【カコイミク】歌が中心となった
“スタンダード”なアルバム
包容力とほろ苦さを兼ね備えた歌声。独創的な世界観を描き出す歌詞。超一流のクセ者たちとのコラボレーションも痛快な音楽時空間。しなやかで深い、一枚。
取材:竹内美保
全曲シングルにできそうな作品集ですが、1stアルバムを制作するにあたって描かれたビジョンは?
自分のやっている音楽は、総合的に見て“ポップス”だと思っているんです。そのポップミュージックをやるにあたって、誰よりも自分が一番ドキドキしたり、ワクワクできるようなポップスのアルバムを作りたい、というのは前提にありました。それプラス、インディーズでやってきたことをまとめたい、という思いもありましたね。
ジャンルを超えた自分自身の王道という感じですか?
そうですね。自分のスタンダードなものをやりたいという。ただ、初めてのフルアルバムなので、勢いとか衝動は大事にしていましたけど。
でも、かなり絶妙なコントロールもされていて、細かく吟味されている印象も受けます。一曲一曲に対して。
ええ。各楽曲のプロデューサーさんは、チームごとにその楽曲のベストの完成形を目指して、そこに進んでくれるんですけど、トータルプロデュースという意味では、自分しか全体像が見えないので。最終的には歌が中心となったひとつの作品としてまとめたかったので、私自身はひとつの楽曲を録っている最中でも、前に録った曲とこれから録る曲のことを考えてコントロールしたり、バランスをとるようにはしていました。特に質感や音の録り方は気にしていましたね。
歌詞は喜怒哀楽では表現しきれない感情、目には見えない部分が描かれていると感じたのですが。
あっ、“目には見えない部分を描く”というのは…そういうところを歌詞にしたいという願望はずっとありました。メッセージというよりは、受け取った人がいろいろ想像してくれるような、そういう音楽を作っていかなくてはいけないなと思っているので。雰囲気ものになりすぎず、主張しすぎず、かつ立体的に感情を乗せられるように、というのは意識しています。歌に関しては細かく考えるというよりは、楽曲に対して乗っかるべきヴォーカルのイメージに向かっていくという感じですけれど。
歌は心地良さだけではなく、危うさを内包しているところに惹かれました。
あまり“癒し”というわけではない…とは自分でも思います(笑)。そのハマりの良さが一番出ているのは、メロディーも自分で書いた『雪』かなと。曲の世界観、サウンド…ヴォーカルスタイルもそうだし。普段は人間の汚い感情はぼやかしたりするんですけど、自分の曲なのでドロッとした感情に寄った作品にしたかったんです。
「よごれた靴」の歌詞も深いですよね。吟遊詩人のような主人公であり、歌で。“自由なんて 荷物なだけさ”とか、すごく孤高な感じがしました。
そう…うん(笑)。孤高になっちゃったんだけど悪くないよって言ってるような歌なんですけど。“自由”という言葉を出しただけで、もう自由じゃなくなっている…その括りに縛られていると思う時があって。だから、しがらみとかいろんなものから抜け出しちゃった人が見てみたいなと思って書いたのが、この歌なんです。実際にはこんな仙人みたいな人は存在しないでしょうけど(笑)。すごい歌詞だなって自分でも思います。
聴く時も場所も選ばない、ずっと側に置きたい一枚でした。
ありがとうございます。長く聴いてもらいたいと思えるアルバムができて良かったと、自分でも感じています。
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