Editor's Talk Session

Editor's Talk Session

【Editor's Talk Session】
今月のテーマ:
アーティスト性の変化と
レコード会社の在り方

いい曲が出来上がったら
それを爆速で出す

千々和
私はmusic UP'sでインディーズ担当をしているので、毎月3組から4組ほどのアーティストの取材をするんですが、話を聞いているとレーベルに所属していても自分たち主導で動いていたり、自分でレーベルを立ち上げていたりとか、意思の強いアーティストが多いと思っていて。おふたりは最近のアーティストをどう感じていますか?
松崎
やっぱりみなさんこだわりは強いです。こだわる部分もそれぞれで違うじゃないですか。アーティストから“こうしたい”と言われた時に“それはちょっと違うな”と思うことももちろんあります。その時は“絶対にこうやったほうが僕はいいと思う”と思うんですけど、僕は今38歳なので二十歳とかの子と感覚も違うから、その時の自分の感性を信じてないんです。“こうやったほうがいいと思う自分がダメなんだろうな”というところから始まるというか。だから、個性を潰さないために嫌なことは絶対にやらせないようにしてますね。ぶつかったら基本的に言う通りにする柔軟性とジャッジの速さが大切かなと。一番良くないのは、アーティストのやりたいことを寝かすことなんですよね。“こうやってほしい”“こういうふうにやりたい”というのを忙しさにかまけて寝かすのは良くないから、それだけを意識してるくらいで、あとは流れに身を委ねながらいい曲が出来上がったら爆速で出す!というくらいです。
千々和
CDに関しても、売れないというのはよく聞きますけど、そもそもアーティストが出したいと思っていない場合もありますよね。
松崎
分かります。でも“そんなこと言うなよ~”ってレコード会社で働いてる者としては思ってしまうこともありますね(笑)。
石田
アーティストがCDプレーヤーを持っていないことも多いですからね。
松崎
確かに。でも、その感覚がストリーミングになっているというのは実感します。今の新しい世代からすると、僕らがCDを作るのと一緒でストリーミングで曲を届けたり、YouTubeにアップするのがリリースと一緒なんだなとすごく感じますね。
今村
完全に同意ですよ! その通りだと思います。
岩田
今村さんは『IMALAB』で配信ライヴイベントなども実施されていますが、それこそ新人バンドとかかわる中でもCDに対して同じような意見が多いんですか?
今村
ジャンルによって違うかもしれないですね。CDに憧れを持っているのは、バンドには多いと思います。そもそもライヴイベントをやったのは、『IMALAB』でいろんなアーティストやいろんな人たちと話しをすると、インディーズの子たちが特に苦労していて、どうやって活動したらいいか分からないという意見があったんです。特に発表の場を失っているアーティストが多いからライヴを見せる機会がほしいと。やってみると、その通りで。そこに対する想いが強い人がいっぱいいて…だから、これからも才能と熱意を発信する場はできる限り作りたいなと思います。
千々和
“自分たちで全部やっていこう”というバンドと、そうはいかないバンドの間に溝ができていくのは危ういと感じてます。配信ライヴをやるとなったらお金もかかるし…今はライヴハウスが配信システムを整えていることが多いですけど、コロナ禍になった時にそういう部分で置いてけぼりになってしまったアーティストもいっぱいいると思います。
今村
今はいろんなことができるアーティストが多いですね。動画も作れて、SNSでプロモーションもちゃんとできるっていう。一方で、才能はあるのにそれができなくて埋もれてしまっているアーティストがいっぱいいると思っていて。その人たちは本当に見つけづらいんですよ。“いいね”とかフォロワー数が全然ないんで、僕はそこをなんとか見つけたいと思うんです。
千々和
本当に両極端ですよね。片やレーベルの方から声をかけてもらって、その場で自分の意見が言える人や、セルフプロデュースができている人もどんどん増えていて。
松崎
確かに。レーベルがアーティストにしてあげられることがすごく少ないですよね。昔はアーティストは曲を作ることで精いっぱいだから、それ以外のことをやってあげる…それこそプロモーション用の紙資料を作るとかもそうですし、CD-Rに音源を焼いたりとか。今は全部自分でできちゃうけど、今村さんが言ったようにできない人もすごくいて。才能がめちゃくちゃあるけど、世に出ていくきっかけがないみたいな。そこに目をやるのは新しい音楽の生まれ方として面白いし、そういうアーティストが売れてほしいですよね。
今村
そういうアーティストをフックアップできる場もちゃんと作りたいと思いますね。できる人たちはSNSとかでちゃんと目立ってこれるので。
松崎
そこは絶対に声がかかってますもんね。
今村
あと、勝手に思っていることですが、今後は音楽を生む人がアーティストとして生きていくだけではなくなる気もしています。例えば、作った曲を一曲いくらかで売って、それを買う人がいて、その人がそれをサブスクで販売するっていうことも起きるんじゃないかと。アーティストとして活動したいわけじゃなく、ヒット曲を何曲か世の中に出したいだけとか、自分の曲じゃないけど音楽で食っていく人とかも出てくると思っていて。レーベルがどこを支えていけるのか?も、ものすごく多岐にわたってくるんじゃなかと
岩田
松崎さんもそうなると思いますか?
松崎
論点は少しずれるかもしれませんが、すごく細分化はされてきているので、“これができないとダメ”みたいなのはなくなりそうだなとは思っていますね。昔は自分で曲が作れて、アレンジができて、佇まいも素晴らしい、それに勝るものはなかったんですけど、最近だと素顔を出さずともたくさんの人たちに広がっていくこともあります。僕は全員にチャンスがある時代がストリーミングによって訪れたと思いますよ。スタートラインがみんな一緒になったから、これから先はアイディアやスピード感だったりが試されるんじゃないかな? 特にスピード感だと思っています。クリエイティブファーストは大前提で、いい曲を作るとか、こだわっていいMVを作るとかも大事ですけど、夏のことを歌っているのに寒くなってからリリースしたら意味がない。とにかく爆速で動けて、爆速でいい展開を作れて、爆速で届けられる人が選ばれていく。だから、それについていけるように、今からノウハウを自分の中に落としていかないといけないというのは感じています。
石田
これをレコード会社の方に言うのは申し訳ないのですが、そうなってくるとレコード会社の在り方が変わってくるというか、いらなくなってきますよね。
松崎
そうそう、本当にそう思います。
今村
ソニー・ミュージックエンタテインメントの元社長の丸山茂雄さんは“レコード会社はいらない”と言ってましたが、本当にレコード会社はこれから動き方が変わりますよね。『VIA』のようにスモールチームで爆速で動くというのも動き方のひとつだと思います。

OKMusic編集部

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