世界が注目する若き才媛・佐藤采香、
SPICE初のユーフォニアム奏者単独イ
ンタビュー

難関で知られるリエクサ国際コンクールで、日本人としても女性としても初めての優勝という快挙を上げたユーフォニアム奏者の佐藤采香。2018年12月19日にデビューCDを発売し、2019年2月15日(金)にはHAKUJU HALL にてソロリサイタルを行う彼女に、ユーフォニアムとの出会いから将来についてまで、詳しく聞いた。
ーーユーフォニアムとの出会いを教えてください。
ユーフォニアムとの出会いは、小学校3年生のとき金管バンドクラブに入部した時です。最初は金管楽器の花形コルネットを希望していたのですが、先生からユーフォニアムが足りないからやりませんか、と声をかけられたのがきっかけです。当時、私は嫌と言えない性格だったので、ユーフォニアムをやることになりました(笑)。希望通りではありませんでしたが、ユーフォニアムを吹いてみると、音がすごく素敵だなと思ったんです。吹き始めた頃からユーフォニアムの音に対するイメージがすごくあって、薄暗いところにぽっと灯っている光のような音だなと感じました。今でも同じイメージを抱いています。それがこの楽器にはまってしまったところですね。
ーー最初からそのイメージ通りの音は出ましたか。
いえ、その欲しい光を求めるような形でずっと楽器を吹いていました。そうしていると18年経ち、今があるという感じです。大学で専門的に音楽の勉強を始めるまでは、音楽の勉強をするというより、欲しい音をただ求めていくというように音楽活動をしていました。出したい音を求めていくというのは今でもそうですし、一生続くと思います。
佐藤采香
ーーいつ頃からプロを目指そうと思ったんですか。
私には3歳から一緒にいる幼馴染がいて、一緒に金管バンドに入ったのですが、そこで彼女はコルネットを演奏できたんです。私はユーフォニアムになってしまったのに……(笑)。その後、アンサンブルで一緒に演奏する中でも、二人で切磋琢磨し合っていました。私は彼女をライバルだと思ってたんですが、この前彼女に聞いたら全然そんなこと思ってなかったそうです(笑)。金管バンド時代は、コルネットのトップ奏者の彼女と私のツートップでバンドを率いるような形でした。中学2年生の時、彼女が音楽コンクールを受けると言いだしたんです。そうすると私も受けざるをえないというか、ライバルがそんなことを言ったら私もやるしかない! と思って、彼女がきっかけでコンクールを受けることになりました。彼女の存在が私の負けず嫌いに火をつけて、結果的に引っ張っていってくれたと思います。もし彼女がコンクールを受けると言わなかったら、おそらくコンクールのことも知らないままでいて、今音楽の道に進んでいることもなかったかもしれません。
そのコンクールを受けた際、初めてソロの曲を演奏したことで自分とピアノの音の2本で音楽を作っていけるんだなと思ったと同時に、もっと勉強しないとわからない、もっと知りたいと思いました。それが、音楽を専門的に勉強したいと思ったきっかけですね。
ーー佐藤さんが思うユーフォニアムの音の魅力を教えてください。
私にとっては光として捉えているのですが、楽器の音域は、人の声、男性の声の音域なんです。 所謂、テノールの声です。また、チェロとかファゴットの音域と同じです。ユーフォニアムの語源はユーフォノスというギリシャ語なのですが、日本語に訳すと「よく響く」という意味になります。それが語源になってユーフォニアムと名付けられました。その名の通り、音色が豊かに響く楽器なんです。人の声に近い楽器でかつ、よく響くということで、私は人の思いが一番伝わりやすい楽器なんじゃないかなと思っています。ホール全体に音が響き渡るので、楽器から出てる音を聴くというより空間全体で音を感じることができるという楽しみ方ができる楽器だと思います。
佐藤采香
ーー最近の一番大きな出来事というと、リエクサ国際コンクールで優勝されたことだと思います。全部門で日本人、女性としても初という快挙です。コンクールを終えられていかがですか。
今までのコンクールは曲の完成度を高くして披露するというような挑み方だったのですが、管打(「日本管打楽器コンクール」)を除いて、国際コンクールはこれまで2位・3位・2位というような結果で地団駄を踏んでいたこともあり、リエクサ国際コンクールは、少し挑み方を変えてみようと考えていました。コンクールでは課題曲がとても素敵な曲で、ユーフォニアムオリジナルの作品だけではなく、次のリサイタルのプログラムにも入っているラヴェルの「ハバネラ形式の小品」とかグラナドスの「マドリガル」という弦楽器のための作品だとか、コンサートとしても聴いておもしろいプログラムだったので自分のリサイタルのように、完成度というよりもいろんな曲を探求して知っていく形で準備をしました。今までのコンクールでは、がんばって本番に持っていくというような感じでしたが、今回は曲をよく知って自分のリサイタルを作るような感覚で挑んだことが大きく違いました。
また、自分の挑み方だけでなく、リエクサ国際コンクールは日本のコンクールと違う点がいくつかありました。例えば、一次予選の時にあるノルウェー人の演奏です。彼は暗譜という指示がないのに暗譜で演奏をしていて……。そうしていると、案の定2小節飛ばしてしまったんですよ。彼の音楽はとても素敵で、彼自身の声が聴こえてくるような演奏だったので、また聴きたいなと感じていました。暗譜って指示されていないんだから、楽譜を見ればよかったのにと思うくらいに(笑)。日本なら一次予選でそんな演奏をすると絶対に通らないという印象ですが、リエクサ国際コンクールでは一次を通過して彼は二次に残っていました。そこがまず違いますね。
そして二次予選は40分のプログラムを演奏する必要があるのですが、曲順が自由に選べるようになっていました。私はグラナドスの「マドリガル」を最後の4曲目としたのですが、その曲はグラナドスが亡くなる前の年に書かれた作品ということもあり、紆余曲折があったこれまでの全てを受け入れ、集大成として演奏したいなという思いが私にあって……。4曲目に入れることにしました。実は、3曲目までは表現したいことが全くできなくて、もうこの最後の曲しかないっていう時に、自分がやれることしかできないのだから精一杯やってみよう、という思いで「マドリガル」を演奏したんです。結果、本選のリストに残ることができました。後から審査員に理由を聞いたら、「君のマドリガルを聴いて僕は泣いたんだ」と言ってくれて……本当に嬉しかったです。人を感じる温かいコンクールでした。
本選では、自分のポテンシャルを出し切れていないような演奏になってしまい、もっとやれたのになと思ったんです。それなのに1位をいただいてしまい、納得いかなかったので「上手くいかなかったのになんで1位なんですか」と、後で審査員に尋ねてしまったんです。すると、審査員からは「今日の演奏は本当に素晴らしかった。でも僕らはもちろん君がもっともっと最高の演奏家ということをみんな知っているよ。だけど、今日の君の音楽というのを評価させてくれ」と言われました。
その言葉によって、自分の今までの音楽のパフォーマンスへの考え方というか、特にミスに対するコンプレックスみたいなものが軽くなりました。そういう心で聴くという聴き方をしてくれる人がいるんだなと。今後、自分が教える側になった時にその考え方があるかないかで大きく違うと思います。そういった経験ができたリエクサ国際コンクールはいろいろな意味で本当に受けてよかったなと思っています。
佐藤采香
ーー2月15日(金)にハクジュホールで開催されるソロリサイタルへの意気込みをお聞かせください。
2018年12月19日にCDがリリースされたのですが、このCDは2018年8月の時点の私の考え・音の表現の全てが詰まっています。ですが、音源の収録後、2018年9月にスイスへ留学して様々な経験を経て、考え方も音も進化しているはずなので、CDとは違った新しい音を聴いていただきたいと思っています。具体的には、呼吸と一緒に音を描いていくような感覚で、ユーフォニアムをよりナチュラルに吹くようになりました。呼吸をするように演奏をして、自然な空間をお客さんとシェアしていきたいですね。
ーー佐藤さんの快挙で吹奏楽を経験していない層にもユーフォニアムという楽器の認知度が上がったかと思いますが、今後の目標を教えてください。
すごく安っぽい言葉になるかもしれませんが、本物の音楽家になりたいです。ユーフォニアムは180年くらいの歴史しかなく、ユーフォニアムのオリジナルの曲にはいわゆるクラシック音楽の作曲家であるベートーベンとかモーツァルトが書いた作品はないのですが、その彼らの作品を今しっかり勉強しているところです。ユーフォニアムの曲は書かれていなくても、そういった教養の部分、つまりクラシック音楽をやる上での基礎の部分をユーフォニアム奏者も絶対に通らないといけないと感じています。教養を得た上で、今のユーフォニアムのための作品や現代のいろいろなスタイルの作品に取り組んでいかないと、安っぽい音楽になってしまうのではないかと危惧しています。将来的に自分が先生として教える側になる時に、生徒にそういった教養の部分を含めた音楽を伝えられるように、まずは自分が演奏できるようになりたいです。それが私の考える本物の音楽家の姿かなと思っています。
佐藤采香
取材・文=田尻有賀里 撮影=福岡諒祠

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