中村勘九郎・中村七之助インタビュー
 17年目となる巡業公演への想い、演
目にかける意気込みとは

2005年から続く中村勘九郎と中村七之助を中心にした巡業公演。2022年は『春暁特別公演』を全国16ヶ所で、中村勘太郎と中村長三郎を交えた『陽春特別公演』を全国5ヶ所で行うことになった。それぞれの見どころや演目にかける意気込み、そして17年間という長きにわたって続けている巡業公演が勘九郎と七之助にとってどのような存在なのか、想いを語ってもらった。
取材はコロナ禍感染対策のためリモート。最初、勘九郎の音声が聞こえないという音声トラブルがあったが、七之助が「僕、先に話します」と冷静かつ、笑いも交えて場をフォローした。ふたりはどちらかがぴしっと締めるとどちらがかが笑わせるなど、常に緩急のある空気を作っていて、舞台のみならず、会見の場でも兄弟が抜群の呼吸で補い合っていることを感じさせた。
ーー今年の巡業公演はどういう内容になりますか。
勘九郎:私たちにとりまして大事な巡業公演が今年も行われること、そして去年から参加した子どもたちが今年も参加できることを嬉しく思います。それもこれも、コロナ禍、お客様に安心安全に歌舞伎を見ていただけるように、徹底的に感染対策をしてくれているスタッフのおかげと感謝しています。現在、第6波がやってきていて、3月にはどうなるかわからない状況ですが、全国の皆さまに楽しんでもいただけるように準備をしていきたいと思います。
七之助:2005年から続いていて17年目になります。劇場にお足をお運びになれない方々のところに兄とふたりでうかがおうという巡業企画が、おかげさまで17年。コロナ禍で中止になったこともありましたが、今年またやらせていただきます。今回は『春暁』と『陽春』の2種類で開催します。『陽春』には去年から巡業公演に参加した勘太郎と長三郎も参加します。
勘九郎:17年間、やらせてもらっていて、今年の栃木で念願の47都道府県制覇することになります。本来、2019年に制覇する予定でしたが台風でできなかったので、ようやく夢が叶うことを非常に嬉しく思っています。
(左から)中村勘九郎、中村七之助
ーーそれぞれの演目の見どころを教えてください。
勘九郎:『春暁』の出し物としてはまず『高坏』をご覧いただきます。これは、中村家の芸といっても過言ではないもので、17代目中村勘三郎が現在残っている演出や振り付けをしたもので中村屋にとって大事な1作です。この巡業公演は中村屋のお弟子さんも含めみんなで作りあげていくことをメインにやっていまして、それが叶うことを嬉しく思います。
演目は華やかで、春先取りのような桜満開の中で行われます。このご時世、お花見も自由にできませんが、舞台を見て少しでもお花見気分を味わっていただけたら幸いです。今回、私は『高坏』のための下駄を新調しました。今まで何回も『高坏』を踊らせていただいたときは父の下駄を使っていたんです。やはり人それぞれのサイズ感があるものですから、今回新調しまして、自分の下駄のお目見えが『春暁』公演になります。また、『陽春』の『かさね(『色彩間苅豆』)』は清元の代表作のひとつでございます。ストーリーがしっかりしていておもしろいです。女と男のドロドロした部分と、清元の名調子の美しさの重なり合いが魅力的で、私の好きな作品です。十代のとき、私がかさねをやって七之助が与右衛門をやったことがありましたが、それを見た人は少ないかもしれませんね。今回は男女逆転して、私が与右衛門、かさねを七之助がやります。
中村勘九郎
七之助:かさねは一途で与右衛門さんを追いかけていきますが、与右衛門さんがあまりにも悪い人で……。
勘太郎:そうなんです、僕(与右衛門)が全部悪いんです。悪事ばかりを働きます。
七之助:その業がなぜかかさねのほうに降り掛かってきて、悲惨な目に合う。そういう因縁話です。
勘太郎:教訓は——重い女性は不幸になるということです。炎上発言ですね(笑)。
七之助:それ、いまならだめですね。男尊女卑の最たるお話ですが、あくまで物語としてドロドロを楽しんでほしいです。
勘太郎:踊りに関しては七之助さんいかがですか。
七之助:『かさね』は清元の名曲中の名曲。踊りのみならず曲も聞いていただきたいです。私はフランスの海外公演でやらせていただきましたが、日本でやるのははじめてで、楽しみです。物語では愛憎ぶつかりあう関係ですが、踊りではかさねと与右衛門は助け合いです。磁石のようにプラスとマイナスが引き合うように踊ると、より効果的に拒絶し合う位置関係が明確になります。そのメリハリが踊りの深さになるので、そこを追求していきたいですね。
ーー七之助さんは『隅田川千種濡事』の早替えも見どころです。
七之助:『春暁』の『隅田川千種濡事』はお染と久松の長いお芝居の段切れの舞踊です。以前、私が巡業をひとりでまわらせていただいたことがあり、そのときは昔ながらの芝居小屋をまわりました。父が襲名のおりに巡業でこういうことをしたいという道を作ってくれたので、それを真似して、この踊りを芝居小屋の巡業にかけさせていただいたもので、そのときに選んだ演目です。四役の早替りがありまして、早替りは歌舞伎のひとつのエンターテインメント性の高い手法でございますけれども、生で見たことがない方が多いかもしれません。でしたら踊りもすてきですし、早替えを生で見ていただきたいなと思ってはじめたらとても喜んでくださった。今回も早替えを見ていただこうとこの演目を選びました。
(左から)中村勘九郎、中村七之助
ーー高下駄での踊りや早替えにはコツがありますか。
勘九郎:下駄のタップも早替えも見どころではありますが、実はおまけだと私たちは思っています。重要なのはそこに至るまでのお芝居です。『高坏』の場合は満開の桜の風情だったりお酒の味や匂いに酔っている雰囲気だったりがいかに表現できるか。七之助の場合は人間関係に重きを置いています。
七之助:早替えはお弟子さんたちの連携が大事で、私は早替えの場を“ピットイン”と呼んでますが(笑)、そこで僕はただ立っているだけなんです。僕自身に関して言えば、踊りだと手だけ残して一瞬で手ぬぐいを持ちかえるとか、わざと片方の手の動きを遅らせるとか、そういう技術はいろいろ考えています。セリフがないので踊りだけを見てすべてを理解するのは難しいと思いますが歌詞を読むと理解しやすいです。パンフレットに歌詞が書いてあるのでお買い求めいただくとより演目が楽しめると思います。
ーー勘太郎さんと長三郎さんの成長はいかがですか。
勘九郎:勘太郎は6歳くらいのときに歌舞伎座で『玉兎』をひとりで踊っているので安心ですし、長三郎もお稽古を重ねてブラッシュアップしているところです。『玉兎』は通常ひとりの踊りですが、今回、勘太郎と長三郎のふたりで踊ることで、振りだとか構成が変わります。ふたりで踊る『玉兎』はとてもめずらしいんです。『カチカチ山』をやる場面があり、兎と狸のパート分けをします。皆様に楽しんでいただけるものにしたいと思います。
七之助:2021の2月に行った祖父(17代目中村勘三郎)の追善公演で勘太郎は『連獅子』、長三郎は義太夫狂言『奥州安達原』の子役の大役を立派に勤めあげました。ふたりとも元々歌舞伎が大好きですが、この公演からがらりと姿勢が変わりました。歌舞伎役者としての自覚を持ったのではないかと感じます。今、兄はまだまだと首を振っていますが(笑)、僕はそう思いました。
中村七之助
勘太郎:一ヶ月舞台に立っていることと立ってないこととでは大きな違いがありまして。彼らは一ヶ月、舞台に立つ経験をして、あれだけのお客様たちに見られているわけですから、プレッシャーも感じたことでしょうし、ひとまわりもふたまわりも大きくならないと困るのですが(笑)。おかげさまで子どもたちがすくすく成長しておりまして。稽古事にも実が入っており、とても心強いです。なにより嬉しいことは、芝居好きなことが滲み出ているんですね。それが見ていて嬉しくて。毎日、家に帰ってから芝居の映像を見ているし、ほかの役者の歌舞伎も見ているし、文楽も見ています。芝居に関係することを趣味じゃないけど楽しんで自ら取り入れているのは、同じ歌舞伎を愛する人間として、親としてではなく、嬉しいですね。また、今回、ふたりが描いた絵を使用したオフィシャルグッズを販売予定です。これは17年間やってきて、はじめての試みになります。公演を見て、なにかひとつでもお土産に持って帰っていただきたい気持ちがありまして。彼らの描き下ろした手ぬぐいとラバーキーホルダーを販売予定でございます。ふたりとも——とくに長三郎は絵が大好きなんです。
ーーほかにここにも注目してほしいという点はありますか。
七之助:歌舞伎にも舞踊といってもいろんなジャンルの舞踊があるよということを巡業公演で知っていただくため、『春暁』は長唄で『陽春』は清元を選んでいます。どちらもお楽しみください。
勘九郎:鶴松がここ数年ほんとうにがんばっていまして、『高坏』では高足売という大事な役で中村屋の芸を彼に伝えることができればと思っています。トークショーは彼がメインになって話してくれる予定ですので中村鶴松の人となりを楽しんでいただければと思います。トークの前、私が『高坏』に出ているので、まずは鶴松と七之助が、後半は七之助が出演の準備があるので、私と鶴松のトークになりそうです。トークショーではその土地土地にゆかりある話をしたいと考えています。祖父から聞いた思い出などもありますし、17年、多くの場所にうかがってこちらが元気づけられることも多く、各地の思い出を皆様にお話できることを楽しみにしております。
(左から)中村七之助、中村勘九郎
取材・文=木俣 冬    撮影=中田智章

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