シンセ番長・齋藤久師が送る愛と狂気
の大人気コラム第二十九沼(だいにじ
ゅうきゅうしょう) 『注意欠陥症沼
!』

「welcome to THE沼!」
沼。
皆さんはこの言葉にどのようなイメージをお持ちだろうか?
私の中の沼といえば、足を取られたら、底なしの泥の深みへゆっくりとゆっくりと引きずり込まれ、抵抗すればするほど強く深くなすすべもなく、息をしたまま意識を抹消されるという恐怖のイメージだ。
一方、ある物事に心奪われ、取り憑かれたようにはまり込み、その世界にどっぷりと溺れることを
「沼」
という言葉で比喩される。
底なしの「収集」が愛と快感というある種の麻痺を伴い増幅する。
これは病か苦行か、あるいは究極の癒しなのか。
毒のスパイスをたっぷり含んだあらゆる世界の「沼」をご紹介しよう。
第29沼(だい29しょう) 『注意欠陥症沼!』
「AD/DA」これはアナログ信号をデジタル信号に変換する事を示す。
これは主にレコーディングなどで用いられる言葉だ。
AC/DC」これは交流電源(AC)と直流電源(DC)の違いを示す。
また、あのオーストラリア出身のバンド名としても有名だ。
では、「ADHD」という言葉をみなさんはご存知だろうか。
これは簡単に言うと、「注意欠如・多動症脳・衝動性」を伴う脳の状態だ。
具体的な症状は、主に「目的の場所になかなか到着できない」。
つまり目に見えた情報に衝動的に反応してしまうため、ゴール地点を忘れてしまう。
例えば、
東京駅を目指しているのに、電車から秋葉原の電気街が見えたとたんに「そこに行ってみたい」と思う。
その瞬間に東京駅に行く事を忘れ、秋葉原で下車してしまう。
家を出るときに財布、鍵、携帯電話、そして重要書類などを悉く持ち出すのを忘れる。
究極のサザエさんといえばいいのだろうか。
そのため、家をちゃんと出るまでに物凄い無駄な時間を要する。
さらに思考に落ち着きが無く、いつもあらゆる事を同時に考えパニクっている。
しかし、この多くの情報をコントロールできるようになれば神となれる。
私が子供の頃は、よく通信簿に「おちつきがない」と書かれていた。
そして、それで済まされていたのだ。
しかし、歳を重ねるごとにその症状は悪化の一途をたどる事になった。
メガネを頭にかけながら「メガネはどこだ、メガネはどこだ」と探しているギャグのような行動が毎日濃厚に現れる。
手に鍵を握ったまま、鍵を探しまくる。
同じレコードを何枚も買ってしまう。
特に大切にしている物を何度も何度も無くしてしまう。
実は私の妻も全く同じ症状をもっているため、自分たちが特殊人物だと気がついたのはつい最近の事だ。
妻だけならまだしも、私の周りの友達のほとんどがADHD疑惑だという事も判明。
内容が面白く可愛いために、そのまま放置した。
が、
ある日同じレコードを6枚買ってしまった事に気がついた私は、思い切って心療内科の門を開いた。
すると先生は親身になって一通り私の話を聞いたあとにこう言った。
「それ、治さなくていいですよ。治したら齋藤さんじゃなくなりますよ」と。
つまりだ。
ADHDの不憫で滑稽な症状と引き換えに、健常者には無い特殊能力を持っていると言う。
特に職業で物を作る人間に多いこの症状は、治す事によってフラットになってしまうため、突飛なアイデアや創造性を失う事になりかねないというのだ。
確かに「他人と違う創造性」を失う事は、私にとって大きな痛手となる。
「笑って受け入れましょうよw」という先生の言葉を信じ、治療しない事を選んだ。
退化しそこねた特殊技能
ここでADHD症状を持つ皆様のために、少しでも励みになることを願って私の秘密の特殊能力をお話しよう。
原始時代、男性には「起点に戻れる」という機能が異常に発達していた。
マンモスの狩に行っても、自宅に戻れなければ野垂れ死ぬ。
そのため男性には本能的に出発点に戻れる機能が搭載されていたのだが、文明社会とともにほとんどが退化していったようだ。
この機能が私には未だに搭載されているのだ。
ウチの妻に言わせると「あなたには、まるでジャイロが搭載されている」と言う。
具体的に言うと、一度通った道は必ず忘れない。
そして、どんなところにもマップのゴール地点を視覚で脳に入力すればたどり着いてしまう。
そして、なんの迷いも無く、スタート地点に戻れる。
おそらく、地球の磁場を無意識に感じており、自然に足を導くのだろう。
ある日、フランスの墓地に「ジム・モリソン」のお墓があるというので、フランス人の友達と見に行く事になった。彼はもう何度もそのお墓に行った事があるようだが、広大な墓地で迷った。
私は最初からどの方角でどの位の距離にジムの墓があるのか、初めて来たのに知っていたが、フランス人の友達の自尊心を傷つけたくなかったので、黙ってついていった。
すると、すれ違う多くの観光客が「ジム・モリソン?」「ジム・モリソン?」「ジム・モリソン?」と、やはり迷っている。
業を煮やした私は先頭に立ち、「ついてこい」といい、長蛇の迷い子たちをひき連れ「ジム・モリソン」の小さなお墓を最短距離で案内し、皆に神のように崇められた。
また、ADHDである妻の特殊能力を聞いてほしい。
彼女はADHDであるうえに、左の視力が殆ど無い。
そこで異常に発達したのが聴力だ。
譜面も読めないのに、複雑な和音を一発で解析し、鍵盤で弾く事ができる。
わざとじゃないんです!気がついたら・・・
そして、私たちは選ぶ物も他者とは一風変わっていると良く言われる。
わざとやっているわけでは無い。ごく自然にチョイスしているだけなのだ。
子供やおばあちゃんがいるのに2人乗りの車を買ってしまったり、めちゃくちゃ着にくいのに異形の洋服を買ってしまう。
特にそれを感じるのは幼稚園に行く子供たちの親を見た時や、数十年ぶりに同じクラスだった同級生に会った時だ。
私たちだけ、時が止まっているのではないかと錯覚してしまう。
みんな疲れて禿げ上がっている。
ところが、私たち夫婦は年々髪の毛の量が増え続けている。
あまりにも髪の毛が多くて、半分すきバサミで減らしているのだ。
と、良いことばかり書いたようだが、正直ADHDはとても苦しい一面も持っている。
時間通りに待ち合わせの場所に行けないため、前日から緊張状態が続く。
そして、きがつけば過剰に時間を守るために1時間も早く待ち合わせの場所についてしまう。
「鍵はここ!」と置き場所をきめたにも関わらず、つぎの瞬間にとんでも無いところに無意識に置いてしまう。
しかし、置き先の癖というものを最近発見した。
デカイ私は、必ず棚の上に物を置くらしく、脚立に登ってみてみると
あらゆる物がタンスや冷蔵庫などの上から発見されるのだ。
また、時たま物凄い不安に襲われる。「私たちは、ほんもののアホではないか?」と。
しかし、先日、私の車に乗った5人が重度のADHDだったのだ。
それはそれはストレスのない快適な時間だった。
全員が全員バラバラに違う話を同時にしているのだ。
それでも成り立ってしまう関係性。ものすごくホッとした瞬間だった。
その中の一人と後日会って決めた事がある。
「我々は宇宙人なんだ。だから、これからも宇宙人でいる事を隠さず、僕ら以外の宇宙人を救出して仲間になろう」と。
私は苦しいながらも、このADHDという症状と一生涯付き合って行くことにした。
全てがおっちょこちょいで笑えるADHDはネタの宝庫だ。
そして、ものづくりには無くてはならない脳汁の源泉なのだ。
あなたもまだまだ遅くない。
自らの症状をみとめて
我々と同じ宇宙人という事実をカミングアウトするべきだ。
いつでもWELCOMEだぜ。

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