首藤康之インタビュー〜モノ語る身体
の華麗なる競演! 首藤康之&CAVAの
コラボ企画『レニングラード・ホテル
』の愛知公演がまもなく開催

世界で活躍するトップバレエダンサーの首藤康之と、パントマイムをベースにしたパフォーマンスで豊かな物語性を表した舞台を展開するマイムパフォーマンスグループ〈CAVA〉。共に言葉を用いない身体表現によって国内外で高く評価されている彼らがタッグを組んだ、フィジカル・シアター『レニングラード・ホテル』が来る2019年5月26日(日)、愛知の「春日井市東部市民センター」で上演される。
首藤康之の立案により、ソ連(現ロシア)の西部都市・レニングラード(現サンクトペテルブルク)奥地に佇むクラシックなホテル「レニングラード・ホテル」を舞台として、CAVAの丸山和彰が作・演出を手掛けた本作は、2017年7月に東京「スパイラルホール」で初演、翌2018年にも同劇場で再演され好評を博した作品だ。
雪深い山の頂、湖のほとりに佇む「レニングラード・ホテル」は、優雅で美しい支配人と寡黙なスタッフにより営まれている。外界の混乱はホテルの随所から感じ取れたが、その美しく静謐な空間は支配人によりなんとか保たれていた。アル中で退役軍人のドアマン、新人をいびることだけが生き甲斐のポーター、戦争未亡人のメイド。湖に張る氷のように、彼らは固く結束しているかのようにみえたのだが……。
『LENINGRAD HOTEL』前回公演より
3度目の上演にして初めて作品の誕生地を飛び出す今回。三方を客席が囲んだフラット舞台で演じられた「スパイラルホール」とは異なるプロセニアム舞台での上演について、また作品の成り立ちから初の愛知・春日井公演について、立案者であり支配人役で出演する首藤に話を聞いた。
── この作品は、ご自身が初めてロシアを訪れた19歳の時に感じた「町や建物が大きくて冷たいイメージと、人間の小さな温かみのギャップ」から生まれたとのことですが、それを舞台化しようと思われた経緯から教えていただけますか。
僕たちは世界各地へツアーに行くので、特にホテルに泊まることが多い職業なんですよね。今まで相当な数のホテルに泊まって、ずっと「この人たちはいつ寝て、普段はどういう生活をしているんだろう?」とふと考えることがありました。映画やドラマでもホテルの物語はよくありますが、ホテルマンというのはほぼ24時間の仕事でホテルに住んでいるような状態ですし、人間関係も普通の仕事とはちょっと違う、ひとつの家族のようで。そういう家族性や絆が強い仕事場のイメージがあったので、「架空でもいいから、いつかこの人たちの物語をやってみたい」と思っていました。
それと、初演が夏の公演だったので寒い国の話をやりたいなと。寒い国でホテルといえば、19歳の時に公演でモスクワとレニングラード、キエフ共和国の3カ所を回ったんですが、その時に泊まった東欧のホテルはどうかな?と。当時はベルリンの壁が崩壊する前で鉄のカーテンが少しずつ開き始めた頃でしたが、それでも東京から行くと薄暗い印象の街でした。ルーブルという通貨なんですけども、「マクドナルド」や「ピザハット」が出来たばかりの時で、ルーブルで買える入口とドルで買える入口があって、ドルを持っていればすぐ買えるのにルーブルの方は4時間とか5時間待ちなんですよ。寒い時期にアメリカのハンバーガーを買うために人々が延々と並んでいる。まだ社会情勢をあまり意識できていなかった年代だったので、その光景は衝撃的でした。街を歩いてもホテルでも、みんな能面のような冷たい顔に見えて、何を考えているのかわからない。社会主義の国の人たちは、すごく冷たいんだなと(笑)。
それは劇場に行っても同じで、「ボリショイ劇場」には楽屋に必ず一人、サポートしてくださるお付きの方がいて、そこに長く仕えている80歳近いお婆さまだったんですが、何か頼んだら逆に怒られそうな感じがするぐらい無表情な人でした。僕は、初めてロシアで古典作品の主役を踊るデビュー公演だったのですごく緊張していたんですが、向こうではお客様を入れてゲネプロを行うんですね。自分で言うのは恥ずかしいですが、その日はすごく調子が良くて、大成功だったんです。それで、歴代のオペラ歌手が使うような豪華な楽屋に移してくれて、同時にそのお婆さまも付いてきた。その3日後が自分の初めてのパフォーマンスの日だったんですが、2幕の最後のソロで転んで大失敗をしてしまったんです。それで楽屋に帰って大泣きしていたら、そのお婆さまが僕の手を握って、「マイヤ・プリセツカヤという偉大な人がここでデビューした時、『白鳥の湖』の黒鳥の登場シーンであなたと同じように転んだのよ。でも、プリセツカヤはすごいバレリーナになったから大丈夫」と言って、初めて笑った顔を見せたんです。その時に、「あぁ、この人たちは普段は仕事に徹しているけど、温かい心を持った人間なんだ」というのが初めてわかって、その温かさをホテルの物語を通して表現してみたい、と思って丸山和彰さんにお願いして出来上がったのがこの作品です。すごいロングストーリーになっちゃいましたけど(笑)。
── 丸山さんにお願いした時は、何か具体的なオーダーはされたんですか?
東欧のホテルの話であることと、自分はホテル側の人間をやりたいということ、それとこの作品をやる時には絶対に使いたいが曲あって……ショスタコーヴィチのジャズ組曲なんですが、それを使っていただけませんか、と3つのお願いをして、あとは全てお任せしました。
── 実際に台本が上がってきた時は、どんな感想を持たれましたか?
CAVAの5人のメンバーも家族のような関係性なので、こういう物語にしたいというのはすごく共感してくださったし、シンプルな話ですけども素敵なホンに仕上がって、それを視覚化していくのはすごく楽しみな作業でしたね。
『LENINGRAD HOTEL』前回公演より
── この作品にはセリフがありませんが、最初からセリフのない形で表現したい、という思いでいらっしゃったのですか?
僕は元々バレエダンサーなので、舞踊というのは言葉を持ちませんから言葉のない世界が心地良いというのか、長くやってきたせいもありますけど、言葉より身体の方をずっと信じていたところがあります。昔は、「なんだ言葉は」と思ったりしていましたけど(笑)それが最近、言葉を使う作品をやるようになってからその考えも少しずつ変わってきて、すごく重みがある重要なものだし、数々の昔の戯曲などを読むと身体に負けないぐらい美しいものだな、とも思います。それでもやはり、言葉が無い方が人はいろいろな想像ができるのではないかと思いますし、自分にとってはその方が合うんだろうな、と。言葉というのには一応限りがあるような気がするんですね。でも身体の可能性というのは、宇宙のように無限大だと今でも信じているんです。
── マイムが主体の作品ということで、バレエとは身体の使い方が違うと思いますが、それについてはどのように感じていらっしゃいますか?
僕はバレエを基本に10代~30代手前ぐらいまでは古典作品を中心に踊ってきて、その後にモーリス・ベジャールさんと出会ったり、踊る作品が少しずつ変わっていって、東京バレエ団をやめて最初に出会ったのが(マイムを主体とした舞台作品を手掛ける)小野寺修二さんなんです。彼に作・演出を頼んで『空白に落ちた男』(2008年上演)を創った時に、「あぁ、こういう表現もあるんだな」と教えていただいて。ジャンル分けをすると〈フィジカル・シアター〉というものになるんですけど、そこで丸山さんとも出会って、こういう作品をやり始めて15年ぐらいになります。もちろんバレエのトレーニングは続けているんですけど、最近はダンスを踊るよりこちらの方が自分の身体に合ってきたというか。最初に小野寺さんの作品をやった時は、使う筋肉や思考のあまりの違いに本当にクタクタになりました。
── 〈フィジカル・シアター〉では、モノも使われたりしますしね。
そうなんです。ダンスの時は人を動かすことはあってもモノを動かすということはないので、仕草として意識するとこんなに大変なんだ! と思いました。“モノを動かす軌道”が変わってくるんです。舞台だとシンメトリーの動きの方が綺麗だし、それが普通に感じる。言葉を持たない表現なので、角度とかによって観る人が想像する言葉が変わってくるということですね。例えば、座ってすぐに立つのとゆっくり立つのでも、観る人の想像する言葉が違いますよね。“動く速度”というのもすごく勉強しています。それにしても答えはひとつではないのでこういう作業が続いていると思うんですけど、そこに面白さがあるのかなと思います。
── この作品のパフォーマンスは、“直線的な動き”とも表現されていますね。
ダンスの方が日常に近くて、CAVAさんの動きの方が非日常的なような気がします。ダンスはすごく流動的ですけど、それを少しずつ数値を変えてカクカク動かしていくようなイメージがありますね。もちろん表すものの種類によっても違うんですけども、特にこの作品は円の動きが許されないというか、すべてが直角的というか、それも社会主義的なものを表しているんです。最初にこの作品を創る時に、マスゲームじゃないですけど、ちゃんとした軌道を通ることにしよう、と。とても時間が掛かる作業なので、大変といえば大変なんですけどね。
── 皆さんの揃った動きを全体的に拝見すると、とても美しいなと思いました。
近道が許されないような動きを少しずつお客様が観ることによって東のイメージを見たり、想像したり、ということなんですよね。人によっていろいろな設定を想像してくださるのが面白いです。なるべくその辺りがミステリアスな方が、僕は作品として良いと思うんです。「これはこうだ」と提示するより、ある程度お客様に余白を与えて、「自分だったらこうするだろうな」と考えてもらったり。僕が舞台を観る時も、余白を与えられているものの方が印象が良くて、逆に感動するというか。すっと入り込めなくて、置いてきぼりを食らう作品というのもあるじゃないですか。入り込めないというのは、例えばすごく感傷的な演技をいきなりガーッと見せられると、すごい演技力だというのはわかっても、ちょっと引いてしまう場合がありますよね。でもちょっとでも余白があるとフッと入り込めて一緒に泣いてしまうような状態があると思うんですけど、そういうことのような気がします。
── 照明などもとても綺麗ですし、夢を見ているような作品ですね。
そうですね。夢を見ている感じですし、誰もが経験したことがあるようなものが組み込まれている気はしますね。何か作品を観た時に、自分が経験したこととリンクした時とか、そこにちょっとした真実を見た時に人の心は動くんだろうな、と思いますね。
── 全体的にユーモアがあったり、さまざまな仕掛けがあったりしますが、首藤さんも何かアイデアを出されたりしているのでしょうか。
もうみんなでワーッと出し合ってですよ。とにかく本当にモノがすごく多くて、コップひとつの持ち方にしても人それぞれ違うので、ロシア人だったらどうするんだろう? とか考えて。いろいろ試して検証して、一番良いものをチョイスしていって創り上げていく感じですね。
── これまでは「スパイラルホール」で上演されてきて、観客が正面と両サイドの三方にいらっしゃる形で上演されていますよね。今回はプロセニアム舞台で、観客が一方向からのみご覧になるわけですが、それによって見せ方や演出が変わる点などはありますか?
前回まではかなり横のお客様も意識して創っていたんですよね。それこそ置いてきぼりになってしまったらいけないので、いろいろと正面を変えながら創ったりしていたんです。でも、基本的にスクエアの形で創っているので、一方を正面にして創ったものを反対から観ても変ではない、どこから観ても大丈夫になっているんだな、ということが今回わかりました。でも、もちろんお客様がより観やすくわかりやすい方がいいので、その辺りのチェンジは丸山さんがお考えになって少しやられていますけど、大きくは変わらないです。今回はプロセニアム・アーチ自体がホテルの入口みたいに見えると思うので、僕自身も客席からどう見えるのかを楽しみにしています。
首藤康之×CAVA Physical Theater『LENINGRAD HOTEL』チラシ表
今回公演が行われる愛知県春日井市はバレエ教室が多く存在する土地柄であることから、本作を主催する〈かすがい市民文化財団〉では身体表現に関する公演を積極的に企画し、「できるだけ若い世代に劇場に足を運んでほしい」と、小学生~高校生まで500円で鑑賞できる取り組みも行っている。この公演もその対象作品になっているので(事前申し込みが必要、公演データを参照)、親子での鑑賞もおすすめだ。また、春日井公演の後、5月28日(火)には首藤康之の出身地である大分の「iichiko総合文化センター iichiko音の泉ホール」でも上演が予定されている。

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