The Rev Saxophone Quartet、結成10
周年記念リサイタルで見せた〈復刻版
〉プログラムの凄み 記念企画第二弾
の発表も

2023年7月8日土曜日の昼、東京の浜離宮朝日ホールでThe Rev Saxophone Quartet 結成10周年記念リサイタルが開催された。開演前の会場はこの日を待ち望んでいたかのように楽器を抱えたブラス愛好者や音楽関係者、そして、老若男女を問わず幅広い熱心なファンたちで埋め尽くされ、外気温に負けないくらいの熱気を帯びていた。記念リサイタルの模様を振り返ってみよう。

当日の演奏曲目は2017年3月2日に東京文化会館で開催されたThe Rev デビューコンサートの完全なる復刻版という試み。完璧な同一プログラムとすることで「10年という歳月を振り返ってのThe Revの成長と進化を感じてもらいたい」というメンバーたっての思いが反映されたかたちだ。
大曲や難曲と言われるものを含む4曲の ”サクソフォン四重奏曲” だけで構成された重量級のプログラムの再演―――今回の記念リサイタルにかける4人(上野耕平、宮越悠貴、都築惇、田中奏一朗)の意気込みが感じられる。
プログラムノートも、あえて2017年に使用されたものを焼き直し、加えてメンバーの現時点での作品への思いや感慨が付記されている。それぞれが長い年月を振り返り「今、自分たちがこの作品を演奏したらどうなると思うか?」という問いへの答えの一部が、それぞれの言葉で力強く語られていた。
ホールに集った満場の聴衆の思いを焦(じ)らすかのように少し押し気味での開演。ようやくステージ上に4人がそろって颯爽と登場する。このチームのことだから、最初から一人ひとりのコメントなどがあるかもしれないと一瞬想いをめぐらせたが、意外にも出端から客席を曲の世界観へと誘うかのように良い意味での緊張感に満ちたステージングだ。
冒頭の一曲目はジャン・リヴィエ「グラーヴェとプレスト」。10年前の結成時から身体に沁み込むほどに弾き込んでおり、もはや目をつぶっていても自由自在に演奏を楽しめる一曲だそうだ。前半の「グラーヴェ」と題された音楽では、その名の通り、冒頭からオルガンコラールを思わせる重厚で豊麗なハーモニーを4人一体となって響かせる。リヴィエはオペラ・バレエ、そして教会音楽のスペシャリストでもあったというだけに同世代の作曲家フランシス・プーランクの宗教的テーマを扱った壮大なオペラ作品の影響をも感じさせる一方、フランス近代和声の官能的な響きをも内包する魅力的な作風だ。
後半、「プレスト」に突入。快活なメロディの中にもある種のストーリーに導かれた情景描写が感じられ、前半同様にオペラティックな展開が見えてくるような臨場感あふれる濃密な響きだ。メンバー一人ひとりがそれぞれに表情豊かな歌を聴かせる。自由自在で伸びやかなフレージングの応酬に、聴き手もそれぞれに自由にイマジネーションを膨らませながら作品を楽しむ喜びを感じたことだろう。
宮越悠貴
田中奏一朗
前半二曲目は A.グラズノフ「サクソフォン四重奏曲」。30分近い長尺の大作だ。三楽章仕立てながら、第二楽章は主題と5つの変奏曲から構成されているユニークなものだ。
第一楽章――4人は冒頭から優美なハーモニーをあたたかな色彩で彩る。後期ロマン派的なねっとりとした濃密な内声のうつろいも明確なフレージングと歌でストレートに美しいと感じられものに仕上がっていた。さすがに「じっくりと時間をかけて練り込んできた作品の一つ」とプログラムノートのコメント(上野談)にある通りだ。そのあたたかで心地よい流れからは、時折、ワーグナーの「ジークフリート牧歌」を思わせるような親密で官能的な響きも感じられ、バリトンサックスの堂々たる響きに支えられて一同が揺り籠に身をゆだねるように心地よく演奏している姿は見ていても癒されるほどだ。
第二楽章――主題と5つの変奏曲から構成。コラールのような荘重な主題で始まる。4本のサックスが奏でるレガートは空間全体に豊かに響き渡り、壮麗なオルガンの響きのようだ。第一変奏ではアンサンブルではいつも控えめな存在のアルトソロが得も言われぬロマンティックな旋律を奏でる。第二変奏ではそれがバリトン、そして、第三変奏ではテナーへと渡されてゆくという構成的な趣向も面白い。曲想も次第にトリルなどの流動的な動きを加えた諧謔的なものや、ドヴォルザークの作品を思わせるセンチメンタルなもの、そして、縦割の和声感の妙味を際立たせた弦楽四重奏的な作風のものへと変化してゆき、サックスカルテットという編成のあらゆる可能性と響きの魅力、そして、この4人の変幻自在な表情の豊かさが感じられる興味深い楽章だった。
終楽章はバレエ風の舞台音楽を思わせるもので、情景描写や登場人物の性格描写に富む。特にロングトーンで奏でられる低声を基調に、その上に軽やかに展開するソプラノとアルトが一対となったスーブレット的な(オペラやオペレッタにおいて軽やかな娘役)性格描写が実に巧みだ。
上野耕平
都築惇
後半の第一曲目はブラス愛好者たちではお馴染みの作品という A.デザンクロ「サクソフォン四重奏曲」。
第一楽章――冒頭、自由自在に緩急を効かせたアンサンブル。そのハーモニーに載せてソプラノが官能的な旋律を聴かせる。古典的な印象の中にもサックス・アンサンブル特有のスリリングな駆け引きの巧みさが際立つ。The Revの4人だからこそ、ベタっと色を塗りすぎることなく、すべてを削ぎ落とした力みのない大人びた洒脱さがイイ感じだ。印象主義的な(意図的な)視覚的“ぼかし”さえも感じさせるような彼ら独自の音の世界観、いや、映像美にも似た確固たる様式美が感じられたのはやはり10年の歳月を経ての4人の成熟によるものだろうか。
第二楽章――冒頭から印象主義的な音の世界が広がる。作曲家が意図したであろう和声感の美しさをストレートに、実直に聴かせようとする4人の真摯な思いが強く感じられた。ルバートの扱いも絶妙だ。クライマックスでは一気に厚みのあるオーケストラルなハーモニーを描きだす。
第三楽章――ジャズやブルースを思わせるフレーズの応酬。一人ひとりのトスの上げ方が絶妙に上手く、洒脱な旋律が粋に流れゆく様は聴いていても見ていても心地よい。こう書いてしまうとごく当たり前のように思えてしまうが、このメンバーだからこそ実現可能な境地だろう。アンサンブルとしてのこの4人のミュージシャンシップを改めて認識する。そうこう考えているうちに、トゥッティのユニゾンでは4人揃って快活にアクセントを決め、さらに推進力は高まる。際立つ集中力で最後まで一糸乱れぬ快いアンサンブルを聴かせてくれた。
プログラムの最後を飾るのは F.シュミット「サクソフォン四重奏曲」。第一楽章は古典的なフーガ形式だが、時折、退廃的な12音技法的なトーンのような響きも感じられる。恐らくアンサンブルとしての難しさは相当なものと察するが、そんなことは微塵も感じさせず、4人はこのスリリングな曲をいとも容易(たやす)く鷹揚にまとめ上げる。
第二楽章――プログラムノートによると「ザワザワと囁くような音型が印象的な楽章」とあるが、各人が自らのパートを一心不乱に奏でているようで、結果的には絶妙なアンサンブルが出来上がっているという、かなり高度な技量を見せつけられた感がある。The Revのアンサンブルの極意ここにアリと言う感じだ。
第三楽章――バリトンを中心とした低声部の不気味な存在感とその上に浮遊するように絡み合う高声部のミステリアスな響き。この響きが次第に高揚感を増し、ある種、“タルコフスキー的” と表現しても過言ではない幻想と現実が行き交う独自の映像美へと誘う。ここまでメンバー一人ひとりがそれぞれの思いを個性的に表出ながらも同じベクトルや空気感を描きだす力は見事だ。
第四楽章――速い楽章。疾風怒濤の曲想の中に、ここでもオペラティックともいえる情景描写を浮かび上がらせる―――冒頭、各パートが速いパッセージでそれぞれに華麗な技巧を聴かせる。新古典主義的な世界観も引用しつつ、諧謔的かつスリリングにこの大曲を堂々と締めくくった。メンバー一人ひとりの文脈的な理解の深さ、そして、実際にメンバー4人が一体となっての表現手法の卓越ぶりもまた見事だった。
ここで本プログラムは終わりだ。全体的な印象としては、通常は比較的「上野を中心に」という側面が感じられることが多いが、この日は4曲ともにアンサンブルの極致である「美しいハーモニーと一つの歌のために」4人が心を合わせて献身的に一つの音楽を創り上げようとしている姿が印象的だった。
ここで愛らしいカンタービレと小ワルツが美しい ジャンジャン サクソフォン四重奏曲 第4楽章 をアンコールで聴かせ、今までの重量級の四重奏曲の連続演奏の緊張感を一気に解きほぐす。会場空間もあたたかな雰囲気になったところで、初めてリーダーの上野がマイクを持ち、客席に挨拶。2013年の銀座の路上でのデビューの際の想い出などを懐かしそうに語った。
そして、最後に結成10周年記念として、来る10月の毎金曜日にメンバー一人ずつがソロ演奏会を行うという新たな試みを発表。10月6日の上野から始まり、13日/宮越、20日/都築、27日/田中による一連のリサイタルを(各回70分程の内容)、各回1,000円(税込)で楽しめるというエキサイティングな情報をもたらした。演奏会のタイトル名も『週刊REV』というからユニークだ。会場の聴衆からも大いに笑いを誘っていた。
そして、最後に3人のメンバーも一人ずつ挨拶。
都築 「10年は長いようで短く、まだまだこのメンバーでやってみたいことがたくさんあります」
田中 「この仲間と出会っていなかったら経験できなかったこともたくさんあったと思う。本当に自分は恵まれているなといつも感じています」
そして、最後にいつもメンバーに編曲やオリジナルの楽曲を提供している宮越は、「この記念すべき演奏会当日に大寝坊をしました……。そして会場に靴もベルトも忘れて到着……。10年の集大成の一日がこんなでしたが、周囲の方々の優しさに感謝しつつ、こんなことで好感度を上げてみたいと思います(笑)。これからもファンの皆様とともに新たな20年に向けて頑張っていきましょう!」
三人三様、そして、最後に上野を加え、4人が心を合わせて今後10年、20年後のThe Revの姿に思いを馳せる。そして、時にオリジナルグッズの販売のPRを交えながら、という“あざとさ”も効かせつつ(!)、このメンバーならではのアットホームな雰囲気とスタイルで満場の客席に深い感謝の気持ちを述べていたのが印象的だった。
最後の最後はデザート的な一品。デビューリサイタルでもアンコールで演奏したという フランセ「小四重奏曲 第3楽章:滑稽なセレナーデ」を軽快に表情豊かに演奏し、記念の演奏会を締めくくった。
取材・文=朝岡久美子 撮影=池上夢貢

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