【丸本莉子】自分の気持ちには立ち向
かわないといけない
力強い歌声でメッセージ性の強い楽曲を届けてくれる丸本莉子。新曲「誰にもわからない」は、亡くなった人への想いにしっかりと向き合い、生まれた名バラードである。
取材:吉田可奈
配信シングル「誰にもわからない」は、心にグッと刺さる楽曲でした。この曲はどんな時に生まれたのですか?
一緒にお仕事をしていたカメラマンさんが、2年前に27歳という若さで突然亡くなってしまったんです。その時に“もう会えない”という悲しさと同時に、とても近い距離の人というわけではなかったからこそ、冷静に人間のもろさも感じていて…。そんなふたつの感情を抱いた自分に対してモヤモヤとするものがあって、その気持ちを歌にしたいと思った時に、この曲のサビのメロディーが浮かんだんです。でも、あまりにも重いテーマだったので、どんな歌詞を付けていいか、どう歌っていいのか分からなくなって、ずっと保留にしてあったんです。
その保留の曲を、今のタイミングで曲にしようと思ったのは何がきっかけだったのでしょうか?
先日、尊敬するミュージシャンが癌で亡くなったんです。その方はSNSでいつも“僕は病気に負けない”といったメッセージと写真を更新してくれていたんですね。そうやって頑張っていたのに、結局その願いは叶わず亡くなってしまったんです。その訃報を受けて、こんなに頑張っていても報われない、結局は叶わないんだと思った時に、すごく悔しくて苦しくて、この感情は歌にしてちゃんと向き合わなくちゃいけないと思ったんです。
歌詞はやるせない気持ちが詰め込まれていますよね。
はい。これまでは、歌詞を書く時には必ずその曲の中で答えを出さなくちゃいけないと思っていたんです。でも、それは自分で勝手に決めていたことだったから、そうではなくて、今の自分の感情をとりあえず吐き出そうと思ってこの歌詞を書き始めました。
その意識の変化から生まれたものは、丸本さんにとってすごく大きかったのではないですか?
そうですね。実はこの曲が完成して初めてファンクラブイベントで歌った時に、レコード会社の人が“これはいい曲だからシングルになるかも”と言ってくれたんです。でも、今のままでは独りよがりなものだから、もっとブラッシュアップしなくちゃいけないということで、作詞家の方にアドバイスをもらうかたちで、藤林聖子さんと共作させてもらったんです。
具体的に歌詞にはどんな変化がありましたか?
私が最初に書いた歌詞は“彼”という一人称で書いていたんです。でも、それではより多くの人には伝わらないし、彼が死んだことを書くのではなく、彼が死んでどう思ったかを表現していかないとダメだとアドバイスをいただきました。あと、私にはない言葉…《温(ぬる)い笑い声》とかそうなんですけど、そういうのが新鮮だったし、勉強になりましたね。おかげでいろんなことを想像しやすくなったし、曲の世界観を広げてもらえました。
そんな思い入れの強い曲をレコーディングした時に、どんなことを思いながら歌いましたか?
レコーディング前にヴォイストレーニングの先生と練習したんですが、私は悲しい気持ちで歌うと声のトーンが上がってしまうんですね。なので、“怒りを込めて歌いなさい”とアドバイスをいただいて、それで歌ってみたら、今までにない力強い歌い方になって、まったく違う印象になったんです。この曲はきっとこれからもっと成長していくし、ライヴで歌うごとに大きな曲になっていくと思うんですね。だからこそ、曲の力に負けないように、より思いを込めて歌い続けていきたいと思っています。
この曲のおかげで、すごく成長できたようですね。丸本さんは曲をリリースするたびに成長しているように感じますが、女性としての成長はいかかですか?
う~ん…全然できていないです(笑)。でも、以前よりは細やかなことや自分の気持ちに気付くようになりましたね。“言っちゃいけないことを言っちゃったな”とか(笑)。今まではそういうことに気付いてなかったので、少しは成長してきた気がします。
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