大注目のラップ演劇カンパニー、演劇
界の“東スポ”こと、東葛スポーツの
主宰・金山寿甲にインタビュー

今、小劇場シーンをもっともざわつかせているカンパニーと言っていいだろう。主宰の金山寿甲(かなやますがつ)が生まれ育った東葛エリアと、愛読紙の東京スポーツをかけ合わせて命名した「東葛スポーツ」は、ラップと内輪ウケとブラックユーモアたっぷりの作風で注目を集めている。山田真歩、光浦靖子、根本宗子といった実力派を呼ぶなど、攻めのキャスティングも魅力的だ。前回公演の『カニ工船』で浅草九劇に進出。12月には新作『平成のいちばん長い日』の上演が控えている。金山寿甲の頭のなかをのぞいてみたい一心で、インタビューを敢行した。
◆平成の終わりとEテレのハイブリッド?
――新作について聞かせてください。今回は、どこから着想を得たのですか?
作れそうな題材というかトピックがいくつかあるとしたら、そのかけ合わせでイメージしていくのが僕の作り方なんです。ただ、やりたいことが先にあるわけじゃなくて、お願いする役者さんが決まってから「今回のキャストなら、コレとコレかな」と考え始めます。内容ありきというより、役者さんありきですね。前回の『カニ工船』はキャストが多かったので、今回は少人数にしようと思っていました。テニスコートの神谷(圭介)さんや稲継(美保)さんなど初めての方が多いです。それで今回のメンバーが揃ったところで、『おかあさんといっしょ』をモチーフにしようと。
――Eテレの『おかあさんといっしょ』ですか?
はい。今、1歳半になる息子がいるんですが、子どもにとって『おかあさんといっしょ』は驚異的な影響があると気づいたんですよ。泣いていた子どもがくぎ付けになるんですよね。そこからEテレの番組をたくさん観るようになって、なかにはかなりとんがっている番組もあったりして、かなり観るようになりました。演劇仲間にも作家としてEテレの番組に参加している人がいますが、僕はたぶんNHKに呼ばれないだろうから、自分なりの『おかあさんといっしょ』をやりたいと思ったんです。
――タイトルは『日本のいちばん長い日』からとっていますよね。
オリジナル版の映画は僕もすごく好きで……。実は、平成31年の4月30日に小屋をおさえているんですけど、そこで『平成のいちばん長い日』というタイトルでやろうと思っていました。平成最後の日に、天皇陛下が明日から普通の人になる、みたいな話を考えていたのですが、今回のメンバーで平成の終わりと『おかあさんといっしょ』がフックになるようなイメージがわいたので、少し前倒ししました。
――関連のない、いくつかの要素をからめていくわけですね。
そうですね。いつもなんですが、複数の要素が自分のなかでつながってから具体的に作っていきますね。『カニ工船』も、蟹工船をカタカナで書いたらカニエ・ウエストに読めるというのと、さらにピースボートの話をくっつけちゃって、というイメージですね。
◆小劇場界のオールスターでおふざけ
――台本だけでなく、ラップの歌詞もありますよね。どのように書き進めるのですか?
台本はなかなか早く上がらなくて申し訳ないんですけど、基本的には、台本ありきのスタンスです。もっと言うと台本ができたら、僕の仕事は終わり、くらいの気持ちなんです。緻密な演出力もあまりないので。役者さんの魅力が大前提なので、その人に合うように書くことは意識しています。
ラップの歌詞は、役者さんの自己紹介的な内容になるので、役者さんと飲んで近況を聞いたりしながら作ります。わりと最後のギリギリの段階で歌詞が決まります。
――時事ネタが入るリリックもありますしね。
情報更新したくなるので、本番中に歌詞が変わることもあります。
――小劇場の俳優たちが、自分のことをラップに乗せて歌うのが演劇ファン垂涎の瞬間なんですよね。
小劇場界のオールスターでおふざけをやるのが楽しいんですよ。役名もないですし、ほとんど本人役で出てもらいますしね。それで自己紹介ラップではかなり内輪ウケになるんですけど、その点についてあまり悲観していないんです。「内輪ウケはダメ」みたいな意見もありますけど、僕の活動の規模だとワンステージの集客は多くて100人程度なので、そこで地球の裏側の人に響くようなことを語るより、内輪ウケのほうが70億人分の100人に対しては、むしろ普遍的なんじゃないかと思っているんです。
――内輪ウケが入っていても、「わからないからつまらない」にはならないように作られていますね。もし、そんなに芝居を観ていない人が東葛スポーツを観に来て、役者さんの出演作などがわからなくても、ラップそのものやブラックユーモアなどの要素で十分楽しめます。
僕、ラジオが大好きなんですが、ラジオ番組って、内輪ウケが多いじゃないですか。放送作家の名前が出てきたりして、最初何を言っているかわからなくても、その世界をもっと知りたいと思ってヘビーリスナーになるような。そういうところを目指している部分はありますね。それに、お客さんのほうが僕よりよっぽど小劇場演劇を観ているので、内輪ウケの共有度の心配には及ばないですね。
――前回は浅草九劇で上演しましたが、一般的な劇場とは異なる場所を使う点も特徴的ですね。上演する場所に対するこだわりはありますか?
皇居より西ではやらないとだけ決めています。東京の東の果てに住んでいるもんで、終わったらすぐ上野で飲めて帰れるってほうが、都合もモチベーションも上がるんです。でも、劇場という場所に拒絶反応はありません。縁があればもっとやりたいです。ただ、自分たちがやっている内容だと、お客さんがこっそり覗き見に来るいかがわしさみたいなのがいいのかなとも思いますし、あんまりいい椅子でどっしりと観るような内容じゃないですね。
◆マイクとサングラスとブラックユーモアと
――俳優がみんなサングラスをかけているのも東葛スポーツの特徴ですね。ペルソナとしての俳優観があるだとか、俳優の存在を匿名性で語るだとか、さまざまな意見や評価もありますが……。
深読みしていただいて恐縮なんですけど、そんなに強い主義主張があるわけではないんです。役者さんたちがもともとラッパーではないので、歌うのが恥ずかしいと言う人がいたんです。それじゃあサングラスをかけてやりましょうとなって、ずっとそれが続いているんです。続けているうちにサングラスをはずす理由もなくなってしまって。でも、出てくれる役者さんはサングラスでやるのがしっくりくると言ってくれますね。
――30歳を過ぎてから演劇活動を始められたということですが、どういうきっかけがあったのか教えてください。
もともとはテレビの放送作家になりたかったんです。20代のころは放送作家の事務所に入って、下働きみたいなことをやっていて、小劇場なんてそれまで全然観ていませんでした。なかなか放送作家で食べてはいけなかったので、森美術館で監視員のバイトをしていたんですけど、そこでチェルフィッチュの『三月の5日間』が上演されて、初めて芝居を観たんです。それまではイメージで演劇なんて面白くないだろうと思っていたのに、チェルフィッチュが面白くて、そこから一気に興味がわいて、小劇場をかたっぱしから観るようになったんです。それが30歳くらいのときで、演劇を始めたくなってENBUゼミナールの短期講習みたいなものを受けました。とにかく、どうやって始めたらいいのかもわかりませんから、そこで知り合いを作ろうと考えたんですね。それがきっかけで東葛スポーツを始めました。その後、ENBUゼミで講師をやらせていただいたのはありがたいご縁ですね。
――ラップを展開する作風はどこから発想したんですか?
最初の時期はラップは入れていませんでした。シベリア少女鉄道の三番煎じくらいの、どんでん返しもできていない芝居でした。あんまり作風も確立していなくて困っていたんですが、あることをきっかけに、もともと好きで聴いていたラップを取り入れるようにしたら、手ごたえを感じることができて、今のスタイルになりました。
――「ラップ」「時事ネタ」「サングラス」と単純にセグメントするのはあまりよくないですけど、すごくキャッチーな武器を持っているのが東葛スポーツの強みと思います。
ラップを聴くのは好きでしたけど、特に音楽活動をやっていたわけでもなくて……。たとえば僕はほとんどマンガを読んでこなかったんですが、今からマンガの知識をつけてそれを芝居に取り込もうとしても遅いですよね。それなら、ラップだとか、普段から好きで観ているニュースの時事ネタだとかを扱って、それが結果的に作品としての個性になれば理想ですね。最近になってようやくですけど、自分の好きなことを取り入れればいいんだと思えるようになりました。
撮影・取材・文/田中大介

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