新たな興味の扉をひらく2日間! 角
野隼斗、亀井聖矢ら多彩なアーティス
トのコラボに、マングースも演奏!?
『スタクラフェス2023 ONLINE』開催
レポート

2023年8月26日(土)・27日(日)オンライン配信にて開催された『SAISON CARD presents STAND UP! CLASSIC FESTIVAL’ 23 ONLINE』(通称:スタクラフェス)。多彩なアーティストが集い、新しい興味の扉を開いてくれる音楽が次々とスピーカーから流れ出す2日間となった。2日間の模様を振り返りたい。
■1日目:“のだめカンタービレCLASSIC” DAY
1日目“のだめカンタービレCLASSIC”DAYは、“のだめ”ファンにはおなじみの楽曲が、茂木大輔指揮、のだめ祝祭管弦楽団と優れたソリストたちによって演奏される企画。間には漫画の名シーンがさしはさまれる仕掛けで、ページをめくりながら頭で鳴らしていた音楽が実際に演奏されてゆくという、ファンにはたまらない配信コンサートとなった。
「のだめカンタービレ名曲集」と題したセクションの幕開けは、小林萌花(BEYOOOOONDS)のピアノソロ。ベートーヴェンの「悲愴ソナタ」2楽章とショパンの「エチュードOp.10-4」が弾き終えられると、“のだめの着ぐるみマングース”初登場に至る漫画のシーン、そして、実際スタジオにはあのマングースが!
小林萌花(BEYOOOOONDS)
マングースが鍵盤ハーモニカで鳴らす「ラ」の音を引き継いで、スタジオのオーケストラがチューニングを始め、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」へ。こういう仕掛けとともに、この日はのだめの世界がたっぷり楽しめるのだろうと期待が高まる。ソリストは角野隼斗。アドリブたっぷり、駆け回る指が粋なフレーズを紡ぎ出し、さらには鍵盤ハーモニカもさしはさんで、まさに漫画で描かれた学園祭のコンサートを彷彿とさせる演奏だった。
ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2楽章」も、“のだめ”から外せない。憂いとほの暗さを帯びたロマンチックな世界観が魅力的で、指揮者を目指す千秋がピアニストの立場から音楽に向き合うストーリーにもってこいの作品だった。ソリストは石井琢磨が務め、冒頭の印象的な和音からその世界に引き込み、ラストにかけて徐々にヒートアップしながらも着実かつ真摯に、丁寧にドラマチックな音楽を構築していく。
角野隼斗
石井琢磨
続いて、モーツァルトの煌めく音の玉手箱のような音楽が紡がれる。まずは、大井健と久保山菜摘による「2台ピアノのためのソナタ」第1楽章から。コロコロと転がるように展開していく音の粒たちを、まるで2人でキャッチボールしていくような軽快さだ。最上峰行のソロによるオーボエ協奏曲も非常に魅力的。“のだめ”に登場した黒木くんがのだめに恋をし心ここに在らず……なシーンを思わず連想してしまうが、このステージでは浮かれている状態とはほど遠く安定感があり、その上質な音に身を委ねたくなるような演奏だった。
大井健&久保山菜摘
最上峰行
その他にもこの日は、“のだめ”といえばの有名シーンに関連するレアな場面が。
「のだめカンタービレ 究極の秘曲集」のセクションでは、最初に亀井聖矢がストラヴィンスキー「ペトリューシュカからの3楽章」をピアノソロで披露。冒頭に、あのハラハラの名場面……のだめがコンクールで「ペトリューシュカ」を弾こうとしているのに、「きょうの料理」のメロディが頭から離れなくなって大変なことになるときの演奏と思われるものが、再現されていた(もちろんその後、現実の亀井さんは、改めてちゃんとした「ペトリューシュカ」も演奏)。
亀井聖矢
この日、司会進行を務めていたYouTuberでピアニストのBudoもここで演奏を披露。“熱”のある作品を2曲続けて演奏した。まずは、ヴァイオリニストの宮本笑里とのデュオでサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」。宮本のずっしりと響く歌心が、非常に魅惑的だ。後半部分にかけて超絶技巧を展開していくが、Budoとの掛け合いもライブならではのヒリヒリ感があり、それがむしろたまらない。Budoはソロでベートーヴェンのピアノ・ソナタ第23番「熱情」も披露。「ツィゴイネルワイゼン」の熱量をそのままに、多少の緩急はあれども終始一貫して勢いを保ちながらベートーヴェンならではの激しさを表現していた。

宮本笑里&Budo

MCを務めたBudo。配信開催になったことで急遽任命されたそうだが、スムーズなトーク展開でイベントを盛り上げた
続くミヨーの「スカラムーシュ」はソリストに上野耕平が登場。それまでのクラシカルな雰囲気を一変させるような軽快でウィットに富んだ楽曲で、なんとも楽しい。第3楽章「ブラジルの女」ではサンバのリズムも登場し、上野がオーケストラと楽しげに顔を見合わせながら演奏する様子も愉快で、聴いているこちらも思わず踊り出したくなる。そして続くニールセンの交響曲第4番「不滅」は、千秋がパリのマルレ・オーケストラの常任指揮者に就任した際に演奏した作品。華々しい作風でオーケストラのTuttiの響きを楽しむのにぴったり。まさに祝祭的なシーンにもってこいだ。
上野耕平
幕間には、TVドラマ版、そしてこの秋にスタートするミュージカル『のだめカンタービレ』でのだめ役を演じる上野樹里がサプライズで登場し、茂木大輔とのトークを繰り広げた。この日、上野は自身がパーソナリティを務めるラジオ『Juri's Favorite Note』の収録を兼ねての参加。その模様は9月に放送される予定だ。
茂木大輔、上野樹里
「のだめカンタービレ~オペラ編」では、男声ヴォーカル・ユニット「REAL TRAUM」の3人(堺裕馬、高島健一郎、鳥尾匠海)によるレハールの喜歌劇『微笑みの国』から「君は我が心のすべて」と、さらにソプラノの川越未晴、中江万柚子、吉田桃子も加わりヴェルディの歌劇『椿姫』から「乾杯」で華々しくスタートを切る。“のだめ”の「アンコール オペラ編」で登場したモーツァルトの歌劇『魔笛』より、アリアや二重唱などの名シーンがハイライト的に繰り広げられ、作品のまさにオペラの楽しさが詰まりに詰まったステージとなった。
この日最後のプログラムは、「のだめカンタービレ名曲集 パート2」。ドラマ版『のだめカンタービレ』テーマ曲として使用されたベートーヴェンの「交響曲第7番」ももちろん取り上げられ、オーケストラ、そしてベートーヴェンの音楽の持つギラギラとしたエネルギーが伝わる演奏が繰り広げられた。
のだめと千秋先輩の名シーンも回想され、のだめファンがうっとりとしていたであろうところに、ラスト、アンコールではなんとマングースが再びサプライズ登場! マングースの着ぐるみの袖から伸びた手と演奏のタッチで、ファンなら“中の人”が誰かわかったかもしれない。そんなマングース、大井健、Budoが6手連弾に加わり、オーケストラとの共演でラデツキー行進曲が演奏され、のだめの世界にとっぷりつかる初日はフィナーレを迎えた。
■2日目:“For the future” DAY
続く2日目は“For the future” DAY。ボーダーレスな活躍をする気鋭ミュージシャンたちが次々登場する1日だ。
1組目は「山田和樹✕ぱんだウインドオーケストラ」。東京芸術大学時代の同級生を中心とした凄腕管楽器奏者集団とヤマカズさんがタッグを組み、“吹奏楽への先入観の破壊(!)”をテーマに活動しているだけあって、その場で生まれる生きたアンサンブルの妙がすばらしい。吹奏楽を勉強する若いみなさんにぜひ聴いてほしい、「セント・アンソニー・ヴァリエーションズ」「たなばた」など、人気曲がヴィヴィッドに奏でられた。
アンコールの「宝島」は、もはや指揮をするというより踊っているヤマカズさんを前にメンバーが生き生きとした音楽を奏で、まさに音も踊っているよう。爆発的なエネルギーとともに閉じられた。
山田和樹×ぱんだウインドオーケストラ

山田和樹、上野耕平

この日はスペシャルなデュオも目白押し。
「紀平凱成✕ Special Guest サラ・オレイン」は、ひまわりのようなイエローのドレスに身を包んだサラ・オレインのなめらかな声やヴァイオリンと、紀平の、きらめき、自由に遊び、駆け回るピアノのコラボレーション。紀平はカプースチンと自作品を多く取り上げ、クラシックに限らずジャズやロック、ポップスと、さまざまなジャンルを絶え間なく横断する。リラックスした様子で心底音楽を楽しんでいるような姿が見え、こちらも肩の力を抜きながら、かつエキサイティングに紀平の音を堪能できて楽しい。サラ・オレインが登場すると、映画『戦場のメリークリスマス』より坂本龍一の「Somewhere Far Away」、それに続くカッチーニの「Ave Maria」を披露し、それまで強いビートが流れていたステージには伸びのある声が響き、雰囲気が一変。ヴァイオリンと歌を行き来しながら、紀平と息の合ったパフォーマンスをみせた。
紀平凱成×サラ・オレイン
「菊池亮太✕ござ」による2台ピアノのステージは、クラシックの名曲をベースに、自由自在、ジャンルレスに、予想外の場所に音楽が展開してゆく、即興的かつエキサイティングなステージ。デュオだけでなく、それぞれのソロ演奏も。まずはござが、オリジナルに比べてアップビートで激しさを増しているショパンの「幻想即興曲」の幻想曲を、次に菊池亮太はグリーグやラフマニノフ、ガーシュウィンなどの名曲を連ねた「20世紀前半名曲メドレー」を演奏。緩やかなテンポがオリジナルであるドヴォルザークの「8つのユーモレスク」第7番は、ジャジーな雰囲気で愉快な様相に。圧巻はラヴェルの「ボレロ」。2台だからこそ「管弦楽の魔術師」ことラヴェルが書いたオリジナルの壮大さが体現され、2人の持つパワーが一層作品にエネルギーを与えていた。
菊池亮太×ござ
一方、「角野隼斗✕亀井聖矢」の2台ピアノのペアは、バーンスタインの「キャンディード序曲」でスタートし、亀井の2台ピアノ編曲による「ダンソン」第2番や、亀井が作曲し角野が編曲した「パガニーニの主題による変奏曲」などを披露。なごやかなトークとともに、計算し尽くされた美とライヴ感が共存する、この二人ならではの音楽を聴かせてくれた。
角野隼斗×亀井聖矢
「新進気鋭の若き才能とオーケストラの共演」では、若いピアニストたちが続々登場。
最初に登場したニュウニュウは、まずソロで「クラシック花火メドレー」と題し、ベートーヴェンの交響曲「運命」から超絶技巧作品が数珠繋ぎになってゆくアレンジ作品を披露。まさに鍵盤から火花が散るようなパワフルな演奏だった。髙木竜馬はラヴェルの「左手のためのピアノ協奏曲」を、片手の演奏とは思えないような厚く華麗なサウンドで。その高い技巧性に応えるのはもちろんのこと、ジャズや行進曲などのさまざまな曲風を盛り込んでもなお、ラヴェルならではの冷静さを失わず、エスプリを効かせた演奏を披露していた。それに続くのは、石井琢磨のガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」。彼は前日にラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」を披露していたが、そこからはすっかり肩の力が抜け、アメリカならではの陽気さとジャジーな曲風に乗りながら、表情を千変万化させていたのが印象的だった。弾けるような力強いタッチで、曽我大介指揮、神奈川フィルハーモニー管弦楽団と華やかなステージを届けてくれた。
ニュウニュウ
髙木竜馬
石井琢磨
そしてフィナーレを飾ったのは、「STAND UP ! NEW WAVE ~Produced by 亀田誠治 角野隼斗✕挾間美帆 Play with the BIG BAND」。亀田が“音楽界の未来を託したい”と期待をよせる角野隼斗と挾間美帆を引き合わせて実現した企画だ。
挟間によるビッグバンドの楽曲に、ピアニストとして角野隼斗が加わる、ライブ感あふれるパフォーマンス。中でも注目は、ラヴェルのピアノ協奏曲をビッグバンドにアレンジした斬新なナンバーだ。ラヴェルの輝かしい色彩感はそのままに、リズムとハーモニーの遊びはオリジナル以上。原曲のミステリアスな美しさを尊重した2楽章、ジャズの疾走感とともにどこまでも旅に出て、最後にはしっかりとラヴェルの世界に帰着する3楽章。すばらしい才能が手を組んだからこそ成し得た新しい音楽、新しい波を感じる、最高のフィナーレとなった。
亀田誠治、角野隼斗、挾間美帆
2日間、このメンバーがこのコンセプトで集ったからこそ生まれた、数々の音楽との出会いがあった。最後の演奏のあとの「こんな大冒険をさせてもらえて嬉しい」という挟間の言葉、角野の「クラシックではまだまだ新しいことができるんじゃないかと日々思っている」という言葉が、クラシックの魅力を起点にどこまでも冒険をしてみようというこのフェスのコンセプトを、そのまま表していたように思えた。
『SAISON CARD presents STAND UP! CLASSIC FESTIVAL’ 23 ONLINE』は、イープラス・Streaming+にて9月12日(火)23:59までアーカイブ配信中(視聴券購入は9月11日(月)11:59まで)。
取材・文=高坂はる香、桒田萌

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