森重樹一(Vo)

森重樹一(Vo)

【ZIGGY インタビュー】
歌を真ん中に置いて
音楽をどんなふうに聴かせるか?

2年4カ月振りとなるニューアルバム『SO BAD, IT’S REAL』が、森重樹一(Vo)の60歳の誕生日である8月28日にリリースされる。長きに渡ってロックシーンで活躍する中での精神の変化に伴い、これまで以上に自然体で曲作りに臨み、私小説的な内容をバンドに注入することができたという新作。回顧、人生論も含めて、森重が制作背景を語ってくれた。

自分がやるべきこととやりたいことを
一喜一憂しながらやっていければいい

新作『SO BAD, IT’S REAL』は前作『SDR』から2年4カ月振りのアルバムですけど、この2年半くらいはあっと言う間に過ぎた感じですよね。

やっぱりコロナだよね。前回がちょうどコロナがかなりの問題になりつつある時のリリースだったと思うんですよ。どう考えても、そんなに簡単に収束すると思えなくて、“まぁ、2、3年はかかるだろうなぁ”なんて考えていましたからね。ただ、この2年半、自分たちは幸いにしてライヴ活動を継続的にやれていたので、そういう意味では良かったかなという気はしていますけどね。

OKMusicに残っている『SDR』でのインタビューを読み返していましたら、興味深い発言がありました。“(やめていたお酒を)昨年の夏から自分なりにセーブしながら呑んでるんですけど、やっぱり自分にとって呑むことが必要だったと思うし、呑むことによって解放できるものがあって”と森重さんはおっしゃっていたんですね。『SO BAD, IT’S REAL』の1曲目「その琥珀の水に」に《ひとときの救済 俺を許してくれ》という歌詞がありまして、これはかつての発言と直結していると思うわけです。ここから察するに、今作は今まで以上に森重さんの日常と直結しているのかなと思ったところですが、実際にはどうなのでしょうか?

やっぱり自分の中での葛藤があって。一度、医師にアルコール依存症と診断されたんですけど、自分は連続飲酒にも入らなかったし、休肝日も持てたので、お酒によって解放されるものがあるのも確かだなというふうには思いました。でも、やっぱり秤にかけると、飲まないほうが楽だという感じはある。もしくはトントンかな? もちろん呑むことの喜びもあって。この前、内田勘太郎さんとセッションやらせていただいて、打ち上げで一緒に楽しく呑んだんですけど、ああいう場にお酒があることで、ある種の壁みたいなものがなくなって、そこで仲良くできたりする…そういう機会がこの3年間、たくさんあったんです。でも、僕自身、11年間、やめていたからそこで学習することもたくさんあったし。ただ、酒をやめても何かに依存するのは変わらない。音楽に熱中していける環境を作る、いつも音楽に夢中になれる自分でいることが第一で、そのために何をするか? お酒が必要なら呑めばいい。必要じゃなきゃ呑まなきゃいい。“自分の楽しみはいったい何なんだろう?”って思うんですね。8月で60歳になるわけですけど、60歳すぎて残りの人生があとどれだけあるか? 仮にマックス30年あったとしましょう。そしたら、もう人生の3分の2まで来ている…かなり楽観的に見てね(笑)。そう思った時に、残りの30年間を…20年間かもしれないし、10年間かもしれないけど、それをどう使うかが大きな課題だなと。問題は“結局、俺は何をするために生まれてきて、いったい何をやって生きてきたんだ? 何をやって生きていきたいんだ?”ということであって。ここからまったく違う人生があるのかもしれないけど、おそらくないだろうし、だとしたら、自分がやるべきこと、やりたいことを積極的に選びながら、一喜一憂しながら、今後やっていければいいと思うんですよ。

つまり、今回のアルバムの出発点はそういうところでしたか?

そうですね。とにかく曲を書き溜めていて、コロナ禍だったからアコギでのライヴも結構あったんですよ。“アコースティックで自分は何ができるかな?”というところで、初期のZIGGYの曲を…4枚目(1990年4月発表のアルバム『KOOL KIZZ』)までかな? YouTubeで弾き語りをしたり、あとは他のアーティストさんのカバーをやったりしていく中で、アコースティックでやれることであり、それに肉づけをする作業をやりたいと思ったんです。あと、昨年Billboardで2回ほどライヴをやらせていただいたんですけど、Billboardという独特の会場で通常のようなライヴをやることは、むしろナンセンスだと自分は考えて、“そういう場所での音楽を楽しみに来てくださる人たちに、どのようなアレンジでZIGGYの曲を聴かせることができるかな?”というところに考えがいったんですね。ちょうど僕もソロをやっていたこともあって、ブルージーなものをやりたいとか、そういうのもあったし。それをメンバーと煮詰めてやったステージがとても良くて、“ああいうふうなアプローチもできる”っていう、その経緯があったんで、あえてシンプルなものをやりたいと思ったんですよ。右に回ると思わせておいて左に行くとか、そういう戦略的なアレンジメントじゃないところで、“歌を真ん中に置いて音楽をどんなふうに聴かせるか?”ってことをメンバーと考えながら作ったのが今回の作品ですね。

タイプはいろいろとありますが、確かに『SO BAD, IT’S REAL』はバンドで作ったことを想像させるサウンドばかりですよね。

曲調自体はいろいろですけどね。もう20年くらい前なんですけど、Aerosmithのブルースカバーアルバム『Honkin' on Bobo』を聴いた時に…1987年にエアロは敏腕プロデューサーをつけた『Permanent Vacation』というアルバムで復活したわけだけど、そんな彼らがいったん根っこであるブルースやシンプルなロックンロールに立ち返ったそのアルバムがとても好きだったんですね。過度のアレンジメントやコマーシャリズムに訴えるようなものはないけれども、それこそがエアロだと感じられて。“これができるんだもんな、エアロは”と思えた。話を戻すと、僕は音楽で物事を語るのが一番素晴らしいことだと思っていて、私小説的な内容をバンドに持っていくというやり方は、実は初期のZIGGYでやっていたんですよ。それを今回、僕自身にとっての人生のリセットの年にあえてやってみたという。還暦を迎えて、要は0歳になるわけじゃないですか。だから、“今後の人生をどうやっていくのか?”っていう時に、そのやり方でけりをつけようと。“シンプルなやり方で何ができるのか? 何をできることが音楽家としての本当の強さなんだろう?”みたいなね。音楽が希望だけじゃなく、自分の心の中にある葛藤や苦しみを表現した時、そこに共感する人たちもいると思うんです。それが自分のやるべきことっていうか。上っ面の希望だけを歌われても、“本当かよ!?”って穿った見方が自分くらいの年齢になると出てくるし(苦笑)。

そう考えると、アルバムタイトルの“SO BAD”には深みを感じますね。

うん。“BAD”っていう言葉が示すものだけじゃなくて、ある種のスラング的なカッコ良さみたいなところがダブルミーニングでいいんじゃないかと。現実問題…主治医師から“どうにもならないかもしれないけどさ、どうにかはなるんだよ”って教えてもらって。その時に“そうだな。どうにかしようって足掻いたってどうにもならないけど、結果的にどうにかはなるんだよ”と思ったし、僕自身にとってとても救いのある言葉だったんです。人はいずれは死ぬわけで、そこにターボチャージャーがかかっているか、かかっていないかだけのこと。おそらく自分の天命みたいなものには、誰にでも“やるべきこと”というものがあるんじゃないかと思いますね。
森重樹一(Vo)
アルバム『SO BAD, IT’S REAL』

OKMusic編集部

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