1990年に「健康」に改名)にまつわる思い出、今作への期待などを聞いた。
◾️劇団健康〜ナイロン100℃初期の思い出
──昨年(2023年)8月から今年(2024年)7月にかけてがナイロン100℃の結成30周年にあたります。みのすけさんは、ナイロン100℃になる前の、劇団健康の旗揚げから参加されていましたが、当時の印象を教えてください。
みのすけ 健康の最初の方は、劇団というより催し物って感じでしたね。KERAさんがバンドをやっている人達を寄せ集めてやっていたところを、(田口)トモロヲさんがイニシアチブを取ってまとめてくれて。劇団っぽくなったのは、三宅が参加し始めた公演ぐらいからですかね(※三宅は、1988年『カラフルメリィでオハヨ〜いつもの軽い致命傷の朝〜』から劇団健康に参加)。
三宅 そのちょっと前から、KERAさんが音楽とは別に、演劇をちゃんとやろう、という流れになってたんですよね。だから当日のチラシにも「音楽関係で観にくるやつは蹴飛ばしてやる」みたいなことを書いてましたよ。
──挑発的ですね!
みのすけ はじめは音楽のファンしか来なかったし、色ものっぽい見られ方もされていたから、そこをなんとか演劇のお客さんに変えたいって気持ちがKERAさんにも健康にもあった頃だと思います。
三宅 当時って、演劇人はバンドとか音楽にコンプレックスがあったし、バンドの人は「演劇は貧乏くせえ」みたいなイメージを持っていて、相容れないものがあったんですよね。それがだんだんクロスオーバーしていったんじゃないですかね。
──それは健康の功績が大きいですね。
三宅 あとは、ラジカル(ラジカル・ガジベリビンバ・システム)の劇中でいとうせいこうさんがラップをしたり、スチャダラパーが出たり。すごくかっこよかったし、おしゃれでしたよね。
──三宅さんも健康時代に加入されていますが、当時のKERAさんや劇団にはどんな印象をお持ちでしたか?
三宅 怖かったです。今もほどよくドライだけど、当時はもっとドライだったし、休憩中もしゃべらないし。稽古が始まる前にみんなで運動とかして、劇団っぽかったですよね。
みのすけ やってたねー(笑)。
──山西さんが最初に出演されたのは?
山西 僕は1998年のナイロン100℃『ザ・ガンビーズ・ショウ』ですね。その時は、宮藤官九郎くんとか、ジョビジョバのマギーと坂田(聡)くん、あとブルースカイ(現ブルー&スカイ)とか、もう色んな人がゴチャって集まってて。
三宅 あれはちょっと特殊な公演でしたね。
山西 もう本当にお祭り状態でした。あの時はまだ稽古場も固定じゃなくて、公共施設を転々としてましたしね。そんな感じだったので、ちょっと演劇サークルっぽい雰囲気があって、僕はすごく楽しかったです。
──当時と特に変わったと思うのはどんなところですか?
三宅 KERAさんがやさしくなりましたね。昔は厳しかったし、大きな声を出すこともありました。『ザ・ガンビーズ・ショウ』の時もありましたよね?
山西 ありました。コントの稽古中にみんなが吹いちゃって全然進まなくなっちゃって、そしたらKERAさんが「いい加減にしろ!」って怒って止めて。大人になって久しぶりに怒られました(笑)。あと、配役とか何も決まってない状態で稽古が始まってたから、稽古場には行くけれど見てるだけの時間も結構あったんですよ。その時にKERAさんが「山西さん、黙ってると怖いね」って言って、その後、僕にめちゃくちゃ怖いバンドマネージャーの役を書いてきて。まだ僕のことをそんなに知らない時に。
三宅 マネージャーなのにメンバーにナイフを突きつけて「やめるって言ったらぶっ殺すぞ」みたいな、怖い人の役でしたね(笑)。
──稽古しながら台本ができていくスタイルは変わらないですか?
三宅 再演以外は、そうですね。
──稽古が始まる時点で自分の役がわからないわけですよね。
三宅 そうですね。こういう役ですって言われて、その後にまったく変わることもありますし。
みのすけ 三宅の役が、医者だって言ってたのに、実は木こりだったこともあったね。
山西 すごい(笑)。
──役が急に変わって対応できるものですか?
みのすけ いやぁ、どうなんだろう。でも逆に、観てる人と同じ気持ちだからおもしろいですよね。自分もわからないでやってるから。
三宅 そうなんですよ。不安ですけど、ワクワクもあるんですよね。
山西 連載漫画を読んでるみたいな気持ちになりますよ。「俺、来週どうなるんだろう?」って(笑)。でも、KERAさんと何本か一緒にやってるから、ようやくこのスタイルに慣れてきた感はありますね。
みのすけ でも僕すごく覚えてるけど、『百年の秘密』(2012年初演)の時、二幕の頭の台本が配られて、次の日に稽古したら、山西さんが動きも含めて全部入ってて、まるでもう本番のようだったんですよ。昨日できた本なのに……それは唸りましたね。全員山西さんみたいなタイプだったらなぁって。
三宅 いや、そしたらもっと台本が…(笑)。
山西 (笑)。でも僕は『百年の秘密』の初演で、劇団の人たちが凄すぎて感動してました。正直言うと、初日に初めて通したんです。
ナイロン100℃ 38th SESSION『百年の秘密』(初演) (撮影:引地信彦)
──そうなんですね!
山西 ゲネプロもできなくて、場当たりだけ最後までやって、初日開きますって。こりゃ流石にもう自分のところだけでもちゃんとしないとって思ってたけど、頭っからみんなまったく淀みなくて、「初日だから」みたいなゆるさがまるでない。この人たちはなんて凄いんだ、って驚きました。
──今後KERAさんやナイロン100℃に期待することはありますか?
みのすけ 最近は、とにかくKERAさんがやりたいものをやってくれたら、と思っていますね。たぶん劇団のみんながそうだと思いますけど、こんなのやりたくないとか言わないし、KERAさんは今これをおもしろがっているんだなって思いながら参加しています。
三宅 前は「こういうの書いてほしい」みたいなことも言ってたんですよね。『フローズン・ビーチ』(1998年初演)が女性だけの作品だったので、それにすごく嫉妬して「今度は男ばっかりのも作ってくださいよ」って言ったら、『ノーアート・ノーライフ』(2001年初演)を書いてくれたんですけど、今は僕もKERAさんがやりたいことをやってほしいですね。色々やりたいことがあって、作品ごとに作風が変わるからこっちも楽しみですし。
みのすけ あと、今は風通しがいいと思います。昔は年に2〜3本やっていたから、みんなが一緒にいる時間が多くて。
三宅 年に4本やった時もあったよね。
みのすけ そうそう。一作終わった途端に次の稽古に入るから、もう嫌になってきちゃって(笑)。当時は若くて感情的になりやすいからよく喧嘩にもなったし。でも今は、会わない時はもう何年も会わない劇団員もいるから、一本一本が貴重というか。
──山西さんはいかがですか?
山西 ナイロン100℃を続けていってほしいなと思います。やっぱり集団力があるし、ここからさらに10年経って平均年齢が上がったナイロンもまたおもしろいと思うので。今KERAさんは色んなところで書いてるけど、細々でもいいからナイロンをなくさないでほしいですね。

◾️そもそも本当に江戸時代なのか
──今回は劇団にとって初めての時代劇です。
山西 KERAさんから現状の作風を聞いた限りでは、はちゃめちゃな路線をあえて時代劇でやるってことらしいんですけど、どういうことなんだろう(笑)。昨日からずっと考えてたけど、いまひとつはっきりしたイメージが出てこないというか。
──『江戸時代の思い出』って不思議なタイトルですよね。
三宅 そうですよね。ってことは、江戸時代の人じゃないのか? とか。
山西 江戸時代は長いですからね。300年近くあるから、どの辺の思い出なんだろうっていう。ちなみに、『イモンドの勝負』の時はどうだったんですか?
三宅 『イモンド…』の時も最初から、よくわかんないはちゃめちゃなものにしようと思ってるって言ってたから、覚悟はありました。あれは国も年代もわからないような感じだったけれど、それが着物着てカツラ被ってってことになるんじゃないですか?
ナイロン100℃ 47th SESSION『イモンドの勝負』 (撮影:引地信彦)
──時代劇を演じるのはお好きですか?
山西 好きですね。デジタルなものは一切入る余地がなくてすべてアナログだから、芝居には合ってる気がするんですよね。時代劇って設定した方がややこしいことが少なくておもしろいと思います。
三宅 僕も好きです。口調も楽しいし、衣裳はコスプレみたいだし。非日常を味わえる設定ですよね。
みのすけ コスチュームに助けられますよね。でも今回、どの程度着替えをするんだろう。はちゃめちゃ系ってことは、みんな一役ではないはずですよね。
三宅 ああ、着替え大変だよねぇ。
みのすけ 着替えが間に合わない的なことは多々出て来そう。その辺は心配もありつつ楽しみだけど、そもそもみんなずっと着物かどうかもわからないですよね。現代のスーツの人が江戸時代の思い出を語ったりするのもあり得るんじゃないですかね。なんかずっと江戸時代が始まらないとか。
山西 ああ、なるほど(笑)。
みのすけ その辺はどのくらい裏切るんだろうって考えるのも楽しいですね。
三宅 (チラシのクレジットを見ながら)でも、今回所作指導の方がいらっしゃいますね。ってことはちゃんと侍とかが出てくるのかな。
──クレジットからお話を予想していくんですね!共演者のみなさんについてはいかがでしょうか?
三宅 坂井真紀さんとはプライベートでも仲がいいし、舞台でも映像でもよく共演しているので、もはや盟友ですね。山西さんとは『ザ・ガンビーズ・ショウ』から26年ぶりの共演ですか。
山西 いやぁ、すごい久しぶりなんで、とても楽しみです。
三宅 池田成志さんとも、僕は28年ぶりで。だからもう、山西さんや成志さんと一緒にできることがとにかく楽しみです。
みのすけ 僕も成志さんは『テクノ・ベイビー〜アルジャーノン第二の冒険〜』(1999年)以来だから、25年ぶり? お互いの舞台を観に行ったりしてるから、なんか一緒にやってる気になってました。25年経ってナイロンも色々変わってると思うから、成志さんもその変化を感じるかもしれないですね。
山西 そういえば僕、Twitter(現X)で見たけど、KERAさん『江戸時代の思い出』の前に、今また別の台本を書いてるよね。びっくりしちゃった(笑)。
三宅 さすがに『骨と軽蔑』が終わったらこっちに取り掛かるのかと思ってた。
山西 いや、すごいな。どうなってるんだろ。本当にひとりなのかな。
──影武者説が出るほど(笑)。稽古はまだ先のようですが、何か準備は……と言っても難しいかもしれないですが。
みのすけ 特にできることはないから、稽古が始まった時にスタート地点がみんな一緒っていうのが良いとも考えられますね。
山西 これもTwitter(現X)で見たけど、松永(玲子)さんは江戸時代の映画を観てるみたいで、真面目だなと思った(笑)。
三宅 偉いなーっ!
──では、最後に一言ずつお願いします!
三宅 誰も観たことのないような時代劇になると思うので、是非是非、本多劇場まで足をお運びください。
みのすけ 今回もたぶん馬鹿馬鹿しいお話になると思うのですが、60歳近いいい大人たちが、そういうことをやり続けているところを是非観に来てください。
山西 どんな舞台になるか、ここまで想像がついてないのは初めてと言っていいくらいなので、逆にとてもワクワクします。皆さんもワクワクしながら劇場に来ていただけるとうれしいです。

取材・文=碇雪恵

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