薬師寺×最新技術×歌舞伎=三位一体
のアート 新プロジェクトに挑む、中
村獅童インタビュー

来たる2022年7月16日(土)と17日(日)の2日、1300年の歴史を持つ奈良県・薬師寺で『meme nippon project 第一章 薬師寺ひかり響夜 -inori- ~歌舞伎と灯りと響きの夕べ~』が開催される。現代を代表するクリエイターが集結し、声明・プロジェクションマッピング・サウンドアート・歌舞伎舞踊といった芸術を通じ世界平和と安寧を祈る本イベントでは、中村獅童が新作歌舞伎舞踊『瑠璃光』の主演を務める。コロナ禍で見つめ直した自身の俳優としての存在意義、そしてプロジェクトが目指すもの、伝統文化を伝えていく思いをプロジェクトの発起人である中村獅童が語った。
エンターテインメントや歌舞伎といったものを通して、一つひとつの苦難を乗り越えていく。そういうことをやりたい
ーー今回のミームニッポンプロジェクト「meme nippon project」は獅童さんが発起人であるとお聞きしています。“祈り”をテーマにした本イベントを思い立った経緯を改めて教えてください。
コロナの時、芝居が何本も中止になってずっと家にいて、これからの歌舞伎界のことや自分のことを考えていました。その時に、今だからこそ歌舞伎の配信の元祖である「超歌舞伎」をやろうじゃないかということで、池袋のBrillia HALLで『今昔饗宴千本桜』をやらせて頂いて配信しました。コロナで本当に役者ってこういう時無力なんだなって思いましたが、何かできることはないかと思う中で、やはりみなさまに観て頂くことが仕事だから、観て頂いて元気になったり生きる希望に繋がったり、そんな風になれればと思いました。災害や戦争がある世の中なので、本当にエンターテインメントや歌舞伎といったものを通して、一つひとつの苦難を乗り越えていく。そういうことをやりたいというのを谷川さん(アーティスティックディレクター・JTQ谷川じゅんじ)に会って話をして、「超歌舞伎」を今までずっと一緒に作ってきたドワンゴの横澤さん(横澤大輔)にお力を頂いてやらせて頂くという運びです。

(左から)横澤大輔、中村獅童、谷川じゅんじ
ーーコロナ禍で俳優であるご自身の存在意義を改めて見つめ直し、何かできることはないか考えられたのですね。
それがすごく大きかったです。これは今までも同じですが、やっぱり自分で動き出さないといけないし、今まで作ってきたものには必ずテーマというか、狙うターゲットといったものが根底にありました。絵本を原作にした『あらしのよるに』というのは小さなお子様からお年寄りまで楽しんで頂いて、お子様や歌舞伎初心者にも分りやすく、そして大人や上級者が観ても納得のいく、そういったものを目指して作りました。「超歌舞伎」であれば、いわゆるサブカルチャー好きな若者を振り向かせたいという思いがありました。とにかく歌舞伎を身近な演劇に感じて頂くこと、若者に振り向いてもらうというのは自分の使命だと思っています。その中で今回のテーマというのはやはり『祈り』です。コロナ禍で大変な思いをされた方、いろいろな方がいらっしゃると思いますが、お客様参加型という部分でお客様自らロウソクに灯をともし、みなさまそれぞれが祈りを込める。場所も薬師寺というところでやらせて頂くことが決まりましたし、やはり祈りですよね。ロウソク一つひとつに灯をともしていき、みなさんそれぞれの思いが演出効果にもなり、その情景を作っていく訳です。その中で歌舞伎舞踊が始まり、最新のプロジェクションマッピングで薬師寺も非常に美しいものになると思います。​

“伝統を守りつつ革新を追求する”というのが中村獅童の生き方
ーー今回のプロジェクトを準備中にロシアのウクライナ侵攻があり、本来コロナに対するものであったのが、祈りの対象がより広いものとなりました。
全てですよね。災害というのは自然現象ですからある種仕方のないことではありますが、やっぱり争いごとっていうのはない方がいいに決まっています。でも、そういうことが起きた時に今まで我々はどうしてきたかというと、祈りですよね。芸能界でもまさかっていう人が亡くなったりと、本当に悲しいことが多いですけど、我々は今生きてる訳だから、それを乗り越えていかなければなりません。そんな大変な中でもよりよい歌舞伎界になればいいと思うし、伝統を守りつつ革新を追求するということをひとつのテーマに考えています。それが中村獅童の生き方でもあると思っています。コロナになって企画を立ち上げ、こういうことをやりたい、ああいうことをやりたいと言って、戦争が起きたりいろんなことがあったりして、それが今一つの形になろうとしています。今回はいろいろな思いの中でいらっしゃる方が多いと思いますが、そういう思いを思いきり作品にぶつけて頂きたいと思います。​
ーー先ほどコロナ禍で俳優の無力さを感じたと言われましたが、本来個人的な行為である祈りを獅童さんが先導役となり行うことは、その時に感じた疑問に対する答えのようにも感じます。
そうですね、僕なりの回答ですよね。これが歌だったら思いをすぐ歌にしたりできるけど、こういう状況下で、中村獅童というひとりの歌舞伎役者が、世の中のみなさまにどういう風にメッセージを発信していけるかなって考えた結果、こういう形になりました。
薬師寺✕最新技術✕歌舞伎=三位一体のアート
ーー当日はどんな空間、世界になりそうですか?
薬師寺というのは歴史深い、厳かな場所ですから、そんな薬師寺と、プロジェクションマッピングという現代技術、そして古典歌舞伎の融合であり、それらが三位一体となって一つのアートを作ります。背景にあるのが舞台のセットではなく本物のお寺で、その中で行われることなので、とにかく会場にお越し頂いて、その雰囲気を体感して頂きたいです。ただ、やっぱり今はいろいろな事情で会場に来られない方も大勢いらっしゃると思いますので、そういった方たちもぜひ観て頂きたいので配信もあります。
大講堂 イメージ

大講堂 イメージ
ーー今回は第一章と銘打たれていますが、今後はどのようにお考えですか?
テーマを少し変えていくとしても根底に流れるのはやっぱり“祈り”なのかなと思っています。それから、やっぱりいろいろな人、歌舞伎以外のジャンルの人とも関わっていきたいと思っています。「メイド・イン・ジャパン」というのもひとつのテーマで、今回はメイド・イン・ジャパンの歌舞伎・ファッション・最新技術の融合です。今後もファッションデザイナーや現代音楽家、そういう方たちともコラボレートしていきたいですし、いろいろプランはあります。ただ、異ジャンルの方たちとのコラボレートになっていくので、スケジュールの都合もありますし、それだけ1回目っていうのは重要になってくるんですよね。ですので、これから広げていきたい分野の人たちに観て頂いて、“こんなのだったら参加したい”と思って頂けるようなものにしたい。江戸時代はファッション誌がなかったから人々は歌舞伎の浮世絵を見たのでしょうし、ロックの精神の人や、ファッション性の高い人が歌舞伎界にいたと思うんです。本来歌舞伎というのは、そういういろいろな役割を持っていたと思うので、そういうことをもっともっと多くの方にご理解頂ければという思いがあります。

日本人のアイデンティティや伝統を大切にして頂きたい
ーー歴史の中で歌舞伎は新しいものや違ったものの見方伝える役割も担っていたと。
中村獅童
仕事で海外へ行ったりすると、海外の方たちっていうのは自分たちの文化を若い方でもそれなりに語ることができるんです。けど日本の方って、たとえば学生さんであればアメリカやヨーロッパに留学して、自分たちのルーツや文化、芸術とかっていうことを質問された時にちゃんと答えられる人ってほんと一握りだと思うんです。ちゃんと答えられる人もいらっしゃると思いますが、多く耳にするのはやっぱり海外に行って日本について知らないことが多いと気づいたという話。海外へ行って海外の人たちに質問をされて分からないから、日本へ帰った時に歌舞伎を観ました、それでハマりました、っていう人もいるし、だから日本人であるというアイデンティティや伝統を、もっともっとこれから生きる若者たちに大切にして頂きたいなと思っています。
ーー日本の文化を若い世代に伝えていきたいという思い、そしてその役割を担っているという自覚があられるのですね。最後に公演を楽しみにされる方たちにメッセージをお願いします。
今のこの状況で僕が考えること、僕がやりたいことを全てこの公演にぶつけたいと思います。ですので、みなさまには配信なり会場にお越し頂くなり、ぜひご参加して頂き、少しでも元気になって頂きたいと思います。祈りの気持ちを込めたエンターテインメントなので、最後まで楽しんで頂いて、すっきりした清々しい気持ちでお帰り頂ければ嬉しく思います。
中村獅童

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