森重樹一(Vo)

森重樹一(Vo)

【ZIGGY インタビュー】
歌を真ん中に置いて
音楽をどんなふうに聴かせるか?

“Don't Trust Over30”じゃなくて、
“Trust Over60”

なるほど。サウンドやリズムは洋楽、メロディーは日本、その融合はまさにZIGGYですよね。今回もそうですけど、歌メロは1番を聴いたら2番はもう覚えてしまって一緒に歌えてしまうのではないかという親しみやすさがあります。しかしながら、サウンドやリズムはすごくシャープ。これはもう我々にとってのZIGGYそのものですよ。

僕自身、英語で物事を考えていないんですよ。日本語という言語を使って思考したり、想像したりするから、確実に日本語が持っている良い部分が出る。さっきも言いましたけど、これは音楽的な限界ではないんだけれども、日本語には音符ひとつに対して言葉がひとつ乗るのが原則みたいなところがあるから、それをうまいこと洋楽とミクスチャーして、どうドライブしながらメロディックに聴かせられるかっていうようなところで、独特のカッコ良さみたいなものは考えますね。

当然ロックミュージックですから、英語でのカッコ良さもあって。例えば「また雨が降り出したみたいだ」の《I'm dancin' in the rain》は英語だからこそいいわけで、その両方があるのも良いところでしょうね。

それはありますね。英語は簡潔だから、♪タラララ〜ってだけの音数で一文を言いきれる。だけど、日本の言葉ではその音数だと主語までしか言えない。♪我々は〜くらいまで(笑)。だから、音数に限界があるから自然と主語を省略するとか、連用終始であるとか国語で学ぶような文法を使ったりしていて…日本語部分に関して言ったらね。

そのメロディへの言葉の乗せ方で言いますと、今回のアルバムの白眉は「きっとできるから」じゃないでしょうか。これまでのZIGGYのイメージにはないフォーキーさを感じたのですが。

これはね、僕がいつもお世話になっているアルティスさんという、身体の諸々をケアしてくださるところの川崎和雅先生という方がいらっしゃるんですが、ものすごくZIGGYのことを好きでいてくださっていて。その川崎先生のお兄様がある程度の規模の学習塾を新たにやりたいということで、“テーマソングを森重さんに書いていただけないですか?”というお話があったんです。当初はアコースティックで書いたんですが、きっとZIGGYのバンド形態でお聴きになりたかったんじゃないかなっていう気持ちもあって、それでこういうかたちになったんです。僕自身はその塾にいらっしゃる、これからどんな未来を迎えられるか分からないお子さんたちに届いてくれればいいなと思ったんですけど、きっかけは自分の娘と息子なんですよ。娘と息子はどんな生き方でもいいから、必ず何かができると思うんです。で、これはずっと僕が思っていることなんですけど、天賦の才っていうのは如何に自分の適性を知ることなんじゃないかなって。適性は誰にでもあって、天才は多くの世界にいて、その天賦の才に自分自身で気づけて、“このために一生懸命に生きたい!”と思うものを見つけられたらいいんじゃないかっていうメッセージを娘と息子に対して書くことで、ああいうタイトルになったんですよ。まぁ、ZIGGYのイメージからすると、少しソフトな印象の曲だとは思うんですけどね。

でも、先ほどの“今歌いたいこと、歌うべきことっていうのが自然と出てくるようになった”ということを考えれば、ソフトなイメージであっても「きっとできるから」は今回アルバムに入って然るべきではあるんでしょうね。この楽曲は原点回帰ではないでしょうが、1周、2周してきたからこそできた、とても大事な曲なんだなと、今お話を聞いて思いました。

もしかしたら僕は彼らにとって、決して最高の父でも最良の父でもないかもしれないけれども、仮に反面教師であったとしても、自分が好きなものを一生懸命にやってきた…今もまだ自分の書く歌を愛してくださる方がたくさんいらっしゃることだけは間違いないから、僕が60歳を迎える時期にそれを伝えてもいいのかなって。綺麗事を伝えるわけではなくて、彼らにとっての父親は自分なんだということは伝えてもいいだろうと。

10代、20代では絶対に生まれてこなかった内容でしょうから、相当に重要な曲と言えますよね。

なぜ僕がこの歳になっても学んできたことや経験してきたことをかたちにするかと言えば、それは10年前にはできなかったことだから。僕ね、氷室京介さんがライヴ活動を引退すると言って舞台を降りられたのは、とても潔いと思ったんですよ。若い時から氷室さんが作っている美意識というものは、ある種の定番としてパッケージングされたロックのカッコ良さを、さらにグレードアップ、さらにグレードアップと、ずっとされてきたと思うんです。その氷室さんがある年齢で表舞台を去ることを選ばれたのは、とても勇気ある行動だなと。僕はもう少しだけ、パッケージングされたものというよりは、そこからこぼれるものをかたちにしていきたい。そういうタイプのシンガーなんじゃないかなって自分自身で思うところがあって。

“どしゃ降りの雨”の中で踊っている姿をもう少し見せていこうと?

そう。だから、今回のアーティスト写真もね、以前みたいに若造りするんじゃなくて、還暦を迎えるにあたって出すアルバムに相応しい自分のアピアランスを見てもらおうと。25歳と同じなわけがないんだよね。

そういうところもアルバムタイトルにある“REAL”にもつながるんですね。「また雨が降り出したみたいだ」には《俺はどこへ行けばいいんだろう》《どこへ行ったらいいのやら》という歌詞もありますが、今のお話から察すると、不安というよりも“今あるものをどのように伝えていったらいいだろう?”という前向きな気持ちととらえることができそうですね。

…何だろうね? これはよくみんなが例えることだけど、どこに定住していても、やっぱり旅的なものってあるじゃないですか。30年前に歌った時点から僕はどこにも動いていないとしたら、それはあまりにも悲しすぎるし、日々を送ることで自分のマインドはどこかへ行っているんですよ。今後の人生でもね、迷いつつも“旅の行方はどこなのだ?”という大命題のようなものとして…それはきっと多くの作家の方やアーティストの方にとってあるんじゃないかな? だってさ、いくら金を稼いだって、金を持って死ねるわけじゃないから(笑)。

それは多くのアーティストさんがおっしゃっていますよね。「崖っぷちの夜でさえ」の歌詞を借りるなら、《俺は走り続ける転がる石さ》というフレーズは、まさに旅を表したものなんでしょうね。

ロックミュージシャンにとって、ロックすることが鍵じゃないんですよ。ロールすることが鍵なんですよ。これは内田勘太郎さんも教えてくださったことで、“やっぱりブルースやロックンロールってのはドライブすることだね”って言葉から“SDR(=SWING、DRIVE、 ROCK'N'ROLL)”というタイトルが生まれたわけで。確かキース・リチャーズも言っていたな。“ロックはあるけどロールはどうしたんだ?”って。

そのキース・リチャーズは今80歳だそうですけど、海の向こうのレジェンドたちはまだまだ現役ですからね。冒頭で森重さんは“残りの人生は30年あるかどうか”とおっしゃっていましたが、30年前のキースが80歳を迎えているわけですよ。この30年間の諸々の進化を考えれば、あと30年は大丈夫じゃないでしょうか(笑)。80歳オーバーの森重さんを見てみたいですよ。

あははは。だから、身体が丈夫であることはすごい大事だし、無駄なエネルギーを使って自分の健康を害するのはナンセンスだと思う…いや、多少無茶することがなくなっちゃったら面白くもないとは思うんだけど、年がら年中、無茶しているとね、やっぱり限界があるからね(笑)。

その昔“Don't Trust Over30”と言われた時代から、そのダブルスコアのロックンローラーが多くなっているわけですが、それは年がら年中、無茶してこなかったからこそだと思います。

昨年ね、音楽評論家の平山雄一さんとお話した時、もう“Don't Trust Over 30”じゃなくて、“Trust Over 60”だっていう話になったんですよ(笑)。

その話は最高ですね(笑)。

“ここまで生き抜いてきた奴を信じようぜ”って。本当にそうだと思いますよ(笑)。

取材:帆苅智之

アルバム『SO BAD, IT’S REAL』2023年8月28日発売 KILLER TUNE
    • WAGE-12006
    • ¥3,300(税込)

ライヴ情報

『ZIGGY MORISHIGE,JUICHI 60th ANNIVERSARY LIVE「SO BAD」』
8/29(火) Zepp DiverCity(TOKYO)

ZIGGY プロフィール

ジギー:1984年に森重樹一を中心に結成。1987年10月にアルバム『ZIGGY~IN WITH THE TIME~』でメジャーデビュー。88年5月発表の2ndアルバム『HOT LIPS』収録曲「GLORIA」がフジテレビ系ドラマ『同・級・生』の主題歌となり大ヒット。84年の結成以来、メンバーの脱退・加入・復帰、活動休止を繰り返し、08年2月に無期限の活動休止を発表。30周年イヤーとなる17年に約10年振りのシングル「CELEBRATION DAY」とアルバム『2017』をリリース。TVの音楽番組やバラエティー番組への出演機会も増え、ネット上でも注目が集まる中、ライヴは世代を超えた多くのファンが詰めかけ、ソールドアウト続出。まさに再ブレイク中!ZIGGY Official Website

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