森重樹一(Vo)

森重樹一(Vo)

【ZIGGY インタビュー】
歌を真ん中に置いて
音楽をどんなふうに聴かせるか?

“どう対処していくか?”
しかない気がする

そこで言いますと、これも前回の取材での森重さんの発言なんですけども、“喪失感がなければ、今感じている音楽を鳴らすことへの喜びを、喜びととらえられなかったかもしれない。だから、経験ってすごい。どんな理論を書物から学んでも、経験したことじゃないとそこの説得力は生まれない”とおっしゃっておりまして、この発言も“SO BAD, IT’S REAL”というタイトルに直結するのではないかと思っておりました。

そうですね。『SDR』から今回の『SO BAD, IT’S REAL』への流れに関して言うと、2年半という時間が経っていますけど、その中で“この生き方を貫くべきなのか? それとも人生を見直すべきなのか?”というようなことは、やっぱり自分の課題として日々考えたし…“これでいいか”と思う日もあれば、“やっぱりこれじゃ良くねえよな”と思う日もあるというね(笑)。僕自身、30何年間この仕事をやらせてもらっている中で、大事な友人も何人か亡くしたし、そういう友の死っていうのは、ものすごい喪失感なんですよ。新しくできた友達も何人もいるけど、それは喪失感の逆にある、自分にとっての達成感であったり、喜びであったりする。だから、“どっちか一辺倒の人生ってないよな”って。喪失感があるから達成感があるし、達成感があるからこそ喪失に傷つくというか。曲を書いていく時に、“平々凡々と純風満帆で生きていて、本当に自分の心が動くようなものを書けるんだろうか?”と思うこともあって。“フィクションじゃねぇんだよ!”って思う自分もいるんですよ。自分が書いた時点でそれはフィクションになるんだけどね。要はリスナーのために書かれたものということではフィクションなんだけど、僕が書いている時点ではノンフィクションであって、時に絶望であり、時に喜びであり…ということなんですよ。書いた時点で作品になり、商品になった時点でそれはもう…

リスナーやファンのものになるということですね。

そうそう。もう彼らのものなんだよね。それを彼らがどうとらえてくれても、その言葉をどう理解してもいい。

なるほど。『SO BAD, IT’S REAL』を聴いて、森重さんの歌詞の変遷のようなものを感じざるを得なかったところがあります。「YOU'VE GOT TO ROLL ME」や「また雨が降り出したみたいだ」に“どしゃ降りの雨”という言葉が出てきますね。これはZIGGYのデビュー曲「I'M GETTIN' BLUE」(1988年5月発表のシングル)を彷彿させます。しかも、その“どしゃ降りの雨”のとらえ方が変わっている印象があって、この30年間を感じざるを得ないところがあります。「I'M GETTIN' BLUE」では《どしゃぶりの雨が 通り過ぎる頃には/捜してた言葉 見つかるかもしれない》と歌っていましたから、通り過ぎるのを待っているんです。それに対して、今回の「また雨が降り出したみたいだ」では《どこへ行っても同じさ/何をやっても変わりゃしないさ/I'm dancin' in the rain》と“どしゃ降りの雨”の中で踊っているんですよ。これは大きな違いで、今作には自分の周りに降ってくるもの、まとわりつくものに抗っても仕方がないというような姿勢がありますよね?

「I'M GETTIN' BLUE」を書いた部屋のことは今でも思い出すし…やっぱり人間関係がうまくいかなくて、孤独になって、要は《捜してた言葉 見つかるかもしれない》というのは不透明なわけですよね。見つけられるかどうか分からないけど、見つけられるかもしれないっていう。でも、もう今回に至っては“また雨が降り出したみたいだな”って、雨が降り出すたびに、足掻いたり、諦めたり、負けたり…ということを経験してきた中で、“見つかるかもしれない”というような無責任な希望ではなくて、もう“どう対処していくか?”しかない気がするんですよね。雨というのは自分にとって抽象的なもので、思いどおりにいかないことの典型なんですよ。それは物理的に空から降っている水滴ではなく、僕自身を取り巻く環境であったり、“またこんなことになってきたのかよ!?”みたいな部分で言えば、“SO BAD, IT’S REAL”ということだと思うんですよ。打ち負かされたとしても…それこそ主治医が言ったような、“どうにもならないけど、どうにかはなるんだよ。だって、そう考えるしかないだろ?”っていうことですね。

あと、「夢でお前に」での《寝過ごしたけど夢でお前に会えたからまあいいか》とか、ちょっと楽観的な内容がまた素敵だと思うんですけど、若い頃と60歳を迎えんとする今とでは、やっぱり物事のとらえ方との違いを実感されているところがあるんですね。

ありますね。ノンフィクション的なものを自分が文章化していく中で、それが徐々にフィクションとなって、誰かに伝わっていく。若い時はそれが嘘でも良かったわけですよ。でも、今はノンフィクションに突き動かされて始まったもののほうが、音楽として絶対に強いという確信があるんですよ。この前、‎内田勘太郎さんと一緒にライヴをやらせていただいた時、憂歌団の「嫌んなった」をカバーさせてもらったんですね。ヴォーカルの木村充揮さんが19歳の時に作った曲だと言っていて、“19歳でこの境地を歌えるってすげぇな”と思ったし、やっぱりそれが作りものじゃないから、これだけ長きに渡って人の心を動かすんだと思うんですよ。自分はフィクションでロックンロールっぽいことを書けばいいというか、多くの先輩たちがロックンロールのある種のステレオタイプの書き方でやっているから、最初はそれを見様見真似でやっていて…僕自身もその時アマチュアだったので、ディテールを模倣することによって自分の書き方を覚える時期だったと思うんです。そんな時にSIONさん自主制作盤『新宿の片隅で』の「街は今日も雨さ」を聴いて衝撃を受けて。“これはすげぇや。そうか! こういう書き方ができるのか!”と思ったし、“バックボーンを持ってない俺には書けないんじゃないか?”みたいな気持にすらなりましたね。SIONさんのような胸に突き刺さってくる言葉は、自分のような人間には書けないんじゃないかって。だから、ロックンロールのフォーマットに乗っかった言葉にしていくつも曲を書いてきましたけど、何年も何年も時間が経っていくうちに、ここ数年で言葉が先に出てくるようになったんですよね。

今歌いたいこと、歌うべきことっていうのが、自然と出てくるようになったというわけですね。

“降ってくる”なんて言うと、“こいつ、頭がどうかしてるんじゃないか?”と思われるかもしれないけど(笑)、そういう瞬間はあって。言葉の短いフレージングからできるんですけど、そこに枝葉がついていったり、その流れを不自然にしないようなストーリーを自分の中でつなぎ合わせていったり。数年前に何カ月間かお袋が住んでるマンションに居候したことがあったんですね。で、お袋と離れた部屋で傍らにでっかいウイスキーの瓶を置いて、朝方の3、4時に思い浮かんだ歌詞を書くわけですよ。お袋が住んでいる場所は、親父が60年以上前に米兵相手に仕事を始めたところで、おそらく米軍横田基地の国道16号沿いで一番古い建物になっていて。だから、愛着もあるんですよ。小さい頃、クリスマスに将校さんの家に連れて行ってもらってね。素敵な音楽がかかっていて、大きなクリスマスツリーがあって、七面鳥がすんげぇでかくてさ、当時は西武劇が流行っていたから二丁拳銃のおもちゃをプレゼントしてもらって。そんな完全に日本ではない、アメリカの風景を切り取ったような場所で、そこで見たいろんな光景を自分の中で反芻しながら歌詞を書いていましたね。

横田基地での光景が森重さんの原風景にはあるわけですね。強引に結びつけるようですけど、『SO BAD, IT’S REAL』はバラエティー豊かな中にも“ザ・ロックンロール”と言いますか、跳ねたピアノが印象的なロックナンバーが比較的多い印象があって。それは今話していただいた森重さんの原体験と関係していますか?

僕のロックンロールの原点は、母親が聴かせてくれたナット・キング・コールとハリー・ベラフォンテなんですよ。母の車には8トラックカセットが積んであって、ハリー・ベラフォンテもちゃんと入っていたから、保育園に迎えに来てくれた車の中で“あれを聴かせてほしい。これを聴かせてほしい”ってリクエストしていたんだよね。英語が分かるとか分からないとかではなくて、英語のリズムって跳ねているじゃないですか。“Rambling”という言葉の響き自体が日本の中にはないわけだし。

日本語は一語ずつ並んだ言葉がほとんどですからね。

そうそう。単音がひとつの音符に乗るのが基本ですから。でも、洋楽だと“Rambling”ってひとつの音符に乗ってしまうし、それが跳ねさせるんだよね。だから、それが僕の原体験だとしたら、それが大きかったのかもしれない。その後、小学校に上がってからは筒美京平先生をはじめ、歌謡曲の大御所の方たちが作る素晴らしいメロディーを浴びるように聴いていて、さらに中学に入ったくらいに洋楽ブームがあり、そこで自分の中で多岐に渡っていたものがひとつの幹になったのかもしれないですね。

OKMusic編集部

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