ピアニスト角野隼斗が語る、ハンブル
ク交響楽団との再共演 バルトーク最
後の曲への想いとは

2023年7月、ドイツのハンブルク交響楽団が6年ぶりに来日公演を開催する。巨匠シルヴァン・カンブルランが首席指揮を務め、近年はマルタ・アルゲリッチと毎年6月に『マルタ・アルゲリッチ音楽祭』を主催するなど、注目の名門オーケストラだ。
この度の来日公演ソリストには、日本で今絶大な人気を誇る若手ソリストたち、角野隼斗(ピアノ)、マルティン・ガルシア・ガルシア(ピアノ)、宮田大(チェロ)を迎える。SPICEでは、浜松(7月14日(金))・高崎(7月23日(日))に出演する角野隼斗にインタビューを行った。
なお、角野はバルトークのピアノ協奏曲 第3番を演奏予定。昨年2022年4月にドイツにて同楽団と演奏しており、今回二度目の共演となる。
――7月のハンブルク交響楽団のツアーでは、バルトークのピアノ協奏曲第3番を演奏されます。バルトークが祖国ハンガリーを離れ、アメリカに渡った晩年に書いた作品ですが、どんなところに魅力を感じますか?
バルトークの中では、穏やかさや明るさがより感じられる作品です。奥さんのために書いたからというのもあるでしょうし、晩年の作品だからというのもやはり関係しているでしょう。2楽章など、特に美しいです。
最後の十数小節は完成できず、これがバルトークの最後の作品となりました。彼の生涯がつまったそんな最後の曲が、希望や祈りを感じる光が射すようなものだったのだと思うと、なんだか良いですよね。
1楽章や3楽章は、バルトークならではの民族音楽のグルーヴが感じられます。僕はそういう曲を弾くのが好きなので、リズム感たっぷりにお届けしたいです。そんなピアノによる打楽器的な表現が多用される作品ですが、そうでない部分があるところも魅力です。
最近演奏した現代アメリカの作曲家、ジョン・アダムズのピアノ協奏曲には、とてもバルトークっぽいものを感じました。バルトークが晩年をアメリカで過ごしたことと関連があるかはわかりませんが、その後のアメリカ音楽に大きな影響を与えたのだなと思いました。
――バルトークのどんなところに興味を感じますか?
バルトークの作曲技法をエルネ・レンドヴァイという理論家が分析し、作品に見られる“中心軸システム”について説明した本は、おもしろかったです。音楽が一区切りする小節数がフィボナッチ数列になっているという分析もあります。それにどんな意味があるのかを考えながら、興味深く読みました。
――やはり作曲家には“数学の人”が多いのですね。
そうですね、バルトークは特に“数学の人”でしょうね。
――今回のような作品では、作曲家の晩年の心境を想像することもあるかと思います。20代の今、どのようにしてそこに近づいていくのでしょうか?
本当に大変ですよね。でも自分が体験していないことは表現できないと言っていたらつまらないわけで……世の中に存在するいろいろなタイプの作品を十分に表現できるかは、想像でどれだけ深く理解できるかにかかっていると思います。
役者さんに似ているかもしれません。殺人鬼を演じるからといって、実際に人を殺すわけにはいきませんから、その感情は何とか想像で見つけることになります。
――作曲の背景などの情報と作品の解釈を、どの程度結び付けて考えていますか? 純粋に楽譜からのみ解釈していくべきという考えもあると思いますが。
作曲の背景は、解釈のために必要な部分もありますが、僕はどちらかというと、聴き手にどう聴いてもらうかという面で必要なことのように思います。
多くの作曲家は、音楽は音楽として、その時の背景とは切り離して書いているのではないでしょうか。その意味で、演奏するうえでは、その時作曲家が病気だったとか戦争で苦悩していたということは、あまり関係ないのではないかと思います。
僕自身、作曲の背景は調べますが、それによってこう弾こうと決めることはあまりありません。一概には言えませんし、無意識に影響を受けていることはあるかもしれませんけれど。
ただ聴く人にとっては、想像力が広がるほうが音楽体験がより良いものになると思うので、プログラムノートを用意したり演奏者が情報を発信したりするのは良いことだと思います。
――歴史上の作曲家については、私生活や書簡などが研究されることがよくありますね。角野さんも作曲する身ですから、将来その対象になる可能性もあるのでは。
本当に、モーツァルトとかかわいそうだと思いますよ! 僕は見られて困るものは書き残さないので、大丈夫です(笑)。
――今回ハンブルク交響楽団との共演は2回目となります。初共演は昨年4月、代役でこのバルトークの協奏曲を演奏されたときですね。どのように本番を迎えられたのですか?
公演の10日ほど前にお話をいただいたのですが、お引き受けすることに迷いはありませんでした。以前、「蜜蜂と遠雷」をテーマとしたコンサートで、劇中に登場する曲としてこの協奏曲の3楽章を弾いたことがありましたし、なんとか絶対に間に合わせようと、当日まで必死で練習しました。
もちろん十分な準備期間があったわけではないので、最初のリハーサルはすごく緊張しました。ただ、指揮者が以前から知っている鈴木優人さんだったのでだいぶ安心できました。僕が緊張していたことに優人さんは気づいていなかったのではないかと思います(笑)。
――ハンブルク交響楽団の印象はいかがですか?
それまで共演したことのあった日本のオーケストラと比べると、弦の印象が大きく違いました。言葉で説明するのは難しいですが、俊敏に動いて華やかでした。リズミカルに盛り上がっていく3楽章のフィナーレなど、すごく気持ち良かったです。
――オーケストラとの共演機会が増え、ご自身の中で変わってきたこと、オーケストラの中でピアノの音を鳴らすうえで気をつけるようになったことはありますか?
ソロ以上に芯のある強い音が必要ですが、前述のアダムズのような作品にチャレンジしたことで、目指す音が昔より出るようになってきたと感じています。他の奏者たちとの関係で、自分が引っ張るところ、そうでないところを理解し、メリハリをつける感覚も掴めてきました。
よく音を豊かにするために太るというピアニストもいますが、僕は太れないタイプなので、いかに自分の少ない体重をかけ、鍵盤を押さえるスピードをコントロールするかを重視しています。
――では、初めてのオーケストラとうまくコミュニケーションをとるためのポイントは?
どこで誰がなにをやっているのかを常に把握することですね。以前ラヴェルのト調のピアノ協奏曲を演奏したとき、次々と奏者にスポットが当たる作品だったので、そのことをより実感しました。
いつか自分でピアノ協奏曲を書くため、オーケストレーションを勉強したいと思っているので、最近、協奏曲を演奏するときにはより興味を持ってオーケストラパートの楽譜を読むようになりました。
――ところで、浜松公演はちょうどお誕生日だそうですね。ハンブルク交響楽団との再共演で楽しみにしていることをお聞かせください。
まず、ハンブルク交響楽団とバルトークの3番を再演できる機会がもらえたということが、純粋にとても嬉しいです。昨年よりも進化した演奏ができたらと思っています。28歳の良いスタートになるよう、公演までさらに精進します!
0:01 / 1:09 角野隼斗(ピアノ)ソリスト ハンブルク交響楽団 日本ツアー2023 へのメッセージ
取材・文=高坂はる香

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