iaku最新作『あつい胸さわぎ』作・演
出の横山拓也インタビュー

今、もっとも上演許可を求めれている劇作家といっていいだろう。iaku主宰の横山拓也が新作『あつい胸さわぎ』を上演する。浅草九劇で鄭義信の演出で上演された『エダニク』をはじめ、ミニマムかつ緊張感あふれる会話劇は各方面から高い評価を得ており、『逢いにいくの、雨だけど』は第22回鶴屋南北戯曲賞にノミネートされた。新作の題材は、若い世代が罹患するがんと、世代の異なる女性ふたりの恋愛だという。いったいどんな劇に仕上がるのか、横山拓也に話を聞いた。
◆台本がひとり歩きしてくれればいい
――今年は7月から8月だけでも、『エダニク』や『仮面夫婦の鑑』が上演され、MONOにコントを脚本提供されました。横山さんの新旧いろんな作品が、あらゆるカンパニーで手がけられています。
相対的に多いのか自分では分からないですけど、月に1度くらいのペースで上演の依頼が届きます。ありがたいことに、日本のどこかで何かが上演されていますね。劇作家としては、台本がどんどんひとり歩きしてくれればいいと思っています。いろんな方々が劇にするということは、長く書いていくうえでの目標でした。ただ、本番を観に行ったとき、僕自身がどういう感想を抱くはまた別の話として(笑)。
iakuでは、上田(一軒)さんに演出をお願いすることが多かったのですが、前回の『逢いにいくの、雨だけど』と今回の『あつい胸さわぎ』は僕が演出です。上田さんにはドラマトゥルクで参加していただいています。
――iakuにおける上田さんのドラマトゥルクは、具体的にどんな役割ですか?
史実をもとに書いている作品なら、事実関係の考査などがドラマトゥルクの主な領域になると思いますが、僕はあまりそういう書き方はしていません。僕たちの場合は「iakuの狙い、やろうとしていることがブレない」というところに力点が置かれていますね。
書いていて、無意識のまま進んでいった筆の運びを上田さんに見てもらいます。そこで意識的になるべき点だとか、立ち止まるところだとか、そういう部分を共有します。上田さんの「本当はこう書きたいんじゃないの?」という視点が僕を導いてくれるというか……。iakuの雰囲気は、上田さんとふたりで作ってきたところがあります。やはり信頼できる人であり、常に客観的な存在である上田さんじゃないと頼めません。
『逢いにいくの、雨だけど』より(撮影:木村洋一)
◆「何が語れるか」と「どう語っていくか」を追求
――『あつい胸さわぎ』では、15歳から30代のAYA世代(Adolescent and Young Adult)が罹患するがんを題材にした理由を教えてください。
僕は、一貫して命を見つめるということを作品の主題に置いてきました。そのなかでAYA世代のがんについて語ろうと考えたんです。たとえば身近な人にAYA世代の人がいたとか、具体的なモデルはいません。乳がんになった大学生の娘とその母のふたりは、それぞれ恋愛事情を抱えています。人間が生活するうえで突然訪れる病との付き合い方や、見つめ方を描きたいと思って題材に選びました。
――『エダニク』を執筆したときは、実際に屠場を取材したそうですね。今回は、何か取材をされましたか?
今回は、具体的に話を聞くよりも、資料が中心です。いつも、戯曲を書くときは図書館に向かいます。資料は、実際にがんになった人の手記などに目を通しました。がんという病気について訴えたいとか、AYA世代について何かを言いたくて芝居を書いているわけではないんです。病を通して、人間の不安の全体像をとらえたいというか……。病気に限らず、恋愛だとか、人間関係だとか、あらゆる出来事に対してうごめく人々を書きたいと思っています。
AYA世代のがんを世の中に知らしめるような目的はなくて、芝居を作るためにこの題材を選んでいるというほうがイメージは近いです。題材にアプローチして「何が語れるか」と「どう語っていくか」を追求することで、iakuらしさみたいなものが見つかると思っています。
――今は稽古開始前の段階ということですが、台本はどこまで進んでいますか?
稽古初日に台本の初稿を上げるというルールで進めています。台本上で60ページ書くと、だいたい90分くらいの上演時間になるので、60ページ程度で終わりたかったのですが、ここまで書いてもラストに向かっていないので、もう20ページ書いて稽古で削っていく作業になりそうです。チラシにも「上演時間は、90分~100分を目指して製作しています」と書いているので、そこは守りたいと思います(笑)。
『逢いにいくの、雨だけど』より(撮影:木村洋一)
◆個人の切実な悩みがにじみ出てくるように
――横山さんの演出スタイルを教えてください。
これまで多くの作品で上田一軒さんに演出をお願いし、「戯曲とはその存在が謎である。それを俳優と一緒に解いていく」という稽古場を見てきました。僕も俳優とはかなり話し合います。自分のイメージを押し付けることはなくて、戯曲に書かれていることを一緒に読んでいきます。「なんでこういうふうに読んだのか?」「なぜこういう言い方を選んだのか?」など、僕が俳優にインタビューするように話を聞いていきます。戯曲の構成上、俳優のとらえ方が劇を作るうえでそぐわない場合は、僕もそこを話して感覚を共有していくような作業を続けます。役の理解を深めていくために、話し合いは多くなりますね。そのせいかは分かりませんが、わりとゆっくり進めていきます。あんまり急いで「ここのシーンはこういうことなんです」とは言いません。それだと僕が先に正解を出すことになってしまうので。
――事前に人物のバックボーンに関する説明をすることもなく?
そうですね。稽古を進めていくと、俳優のほうがその役に詳しくなってくれたらいいなと思っているので。最初からあまり人物像の背景を色濃く伝えることはしないです。作家も、戯曲に書かれていることしかわからない面があります。綿密に人物のプロフィールを設定する作家もいるでしょうけど、僕は書きながら見えてくるもののほうが多いです。
横山拓也
――横山さんの会話劇は、密室的な空間で劇世界が広がるように思いますが、昨年の『逢いにいくの、雨だけど』は三鷹市芸術文化センターで上演されました。今後手がけてみたい劇場はありますか?
具体的に「どうしてもここでやりたい」という場所はありませんが、中劇場に近い空間に興味はあります。もともと、狭いところでやるのが好きなんです。そういう空間で濃密に作っていく作業を続けたいと思いつつ、中劇場クラスの広さをイメージして、僕の会話劇がどのくらいまで劇世界を保てるのかということにもチャレンジしたいと考えています。
――今回の上演にあたって、横山さんが目標として設定していることがあれば教えてください。
乳がんになってしまう娘は、恋愛経験がありません。乳房を全摘出するかどうかという話になるのですが、彼女は好きな男性に胸を触ってほしかったけど、それがかなわないかもしれないという状況に悩まされます。若い女性の病気と恋愛、さらに母親の恋愛という要素が絡むとき、いかにメロドラマにしないで描くかが、今回の重要な課題です。「若者の病と恋愛」を扱う感動ドラマは巷にあふれていますが、世の中ですでにあるベタな恋愛ドラマと違うものを目指しています。個人の切実な悩みがにじみ出てくるような、どんなに人もリアルに迫る瞬間が描きたいですね。
撮影・取材・文/田中大介

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