川﨑皇輝、長澤樹らが魅せる優しさに
満ちた人間ドラマ ミュージカル『町
田くんの世界』ゲネプロレポート

安藤ゆきによる人気漫画『町田くんの世界』。物静かでメガネという外見だが勉強は苦手、運動も苦手で不器用だが人が好き。みんなから愛される町田くんと周囲の人々を描いた、新感覚の人間ドラマだ。2015年から2018年まで別冊マーガレット(集英社)で連載され、累計140万部を発行、2019年には映画化もされた。
演出を手掛けるのは、東京2020パラリンピック開会式やミュージカル『チャーリーとチョコレート工場』など、幅広いジャンルでの活躍が目覚ましいウォーリー木下。脚本・作詞は数々の戯曲賞を受賞している新進気鋭の劇作家・ピンク地底人3号。音楽・歌詞・演奏を、劇伴音楽をはじめ、様々な楽曲を生み出してきた和田俊輔が担当している。
主人公の町田一を演じるのはミュージカル公演初主演の川﨑皇輝。ヒロイン・猪原奈々は長澤樹が務める。そして、神里優希、斎藤瑠希、礒部花凜、大月さゆ、浜崎香帆、岩橋大、鶴岡政希、湖月わたる、吉野圭吾といった実力派が脇を固めている。
初日を前に行われたゲネプロの様子をお届けしよう。
ステージ上にあるセットや小物はほとんどがパステルカラー。グレーを基調に一人ひとりデザインの違う制服も可愛らしい。衣装やセットが照明を浴びてキラキラ輝いている光景も美しく、まるで絵本のようにファンシーだ。「町田くんの目に映っている世界はこんなふうに優しい色なのかもしれない」と感じられ、あたたかい気持ちになる。
冒頭では、「町田くん」の人となりが伝わるエピソードが次々に描かれる。とびきり優しいが決して完璧ではない町田くんを見ていると、彼がみんなに愛されるのが納得できた。川﨑は自然体で一風変わった少年を表現。友人や家族に誠実に向き合う様子を丁寧に演じ、静かだが目を引く存在感を放っている。語りかけるような柔らかい歌声も、純粋な印象の町田くんにハマっていた。
長澤は、「人間が嫌い」と言って周りに期待することをやめていた猪原さんが変わっていく過程を魅力的に見せてくれた。物語序盤の歌唱では彼女が抱える苦しみをぶつけるように聴かせているぶん、町田くんと過ごすうちに段々と柔らかくなっていく声と表情が愛らしい。距離は縮まっていくのに中々進展しない2人の関係にヤキモキしつつ、お互いへの思いやり、不器用な優しさにキュンとしてしまう。
作中では町田くんと猪原さんを中心に据えつつ、町田くんの“人たらし”エピソードが次々に語られる。
女子に振られてばかりの西野くん(鶴岡政希)、彼氏と別れたばかりのさくら(礒部花凜)をはじめとする学校の友人はもちろん、幼稚園でお世話になった英子先生(大月さゆ)、偶然出会ったたこ焼き屋・健一さん(吉野圭吾)、さらには直接会話したわけでもない会社員の吉高(岩橋大)といった大人たちのことも、その純粋さで救っていく。
学校や家庭で辛い思いをしていたり、自信が持てずにいる人たちに自然と寄り添い、あたたかい気持ちを届ける町田くん。一方で、本人は特別意識していない行動だからこそ猪原さんとすれ違ったり、父親との関係がうまくいっていないひかり(浜崎香帆)を怒らせてしまったり。それでもまっすぐ人に向き合おうとする町田くんを応援したくなる。
また、クラスメイトの氷室くん(神里優希)、栄さん(斎藤瑠希)は気さくで軽いノリが楽しい。モデルらしくことあるごとにかっこいいポーズや表情を決める氷室くん、明るく噂好きな栄さんというにぎやかな2人と物静かな町田くんのやりとりが心地よく、微笑ましい気持ちになった。
町田くんの母(湖月わたる)や叔母も深い愛とお茶目さを持って子供たちに接し、時に的確な助言をしながら成長を見守っている。登場人物一人ひとりの魅力を各キャストが丁寧に作り上げ、愛すべき人物として描き出していた。
キャスト陣が様々なキャラクターを演じ分けており、それぞれが主役となるエピソードと楽曲があるのも見どころの一つだ。作品の世界を表すような明るく広がりのあるナンバーから、それぞれの物語でメインとなるキャラクターの迷い・不安を表現するような楽曲まで、多彩な魅力に溢れている。
各キャストのソロ、ユニゾンを存分に楽しめるだけでなく、鶴岡がキレのあるダンスを見せる曲、ギター片手に歌う吉野の後ろでキャスト陣がたこ焼き型のペンライトを振る曲など、ポップでノリのいいナンバーも多数。キャストとともにステージ上にいるバンドメンバーが楽しそうに演奏しているのも印象的だ。歌詞がリフレインしたり背景に投影されたりするシーンも多く、一つひとつの言葉を大切に受け取りたくなる。
人のあたたかさや思いやりに触れ、優しい気持ちで劇場を後にできる本作。4月14日(日)まで東京・シアタークリエで上演された後、4月19日(金)〜21日(日)まで梅田芸術劇場シアター・ドラマシティでも公演が行われる。

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