【9mm Parabellum Bullet
インタビュー】
前向きさとギリギリの厳しい状況を
模索しながら表現した
約3年振りのリリースとなる9作目のフルアルバム『TIGHTROPE』は、その間にコロナ禍があったこともおそらく影響して、9mm Parabellum Bulletのサウンドがまたひとつアップデートされた印象を受ける会心の一枚だ。制作の背景、それぞれの楽曲に込めた想いについて菅原卓郎(Vo&Gu)を直撃した。
「白夜の日々」「泡沫」
「One More Time」がアルバムの核
アルバムが出来上がってみての感触を聞かせてください。
自分たちが思っていた以上にコンパクトに仕上がったというか、すごく強い曲が並んだアルバムができました。一曲ごとのクオリティーを意識して、ちょっとずつ録っていったのが良かったのかもしれないです。アルバムとしてのバランスは曲調でとるようにして、サウンドはその曲に合ったものを選ぶ。まずはそこをスタートにし、作業を進めながらディストーションの割合を考えたり。マスタリングの感じも気に入っていますね。
アルバム全編を通して9mmらしいダークでラウドなアプローチは変わらずにありつつも、叩きつけるような激しさというよりかは、儚さや切なさが強く残る仕上がりになっている気がしました。
曲調がそう感じさせますよね。今回はオープニングの「Hourglass」とエンディングの「煙の街」がよりヘヴィな印象を与える楽曲になっているし、特に終わり方はこれまでのアルバムにはなかったトーンだと思います。“もう真っ暗だ、何もかもおしまいだ”ってわけじゃないんだけど、すごく重たいムードがある。そこに淡く見えるくらいの希望が、儚さや切なさをほんのり残すのかなと。もともと僕らのメロディーにはちょっと陰りがあって、マイナーな音階を使うことも多いですから。
特にコンセプトを設けたわけではないと?
ないですね。ただ、あまり長尺にしないで、全曲を一気に聴けるアルバムにはしたかったです。以前からショートチューンも好きで、分かりやすいところだと「インフェルノ」(2016年7月発表のシングル)は演奏時間がトータルで90秒だったり、過去のアルバムにも1分台の曲がちょこちょこあったりしますし。その曲に必要なアレンジがギュッと入っている状態が一番美しいと思うので。ループのような演奏に意味がある時はもちろん僕らもそうするけど、基本的にはThe Beatlesと同じ曲尺でいい。あのくらい短くても曲の魅力が十分に伝わるじゃないですか。パンクな考え方と曲としてのバランスの良さ、9mmはその両方を大切にしています。
シングルとしてリリースした「白夜の日々」「泡沫」がアルバムの起点となった感じですか?
その2曲に関しては、当時の僕らの心境がよく出ている曲だと思います。“今、バンドとして何を表現するのがベストなのか?”を強く意識した感じで。起点にもなりつつ、振り返ってみると実験的な要素のほうが多かった気がしますね。「白夜の日々」はコロナ禍が始まった頃に着手した曲で、“今のところ手も足も出ない、何もできない”っていう状況をストレートに書くしかなかった。それが何よりのメッセージになるんじゃないかと信じて。「泡沫」は昨年やっていた『BABEL』(2017年5月発表のアルバム)とインディーズ時代の盤(2005年と2006年発表のミニアルバム『Gjallarhorn』『Phantomime』)の再現ツアーのチケットに付くCDに収録した曲ですけど、『BABEL』に入っていてもおかしくないタイプの曲なんですよね。
確かに。
『BABEL』で歌っていた“バンドが大変な状況だけど、ここをどう抜けるんだ?”とか、“今、危機的な事態なんだよな”とひしひし味わっているような感じ。「泡沫」はあの水準で改めて作ってみたかったんです。逆境の気分ってコロナ禍で自分たちが喰らった一番ヘヴィなところにも通じるし、そういう苦しみにちゃんと浸ることは必要な行為だとも思ったので、サウンドもディープなものにしましたね。起点という意味では、その2曲と「One More Time」が大きいです。
「One More Time」に関してはどういった点で?
長いコロナ禍を経験する中で、“もっと手放しでライヴとかエンタメとか、楽しいことを楽しいと素直に味わっていいじゃん”とみんながちょっとずつ思えるようになってきた感じがしていて。「One More Time」はそういう今のタイミングだからこそ出せた曲なんです。歌詞も「白夜の日々」「泡沫」とは真逆で、何かをすごく訴えかけようってわけじゃなく、言葉遊びやリズムの面白さがメインだし。この3つの段階が自然とアルバムの核になったので、コンセプトを設けていなくてもメッセージが滲み出るんですよ。
前向きさもちゃんと出ていますよね。
はい。「All We Need Is Summer Day」もライヴのできる見通しが少しずつ立ってきた時期に、夏フェスのために書いた感じなんです。まだ声を出したりはできない状況だけど、あえてコーラスのパートを盛大に入れました。この曲が万全の状態で楽しめるようになった時、すごい力を発揮すると想像しながら。そう作れば、僕らにとっても聴いた人にとっても希望になる。9mmは底抜けに明るいバンドではないですが、自分が感じた希望や前向きさは素直に入れられたらいいなと思って、歌詞を書いていましたね。